※本稿は、佐野雅昭『日本漁業の不都合な真実』(新潮社)の一部を再編集したものです。
■中国漁業の海外進出、日本は一人負け
圧倒的な数の中国漁船による無秩序な操業が行われた結果、東シナ海の水産資源は壊滅的ダメージを受けました。
その結果、日本の旋網漁船は東シナ海での操業を諦め、対馬沖など西部日本海や北部太平洋の道東沖まで漁場を移動させ、サバ類やマイワシの漁獲にシフトせざるを得なくなっています。
中国船は日本では禁止されている高性能の漁具を使い、根こそぎ漁獲してしまいます。そのため東シナ海のアジやサバ類などの水産資源は大きく減少し、海が砂漠化したとまで言われます。
今では中国船すら操業しなくなり、それらが太平洋公海域のサンマ漁業に転じているという話も聞かれます。巨大な人口を抱える中国は、食料確保のため漁業の海外化を推し進めています。
200海里水域の拡大を東シナ海や南シナ海で主張するのは、軍事的な理由だけではないのです。さらに公海域なら全て中国の食料生産基地であるかのように振る舞い始めています。
中国漁船による無秩序な操業が、日本の漁業と日本人の食料安全保障に影を落とし始めたいま、日本漁業の生産維持という重大な国益をどう守るかが問われているのです。
これまで日本漁業は国際的に利用している資源についても厳しい資源管理を行い、様々な漁獲規制を強めてきました。
しかし、それが逆に規制が緩い国の競争力を高め、日本漁業の立場を弱め、多くの国益が失われています。日本だけが規制を強めても、資源の管理は実現できないし、日本の漁業も守れません。
現状では、各種の規制が日本の漁業をいじめ、弱らせているだけのように見えます。本気で水産資源と国民の食料を守ろうとするなら、中国や台湾にも同じ強度の資源管理規制を義務づける必要があります。
それが外交上できなければ、日本の漁業は一人負けになってしまいます。
■国境産業としての漁業の重要性
鹿児島には尖閣諸島周辺で操業する一本釣り漁業者がいて、ハマダイやアオダイのような美味しい高級魚を漁獲してきましたが、彼らの操業も中国漁船に脅かされています。
同様に沖縄県の一本釣り船やマグロ延縄漁船も、尖閣周辺海域での操業を諦めざるを得ない状況に追い込まれています。こうした資源争奪戦において、政府はもっと積極的に関与する必要があります。
日本海や東シナ海、北方領土もそうですが、国境に近い海域で海外漁船と競争しながら操業する日本の漁船は軒並み苦境にあります。
特に中国は資源管理に協調しないだけでなく、操業現場で威圧的な行動に出るなど、軍事力を背景に年々圧力を高めています。日本は自国水域における自国民の安全な操業を保障できず、実質的に主権行使できていない状況が続いているのです。
■領有が有名無実化した尖閣諸島
日本政府は1895年1月に、国際法に基づいて尖閣諸島を領土に編入しています。
それ以前から周辺海域ではカツオ漁が盛んで、正式に領土となって以降は漁民が入植、アホウドリの羽毛やグアノ(肥料として使われる、堆積した海鳥等の糞)を採取し、カツオを獲って鰹節工場を経営していました。
多いときには日本人漁民を中心に250名近く居住し、住民登録までしていたのです。こうした漁業者の存在と鰹節工場の操業実態があるうちは、尖閣諸島は完全に日本領土として世界から認知されていました。
第二次大戦中には燃料が運べなくなって島内事業が途絶え、再び無人島となったものの、1951年のサンフランシスコ平和条約では、尖閣諸島は日本領土として扱われ、南西諸島の一部としてアメリカの施政下に置かれました。
1971年に日米間で交わされた「沖縄返還協定」にも尖閣諸島が含まれ、沖縄とともに日本に返還されています。
しかし、日本政府はその後も尖閣諸島の漁業を再開させようとせず、漁港整備もしないまま無人島として放置、領有が有名無実化しました。
■中国依存の経済成長重視は防衛上の大失策
他方、この海域に石油が埋蔵されている可能性が明らかになると、突如として中国や台湾が尖閣諸島の領有権を主張し始めます。無人島化したために、無茶な主張が容易になったのです。
中国の圧力に対して政府の対応は一貫して弱腰で、結果的にこの海域での漁業操業すら自由にできなくなってしまいました。
中国に依存した経済成長を重視して漁業を軽んじたことは、今になれば単に漁業だけの問題ではなく防衛上の大失策であったと思います。この状況が続けば、尖閣諸島の領有を国際的に主張できなくなる日は近いかもしれません。
政府は2016年にようやく「有人国境離島法」を定めました。
普段あまり意識しませんが、島国日本はほとんどの海や離島が実質的に国境となっているのです。
日中、日台、日韓、日露の間では未だに尖閣諸島や竹島、北方領土に関する争いが存在し、国境線が画定できずにいます。しかし、こうした海域でも漁業が活発に行われ、漁民が定住していれば、国土保全と国境警備には大きな役割を果たします。尖閣のように無人島化してはなりません。
■政府による本腰を入れた離島漁業への対応を
漁業の存続を市場経済に委ねてしまえば、その維持は危うくなります。特に離島など僻地における漁業は採算性が低く、多くは経営が困窮しています。
漁業操業の存続はもはや単なる漁業者だけの問題ではないのです。もしそれらが消失すれば、水産食料の減少と食料自給率の低下だけでなく、領土保全が危機にすることは明らかです。
漁業は食料の争奪戦であると同時に、領土争奪戦の最前線でもあるのです。国境に近い離島や僻地の漁業は、採算性を度外視してでも政策的に守らなくてはなりません。
台湾有事も今や現実的リスクになりました。ロシアとの関係悪化で、北方領土周辺海域からも日本漁業が閉め出されつつあります。海上保安庁だけでは日本の長い海岸線は守り切れません。政府による本腰を入れた離島漁業への対応が望まれます。
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佐野 雅昭(さの・まさあき)
鹿児島大学水産学部教授
1962(昭和37)年大阪府生まれ。京都大学法学部卒。東京水産大学修士課程、水産庁を経て北海道大学水産学研究科で博士号取得。専門は水産物流通。主な著書に『サケの世界市場』(漁業経済学会学会賞)『日本人が知らない漁業の大問題』など。
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(鹿児島大学水産学部教授 佐野 雅昭)

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