衆院選は与党の圧勝に終わり、高市政権の継続が決まったが、財政政策や経済政策は今後どうなるのか。経済財政諮問会議の民間議員を務める第一生命経済研究所首席エコノミスト・永濱利廣さんの解説をお届けする――。

■財政拡大が景気を下支えする
2026年2月8日に行われた衆院選が与党の勝利に終わったことで、高市首相の続投が確実となった。今後発足する第2次高市政権は、成長・危機管理投資や減税を含む「責任ある積極財政」を本格化させるであろう。
「サナエノミクス」による積極財政は景気をけん引する一方、賃金上昇に支えられた緩やかな物価上昇をもたらす。それによって、良い金利上昇の要因にもなる。
高市政権の続投がきまったことで、市場は「財政規律と成長」のバランスがどうなるかを注視しているだろう。そのため、「サナエノミクス」の喫緊の課題として、株価や円相場の安定が不可欠だろう。
積極財政にともない、日銀による金融政策の正常化が進むことが予想される。日銀は賃金と物価の好循環を確認し、政策金利を中立金利とされる1%以上に段階的に引き上げる公算が大きい。
■極端な円安は望んでいない可能性
日本においては、今後は行き過ぎた円安修正と金利正常化の足音が高まることになろう。
のちに触れるように、米国が緩やかな利下げに向かっていく一方、日本では高市政権下で「責任ある積極財政」が実施される。その結果、緩やかなインフレ率の低下が実質賃金水準を押し上げていく「物価・賃金の好循環」が生まれつつある。
一方、そうした緩やかな物価上昇を背景に、日銀は徐々に金利を引き上げていくことになるだろう。
最終的には中立水準とされる1%以上に引き上げる可能性が高い。
そうなれば、日米の実質金利差が縮小に向かうため、今度こそインフレにより長らく続いた円安圧力が修正され、輸出企業の収益や輸入物価の落ち着きに影響を与える可能性がある。
2026年も1ドル=140~150円台を中心としたレンジでドル円が推移すると見られる。
そうなれば、長らく続いた「物価高に賃金が追いつかない」状況は解消に向かい、今後の日本経済は内需主導の緩やかな回復へと転換していくであろう。
2026年はその節目の年となる見通しだ。
■「賃金上昇」がGDPを押し上げる
さらに、真っ先に期待される現象として、「経済成長の加速と実質賃金のプラス転換」があげられる。
2026年の日本の実質GDP成長率は1%程度の推移が予想される(図表1)。
最大の注目点は、2026年春闘でも「5%水準」の賃上げが維持され、消費者物価指数の伸びが2%を下回ることで、実質賃金が安定的にプラスとなることである(図表2)。
賃金上昇で家計の購買力が回復すれば、個人消費が景気をけん引する「好循環」が現実味を帯びるだろう。
■「トランプ関税」の影響は限定的
思えば、2025年は「政治主導の市場動揺」と「AIによる成長の二極化」に翻弄された一年だった。
2025年の年初に第2次トランプ政権が発足したが、2月にカナダ、メキシコ、中国に追加関税を課す大統領令に署名。2月10日には鉄鋼・アルミニウムの輸入に対して、関税対象を全世界に拡大。

4月2日には米国へのすべての輸入品について一律10%の関税を課すとした。相手国との貿易収支額等に応じて、米国の関税率も引き上げるという内容で、トランプ大統領は「相互関税」と呼んでいる。
これらの「トランプ関税」が発表されたことで、サプライチェーンの混乱が引き起こされ、3月から4月にかけて株式市場等の乱高下が発生した。
ただ、トランプ関税の市場への影響は一時的なものに終わっている。その後は米国における法人減税や規制緩和への期待もあり、S&P500が過去最高値を更新するなど、景気の強さが不確実性を上回る展開となった(図表3)。
日本の株価もAIブームや高市政権への期待感から史上初めて5万円台に乗せるなど、歴史的な節目を迎えた。
■日米金利差は縮小傾向
米国ではインフレが減速する一方、雇用悪化の兆候が見られたことから、米連邦準備制度理事会(FRB)は2025年9月、10月、12月と3会合連続で利下げに動いた。その一方、日銀は1月と12月の政策決定会合において0.25%ずつの利上げを決定するなど、日米の金融政策の転換が見られた。
これによって、日米の金利差はある程度縮小はしたが、依然として大きく、円安が持続することとなった(図表4)。
■FRBの金融政策は不透明に
2026年の世界経済のカギを握っているのが、「トランプ政策の真価」と「日米の実質金利差縮小」だ。
米国経済については、「減税の影響」と「インフレ再燃リスク」に注意が必要だろう。
2026年には第2次トランプ政権による大規模な法人減税や規制緩和が本格化し、企業活動や個人消費の下支えになることが期待される。

