※本稿は、布留川勝『ニュー・エリート論』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■9200万件の雇用が消える日
WEF(世界経済フォーラム)の「仕事の未来レポート2025」によれば、2030年までに全雇用の22%でディスラプションが起こり、AIや自動化の影響で9200万件の雇用が失われる見通しだ。単純作業だけではない。企画、分析、提案、クリエイティブの領域にまでAIの波は押し寄せる。
日本企業の間でも、こうした危機感から事業モデルの転換に動き始める企業が増えている。だが、その動きは決して速いとはいえない。マッキンゼー・アンド・カンパニーの試算では、2030年までにホワイトカラーを含めたアメリカの全就労時間のうち最大30%が自動化される可能性がある(※1)にもかかわらず、多くの現場はまだ従来のやり方に依存している。
さらに、ボストンコンサルティンググループが2025年に発表した調査では、もう一つの現実が示された。グローバル平均では72%の従業員がAIを日常的に使用しているが、日本における割合は51%(※2)にとどまっているのだ。
もし今後、個人や企業がAI活用に真剣に取り組まなければ、他国からさらに後れを取ることになり、その差は開く一方になる。
※1 Jobs lost, jobs gained: What the future of work will mean for jobs, skills, and wages(McKinsey Global Institute, 2017/11, Executive Summary)
※2 "AI at Work: Momentum builds but gaps remain"(Boston Consulting Group, 2025/6) https://www.bcg.com/publications/2025/ai-at-work-momentum-builds-but-gaps-remain
■最下位に転落した「元経済大国」
加えて、日本の国際競争力の低下は、数字が冷徹に物語っている。
2024年、IMD(国際経営開発研究所)が毎年発表している世界競争力ランキングで、日本は過去最低の38位(※3)となった。1989年の調査開始から1992年まで1位を維持していた国が、30年あまりの間にここまで順位を落としたのである。
さらに深刻なのは、G7における一人当たりGDPの順位だ。2000年、日本の一人当たりGDPはG7で第1位だった。しかし2024年には、同じG7のなかで最下位に転落している。
この間、アメリカはIT革命とデジタル産業の台頭を梃子に成長を続け、ドイツは製造業の高度化とEU経済圏を背景に競争力を強化した。カナダやイギリスも移民政策や金融・サービスの拡充によって地位を保った。日本はというと、バブル後の停滞から抜け出せず、構造改革やイノベーションの波に乗り遅れた。
■国際競争力を失ったオールド・エリート
この落差は偶然ではない。各国の政治家、官僚、企業のリーダー層がいかに戦略的に動いたか、その差が数字として表れたにすぎない。
過去に戦後復興という特殊な追い風があったとはいえ、環境変化に適応せず有効な手を打てなかったのは、日本のエリート層自身であった。その意味で、彼らが未来を設計するニュー・エリートではなく、過去の成功体験に安住したオールド・エリートであったことを、この数字と国際比較が静かに突きつけている。
その証拠に、IMDが発表している2024年世界人材ランキングでは、「上級管理職の競争力」が67カ国中65位、「国際経験」が最下位、「語学スキル」が66位でほぼ最下位(※4)と、日本の上級管理職は著しく国際競争力がないと見なされている。
PISA(国際学習到達度調査)における15歳の学力・思考力・応用力では、81カ国中4位という高い水準を維持していた(※5)にもかかわらず、だ。
環境変化のスピードは加速している。だが、日本の人材も組織もその変化に十分に適応できていない。そして、この遅れは静かに、しかし確実に日本の競争力を削り続けている。
※3 IMD World Competitiveness Ranking 2024(IMD, 2024/6) https://www.imd.org/centers/worldcompetitiveness-center/rankings/world-competitiveness/
※4 IMD World Talent Ranking 2024, Japan Country Profile(IMD, 2024) https://www.imd.org/country-profile/talent-japan-2024/
※5 PISA 2022 Results(OECD, 2023) https://www.oecd.org/pisa/publications/pisa-2022-results.htm
■スマイルカーブが示す生存戦略
外部環境が刻一刻と変化するなか、いまの自分の仕事が将来的にも価値を持つとあなたは自信を持っていえるだろうか。その問いを考えるヒントとなるのが「スマイルカーブ」という概念だ。
スマイルカーブとは、1990年代に台湾の大手パソコンメーカー「エイサー(Acer)」の創業者、スタン・シー氏が提唱したモデルだ。もとは製造業のバリューチェーン(価値連鎖)において、どの工程に最も付加価値が集中するかを図示したものだ。
