巨大与党が姿を現し、永田町の勢力地図が一変した。真冬の短期決戦となった2月8日投開票の衆院選で、高市早苗総裁(首相)が率いる自民党が歴史的な圧勝を遂げた。
高市首相は昨年10月の就任以来の実績がないまま、期待値によって自民党、日本維新の会の与党で352議席という空前の大勝を得た。
首相は9日の総裁記者会見で「様々な声に耳を傾け、謙虚に、しかし大胆に政権運営に当たる」との政治姿勢を明らかにしたが、政権運営における不安定さは否めず、国会運営などに数の驕りもうかがえる。
第2次高市内閣が18日に発足し、全閣僚が再任された。重要案件はすべて自分に上げさせて判断するという「孤高の首相」の政治スタイルは、さらにバージョンアップするのだろうか。
野党第1党の中道改革連合は、公示前の167議席から49議席に激減した。公明党系(公示前21議席)は比例単独で28人全員が当選したが、立憲民主党系は小選挙区で戦い、公示前の146議席から21議席に落ち込んだ。
護憲、軍事力強化反対、反原発など非現実的な政策を掲げてきた旧民主党勢力が一掃されたという政治史的な意味は小さくない。
野党では、多弱現象がさらに進み、新興勢力の参政党、チームみらいが議席を伸ばす一方で、共産党、れいわ新選組、社民党は後景に退いた。この左派・リベラル各党の凋落は不可逆的なのではないか。
■自民得票率49.1%で獲得議席率85.8%
自民党316(+118)、日本維新の会36(+2)、中道改革連合49(-118)、国民民主党28(+1)、共産党4(-4)、れいわ新選組1(-7)、減税日本・ゆうこく連合1(-4)、参政党15(+13)、保守党0(-1)、社民党0(0)、チームみらい11(+11)、諸派0(0)、無所属4(-11)、計465。
党勢を示す比例選得票数は、自民党が2103万票で大台に乗せ、中道改革連合は1044万票、3位は国民民主党の557万票だった。
自民党の比例選得票数は1996年の現行選挙制度導入以来2位で、2005年の小泉純一郎首相(当時)による「郵政選挙」の2589万票に次ぐ。得票率でも歴代2位の36.7%で、24年の石破茂首相(当時)による前回衆院選の26.7%(1458万票)から大きく回復した。自民党は比例選の獲得議席が名簿に登載した候補者数を上回り、14議席を他党に譲ることになった。
なぜ自民党は予想以上にこんなに勝つことができたのか。技術的には、小選挙区選を軸とする選挙制度、野党の多党化によって反自民票が割れたことが最も大きな理由だろう。
今回の小選挙区選で、自民党の得票率が49.1%(2771万票)で、獲得議席率が85.8%にも上ったのに対し、中道改革の得票率は21.6%(1221万票)で、議席率はわずか2.4%だった。
元自民党事務局長の久米晃氏が13日の東京新聞に語ったところでは、岸田文雄首相(当時)の手で自民党が261議席を勝ち得た2021年衆院選と比較することで、今回の特異性が浮かび上がるという。
自民党の小選挙区選の得票率は、今回の49.1%に対し、21年は48.1%とそれほど変わらなかったが、獲得議席は今回が248議席で、21年の189議席から59議席も上積みした。与野党の小選挙区候補の合計は、今回が1119人で、21年の857人から1.3倍に増加している。中道改革や国民民主、参政、共産の各党など野党候補が選挙協力もせずに乱立し、結果的に自民党を利する構図になった、と分析している。
■300という妖しい数字は判断を狂わせる
今回の衆院選で自民党が得た316議席は、一つの政党としては過去最高となった。300議席超は、1986年に中曽根康弘首相(当時)が衆参同日選を仕掛けて自民党が得た304議席、2009年に民主党の鳩山由紀夫代表(当時)が政権交代を果たした時の308議席が、これまでの記録だった。
その中曽根首相が圧勝した当時、自民党国会対策委員長だった藤波孝生氏(元官房長官)は「これから300祭りが始まる」と周囲に対し、政権運営に驕りが生じてはならないと警告していた。だが、300という妖しい数字は、時の首相の判断を狂わせるらしい。
中曽根氏は、選挙戦で「大型間接税は導入しない」と明言しながら、圧勝した後に「売上税」導入を提案し、世論の反発を招いた。翌1987年3月の参院岩手補選で自民党候補が「反売上税」を掲げた社会党候補に大敗し、中曽根氏は売上税撤回に追い込まれる。
その後、藤波氏も巻き込まれたリクルート事件、竹下登内閣による消費税導入などへの国民の不満が積み上って、3年後の1989年参院選で自民党は歴史的大敗を喫した。
