名門小学校は、どんな子供を求めているのか。小学校受験事情に精通する家庭教師の齊藤美琴さんは「各学校は、自分たちの理念に合うかどうかを見ている。
そのためには、子供の適正だけでなく、親の理解度も試される」という――。(後編/全2回)
■親に問われる「学校理念への理解度」
小学校受験をする場合、どこの学校を受験するにせよ、重要になるのが“学校研究”です。親が、学校の理念や考えをどれだけ理解しているかは、合格のための大事な要素です。
そして学校に対する理解度を示すものが、願書。考査の中でも、大きな比重を占めますので、しっかりと準備してほしいですね。
ここでは変わらぬ人気の伝統校である学習院初等科、雙葉小学校の2校と、近年話題の注目校である東京農業大学稲花小学校を例に説明していきます。
●学習院初等科
「自重互敬」「正直と思いやり」を大切にする、明治時代に創立された伝統のある共学校。“丁寧さ”や“本物に触れる体験”を大切にしており、個別、集団での考査を通して推理思考や言語、周囲との関わり、巧緻性や生活習慣など幅広く見られています。また、運動テストでは模倣体操、指示行動の項目が毎年あり、入学後高い教育の質を維持したいという学校の意図が汲み取れます。
ここで言う“丁寧さ”の中には、「言われたことをきちんと受け止める」ということが入っています。例えば「この線は出ませんよ」という約束事があるならば、絶対に出ない。「半分に折ってください」と言われたら、角を合わせてちゃんと折る。
お片づけをするときも、ものを乱暴に扱わない。こういうことを考査の中で見られます。
■先取りは不要、「本物に触れる体験」を
他の学校で頻出である数量分野の問題は出題されない、など、学業面で先取りは必要がないという考えも学習院らしさの表れと感じます。日常生活でどういったことを意識していくべきかは学校ごとに異なるのです。
本物に触れる体験といっても、大げさなものではありません。例えば、畳やお月見など教材に載っているけれど、本物を見たことがないものは家族で体験の機会を設けてください。そして、体験後に言葉にして残させることが重要です。子どもが「本物」に触れたときの気持ちを言葉にして残しておくと、そのときの感動を思い出しやすくなります。
絵日記を書くことをすすめていますが、写真の裏にコメントを残しておくだけでもよいでしょう。田植えをしたなら「泥がぬるぬるしていた」「冷たかった」など、特に五感を使った体験を言葉として残しておくのがおすすめです。
学習院に合格したSくんは、質問されても、なかなか言葉が出ない子でした。例えば、「台所からトントントンと包丁の音がします。
いいにおいもしてきました。」「どんなにおいがしますか?」と聞かれても、どういう答えを言えば正解なのだろうか、と考え込んでしまう。でも「どんなにおいがしたら、うれしくなる?」と変換して練習するうちに、お味噌汁のにおい、カレーのにおい、と自分の体験から具体的な言葉がでてくるようになりました。
お金をかけることばかりが、よい体験とは限りません。実際に野菜を触ったことがあるか、虫かごを使ったことがあるか、日常生活の中でいろいろなものに触れ、親子で振り返りの時間を取ってみてください。
■名門・雙葉のすごい校訓
●雙葉小学校
1910年創立のカトリックの女子校で、「徳においては純真に 義務においては堅実に」が校訓。学校は素直でまっすぐな心を持ち、しなければいけないことをやり遂げる子を求めています。
しかも、この“しなければいけない”は与えられた義務ではありません。自分の今、なすべきことをその場、その場で考え、自ら行動できることが大事とされています。
実行力と思いやりのある、気どりのない女性を目指す上で、小学校受験時においてもいろいろな力と思慮深さが求められているとわかります。
雙葉の考査は、2日にわたって行われます。1日目は、ペーパーテストと巧緻性のテスト。2日目は、行動観察です。