アルファベットの「U」字型の曲線を描くスマイルカーブは、両端に価値が集中し、中央は価値が低いという構造を示した。
製造業版スマイルカーブ
・ 右端(価値が高い):ブランド構築・マーケティング・サービス提供
・ 中央(価値が低い):製造・組み立て・単純オペレーション
・ 左端(価値が高い):研究開発・設計・企画
つまり、製造や組み立て、単純オペレーションといった作業領域は付加価値が低く、代替されやすい。一方で、研究開発・設計・企画などで発揮される「新しいものを生み出す力」や、ブランド構築・マーケティング・サービス提供などで活かされる「ブランドを育てる力」には大きな価値が集まるというわけだ。
■高度経営人材は需要があり希少
重要なのは、スマイルカーブの概念は個人のキャリアにも応用できることだ。ここでは製造業版から視点を変えて、「キャリア版スマイルカーブ」として考えたい。
いま、世界の労働市場では、どの領域で仕事をしているかによって給与水準が二極化している。その現実を最も直感的に示すのがスマイルカーブである。縦軸を「給与レベル」、横軸を「仕事の性質」とする(図表1)。
キャリア版スマイルカーブ
・ 右端(価値が高い):グローバル高度経営人材による知的・創造的・対人影響的業務
・ 中央(価値が低い):定型的な事務・調整業務
・ 左端(価値が高い):現場でおこなわれる物理的・対人的業務
代替可能性は中央で最も高く、両端ほど低くなる。
カーブの右端には、グローバル市場でも通用する高度経営人材がいる。
高度な構想力、複数分野を統合する判断力、異文化間の橋渡しをするコミュニケーション力と対人影響力、AIやデジタルツールを使いこなす柔軟性、これらを備えた人は単なるスキルの保有者ではなく、変化そのものを成果に変えることができる。
高度経営人材は需要があり希少なので、市場価値は非常に高く、給与水準も右肩上がりである。
■昭和型ホワイトカラーは淘汰される
左端には、エッセンシャルワーカーとその現場を率いるリーダー職がいる。介護や医療、保育、建設、物流、インフラ保守など、人と接することや物理的作業が不可欠な職種は、AIや遠隔オペレーションでは完全には代替できない。
さらに、そこで働く人々のモチベーションを高め、離職を防ぎ、現場をまとめ、サービスの質を維持・向上させるリーダー職も希少性が高い。
問題はカーブの中央だ。ここには、かつて日本型雇用システムの中心にいた「昭和型ホワイトカラー」がいる。社内調整や稟議作成、進行管理など、企業内部の定型的な調整業務を中心に担う層である。
これらはAIやRPA(Robotic Process Automation:定型業務を自動化する仕組み)、さらにはオンラインで働く海外の優秀な人材によって、低コストかつ高い水準で代替されうる。
供給は多く、需要は相対的に低下しているので、給与水準は下がっていく。年功序列によって高止まりしていた報酬が、市場原理によって急速に是正されつつあるのだ。
このようにキャリア版スマイルカーブでは、右端の知識・創造領域をリードする人材だけでなく、左端のエッセンシャルワーカーを率いるリーダーも、共に代替されにくい価値を持っている。中央の昭和型ホワイトカラーだけが、その特徴を持たず、最も代替されやすいのだ。
■安定という錯覚が招く悲劇
さらに厄介なのは、この中央ゾーンに自分がいることに多くの人が気づいていない現実である。社内では評価され、安定したポジションに見えるかもしれない。
しかし、市場全体から見れば、その業務の多くはすでに代替可能であり、企業の方針転換や構造改革の波が来たとき、最も早く削減対象になる領域だ。
このカーブを見れば、なにをすべきかは明白である。中央ゾーンから抜け出すこと。それは、右端のような高度経営人材を目指す道か、左端のように現場でチームを束ねてサービスの価値を高める道かのどちらかである。
私は、右端への移行を推奨する。なぜなら、高度経営人材として身につける能力は、どんな業界や市場環境にも応用可能だからである。
キャリア版スマイルカーブは、変化の波に飲まれる人と波を乗りこなす人の分岐点をはっきりと描く。いま、自分が曲線のどこに立っているのかを直視することが、変化に適応する第一歩である。そしてその一歩を踏み出す意志こそが、あなたを代替されにくい存在へと変えていく。
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布留川 勝(ふるかわ・まさる)
グローバル・エデュケーションアンドトレーニング・コンサルタンツ創業者
2000年に「グローバル人材育成を通して日本に貢献すること」を目的に、グローバル・エデュケーションアンドトレーニング・コンサルタンツ株式会社を創業。世界中の教育機関やビジネスパートナーとの協働を通じて、400社以上の企業向けグローバル人材育成プログラムの企画・開発・コーディネートを手掛ける。2020年に同社の代表を退任後も、企業向けプログラムの講師・コーチとして活躍。
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(グローバル・エデュケーションアンドトレーニング・コンサルタンツ創業者 布留川 勝)

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