理想の体型と健康を手に入れるにはどうすればいいか。医師の奥村歩さんは「例えば身長170センチメートルの人だと、睡眠時間が1時間短くなるだけで、気づかないうちに1キログラムも太ってしまうことがわかっている。
質のいい睡眠はダイエットにもなるだけでなく、細胞や筋肉を修復してくれる働きまである」という――。
※本稿は、奥村歩『10万人の脳を診てきた脳神経外科医が教える 脳を休めて整える習慣』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■脳を覚醒させるオレキシンを抑える
先の記事で、仕事が未完了でも帰宅する「中途半端法」をご紹介しました。
しかし、ぐっすり眠りたい日については、戦略を変えましょう。
その日は心置きなく頭と体を使い、とことん「やり切った」と満足できるまでがんばるのです。
日中は脳をフル回転させて、ノルアドレナリンを十分に分泌させてください。そして、精一杯やり切った達成感で、ドーパミンの快楽を味わいましょう。
さらに、頭を疲れさせた後には、体もほどよく疲れさせることが重要です。
夕方からは、散歩や軽い筋トレなどのリズム運動を取り入れ、心を落ち着かせるセロトニンも分泌させましょう。
ノルアドレナリン、ドーパミン、セロトニンといった脳内物質が、昼間に十分に分泌されると、夜間にネガティブ・フィードバックの働きによって、脳を覚醒させるオレキシンという脳内物質を適切に抑制してくれることがわかっています。つまり、スムーズに眠気が訪れるようになるわけです。
寝る前に考え事をして不安になるのは、オレキシンが残存しているサインかもしれません。
オレキシンを抑えて不安を解消するには、「やるだけのことはやった」という自信と開き直りが、何よりも大切なのです。
■寝る前の空腹には「ヨーグルト+フルーツ」
さらに、熟睡のための意外な秘策として、夜間の間食についてお話ししましょう。
一般的には「寝る前は食べないほうがいい」というのが健康の常識とされていますよね。しかし、これはケースバイケースなのです。
どうしても熟睡したい夜に、空腹のままベッドに入るのは、じつはあまりいい方法ではありません。
なぜなら、長年飢餓と戦ってきた人類の脳では、空腹になると「お前、寝ている場合じゃないだろ! 食べ物を探しに行け!」という、覚醒物質であるオレキシンの指令が出されてしまうからです。
これでは、せっかく昼間にがんばってオレキシンを抑制する準備をしても、台なしになってしまいます。
そこで、そんな夜は、空腹を軽く癒やすために「フルーツ入りのヨーグルト」を食べてみてください。
ヨーグルトやぶどう、バナナ、メロンなどの果物には、心身をリラックスさせるGABAという脳内物質を分泌させる作用があります。
GABAが活性化すれば、副交感神経が優位になります。その結果、あなたの心身は深い安らぎに包まれ、自然な睡眠へと誘われるのです。
昼間の徹底的な活動と、夜のGABA分泌。

この二つを心がけることで、あなたの脳は休息を取り戻すことができるでしょう。
■「ストレス食い」の背後にある恐ろしい構造
「食事に気を遣っているのに、飲み会や休日になると、ついドカ食いしてしまいます……。最近、お腹も出てきました」
このような悩みを抱えている方は、少なくありません。
いわゆる「ストレス食い」の背後には、じつは、あなたの知らない恐ろしいメカニズムが隠されています。臨床現場ではよく言われていることですが、過食の方は「睡眠負債」を合併している場合が非常に多いのです。
睡眠が足りないと、体内でホルモンのバランスが崩れます。
食欲を増加させるホルモンであるグレリンの分泌量が増える一方で、食欲を抑えて満腹感を伝えるホルモンのレプチンは、まるでブレーキが利きすぎたかのように低下してしまうのです。このグレリンとレプチンのアンバランスこそが、あなたを暴飲暴食へと駆り立てる最大の原因だと考えられています。
さらに、グレリンの増加とレプチンの減少は、覚醒物質であるオレキシンの活性化につながり、あなたの眠りはさらに浅くなってしまいます。
こうして、「睡眠不足 → 食欲増進 → 過食 → さらなる睡眠の質の低下」という、恐ろしい負のスパイラルに陥ってしまうのです。
このスパイラルがどれほど危険か、具体的なデータを見てみましょう。
ある医学論文では、睡眠時間がたった1時間短くなるごとに、肥満の指標であるBMIが0.35上昇すると報告されています。

これは、身長170センチメートルの人だと、睡眠時間が1時間短くなるだけで、気づかないうちに1キログラムも太ってしまうことを意味しています。
もし、あなたが体重増加に悩んでいるのだとすれば、それは日々の「睡眠負債」が静かに積み重なった結果かもしれません。
■「睡眠」こそが、究極のリカバリー術
「可能な限り、長時間寝ます。できることはそれだけなので」
これはメジャーリーガーの大谷翔平選手が、その常人離れしたパフォーマンスを支える秘訣として、繰り返し口にする言葉です。「寝る子は育つ」ということわざがありますが、これは大人にも当てはまります。
ぐっすり眠ることで、成長期を過ぎた成人でも、質のいい睡眠中には「成長ホルモン」がしっかりと分泌されることがわかっているのです。
この成長ホルモンは、ただ筋肉を作るだけでなく、体内に蓄積された中性脂肪を分解し、そのエネルギーを使って日中に傷ついた細胞や筋肉を修復してくれる働きがあります。
過食や肥満を防ぎ、理想の体型と健康を手に入れるには、昼はしっかり体を動かし、そして夜は熟睡する習慣が何よりも重要です。
今日から「熟睡すること」を最優先事項の一つに据え、心身を根本から変える「究極のダイエット法」を始めてみましょう。
あなたの脳が求めているのは、過度な制限ではなく、質のいい休息なのです。

----------

奥村 歩(おくむら・あゆみ)

医学博士

1961年生まれ。おくむらメモリークリニック院長。
岐阜大学医学部卒業、同大学大学院博士課程修了。2008年に「おくむらクリニック」を開院し、設置した「もの忘れ外来」ではこれまでに10万人以上の脳を診断した。著書に『スマホ脳・脳過労からあなたを救う 脳のゴミを洗い流す「熟睡習慣」』(すばる舎)、『ボケない技術』(世界文化社)、『スマホ脳の処方箋』(あさ出版)、『脳の老化を99%遅らせる方法』(幻冬舎)、『あなたの脳は一生あきらめない!』(永岡書店)など。

----------

(医学博士 奥村 歩)
編集部おすすめ