一方、2025年に導入された「トランプ関税」の影響や、不法移民排除にともなう人手不足が、粘着的なインフレを招く懸念もある。
それでも米国の景気は底堅さを保つだろうが、物価高が消費を抑制する「強弱入り混じる」展開が予想される。
となると、困るのは米国FRBだ。金融政策の調整に悩む状況が続くことで、利下げにはより慎重になる可能性がある。
なお、FRBの利下げペースは年2回前後がコンセンサスとなっている(図表5)。
2026年5月には、パウエルFRB議長が任期満了を迎える。後任にはケビン・ウォーシュ元FRB理事が指名されている。
ウォーシュ氏はFRB理事時代には金利引き上げを推進する「タカ派」と見られていたが、近年は利下げを求める「ハト派」の発言も目立っている。トランプ政権はFRBに対して利下げを強く求めており、ウォーシュ氏のFRBが今後どのように政策運営していくかは不透明だ。
■リスクは「インフレ再燃」
2026年のリスクシナリオとしては、「インフレ再燃」と「悪い円安の進行」があげられるだろう。
こちらは、日本国内の状況よりも、トランプ政権の関税政策や移民抑制に左右される部分が大きいかもしれない。
特に米国経済が「ノーランディング」、すなわちインフレの抑制に失敗した場合、物価が再び上昇し、FRBは利下げ停止や再利上げを迫られることになる。

その場合、米長期金利は5%を突破し、ドル円は再び160円を超える円安に振れるリスクがあるだろう。
また、地政学・財政リスクとして、中東や東アジアの軍事的な緊張、あるいは各国の巨額の財政赤字が嫌気され、金利が急騰する事態にも警戒が必要だろう。
■急激なトレンド転換に要注意
2026年には、2025年までの「政治による激動」が落ち着きを見せていくことが期待される。その一方、金利や物価の「新常態」への適応が求められる段階に入っていく。
その際には以下の3点が重要になってくるだろう。
まず、「金利のある世界」が訪れ、資産再配分の動きが活発化するだろう。
日銀の利上げによって、預金金利や債券の金利が上昇したことで、投資先としての魅力が数十年ぶりに復活してきている(図表6)。
金利急騰リスクもある一方で、機関投資家などが資金を債券へシフトさせることで、市場の変動が起きる可能性には注意が必要だ。
■「3月の春闘」がカギとなる
一方で米国では、インフレ再燃リスクから今後の利下げは限定的という見方が有力になってきている。
このため、米国においても過去10年の「超低金利」を前提とした投資手法は見直しを迫られ、預貯金・債券・株式の資金バランスの再確認が進むことになるだろう。
日米金利差の縮小により、長年の円安基調が修正される可能性もある。
円高になれば日本人の保有する海外資産の額面が目減りしてしまう。

ただ、個人投資家の場合は、短期的な売買を繰り返すよりも、長期間にわたって「積立投資」を継続することで、為替変動リスクを平準化するのが賢明といえよう。
こうした傾向が本当に起きるかどうかを見極めるには、まずは3月の春闘の動向が重要になってくるであろう。
実質賃金のプラス傾向が定着するかどうかが、日本経済の自律回復の試金石となる。
また、米中間選挙(11月)も外せない。こちらは、トランプ政権の信任投票となり、政策の推進力が左右される。
もし共和党が敗北した場合、トランプ政権に不信任が突き付けられ、政権がレームダック化する可能性もある。
そうなると関税や移民政策にも変化が起きる可能性があるため、注意が必要だろう。
総じて、2026年の日本経済は「サナエノミクス」による積極財政と、悲願であった実質賃金のプラス化が相まって、デフレ完全脱却への最終コーナーを回ることになる。もちろん米国の政策動向という不透明な外部要因はあるが、内需主導の自律的な回復シナリオは着実に現実味を帯びている。長らく続いた「停滞の時代」に終止符を打ち、金利も賃金も適切に上がる「正常な経済」へとソフトランディングできるか――。まさに日本の底力が試される、真の復活に向けた勝負の一年となるだろう。

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永濱 利廣(ながはま・としひろ)

第一生命経済研究所経済調査部 首席エコノミスト

1995年早稲田大学理工学部工業経営学科卒。
2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年第一生命保険入社。98年日本経済研究センター出向。2000年4月第一生命経済研究所経済調査部。16年4月より現職。内閣府経済財政諮問会議政策コメンテーター、総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事、跡見学園女子大学非常勤講師、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使、NPO法人ふるさとテレビ顧問。

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(第一生命経済研究所経済調査部 首席エコノミスト 永濱 利廣)
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