部下から信頼される“デキる上司”にはどんな共通点があるのか。コピーライターの荒木俊哉さんは「求められていない助言は、相手を聞き役にしてしまう“逆効果のコミュニケーション”になりやすい。
まずはアドバイスより聞き出す姿勢を徹してほしい」と語る――。
※本稿は、荒木俊哉『聞き出せる人が、うまくいく。』(祥伝社)の一部を再編集したものです。
■1on1で上司は何をすべきなのか
管理職やチームのリーダーを担う立場になると、欠かせないのが部下との1on1です。役職ゆえの気負いからか「1on1で部下に何を話してあげればいいか」という発想につい陥りがちです。
しかし私は、むしろ「何を話さないほうがいいか」を考えることが重要だと考えています。さて、一体それはなぜでしょうか?
部下との1on1で「話さないこと」についてお話しする前に、前提として、次のポイントを日頃から心がけるようにしてみてください。
相手に関心の矢印を向ける
そのポイントとは「相手の好きなところを1つ見つける」です。
そもそも面談の時だけ「自分に心を開いてほしい」と思うのは虫がいい話です。普段から心を開いて接していない相手に、1on1の場でいきなり本音を話せるわけがないからです。
まず大切なのは、日頃から部下は何が得意で、どんなところが長所なのかを観察して理解しておくこと。そうすれば自然と、部下の好きなところの1つくらいは見つかるはずです。

そうやって関心のベクトルを常に部下に向け、気づいたことを普段からそれとなく伝える。この地道な積み重ねによって、「この人はきちんと自分に関心を持ってくれているんだな」と相手が感じてくれれば、1on1で本音を話してもらえる下地ができてきます。
心のなかで「座り位置」を切り替える
部下との1on1の場を想像してみてください。最初は上司が部下に「対面」の姿勢で向き合うところから始まります。
「最近の仕事で気になったことは?」「何か課題を抱えている案件はある?」と、質問を少しずつ投げかけ、出来事を中心に相手の状況を把握していく。
気持ちとしては、カウンターを挟んで向かい合っているイメージです。
ちなみにこの時、上司が自分の聞きたいことばかり聞くのは、「事情聴取」と同じです。部下にとっては、単なるプレッシャーにしかならず、とても本音を話す気にはなりませんので注意しましょう。
そこから、会話の流れで「自分は最近こういう業務に面白さを感じます」と部下が率直な意見を打ち明け始めたら、そこが心のなかで座り位置を切り替えるタイミング。
互いの間にあったカウンターを乗り越えて、部下と同じ方向を見ながら横並びに座るイメージで「じゃあ、その面白い仕事を増やすために、何をすればいいだろうね?」と、部下側のスタンスに寄り添いながら問い続けてみてください。
■部下の“横”からサポートする
部下の課題を指摘する上司になるのではなく、課題を「一緒に考える」共同作業者になる。
答えを与えるのではなく、部下自身が考えをまとめ、実行に移すためのサポートをする。
心のなかで座り位置を切り替えることで、部下の主体的な発話を促し、セッションの満足度を上げることができると私は思います。
「対面のカウンター越し」から「並びのカウンター席」へ。
1on1では、この気持ちのスイッチの切り替えをぜひ心がけてみてください。
自分から役立つアドバイスはしない
さて、先ほど少しふれた、1on1で「何を話さないほうがいいか」というお話に戻りましょう。その問いに対する、私なりの回答は「アドバイスは話さない」です。
そもそも、アドバイスには罠があります。「された側」より「している側」のほうが圧倒的に気持ちよくなれること、それがアドバイスだからです。
「自分の経験談が役立つはずだ」と自信満々にアドバイスする人もいれば、「何かしら上司として実効性の高いことを言わなければ」という義務感から、無理矢理にひねり出してアドバイスしている人もいるでしょう。
中間管理職であれば、「自分はこんなことを部下に伝えた」という、上への報告を意識したアドバイスをしてしまっている人もいるかもしれません。
ただ、いずれのアドバイスであっても、私のスタンスとしては一貫して「相手から求められていないのであれば、アドバイスはするべきではない」です。
じつはこの考え、キャリアカウンセリングを学んだことが大きいと感じています。
キャリアコンサルタントの資格を取得するために通っていた学校時代のこと。
カウンセラー役とクライエント役に分かれて行なうロールプレイ(模擬カウンセリング)で、最初の頃、講師から何度も次のような指摘をもらいました。
「あなたは、相手の話を聞きながら、無意識に『こうしたほうがいいのでは?』というアドバイスをしてしまっていますね」
これはキャリアカウンセリングを学ぶ人の多くが、最初にぶつかる壁です。
キャリアカウンセリングの世界において、カウンセラーに求められる3つの態度条件というものがあります。
それが、アメリカの心理学者カール・ロジャーズが提唱した、「受容」「共感(的理解)」「(自己)一致」です。
■まずは相手から「聞き出す」ことに徹する
悩みを抱えている相談者が防衛の構えを解いて、自分が感じているままに感じることを促していくために欠かせない、カウンセラーの心がけのようなものと考えてください。
そして、その心がけは、1on1で部下が普段感じていることをそのまま話しやすくなる場づくりにも、非常に効果的だと私は思います。
キャリアカウンセリングでも、1on1でも、ほとんどすべての問題は本人にしか解決できません。本人が具体的なアドバイスを求めているのであれば、もちろんサポートの手は差し出したほうがいい。
けれども、相手から求められていないのであれば、まずは「聞き出す」ことに徹してください。
そもそも、何か役に立つことを言わねばという義務感から、「自分の時はこうだった」「だからこうすべきじゃないかな」と部下にアドバイスしている時間は、相手を「聞き役」にしている時間でもあります。もしかしたら、部下はあなたに気を遣って「聞き役」を演じている可能性さえある。
それは相手が自分で考えて答えを見つけようとする機会を奪っているのと同じです。

