■面接は「アドリブ力」の時代へ
就職や転職の採用試験が、今まさに変わろうとしている。
その象徴が、2025年末にロート製薬が発表した「エントリーシート(書類選考)の廃止」だ。同社は廃止の理由として「生成AIの普及」を挙げている。
今の時代、チャットGPTなどの生成AIを使えば、誰でも完成度の高い志望動機や自己PRが一瞬で作れてしまう。だからこそ、企業は書類を見なくなった。
では、どこで合否が決まるのか。これまで以上に重要視されるのが、目の前でどう反応し、どう対話できるか。つまり、生身の「アドリブ力」だ。
「アドリブなんて才能だ。口下手な自分には無理だ」
そう思ってしまう人も、安心してほしい。私はかつて、面白いことを言おうとして空回りし続けた経験がある。アナウンサー試験に100社落ち、プロになってからも「どうすればアドリブ力がつくのか」を模索する日々が続いた。
数々の失敗をして試行錯誤を続け、いまでは「アドリブが好きだ」とすら思えるようになった。そんな私が15年かけて見つけた、「口下手な人のためのアドリブ対策」をお伝えしたい。面接でのコミュニケーションに不安を覚えている就活生や、転職を考えている人に、きっと役立つはずだ。
■変化球の対応策に追われ自滅した日
採用面接においてのアドリブ力とは、簡単に言えば「質問に対して的確に答える力」だ。しかし、多くの人がここで勘違いをしてしまう。
インターネットで検索すれば、「あなたを動物に例えると?」「無人島に何を持っていく?」といった、就活生を不安にさせる突拍子もない質問例があふれている。
アナウンサー志望だったかつての私も、そうした「変化球」への対策こそが重要だと思い込んでいた。
「アナウンサーといえば、機転の利いたアドリブだ」
そのイメージを信じて、ネット上の「奇問・難問集」を拾い集め、100以上の質問に対して「面接官が納得する回答」を作成し、丸暗記して挑んだ。
しかし、この準備は大間違いであったことを突き付けられる。
あるテレビ局の面接で、1分間の自己紹介と簡単な雑談のあと、こう聞かれた。
「で、なんでアナウンサーになりたいの?」
頭が真っ白になった。
変化球への対策に必死になりすぎて、直球の、一番大切な「自分の志望動機」がわからなくなってしまっていたのだ。
■面接対策の9割は「基本の徹底」にある
就職や転職の相談に乗っていると、かつての私と同じ失敗をしている人が意外と多い。「変化球」ばかりを気にして、基本的な質問に答えられないのだ。
冷静に考えてみてほしい。面接において突拍子もない「変化球」が来る確率はどれくらいだろうか。
実体験から言えば、全体の1割もない。9割以上は「なぜこの会社なのか(志望動機)」と「あなたはどんな人間か(自己分析)」という、ごく基本的な質問で構成されている。
つまり、採用面接において最も大切なアドリブ対策とは、「志望動機と自己分析」を徹底的に行うことだ。
「自分は何者で、なぜここで働きたいのか」
この核さえしっかりしていれば、どんな質問が来てもブレずに答えられる。突拍子もない質問に対する準備など、後回しでいいのだ。
■「感情日記」でネタをストックする
基本を固めた上での「第二ステップ」としておすすめしたいのが「最近の出来事」への対策だ。
「最近面白かったことは?」「最近怒ったことは?」
これらは自己分析にもつながる質問だが、準備をしていないと案外答えられない。
そこで私が提案したいのが「感情日記」だ。
やり方は簡単だ。短くてもかまわないので、その日に抱いた「感情」を書き留めておくだけだ。面白かった、怒った、悲しかった、うれしかった、悩んでいる……。どんな出来事に対してどう思ったのかを1日1つでもいいから記す。1週間続ければ7個の「感情のネタ」ができる。面接の前にそれを読み返すだけで、アドリブにかなり強い人になれる。
私は気象キャスターになってから、スマホの音声入力を使ってこの日記を試していた時期がある。寝る前に吹き込むだけで3分もあれば終わるこの日記が本番で役に立った。
気象キャスターとしてレギュラー番組を持った初日のこと。
放送終了まで残り15秒というタイミングで、メインキャスターから突然こう振られた。
「きょうからレギュラーの佐藤さん、最近筋トレを始めたそうですが、得意な部位とかあるんですか?」
事前の打ち合わせにはない質問だ。放送終了まで残り10秒を切っている。
やばいと思いながら、私は反射的にこう答えた。
「最近胸が大きくなって、服がきつくなってました!」
スタジオは笑いに包まれ、番組はいい形で終わった。
もっと時間があればよりよい回答ができたと思う。ただ、初めてのレギュラー番組、生放送の残り10秒という緊張する場面で少しでも内容があることを言えたのは、日記のおかげだった。
