お金が貯まる人と貯まらない人の差はどこで生まれるのか。消費経済ジャーナリストの松崎のり子さんは「新年度は家計を最適化する好機だが、多くの人は固定費や保険を放置してしまう。
その“現状維持”こそが、お金が静かに逃げる原因だ」という――。
■「現状維持」が一番危ない
「現状維持バイアス」は誰の心にも潜んでいる。今のままでいいじゃないか、特に問題は起きていないのだし……という思考だ。その裏側には「変えたことで、これまでより悪くなったらどうしよう」という、損失や危険を回避しようとする深層心理が潜んでいる。
そもそも現状を変えることは面倒くさく、なるべく余計な手間や時間を使いたくないとの、ものぐさ心もあるだろう。
しかし、現状維持のままでいることが、自分ではない誰かの得になっているとすればどうだろう。ずいぶん昔に行ったお金にまつわる選択が、今もベストとは限らない。何もしないままだと、必要がなくなったお金を払い続けていることになりかねない。お金の最適化をするには、自分の「現状」に目を向けることだ。
そのタイミングとして、春からの新生活シーズンをお勧めしたい。この時期は生活環境が変化する時期でもある。
例えば子どもの進学、進級、就職。
職場なら、異動や転勤など。新居への引っ越しが多いのもこの時期だ。環境が変われば現状も変わる。だからこそ見直しにうってつけの時期といえる。年に一度の見直し時期だと捉え、現状の棚卸から始めてはどうだろう。
■「引き落とし」は金額ではなく内訳を見る
①固定費
毎月引き落とされている固定費は、現状維持バイアスの代表的な支出だ。口座引き落としやカードの利用額そのものは見ていても、内訳まで細かくチェックすることは少ない。
これら明細の確認は郵送ではなくオンライン上のアクセスが主流となり、細かく見るのは面倒だ。そのため、この項目は何? と、すっかり忘れている支出が紛れ込んでいても気づきにくい。
中でも携帯などの通信費は、サービス名が細かく分かれており、パッと見ただけでは何の費用かわからないものだ。だからこそ、年に一度は「何にいくら支払っているのか」を明らかにするよう習慣づけたい。
もし使っていないサービスが発見されたら、それはムダな支払いをずっと続けていた証になる。
なお、この見直しは夫婦や家族で行うとベターだ。一人だとつい面倒で先送りにしてしまいがちだが、家族を巻き込むことでスムーズに進むし、一人より二人分のムダが発見できれば浮くお金も二倍となるからだ。
その際は、それぞれの得意分野を生かしたほうがいいだろう。仕事で請求書類を見慣れているとか、デジタルに強いとか、SNSでこまめにオトク情報をパトロールするのが好きだとか。できれば家計費に関しては全員参加で取り組みたい。みんなで現状把握し、一人の責任にしないことが大切なのだ。
■長年払い続けている保険のままでいいのか
②保険代
医療保険やがん保険に加入している人は多いだろうが、その保障内容をしっかり覚えているだろうか。加入した時は最良だと思って選んだ保険だが、ひょっとすると時代に合わなくなっているかもしれない。
医療保険は主に日額1万円といった入院給付金が支払われるが、近年の入院期間は短縮化しており、通院治療の方が長く続くこともある。特に、がんは通院治療が主体となっており、しかも長期間に及ぶケースが増えている。
さらには、どんどん新しい治療法が採用されているため、古いがん保険ではその治療が対象になっていない場合もあり得る。毎月支払う保険料は安いに越したことはないが、いくら安くても自分がいざ病気になった時に「使えない」保険だとしたら、これほど無意味なお金の使い方はない。

ずいぶん昔に加入したという人は、面倒だから現状維持でいいやと思わず、保障内容が現在の医療にあっているかを確認したい。
ただし、新しい保険に入り直そうと決めても、すぐに古い保険を解約するのは待ってほしい。がん保険には、加入してから保障が開始されるまでの間に免責期間がある。これは、がんの疑いがある人が保険金目当てに不正加入することを防ぐ措置で、もしその期間にがんと診断されても保険金は受け取れない。
そのため、古いがん保険に加入している場合は、新しい保険の免責期間が終わり、晴れて保障が有効になってから解約を。その間は二つの保険の支払いが発生するが、それこそ「保険」だと考えよう(最近では、免責期間中は保険料の払い込みが不要という商品も発売されている)。
これは他の保険でも同じこと。自動車保険や火災保険の掛け替えでも、無保険の期間が生じないように気をつけたい。
■新年度からは「積立額を増やす」が吉
③毎月の積立額
物価高は相変わらずで、今年もそれに見合う賃上げが期待されている。もし期待した以上の賃上げがあったなら、毎月の積立額も見直したい。
もともと4月から始まる新年度は、積立額の増額を考えるタイミングでもある。給与が上がった分をそのまま消費に回してしまうと、年々家計費が膨らむばかりだ。
手取り収入が上がったのなら、消費を増やすのではなく、積立資金の方を増額したい。
そんな余裕はないという家庭では、月額で支払っている固定費の見直しで浮いたお金があれば、そのままスライドさせよう。元々払っていたお金なのだから、生活スタイルを変えずに積立額を増やすことができる。
増えた収入や浮いたお金を積立に回すのには、もう一つ理由がある。ただでさえ年齢とともに家計費は増えがちだ。値上げに対抗するにはやむを得ないとはいえ、できるだけ生活サイズを大きくしない方がいい。
家計はダイエットに例えられるが、一度ついたぜい肉を落とすのは簡単ではない。だから、なるべく体重を増やさない努力が必要になる。同様に、家計費をみやみに膨張させてしまうと、それを減らすのは一苦労。収入が変動すればすぐに赤字に転落してしまう危険がある。
まだ子どもがいないダブルインカム世帯は2馬力収入のため、給与が増えれば自分の小遣いを増やしてしまいがちだが、それをしているとどんどん支出が膨らんでいくので要注意だ。また、子どもの教育費が終わってホッとしている熟年世代も気を抜いてはいけない。

