東京通勤の会社員が一人暮らしをするなら、どんな場所がいいのか。麗澤大学教授の宗健さんは「都心まで1時間くらいかかる場所で少し広めの部屋に住むか、都心まで30分くらいの場所で少し狭い部屋に住むかという選択になる。
その選択肢は、意外とたくさんある」という――。
■「家賃が安い街=コスパのいい街」とは言い切れない
4月になると大学への入学、就職、転勤などで多くの人が新しい場所で新しい暮らしを始める。今回は、首都圏に新しく引っ越してくる人向けにオススメの街を紹介したい。
まず、最初にできるだけ家賃の安い「コスパの良い街」に住みたい、と考える人も多いだろう。しかし、単に家賃や生活費が安いということをコスパが良いと考えてはいけない。
そもそもコスパとは、支払いコストに対してパフォーマンスが良いことを言うわけで、コストが安いだけで、コスパが良い訳ではない。
そして、分母のコストに対して、分子となるパフォーマンスには交通利便性、生活利便性、静かさ治安、賑わい、家賃など様々な要素がある。
自分が暮らしに何を優先するかによってコスパの意味が違ってくる。
■何を重視するかで「オススメの街」は変わる
筆者が企画設計分析で参加している「いい部屋ネット 街の住みここちランキング」では、街の住みここちについて8つの因子を提示している。首都圏版ランキングで8つの因子と総合順位の上位駅を表にすると以下のようなものになる(図表1)。
この表を見て、場所が思い浮かぶ人は少ないと思う。首都圏在住者でもこれどこ? という駅が多いはずだ。
もう少し分かりやすくするために同じ表を市区町村でまとめると以下のようになる(図表2)。
結婚して子どもがいると教育環境や治安なども考慮するようになるが、独身の若い人はやはり生活利便性と交通利便性を優先するほうがいいだろう。
この時、交通利便性とは都心へのアクセスとは別に、自分の通学先、通勤先を考慮すべきなのはいうまでもない。
そして、家賃水準は都内が高く、神奈川方面が次に高い。埼玉方面、千葉方面はそれよりも割安になる。女性の場合にはさらに、静かさや治安といった要素も気になるだろうから、住みここちランキングのサイトで細かくランキングを見てみてほしい。
■「住みたい街」より「住みここち」
ここまでは実際にその街に住んでいる人からのアンケート回答をもとにしたランキングを示したが、一方で街の人気度を測る「住みたい街ランキング」というものもある。
「いい部屋ネット 住みたい街ランキング」では、首都圏の1位が吉祥寺、2位が横浜、3位がみなとみらい、4位が大宮、5位が鎌倉となっている。これらの街は全国的にも知名度が高いから、聞いたことがあるひとも多いと思う。
しかし、住みたい街ランキングは、人気度というよりも知名度ランキングの意味合いが強く、どこに住むかを考えるときにはあまり参考にはならない。
■「沿線」で見る住みここち
では、どのように住む場所を探せばいいのだろうか。既に駅と市区町村については、上位の街を紹介したが、もう少し探しやすい範囲のランキングとして、「いい部屋ネット 街の住みここち 沿線ランキング」というものがある。

最新のランキングは2024年のものだが、このランキングは山手線の内側と中央区・千代田区・港区の一部路線を除外している。これはそれらの地域の評価が非常に高いためだ。そして家賃も当然高いから、若い人には手が届きにくい。
そして、沿線といっても東海道線や中央線のようにものすごく長い路線もあるため、この沿線ランキングでは特定の区間ごとに区切って、かつ山手線の起点駅(例えば東急東横線の起点駅の渋谷など)を除外してランキングを作成している。そのため駅ほど細かくなく、市区町村ほど大雑把ではない適度な粒度のランキングになっている。
この沿線ランキングの上位15位は以下のようになっている(図表3)。
15位の中に、東急線が6つも入っており東急線の評価が非常に高いことが分かる。
この沿線ランキングでも、因子別ランキングを発表しており、生活利便性と交通利便性のランキングは以下のような結果になっている(図表4、5)。
■5~6万円台の古いワンルームマンションは意外とある
この沿線ランキングをもとに住む場所を考える時に重要なのは家賃相場だ。家賃相場はSUUMOやLIFULL、アットホームといったポータルサイトで調べることができる。
例えば、沿線ランキング総合2位の東急東横線(代官山~多摩川)の自由が丘駅の家賃相場は、SUUMO:9.6万円(ワンルーム)、LIFULL:13.18万(ワンルーム・1K・1DK)、アットホーム:8.96万(ワンルームと1K)となっており、各社でかなり違う。
実際に例えばSUUMOで自由が丘のワンルーム・1K、駅徒歩10分以内で物件を調べてみると、以下のような物件が見つかる。