「服がきつくなって買い直すことになった。お金がかかるなあ」という「悩み」を記録していたからだ。
1週間、自分の感情をストックする。それだけで、あなたは「とっさの一言」が出る人になれる。
■上田晋也さんが語った「普通のことを言う勇気」
以上が、アドリブ力に対して事前にできる「準備」だ。
それでも、面接での予想外の質問に不安を感じてしまう人はいるだろう。
その答えは、くりぃむしちゅーの上田晋也さんの言葉にある。
今年1月、日本テレビ系の番組『アナザースカイ』で「どうやったら面白いことを言えるようになるか」と問われ、上田さんはこう答えた。
「普通のことを言う勇気をもつ」
これを聞いて私は膝を打った。
私なりにこの言葉を解釈すると、「つまらなくても、カッコ悪くてもいい。それでも正直に思ったことを言う勇気をもつ」ということだ。
かつて、ある番組のオーディションを受けたときのことだ。
面接官から唐突に「好きな動物は?」と聞かれた。
私は焦った。「何かインパクトのあることを言わなければ……」
頭の中を必死に回転させた。
(コモドドラゴン……いや、エリマキトカゲか? 何か珍しい動物を言わないと埋もれてしまう!)
数秒間、沈黙が流れた。
面白い答えを探して迷走したが、私は観念して、絞り出すようにこう答えた。
「……犬です!」
すると、張り詰めた空気の面接会場で、ドッと笑いが起きたのだ。
「迷ってそれ? 普通すぎない?(笑)」
面接官のツッコミに対し、私はもう開き直って素直に返した。
「そうなんです。エリマキトカゲと言おうか迷ったんですが……なんだかんだ、犬が一番かわいいと思ってます」
結果は、合格だった。あとから聞いたら犬と答えたのは私だけで、最も「普通」だった私が選ばれたのだ。
オーディションという特殊な場だけの話ではない。就活や転職の面接でも、本質は変わらないと思う。普通のことを言うことができるのも個性なのだ。
■「出し尽くしました」と答えて評価された日
私はラジオ局のリポーター時代、スタジオのキャスターの質問に対して答えられないことですら、正直に言ったことがある。
当時、あらゆる現場を走り回っていた。事件、スポーツ、芸能まで、日々どこに行くかわからない。当然専門性は薄くなり、すべてを深く取材することはできていなかった。
ある日、国会の話題をリポートしたときがあった。放送時間までに国会内を走り回り、想定問答を準備して本番に臨んだ。なんとか無難にこなしたつもりだったが、スタジオから追加の質問が飛んできた。
「佐藤さん、ほかにわかったことはありますか?」
頭も真っ白だ。追い詰められた私は、とっさにこう答えてしまった。
「いえ、私の方からは……もう大丈夫です。すみません、出し尽くしました!」
やばい、リポーター失格だ。そう思った瞬間、スタジオは爆笑に包まれた。
「佐藤さんは出し尽くしたんですね(笑)」
私の焦る気持ちとは裏腹に、スタジオは一気に和み、盛り上がった。
会社に戻ると、上司から「面白かった。人間味があってよかった」と褒められたのだ。
もちろん、取材不足は反省すべきだ。だが、「わからないときに、素直に『わからない』と言って謝る」。これはAIにはできない人間の魅力であると思う。人が弱みを見せることは、ときに愛嬌という武器になる。
■AIに勝てるのは「あなたの人間くささ」
企業が書類選考を廃止し、「直接の対話」をより求め始めた今、面接官が本当に見たいものは何か。それは、完璧に練り上げられた志望動機でも、AIが書いたような優等生的な回答でもない。
質問に対して正直に答える「人間くささ」だ。
アドリブ力とは、面白いことを言う力ではない。自分の熱意や感じたことを飾らずに言葉にする勇気さえあればいい。奇をてらう必要はない。嘘をつく必要もない。
普通のことを正直に話せる人は、本当に強い。
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佐藤 圭一(さとう・けいいち)
気象キャスター、リポーター
長野県岡谷市出身。学生時代、アナウンサーを志すも100社以上から不採用通知を受け取る。それでも粘り強く挑戦を続け、ローカル局でキャリアをスタート。その後、文化放送の報道記者・リポーターとして国会や首相官邸、災害現場など幅広い取材を経験。現在は気象予報士としての資格を生かし全国ネットのテレビ局やラジオ局で気象キャスターとして活動している。
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(気象キャスター、リポーター 佐藤 圭一)

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