安心ついでにこれまで支払っていた分を消費に回してしまうのは悪手だ。その後に控えているのは定年以降の減収期なのだから。家計支出に関してだけは、現状維持はある意味正しいといえる。
■給与振込口座はずっと同じままでいいか
④給与口座
給与振り込み先の銀行を、就職時から一度も変更していないという人も少なくない。それこそ面倒くさい手続きが必要だからだ。
しかし、多くの銀行は給与振り込みに指定することで、ATM手数料の手数料が無料になったり、ポイントが上がったり、利用者のクラスがアップしたりといった各種の優遇を用意している。
最近では普通預金金利をアップするという銀行も増えてきた。楽天銀行は給与や賞与の受け取りで普通預金金利に最大で年0.03%が上乗せになる。東京スター銀行の場合は年0.7%の優遇金利が適用される(2026年2月26日現在)。
給与振込口座=メイン口座になることは、その人の収入の入り口を押さえるということ。光熱費や各種保険料、クレジットカード利用代金の引き落としなども、そこに紐づく。銀行にとっては多方面にビジネスを拡大していけるチャンスであり、それを得るために様々なサービスを用意している。
どんな銀行でどんな優遇があるか、一度調べてみるのも悪くないだろう。
■ポイントは使えなければ意味がない
⑤ポイント
3月で新居に引っ越す人は、日ごろ貯めているポイント類も棚卸した方がいい。これまで便利に使ってきたコンビニやドラッグストア、カフェやファストフードの顔ぶれが、引っ越し先ではがらりと変わる可能性があるからだ。
これまでせっせと貯め、便利に活用してきたポイントでも、新しい住所の近くに使える店がないこともある。とかくポイントは「ある程度まで貯めておいて、ここぞという時に使おう」と思いがちだが、いつが「ここぞ」かは決断できないものだ。
また、共通ポイントが使える提携先の店もずっと同じではなく、入れ替わりもある。使えなくてがっかりするより、なるべく次の買い物でどんどん使う方がムダにならない。
今度の新生活時期に住まいや職場の場所が変わる人は、その前にたまったポイントを有効に消費してしまおう。これまで通りで大丈夫、と思っていると、あとあと後悔するかもしれないから。
■最適化のチャンス
ライフステージが変化するように、お金も現状に合わせたメンテナンスが必要なのは言うまでもない。見直しのタイミングとして新生活シーズンをお勧めするもう一つの理由は、新規利用者向けのキャンペーンが頻繁に行われる時期でもあることだ。
スマホの乗り換えプラン、クレジットカードの契約、銀行の口座開設等など、キャンペーンに合わせて大々的にポイント還元等の優遇が受けられる。どうせならこの時期にお金回りの整理をしたほうが賢いだろう。
現状維持のままでいることは面倒な手間もかからず、ノンストレスで気楽だ。しかし、大事なお金の支払先を放置したままにするか、それとも今の生活にあわせた最適化を行うかで、その後の資産形成に大きな差が出るだろう。
私たちは、面倒事はなるべく避けて楽をしたいのが性分だ。しかし、最適ではないサービスにお金を払い続けてビジネス側を喜ばせるより、その分を蓄財に回した方が合理的なのは言うまでもない。現状維持の罠に陥らず、お金賢者を目指したいものだ。

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松崎 のり子(まつざき・のりこ)

消費経済ジャーナリスト

『レタスクラブ』『ESSE』など生活情報誌の編集者として20年以上、節約・マネー記事を担当。「貯め上手な人」「貯められない人」の家計とライフスタイルを取材・分析してきた経験から、「消費者にとって有意義で幸せなお金の使い方」をテーマに、各メディアで情報発信を行っている。著書に『定年後でもちゃっかり増えるお金術』『「3足1000円」の靴下を買う人は一生お金が貯まらない 』(以上、講談社)ほか。

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(消費経済ジャーナリスト 松崎 のり子)
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