カフェインはどのように活用すると効果的か。広島大学大学院 医系科学研究科 公衆衛生学 准教授の田原優さんは「アメリカ・コロラド大学の実験では、カフェインが体内時計を遅らせることがわかった。
また関連した論文では、夜にカフェインを摂ると眠れなくなるだけでなく、1日のリズムに影響するという新しいながら魅力的な視点も得ている」という――。
※本稿は、田原優『集中力を爆上げするカフェインの教科書』(日本能率協会)の一部を再編集したものです。
■体内時計とカフェインの相関関係
私が先に述べた以外に、カフェインにはもう1つ大きな力があると知ったのは、体内時計に関する実験でのことでした。
そもそもですが、体内時計は私たちの体のどこにあると思いますか? 正解は体のすみずみ。脳にも目にも、心臓に手足、皮膚や骨まで、至るところに体内時計があります。
正確にいえば、体内時計は遺伝子に組み込まれています。「遺伝子に」ということは、「細胞に」ということ。全細胞つまりは体のすみずみに体内時計があります。これらは「末梢(まっしょう)時計」とよばれます。
そしてそのすべては、脳にある「中枢(ちゅうすう)時計」で制御されています(図表1)。中枢時計と末梢時計の関係は、オーケストラの指揮者と演奏者に似ています。
オーケストラでは、指揮者の合図に合わせて演奏者が楽器を奏でますよね。
異なる音を重ね、皆で一つの楽曲をつくり上げます。同じようにまず、脳の視床下部の視交叉上核(しこうさじょうかく)という場所にある中枢時計が合図を出す。
合図を受けて、体の各器官にある末梢時計が動く。各器官はそれぞれの役割を果たしながら、その人の1日を“演奏”する。演奏者のリズムが乱れれば不協和音が鳴ります。体内時計がズレれば時差ボケが生じます。
■体内時計の1日に0.09~0.19時間のズレ
各器官で活発な時間帯には差があります。これもオーケストラと似ていますね。ピアノやバイオリンやフルートが、いつも一斉に鳴っているわけではありません。
抑揚をつけながら、ときに大きく、ときに休みながら、ハーモニーをつくり上げています。
同じように脂肪組織は夜に脂肪をためようとしたり、腎臓は昼間に老廃物を排泄するために尿を生成したりするなど、各器官の機能は時間により変わります。
そこで体内時計がズレていると「実際は朝8時なのに、体は朝5時の状態で調子がわるい……」となってしまうわけです。
ではなぜ体内時計がズレるのでしょう。
前提として押さえたいのは、体内時計の1日が24時間ではないということ。実はちょっと長いんです。ある調査では女性の平均は24.09時間、男性は24.19時間。
もしも放っておくと、このズレが1カ月で何時間にもふくらみます。ただ体はうまくできているんですね。体内時計の針を動かす仕組みをいろいろと持っています。代表的なものが「光」です。
■カフェインが体内時計に与える影響
たとえば朝日を浴びると、遺伝子が「あぁ、朝が来たんだ」と感じて体内時計はリセットされます。これは日光でなくても構いません。同じ時間に蛍光灯の光を浴びることでも効果はあります。
他にも、朝食や朝の運動にも、体内時計のリセット効果があります。
ここで本題です。カフェインには体内時計の針を動かす力があります。私は体内時計の研究をもとに、時間栄養学を研究しています。
時間栄養学とは、「何をどれだけ食べるといいか」というこれまでの栄養学に「いつ」を加えた学問です。
時間栄養学何を + いつ + どれだけ 食べるか?

私も開発に携わった、時間栄養学をもとに生まれた食品「Cycle.me(サイクルミー)」をセブン-イレブンの棚などで見かけた方もいるかもしれません。
時間栄養学では、どんな食品のどんな成分が体内時計に影響するのかを日々研究し続けています。その中でわかったのが、カフェインが体内時計に与える影響です。
たとえばアメリカ・コロラド大学の研究者らは5人のアメリカ人を対象に実験を行った結果を、2015年に発表しました。
その実験では、就寝3時間前にエスプレッソ2杯分のカフェインを与えた結果、睡眠物質であるメラトニンの分泌が遅れたといい、これは体内時計が遅れたことを意味しています。
■夜にコーヒー1杯が翌朝の起床を狂わせる
また論文では翌朝に起きづらくなることにも触れていました。「夜にコーヒーを飲んだら眠れなくなるなんて当たり前のことでは?」と、みなさんは思うかもしれません。
実は、この論文でもっとも注目してほしいのは、「翌朝に起きづらくなる」こと。
眠れなくなるだけでなく、1日のリズムに影響するということが新しい視点でした。
カフェインが体内時計の針を動かすのであれば、飲むタイミング次第では、夜型化したものを朝型へと変えるという効果も期待できます。特に普段から時差ボケ状態でいるなら、これは魅力的な力だといえるでしょう。
なぜならこの時差ボケは何も海外に行くときだけでなく、普段の生活でも起こりうるからです。

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田原 優(たはら・ゆう)

広島大学大学院 医系科学研究科 公衆衛生学 准教授

1985年生まれ。早稲田大学理工学部、同大学大学院先進理工学研究科修了。博士(理学)。2015年より早稲田大学高等研究所助教、17年よりカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)医学部助教、19年より早稲田大学理工学術院准教授を経て、22年より現職。研究開始当時より体内時計の研究を継続。発光イメージングによるマウス体内時計測定、食・運動・ストレスによる体内時計の調節などの成果を発表。新しい研究分野として時間栄養学の立ち上げに関わる。
現在は、時間健康科学として、個人に合わせた健康管理システムの創出を目指し、企業と連携しながら日常行動の最適なタイミングについて研究を進めている。
著書に『Q&Aですらすらわかる体内時計健康法』(共著、杏林書院)などがある。

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(広島大学大学院 医系科学研究科 公衆衛生学 准教授 田原 優)
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