カフェイン摂取のメリットは何か。広島大学大学院 医系科学研究科 公衆衛生学 准教授の田原優さんは「カフェインはパフォーマンスアップだけではなく、運動能力を即時的に向上させることが多くの研究でわかっている。
さらに、胃液の分泌を促すため、消化が進み、便通が改善され、ダイエットにもつながる」という――。
※本稿は、田原優『集中力を爆上げするカフェインの教科書』(日本能率協会)の一部を再編集したものです。
■意外と知らないカフェインの作用と効果
その昔、エチオピアにカルディというヤギ使いの少年がいました。カルディはあるとき、夜になっても眠らずに跳ね回るヤギがいることを不思議に思います。調べてみると、どうもヤギが食べている赤い実が原因のよう。
試しに食べてみると、カルディも元気が湧いてきました。このことを知った修道士。修道院には夜を徹するお勤めがあります。そこで、眠気覚ましにこの実を用いるように。他でもありません。
この赤い実こそコーヒーの実でした。これは千年以上も前の言い伝えで、話の細部については定かではありません。
ただそれほど昔から、コーヒーは眠気覚ましに使われていたようです。
現在は、その作用が本当だったことが科学的に解き明かされています。コーヒーには実際に覚醒効果があります。
私も眠気覚ましに頼ったことが多々ありますし、みなさんも「寝起きに」「ランチ後に」「長い会議中に」コーヒーを口にしているかもしれませんね。コーヒーが持つ力は眠気覚ましだけにとどまりません。
コーヒーに含まれるカフェインは、さまざまな作用があり、みなさんのパフォーマンスを引き上げてくれるのです。
•覚醒効果

•疲労感の軽減

•計算能力や記憶力の向上

•消化の促進

•便通の改善
コーヒーを飲んで眠気が払われただけでなく「たまっていた疲れまでなくなった」ということはないでしょうか。シャキッとする感じは、カフェインによる作用です。
■コーヒー1杯でここまで変わる計算力と記憶力
気持ちが高揚するため、うつうつとした気分を軽くさせることにもつながります。また、こんな実験があります。
学生たちをカフェイン入りのコーヒーを飲むグループと、カフェインレス(デカフェ)のコーヒーを飲むグループの2つに分け、簡単な計算問題を解いてもらったそうです。
このときカフェイン入りのコーヒーを飲んだグループは、計算スピードも正答率も高まりました。
さらにジョンズ・ホプキンス大学のグループによる研究では、カフェインは記憶の定着を高めるという報告もあります。
このようにカフェインは仕事のパフォーマンス向上にも役立つ可能性があるのです。頭だけでなく、身体を使う場面でもカフェインは用いられています。
2021年に国際スポーツ栄養学会(ISSN)が発表した論文では、すべての研究ではないものの、多くの研究によりカフェインが運動能力を即時的に向上させる結果が示されていると指摘しています。
具体的には次のようなものです。
•体重1kgあたり3~6mgのカフェインの摂取で、運動能力の向上が見られる。

•長時間の有酸素運動と短時間の高強度運動のどちらも即時的に能力が向上する。

•運動60分前の摂取が一般的だが、最適な摂取タイミングはカフェインの供給源(サプリメントか飲料かなど)により異なる。
また、持久力やスピード、筋力などの向上のためにカフェインを摂取するアスリートもいますし、製薬会社などがアスリート向けにカフェイン入りのサプリメントを作る例もあります。
さらに、カフェインは胃液の分泌を促すため、消化が進み、便通が改善されたりもします。このことからダイエットにも効き目があると考えられます。
いずれの作用にも個人差はあり、ISSNの論文でも副作用への注意と併せて書かれていますが、カフェインに強い力があることがよくわかるのではないでしょうか。