民主党の鳩山政権も300議席を得たが、独善的なマニフェストを振りかざし、財源や政治手法をめぐって霞が関と対立し、2010年参院選で菅直人首相(当時)の「消費税10%」発言で敗れた。12年に野田佳彦首相(当時)が党の分裂を引き起こしながら、消費税率10%を目指す社会保障・税一体改革を自公両党の協力で成し遂げたこともあって、衆院選で大敗し、政権を失っている。
中曽根政権と民主党政権に共通しているのは、消費税(売上税)や社会保障などの制度設計に当たって、小さな合意を積み上げて結論を得ていくのではなく、トップが300という数を背景に一気に押し切ろうとしたことだ。数の驕りを世論が感じ、大勝の後の大敗という振り子現象を呼び込んだと言われている。
■「私は年度内成立を諦めていない」
高市政権も「シン・300祭り」を避けられないだろう。
首相は「26年度予算案は重要だ。私は年度内成立を諦めていない」と述べ、早期成立に向けて審議日程を短縮するため、与野党の質問時間を大幅に削るよう求めたという。行政府の長が国会運営に直接介入するのは、極めて異例と言える。
予算審議時間は衆院で70~80時間が通例とされ、少数与党だった石破政権下の昨年の通常国会では「熟議」を求める野党に抗えず、92時間まで積み上った。今回の特別国会では、3月13日の予算案衆院通過を目指して、2000年以降で最短だった66時間30分をも下回る50時間台に抑えるため、集中審議や省庁別審査を予算成立後に回す奇策も首相周辺で検討されている、と報じられている。
衆院の各派協議会は17日、27ある常任・特別委員長、審査会長について、与党に25、野党に2を配分することで合意した。自民党は当初、全ポスト独占を試みたが、最終的に懲罰、消費者問題特別の両委員長を中道改革に割り振った。自民党は昨年の衆院選で少数与党に転落し、野党に最大13の委員長・会長ポストを握られたが、その大部分を取り返した。
首相は、予算委員長ポストを奪還したことで、自身の答弁機会も減らしたい考えだ。首相は昨年の臨時国会で、立憲民主党の枝野幸男予算委員長(当時)に首相答弁を頻繁に振られ、不満を募らせていた。
参院では予算委員長を自民党が握っているとはいえ、少数与党のままだ。
■「謙虚さや小さな声を聞く気があるのか」
首相は、1月に衆院を解散し、「経済後回し解散」(玉木雄一郎国民民主党代表)となどと批判されたため、体裁を取り繕おうとしているのだろうが、2~3週間程度の予算成立の遅れが実体経済に及ぼす影響はほとんどない、というのが永田町の常識でもある。国会運営を強引に進めてまで予算の年度内成立に拘る意味はないと言ってもいい。
高市首相は20日の施政方針演説で、食料品限定の2年間の消費税ゼロについて、政府と超党派を交えた「国民会議」で議論し、6月に中間取りまとめを行い、秋の臨時国会に税制改正関連法案を提出する方針を示した。
国民会議では所得税減税と給付を組み合わせる「給付付き税額控除」の制度設計も協議する。首相はこれに賛同する中道改革や国民民主党、チームみらいなどに限って参加を求めるという。参加を断られた参政党の神谷宗幣代表は「どこに謙虚さや小さな声を聞く気があるのか」と反発を強めている。
政府・与党は、食料品消費税ゼロの27年4月スタートを目指すが、問題は財源である。首相は、補助金、租税特別措置の見直し、税外収入などを充てると言うが、2年間の9.6兆円をカバーできるはずがない。給付付き税額控除の導入にも、3.6兆円程度の財源が新たに必要で、消費税率を12%に上げないと制度が維持できないという試算もあるという。
一方で、2027年1月から防衛力強化の財源としての所得税増税が始まる。
防衛増税が控える中、食料品の消費税ゼロによって、財政悪化、金利上昇、円安が進行し、国民生活を一層圧迫するとの懸念もある。消費減税への世論の支持は必ずしも高くない。首相は混乱なく公約を実現できるのか。
仮に実現できても、28年夏の参院選を前に、29年4月に食料品の消費税を8%に戻すという公約を掲げられるだけの体力が、そのころの高市政権に残っているのだろうか。
■「有権者に欺瞞性を見抜かれた」
中道改革連合は、党が分解する危機だったが、何とか再建の道を歩み始めた。
野田、斉藤鉄夫両共同代表が引責辞任し、2月13日の代表選で、小川淳也元立民党幹事長が、階猛元総務政務官との立民系同士の一騎打ちを27票対22票で制し、新代表に選出された。ベンチ入りがやっとの控え投手がいきなり実戦のマウンドを託されたようなものだ。
