※本稿は、佐野雅昭『日本漁業の不都合な真実』(新潮社)の一部を再編集したものです。
■「映え」のために食べる若者たちの消費行動
味より見た目が大事という「映え」志向は若者の間でとくに顕著で、インスタグラムではファッション、コスメ、グルメが人気のジャンルです。
「食」は現代のソーシャルメディアにおける重要なアイテムなのです。自己顕示のための消費は承認欲求を満たすせいか、多くの若者が外食のたびに写真を撮ってウェブ上で発信しています。
そして、彼らの消費行動をビジネスに取り込もうと、外食産業や加工食品産業が見た目にこだわった商品作りを進めています。
その結果、食品市場は見た目がよければ(あるいは特徴的なら)売れる状況になってきた感があります。
中身より見た目重視というルッキズムが食のシーンを侵食し、ここでも重要なのは他者からの評価になります。「食」は他者の評価を得るための手段であり、目的ではないのです。
かつては、「美味しかった」「お腹いっぱい」といった自分の内部から生まれる満足感が「食」においては何より大切でした。「食」そのものが目的だったのです。
しかし今ではその意味が薄れ、「食」は他者に評価されるための手段となり、評価の数こそが自分の価値だと感じる若者が増えています。
■「タイパ」「機能性」では肉に敵わない
自分にとって「美味しい」ことよりも、他者から見て「美味しそう」に見えることが大切なのです。しかし、「食」の価値がここまで変容する状況はやはり不自然です。
中には写真を撮影し発信しただけで満足し、食べ物自体は廃棄してしまう非常識な者までいます。
他者の評価を得るための「食」が蔓延する時代にあって、私たちは「食」をもう一度見つめ直す必要があるようです。
世界では物量的な食料不足がリアルな問題となりつつある一方で、日本の若者の間でこうした自己顕示のための「食」が広がっていることを、筆者は深く危惧します。
次は「タイパ」を重視する簡便化志向についてです。何かと忙しい現代人にとって、時間の価値は増大し続けています。
それを背景に、短時間で準備できて消費もできる食品、つまり即食型加工食品の消費が増えているのです。
魚をスーパーで選んで買う、家まで持って帰る、キッチンでそれを調理し煮魚や焼き魚にする、どの工程も手間と時間がかかります。水産物を家で調理して食べる生活は、今の若者にとってタイパが悪いのです。
■ルッキズム時代の象徴的な人気食品
そうした若者のニーズに迎合するように、スーパーの惣菜売場には煮魚や焼き魚が、またコンビニではレンジでチンすれば食べられる「袋物惣菜」としての煮魚や焼き魚が売られています。
たしかにタイパはいいかもしれませんが、加工経費が価格に上乗せされるためにコスパは悪く、残念ながら大して美味しくありません。
惣菜や加工品では肉のほうが安くて美味しい商品が製造しやすく、実際に惣菜売場でもコンビニでも畜肉製品のほうが圧倒的に多く売られています。
そもそも魚に比べて肉料理は手間がかからず調理時間の短いレシピが豊富です。タイパやコスパを重視すれば、水産物より畜肉に消費がシフトするのは当たり前です。機能性を重視する傾向も強まっています。
健康維持機能、ダイエット効果、また最近はルッキズムを背景とした筋肉肥大効果などを謳う食品が人気のようで、象徴的な食品が「サラダチキン」です。
多くはタイなどから輸入した鶏肉を使っており、コンビニの店頭には様々なアイテムが並んでいます。どれも安くて食べるのに簡便で、低脂肪でタンパク質豊富な機能性をパッケージでアピールしています。
■本来の目的とかけ離れた筋トレ
筆者が教えている学生にもサラダチキンを多く購入する者たちがいますが、彼らはみな一律にジムに通い、流行の「筋トレ」を行っています。「筋トレ」もルッキズムのわかりやすい例です。
本来は力の要る動作を行うのに求められる大きな筋肉をつけるためのトレーニングだったはずですが、今ではその目的は見映えの良い筋肉や体形を他人に見てもらい評価されることです。そしてサラダチキンもその手段なのです。
ダイエット効果を謳う食品もそうですが、もはや「食」は何らかの目的達成のための手段となっているのです。