■「コーヒー文化」がビジネスパフォーマンスを変える
とはいえ、以前は私もカフェインのこうした力をはっきりとは認識していませんでした。高校時代の期末試験などで、深夜の勉強のおともにカフェイン入りドリンクを飲んでいたくらいでしょうか。
私がカフェイン、とりわけコーヒーを飲むようになったのは大学の博士課程でアメリカ・ロサンゼルスに留学していたときのことです。アメリカには「コーヒー文化」があります。
朝一番の「Coffee to go」は、多くの人にとって出勤ルーティンの一部です。カフェで買ってきたコーヒーを職場で飲むというのはごく一般的な光景です。
留学先の研究室でも、スターバックスなどで買ってきたエスプレッソを飲む学生がいたり、フレンチプレスを持ち込んで自分で淹れる人までいたりしました。
何より研究室に立派なコーヒーマシンが置かれていたことには驚かされました。コーヒーで黒く染まったマグカップもよく見かけたものです。
アメリカでは、コーヒーが「仕事のパフォーマンスを高める手段」として根付いています。デスクワークや会議で常飲し、休憩時間にもコーヒー……。
これはこれで問題にもなっているのですが、ここではいったん脇に置いておきましょう。

■仲間と交流するスウェーデンの「FIKA」
コーヒーはパフォーマンスを高めるだけでなく、コミュニケーション・ツールとしても用いられていました。研究室には、いつも教授がいるわけではありません。ただ何時間かに一回は、コーヒーを淹れに来ます。
すると待ち構えていた学生が、すかさず教授に相談に行くということはよくありました。
他にも、大学に招待された先生の講演会の際には、部屋の後ろのテーブルに必ずコーヒーポットが置かれて、自由に飲めるようになっていました。街にも至るところにコーヒーショップがあります。
病院の食堂にも入っています。皆、大きなカップでたくさんのコーヒーを飲んでいました。サードプレイスという言葉がありますが、カフェはまさに、自宅でも職場や学校でもない第三の居場所としてなじんでいます。
「アメリカの人たちは、本当にコーヒーと一緒に生きているんだなあ」と思いました。こうした環境にいたこともあり、私もコーヒーを飲むようになりました。
だんだんとおいしさにハマって、自宅にはコーヒーミルやエスプレッソマシンを置くようにもなりました。
コーヒー文化はアメリカだけにあるものではありません。
スウェーデンの「フィーカ(FIKA)」という言葉をご存じでしょうか。フィーカとはコーヒーを飲み、シナモンロールなどのお菓子を食べながら、仲間と交流すること。
一言でそれを表せる言葉があることから、それがいかに文化として定着しているかがわかります。また中国でもコーヒー文化は広がっています。
中国最大のコーヒーチェーン「瑞幸珈琲(ラッキンコーヒー、Luckin Coffee)」は国内で2.9万店超を展開しています(2025年9月時点)。
ちなみに日本のスターバックスは約2000店舗(2025年9月時点)ですから、ずいぶんと多いことが想像できますよね。ただ、その日本もコーヒー文化のある国です。
国際コーヒー機関(ICO)のデータによると、日本のコーヒー消費量は、アメリカ、ブラジル、ドイツに続いて近年は世界4位。多くの人がコーヒーに親しんでいます。
コーヒーに親しんでいる人が多いということは、カフェインを摂り入れている人が多いともいえるでしょう。
■めまいや吐き気、頭痛を引き起こすリスクも
カフェインが入っている飲料は、何もコーヒーだけに限りません。
私たち日本人になじみ深い緑茶にもカフェインは入っています。多くのお茶の原料となるチャノキにはカフェインが含まれています。
煎茶や紅茶、ウーロン茶、プーアル茶などはカフェイン入りの飲料です。これらに入っているカフェイン量はコーヒーほどではありませんし、麦茶やルイボスティーなど、カフェインが入っていないお茶もあります。
ですから、「お茶にはカフェインが含まれている」というイメージがない方もいるかもしれませんね。対照的に、エナジードリンクにカフェインが入っていることを知っている人はわりと多いと思います。
カフェイン量を売りにする商品もあり、目にする機会もあるでしょう。カフェインはたしかにパフォーマンスを高める作用があります。しかしその一方で、使い方を誤ると影響は小さくありません。
たとえば、めまいや吐き気、心拍数の増加、下痢、不眠、ふるえ、頭痛などを引き起こすリスクもあります。「むやみやたらにカフェインをたくさん摂る」というのは考えものです。
健康を損ねるおそれがあるため、消費者庁も注意を促しています。エナジードリンクについては、カフェインだけでなく相当量含まれる糖分も注意しておきたいポイントです。
■リスク回避に適切なカフェイン量を知る