民主党政権で閣僚や党幹部を務めた、小沢一郎元民主党代表、岡田克也元代表(元副総理、元外相)、海江田万里元代表(元衆院副議長、元経済産業相)、枝野元立民党代表(元官房長官)、玄葉光一郎前衆院副議長(元外相)、安住淳中道共同幹事長(元財務相)、馬淵澄夫中道共同選対委員長(元国土交通相)らが悉く落選したためで、世代交代が加速した。
立民系の敗因は、安全保障やエネルギー政策を現実的なものに、選挙前に慌ただしく転換したことで、「有権者に欺瞞性を見抜かれた」(立民党関係筋)と分析されている。
小川新代表の優先課題は、党をどう存続させ、どう一体感を作っていくかである。
2月18日に発足した中道改革の新体制では、階幹事長・選対委員長(立民系)、岡本三成政調会長(公明系)、重徳和彦国会対策委員長(立民系)がバランスよく起用され、山本香苗代表代行(公明系)も決まった。
衆院副議長人事では、最終的に石井啓一元公明党代表(元国土交通相)に落ち着いた。小川氏が一時、泉健太元立民党代表に打診するなどして迷走したが、経験不足ゆえで、やむを得ないだろう。
■「全ての人が対等というのを前提に」
気になるのは、小川、階両氏が代表選の中で、公明系が比例選の各ブロックの上位に登載されたことで、立民系から復活当選が厳しくなったと反発が出ていることについて、「全ての人が対等というのを前提に党運営したい」「原則として平等であるべきだ」と発言していたことだ。
そもそも中道改革連合は、党勢がジリ貧の立民、公明両党がどう生き残るか、という危機感が出発点だったはずだ。公明系が小選挙区選から撤退し、立民系を支援する、その見返りに公明系を比例選で処遇するという「選挙互助会」の側面もあって、両党から衆院議員165人が新党に参加したという経緯がある。
比例選に公明系の28人が単独登載されたのは、勢力比からいって過度に優遇されたわけではない。選挙区を戦った立民系の当選が21人にとどまったからと言って「対等」や「平等」を持ち出すのは筋が違うのではないか。
落選した立民系の亀井亜紀子、福田昭夫両氏らに離党の動きもあるが、それなら中道改革に参加しなければよかっただけの話である。
参院の立民、公明両党は、中道改革への合流を凍結し、特別国会はそれぞれの会派で臨んでいる。18日の参院の首相指名選挙では、中道、立民、公明3党の事前打ち合わせで小川氏への一本化を決めていたにもかかわらず、立民党の森裕子、青木愛氏ら5氏が水岡俊一代表に投票するという造反劇も起き、3党間の連携・融和の難しさが改めて表面化した。
■「中道改革連合はまだ終わっていない」
読売新聞世論調査(2月18~19日)で、中道改革連合の政党支持率は5%にとどまり、チームみらいの6%を下回った。小川代表に期待するか尋ねたところ、「期待しない」が58%に上った。
民主党政権で環境相などを務めた自民党の細野豪志衆院議員は15日の自身のX(旧ツイッター)で、こうエールを送っている。
「中道改革の前途は多難だ。選挙直前に新党を結党し、総選挙で惨敗した中道の姿は、(2017年に)私が結党に関わった希望の党とも重なってみえる。ただ、当時と異なるのは、中道改革連合が衆院の野党第一党だということだ。野党第一党には、野党をまとめて政府与党と交渉するという巨大な権限がある。わずかな差ではあったが、希望の党は総選挙の結果、立憲民主党に野党第一党の座を譲った時点で終わっていたのだ。中道改革連合はまだ終わっていない」
小川氏は24日の衆院代表質問にトップバッターとして立つ。どう果敢に切り込み、高市首相がどう真摯に謙虚に受け止めるのか。中道改革にとっても、高市政権にとっても、その命運がかかった国会論戦が始まる。
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小田 尚(おだ・たかし)
政治ジャーナリスト
1951年新潟県生まれ。東大法学部卒。読売新聞東京本社政治部長、論説委員長、グループ本社取締役論説主幹などを経て、フリーに。2018~2023年国家公安委員会委員。
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(政治ジャーナリスト 小田 尚)

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