・自由が丘駅徒歩8分 15平米 築43年 5.8万円 ワンルーム

・自由が丘駅徒歩8分 16.2平米 築36年 6万円 ワンルーム

・自由が丘駅徒歩8分 25.3平米 新築 15.5万円 1K

・自由が丘駅徒歩8分 25.3平米 新築 15.7万円 1K
ここから分かることは、家賃相場はあくまで平均の話に過ぎない、ということだ。この4件の家賃には管理費・共益費が含まれており、平均家賃は、10.75万円となる。
もちろん、築40年のトイレとバスが一体になったユニットバスで15平米と狭い部屋と、バス・トイレが別でキッチンと居室が分かれている25平米の部屋では住みここちは全然違う。
しかし、初めての一人暮らしであれば、築40年の15平米でもそれなりに暮らせるはずだ。
こうした5~6万円台の古いワンルームマンションは意外にあって、沿線ランキング1位の目黒線の目黒から2駅目の武蔵小山駅や、沿線ランキング6位の東急田園都市線で渋谷から2駅目の三軒茶屋駅でも見つけることができる。
■できるだけ多くの街を歩くこと
日本は海外に比べて、地域の特徴がわかりにくい。海外では、人種や所得によって居住地が分断されていることが多く、街を訪れれば、その街の特徴を比較的容易に把握することができる。
一方、日本では外国人比率がまだ低いこと、外国人の集住地域がまだ限られることから、どこの街を訪れても違いが分かりにくい。
しかし、注意深く観察してみると、街を走る自転車のほとんどが電動アシストの街もあれば、電動アシストがほとんどない街もある。駅前に喫煙スペースがある街もあれば無い街もある。そして街を歩く人たちの服装や雰囲気もかなり違う。
街の構造にしても、幹線道路が近い街もあれば、私鉄のこぢんまりした駅前に商店街が広がる街もあれば、地下鉄から地上に出るとタワマンが林立している街もある。

そうした街の空気感を体感したなかで、一番気分の良い街を選ぶのもオススメだ。
そして、もう一つ大事なことは、自分と同じような人だと感じる人が多いかどうかがある。多様性が大事だと言われる世の中だが、こと住む場所については住民の均質性が高い方が、住みここちの評価が高い傾向にあることも分かっている。
■住んでいる場所と建物で幸福度は変わる
近年は幸福度の研究が進んでおり、筆者もいくつかの論文にまとめているが、例えば「高齢者の主観的幸福度の構造分析」では、住んでいる場所への満足度と住んでいる建物への満足度は比較的大きな影響があることが示されている。
30歳未満の人を対象に追加の分析を行ってみると、年齢が上昇するに従って住んでいる場所よりも建物への満足度のほうが幸福度に与える影響が大きくなる傾向があることが分かる。
逆に言えば、若い時は住んでいる部屋よりも住んでいる場所を優先することも一つの選択肢だということだ。
外向的で飲みに行くのが好きな人、仕事にかなりの時間を割きたい人、というように、本人の性格や志向にもよるだろうが、都心まで1時間くらいかかるような場所で少し広めの部屋に住むか、都心まで30分くらいの場所で少し狭い部屋に住むか、という選択があるわけだ。
そしてその選択肢は、意外とたくさんある。新しい暮らしを楽しんでほしい。

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宗 健(そう・たけし)

麗澤大学工学部教授

博士(社会工学・筑波大学)・ITストラテジスト。1965年北九州市生まれ。九州工業大学機械工学科卒業後、リクルート入社。
通信事業のエンジニア・マネジャ、ISIZE住宅情報・FoRent.jp編集長等を経て、リクルートフォレントインシュアを設立し代表取締役社長に就任。リクルート住まい研究所長、大東建託賃貸未来研究所長・AI-DXラボ所長を経て、23年4月より麗澤大学教授、AI・ビジネス研究センター長。専門分野は都市計画・組織マネジメント・システム開発。

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(麗澤大学工学部教授 宗 健)
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