そして、「食べる」という行為が楽しく豊かな経験でなくなり、目的実現のために金と時間を費やす手段としての義務的な行動になるなら、コスパやタイパの重視は当然です。
こうした価値観の変化が若者たちを美味しく豊かな国産水産物ではなく、安価で簡便なタイ産サラダチキンへと向かわせているのです。
■国産水産物は高級な嗜好品に
若者の魚離れはますます進んでいます。
魚を嫌いになったわけではないのですが、「食」そのものを重視しない価値観、それを煽る商業主義のトレンドに、伝統的な食生活や水産物が合わなくなってきているのです。
水産物市場では今後、グリーンでクリーンで、見映えとタイパとコスパの良い食品が売れ筋になっていくでしょう。若者たちの間では、美味しい水産物を味わい、ゆっくり食を楽しむ機会は大きく減少しています。
水産物の多くは加工原料化しており、企業によって大量に加工されたり、あるいは外食店で調理されたりしたものを食べるのが当たり前なのです。
かつてはサンマ、サバ、マイワシなど沖合漁業で大量に獲れる青魚が安価に大量販売され、家庭で調理され、手軽な惣菜として食べられてきました。
しかし、今ではその多くが缶詰などの加工原料として利用されています。
大規模漁業で獲れるので生産性が高く、現代的なニーズに合わせて加工されるため、コスパとタイパの面でも畜肉加工製品と競争しうると思われます。
しかし、規模が小さく、生産性の低い沿岸漁業で獲れる生鮮水産物の多くは、資源管理体制の下で漁獲が厳しく制限されています。
燃油費などコストは上昇し続けており、付加価値をつけて高価格で販売しなければ漁業が成り立ちません。
しかし、そうした市場はどんどん縮小しつつあり、今では海外観光客のインバウンド需要に依存するような状況です。
■流行りを追いかける企業間競争で原料に変化
国産水産物はこのように大量生産される加工品原料と、少量生産される嗜好品の二極化が進むでしょう。前者の市場では安価な輸入水産物も利用されており、市場シェアを拡大しています。
ですから、いずれにしても国産水産物の市場は楽観視できません。加えて見落としてはならないのが食品産業の企業間競争です。
彼らはコスパやタイパで勝る加工食品の開発で競い合っており、輸入原料でも国産原料でも構いません。もっと言えば畜肉原料でも構わないのです。
水産会社であったはずのニッスイも今ではサラダチキンの生産企業になりました。食品産業全体がこうしたトレンドを追いかける競争に邁進してしまえば、食料安全保障はどうなってしまうのでしょうか。
本書ではその重要性と、それを実現するための水産業保護の必要性を考えてきました。
しかし、食品加工産業が輸入水産物や畜肉を原料として多用する限り、食料安全保障も国内食料産業の保護も実現できません。
どこか一部がそれに反する行動を取れば、全体が上手くいかなくなります。その意味では、やはり消費者の選択が重要です。
■加工品一辺倒の食生活になりかねない
サバの缶詰は便利なのでよく売れています。他方、生鮮で売られる国産のサバを塩焼きや味煮に調理して食べることは手間がかかりますが、缶詰とは別次元の美味しさです。
そういう食生活を私たち消費者が取り戻さなければ、輸入原料を多用した加工品一辺倒の食生活になりかねません。
食料安全保障を実現する上で、家庭での食のあり方、調理の楽しさ、伝統的な食文化と地元食材の豊かさを見直していきたいものです。
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佐野 雅昭(さの・まさあき)
鹿児島大学水産学部教授
1962(昭和37)年大阪府生まれ。京都大学法学部卒。東京水産大学修士課程、水産庁を経て北海道大学水産学研究科で博士号取得。専門は水産物流通。主な著書に『サケの世界市場』(漁業経済学会学会賞)『日本人が知らない漁業の大問題』など。
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(鹿児島大学水産学部教授 佐野 雅昭)

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