健康長寿と嗜好品の相関関係は何か。医師の帯津良一さんは「杓子定規に、お酒が悪い、たばこをやめろと決めつける必要はない。
今日一日がんばったご褒美として少し気分がよくなる程度にお酒を飲んだり、リラックスのためにたばこを吸ったりするのは立派な養生だ」という――。
※本稿は、帯津良一『やり残したことは、死んでからやればいい』(廣済堂出版)の一部を再編集したものです。
■晩酌は一日の区切りをつける大切な時間
私はお酒が大好きで、休肝日などとったことがありません。
「週に一日は休肝日を」といつからか言われるようになりました。新聞の休刊日にかけてだれかが言い出したことでしょうが、新聞の休刊日は月に一度くらいでしょう。
このごろは新聞を読まなくなりましたが、かつては、新聞受けからインクのにおいのする新聞をとってきて開けるのが日課でした。「さあ、一日が始まるぞ」と、新聞を読むことでスイッチが入ったものです。
私にとってのお酒は、朝の新聞と同じように、一日の仕事を終えてほっとひと息つく大切なものです。診察が終わるのは夕方の五時くらい。
そこから2時間ほどの晩酌を楽しむのですが、今日一日、一所懸命に働けた喜び、元気で過ごせた感謝の気持ちを込めて、まずはビールをぐいと飲みます。
ビールのあとはウイスキーだったり、焼酎だったり、その日の気分で飲み進めます。
8時を過ぎると、ちょうどいい気分になります。
ここらでお酒はストップして、ご飯を少し食べて晩酌は終わります。
1982年に病院を開業してから二日酔いは一度もありません。勤務医だったころも仕事には万全の態勢で臨むようにしていましたが、一国一城の主となって気持ちの持ち方が一段ギアアップしたのかもしれません。
■いつも「今日が最後の日」
70歳くらいから、いつも「今日が最後の日」だと思って生きています。ですから、晩酌が終われば、あと3時間ほどの人生です。それを思いながら「ごちそうさま」と手を合わせると、背筋が伸びる気がするのです。
お酒にも好みがあって、ビールも銘柄が決まっていますし、ウイスキーも焼酎も、だいたい何種類かのうちから選んで飲んでいます。ビールだと辛口だし、ウイスキーはスコッチ、焼酎はあまり癖のない味が好みです。
たまに、患者さんや知り合いから、高価なお酒をプレゼントされることもあります。確かにおいしくて、晩酌がひときわ華やぎますが、味の好みさえ合えば、私の場合、安いお酒でも十分に楽しむことができます。
一日の最後にほっとする時間をもつこと。私にはそれが晩酌ということになりますが、お酒である必要はありません。

どんな一日であっても、今日は今日、明日は明日の風が吹くと、区切りをつける何か、たとえばゆっくりお風呂へ入るとか、音楽を聴いたり映画を観る、本を読むといった切り替えスイッチがあるといいのではないでしょうか。
■お酒とたばこは、やめる必要はない
うちの病院へ入院していた患者さんが退院するとき、男性の患者さんの場合、だいたい隣に奥さんがいて、必ず出るのがお酒とたばこの話です。
「うちの人は、お酒が好きで、たばこも吸います。体に悪いことばかりしているんです。やめるように言うんですが、なかなかやめられません。先生から、お酒もたばこもやめるように強く言ってください」
これが世間一般のお酒やたばこに対する見方です。医者だったり治療家だったり、病気治しや健康法に関する仕事をしている人のほとんどは、お酒やたばこは百害あって一利なしと考えていると思います。
「お酒はお好きなんですか?」
と患者さんに質問すると、「はい」と小さな声で答えます。明らかに奥さんのことを気にしている様子です。
「たばこも吸われるんですね?」

「はい」
背中が丸まっています。せっかくの退院なのに気の毒になってきます。
「私の考え方をお話ししますね」
そう言って、私もお酒が大好きで休肝日など一日もないということを話すと、患者さんの背中が少しずつ伸びてきます。
奥さんは、「一体、この先生は何を言い出すのだろうか」と怪訝(けげん)そうな顔になります。
「私の場合、お酒は養生です」
養生というのは、ただの健康法ではなく、いのちのエネルギーを高めることで、病気にならないだけでなく、こころが躍動し、いのちが喜ぶものです。
■お酒は天からのありがたい贈り物
私なら仕事を終えての晩酌がまさに養生で、養生は一日たりとも欠かせてはいけないものです。
江戸時代の大養生家である貝原益軒(かいばらえきけん)の名著『養生訓』にも「酒は天の美禄(びろく)なり」、つまり、お酒は天からのありがたい贈り物だと書かれています。
「酒は天の美禄なり。少(すこし)のめば陽気を助け、血気をやはらげ、食気をめぐらし、愁(うれい)を去り、興(きょう)を発して、甚(はなはだ)人に益あり。
多くのめば又よく人を害する事、酒に過ぎたる物なし。水火の人をたすけて、又よく人に災あるが如し」
適度なお酒がどれだけの効果があるか、このような名文を残しているのです。
そんな話をしたあと、
「お酒があなたにとって養生であるなら、毎日飲んだ方がいい」
そう伝えると、患者さんは立ち上がって、深々と頭を下げ、
「わかりました」
と満面の笑顔で答えます。奥さんは「あきれた」とでも言いたげに、私とご主人の顔を交互にながめます。
だいたい、がんのような大病をした人は、大酒を飲むようなことはしません。ほろ酔い気分で床につき、いい夢を見るはずです。

■たばこでこころが和むことも養生
たばこもそう。私は吸わないのでわかりませんが、緊張が続いたあと一服のたばこでこころが和むこともあるのでしょう。これも養生だと私は思っています。
杓子定規に、お酒が悪い、たばこをやめろと決めつけるのではなく、今日一日がんばったご褒美として少し気分がよくなる程度にお酒を飲んだり、リラックスのためにたばこを吸ったりするのは立派な養生です。
少なくともお酒は私には欠かせないものです。晩酌の時間があるからこそ、私はこうやって元気に現役で働き続けていられると言っても過言ではありません。
ここまでお話しすると、
「そうだよね。がんばっているもんね」
奥さんも納得した表情になります。
退院していった患者さん、何カ月に一度か診察にみえますが、いつも「お酒、飲んでいますから」とうれしそうに報告してくれます。

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帯津 良一(おびつ・りょういち)

医師

1936年埼玉県生まれ。1961年東京大学医学部卒業。東京大学医学部第三外科医局長、都立駒込病院外科医長を経て、1982年に埼玉・川越に帯津三敬病院を開業。
2004年に東京・池袋に統合医学の拠点、帯津三敬塾クリニックを開設。主にがん治療を専門とし、西洋医学と中国医学などの代替療法を用いて、患者一人ひとりに合った診療を実践している。体だけでなく、こころといのちも含めた人間まるごとをみるホリスティック医学を提唱。89歳になる現在もホリスティック医学の実践、講演や執筆など精力的に活動。著書に『89歳、現役医師が実践! ときめいて大往生』(幻冬舎)など多数。

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(医師 帯津 良一)
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