ペーパーテストは、耳から質問を受けとり、解くことの繰り返しになります。問題を解き慣れている子ほど、最後まで質問を聞かず、考え始めてしまうので、とにかく「聞く時間」と「考える時間」を分けて、きちんと最後まで聞いてから答える練習が必要になります。また、巧緻性のテスト対策に、日常の中で手先を使う経験をしっかりさせることも大切です。
■自分と他人の考えや思いは違う
考査の中で特に対策しにくいのが行動観察です。行動観察は集団で過ごす中での関わりを見られます。共同制作の場面では、例えば5人グループなのに、クレヨンが2箱、はさみが2つしかない。数が足りない中で子供たちがどう行動するか、その様子を見られるわけです。
雙葉小学校に合格したNちゃんは何でもできてしまうけれど、当時はまだ幼さが目立ち、同じグループの子がやっている作業を「私がやってあげるね」と取り上げてしまうことがありました。Nちゃんにしてみたら、良かれと思って「人のためにやってあげている」意識なのですが、考えないといけないのは、その手助けは必要だったのか? ということです。その子は、Nちゃんが代わりにしなければ、本当はやりたかったかもしれません。
ですから、Nちゃんに対しては「あの子はどうしてほしかったかな?」ということを、周りの大人が、いろいろな役をやりながら、自分と他人の考えや思いは違うことを徹底的に伝え続けました。
■「家庭の教育方針」について800字の記述
●東京農業大学稲花小学校
2019年創設の新しい共学校。
東京農業大学の創立者の榎本武揚公の言葉に由来する「冒険心の育成」を教育理念とし、学校と一緒に子供を育てる家庭を、強く求めています。参考になるのが、ホームページ(以下HP)でも公開されている「農大稲花小で育てる『10の能力』」です。こちらをチェックし、足りないところを意識して、ご家庭で過ごされるとよいでしょう。
農大稲花小考査は、ペーパーテスト、体操テスト、行動観察と、極めてオーソドックスですが、特徴的なのは願書と面接です。
願書については、とにかくそのボリュームが目立ちます。学校の教育方針への理解や保護者の職業観のほか、最後に家庭の教育方針を問われるのは他の学校でもあることです。が、この「家庭の教育方針」に関する記述になんと800字が必要です。
願書を書くことを通して、家庭のこれまで、そしてこれからの教育を見つめ直し、学校の理念に合うご家庭を迎えたいという学校の考えの表れと考えます。
学校説明会等においても、学校でやっていけるかどうかは、ご家庭が一番ご判断つくはずと話されています。学びの中心は学校にあるものの、学校任せにはしないでほしい。家庭でのしっかりとしたフォローありきであるとも仰っていました。
「冒険心の育成」という理念実現のための「3つの心と2つの力」(学校HP参照)を意識して、親子の時間を大切にすることこそが、一番の対策となるのではないでしょうか。

■初めての場所でどうコミュニケーションするか
願書を提出したあとには、ウェブ面接があります。今年は面接の中で、親子で絵を描く時間が設けられました。
限られた時間のなかで、学校は親子の関わりを見ています。過去の面接は、家庭で好きな本を選び、読み聞かせをしてくださいというものでした。内容は事前にわかるので対策はできますが、その土台となる親子のコミュニケーションを日々取っておくことが何より重要でしょう。
考査日が希望制なのは、伝統校に比べると親の共働き率が高い農大稲花ならではと言えます。
現在、農大稲花小に通うYくんのご家庭は、子供の興味にとことん寄り添って昆虫の飼育をしたり、親子で大好きなアウトドアを満喫したり、と直前期と言われる夏も家庭の軸をぶれされることなく過ごしていました。志望校についても、そのような過ごし方をしていたから自然と農大稲花小に決まったと振り返ります。
理念に触れた際に我が家が大切にしていることと重なる、と思える学校こそ相性がいい学校です。私立小学校、ご縁をいただけるならばどこでも、となりがちですが、ぜひこのようにご家庭の軸ありきの志望校選びをしてほしいと思います。
■子どものキラキラした部分を見つけて
良い小学校受験にするためには、親の関わりが何よりも重要です。子供が今どんなことに心が向いているのか、どういったことを楽しいと感じるのか、とまずは子供に向き合ってみること。
そのうえで、今までお話した中で、こんなことやっていなかったなというものを見つけたら、ぜひトライしてみてください。
幼児期は可能性の塊です。親だからこそ当たり前になってしまって、意識しないと見えづらい子供の長所がありますので、小学校受験をするしないにかかわらず、生活の中で子供とたっぷり関わり、子供のキラキラした部分を見つけてほしいですね。

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齊藤 美琴(さいとう・みこと)

幼・小・中学受験家庭教師

「12歳までの可能性を広げる」をモットーに、受験との向き合い方、成績の伸び悩み、保護者の関わり方など、多様な受験相談に対して家庭の力を引き出すコーチングを行う。SAPIXの個別指導部門プリバートで国語科専任として指導にあたるなど、中学受験指導の実績多数。JAC幼児教育研究所(四谷教室)での講師を経てフリーランスとして独立。自身も黎明期のSAPIX生として中学受験を経験し、慶應義塾中等部へ進学。慶應義塾総合政策学部、法学部を卒業。

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(幼・小・中学受験家庭教師 齊藤 美琴)
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