まずは、しっかり聞き出す。その上で、日頃からの観察で見えてきた相手の好きなところも伝えると、相手もより本音を話しやすくなるはずです。
1on1の満足感は「聞き出し役」次第
最近の調査によると、日本企業のおよそ7割は何らかの形で定期的な1on1ミーティングを導入しているとの結果が出ているそうです。
働き方改革やリモートワークの普及とともに実施頻度が増えた1on1ですが、半年や2~3カ月に一度程度のところもあれば、毎月実施している企業もあります。
企業規模や業種にかかわらず、会社員として働いている人であれば半数以上が1on1を経験していると考えて差し支えないでしょう。ただ、それゆえに多くの人が、それぞれの立場から1on1の難しさも感じているようです。
もちろん、人によって1on1の目的は違うかもしれませんが、私の考える1on1は「部下が上司に話を聞いてもらう場」です。そこで有益なアドバイスをあげた・もらったという判断軸は私のなかにありません。
部下側が成果をアピールしなければと思う必要もなければ、上司側が1on1の場で部下を評価する必要もない。
それよりも、1対1で向き合った時に、上司に自分の言葉を受け入れてもらえたという実感を部下に持ってもらう場にしたほうが、ずっと意味があると思います。
■「1on1以外」でのふるまいが試されている
日々の雑談を1on1と後付けするくらいでいい
では、具体的に、上司はどのように振る舞えば1on1の場で「よき聞き出し役」になれるのでしょうか?
私がおすすめする方法は、「日々の雑談を1on1として後付けしてしまう」です。
「さあ、1on1をするから、会議室に来てください」ではなく、廊下で立ち話をした流れで「あ、じゃあこの時間を今月の1on1ってことにしとく?」「そうですね」くらいの気楽さが個人的にはちょうどいい。

実際、私と上司との1on1はこれくらいのカジュアルな感じです。1on1は、部下が近況や最近感じていることを感じているままに話せることにこそ価値がある。
そう考えると部下が本音を話せる環境づくりから工夫するのも1つの手だと私は思います。
そして、「日々の雑談」と「1on1」を置き換えるためには、やはり日頃からの信頼の積み重ねが不可欠です。
くり返しになりますが、表面的な付き合いしかない上司に、1on1というある種かしこまった場で「困ったことがあればなんでも話してほしい」と言われても、「わかりました!」と素直に胸の内を話せる人はなかなかいません。
誰しも相談する立場になれば、「この人は信頼できるだろうか、話してもいいだろうか」と無意識のうちに探りながら相手を見てしまうものです。
1on1の時だけ「話を聞いてくれる上司」に変わるのではなく、日頃のちょっとした雑談から1on1はすでに始まっているという意識で、ぜひ部下と向き合ってもらえたらと思います。

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荒木 俊哉(あらき・しゅんや)

電通 コピーライター

一橋大学卒業後、2005年に電通に入社。営業局を経てクリエーティブ局へ。コピーライターとしてさまざまな商品・企業・団体のブランディングに従事。これまで手掛けたプロジェクトの数は100以上、活動は5大陸20か国以上にのぼる。世界三大広告賞のうちCannes LionsとThe One Showのダブル入賞をはじめ、ACC賞、TCC新人賞、NIKKEI ADVERTISING アワード、YOMIURI ADVERTISING アワード、MAINICHI ADVERTISEMENT DESIGN アワードなど、国内外で20以上のアワードを獲得。


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(電通 コピーライター 荒木 俊哉)
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