2024年に行われたアンケートによると、エナジードリンクは、特に若い男性に好まれているようです。このアンケートによると飲用者の3割強が「味が好き」という理由で手に取っているそうです。
清涼飲料水の棚に置かれているものもあるため、10代でも手に取りやすいことも一因かもしれません。ただこうした場合、他の飲料やゼリー飲料と同じような栄養補給の一環として飲んでいる方もいるように思います。
しかし、これらの栄養補給系の飲料は糖分を補給することで、脳にエネルギーを送るものであり、カフェイン飲料とは体に効くメカニズムがまったく違うのです。他にもコーラや栄養ドリンク、チョコレートなどなど。
コンビニやスーパーの棚にはカフェイン入りのものがたくさん並んでいます。そのすべての食品パッケージにカフェイン量が明記されているわけではありません。カフェイン量の表示は義務ではないからです。
そのため実は知らないうちに多くのカフェインを摂り入れている方もいるはずです。毎日たくさんのカフェインを摂り続けていると、だんだんと耐性がついてきます。眠気覚ましや疲れの軽減の作用は弱まります。
それをどうにかしようとカフェイン量を増やし続ければ、依存や中毒の症状が起きないとも限りません。リスクを避けるためにも、適切なカフェイン量を知っておく必要があります。
■とっくにカフェイン中毒になっているおそれも
カフェインを摂り入れる上で意識したいポイントは量だけではありません。摂り入れるタイミングもとても大事です。よく、こんなことを聞きませんか。
「コーヒーを飲みすぎると夜眠れなくなる」個人差はありますが、カフェインの効果が半減するには4時間ほどかかります。
そのため夕食後にコーヒーを飲んだりすると、覚醒効果が就寝時まで残って、寝たいのに眠れなくなる可能性があります。当たり前ですが、睡眠が不十分だと翌日のパフォーマンスに響きます。
プレゼン前日にがんばって徹夜で会議資料を作っても、寝不足のために肝心のプレゼンテーションに影響が出ては、意味がありませんよね。
あるいは、その眠気や疲れをなくすためにまたカフェインを摂る人もいるかもしれません。こうなると摂取量も増えてくることは想像しやすいと思います。
講義などで、私がこのように話すと「毎日コーヒーをたくさん飲んでいますが眠れますよ」と言う方もいます。彼らは代謝が速いタイプなのかもしれません。
けれど、もしかしたらもうとっくにカフェイン中毒になっているおそれもあるのです。つまり、耐性がついているために効いていないだけ。
もしあなたに不眠症状などが出始めているなら、飲み方を見直したほうがいいでしょう。そもそも今は「残業中の眠気覚ましにコーヒーを飲んでもうひと踏ん張り」という時代ではありません。
■「眠眠打破」が密かに変更した「時計の針」
常盤薬品工業の「眠眠打破」は、名前のとおり眠気を打ち破るドリンクとして知られています。
1997年の発売以来、細かなリニューアルを重ねているのですが、2021年にちょっと面白い変更があったことをご存じでしょうか?
味やロゴが変わった以外に、実は発売当初から変わらなかったあるものが変わりました。答えは、パッケージの「時刻」です。以前は時計の針が2時を指していました。これが2021年に8時へと変更されているんですね。「夜に飲む」といったイメージから「朝に飲む」という新たな打ち出し方です。
まさに時代の変化の表れといえるのではないでしょうか。

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田原 優(たはら・ゆう)

広島大学大学院 医系科学研究科 公衆衛生学 准教授

1985年生まれ。早稲田大学理工学部、同大学大学院先進理工学研究科修了。博士(理学)。2015年より早稲田大学高等研究所助教、17年よりカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)医学部助教、19年より早稲田大学理工学術院准教授を経て、22年より現職。研究開始当時より体内時計の研究を継続。発光イメージングによるマウス体内時計測定、食・運動・ストレスによる体内時計の調節などの成果を発表。新しい研究分野として時間栄養学の立ち上げに関わる。
現在は、時間健康科学として、個人に合わせた健康管理システムの創出を目指し、企業と連携しながら日常行動の最適なタイミングについて研究を進めている。著書に『Q&Aですらすらわかる体内時計健康法』(共著、杏林書院)などがある。

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(広島大学大学院 医系科学研究科 公衆衛生学 准教授 田原 優)
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