米国人の多くが物価高による生活苦に直面しているなか、2025年1月に就任したトランプ大統領は経済対策そっちのけで、自分と家族の私腹を肥やすことにエネルギーを注いでいる実態が、海外報道から見えてきた。
2026年1月21日付のニューヨーク・タイムズ紙によると、トランプ大統領は2期目就任後の1年内に大統領職を利用して少なくとも14億ドル(約2170億円)の私的利益を得た。
この私的利益はトランプ氏が現職大統領でなかったら実現しなかったであろう事業や商取引、金融取引などを通して得たものだ。これにはトランプ氏が個人的に関わった訴訟の和解金などに加え、一族が経営する複合企業「トランプ・オーガニゼーション」(TTO)が進めているホテル、ゴルフ施設、暗号資産事業などが含まれる。
トランプ氏はTTOの経営を息子たちに委譲しているが、彼らが行う取引から依然として利益を得ているという。
トランプ大統領は2期目の就任演説で、「アメリカ国民のために奉仕する」と誓った。しかし、実際、トランプ氏がホワイトハウスで注力しているのは「大統領職の権力をマネタイズする」、つまり、「トランプ」という名前とブランド力、現職大統領の権力と影響力などを最大限に利用して私腹を肥やすことではないか。
「自分と家族のためにこれほど多額の金を稼いだ大統領はいない」と言われるトランプ大統領の驚くべき「錬金術」を見ていこう。
■海外メディアが報じた“支持者利用”
トランプ氏の錬金術を示す象徴的な例としては、「MAGA=Make America Great Again」(米国を再び偉大に)運動に代表される自身の熱狂的な支持者も利用して私腹を肥やしていることが挙げられる。
たとえば、通常、選挙グッズの売上は選挙活動の収入として処理されるので、個人的な目的のために使うことはできない。しかし、米公共ラジオのNPRによると、MAGA支持者が身につけている野球帽やTシャツ、パーカーなどは「トランプ」ブランドとして販売されているため、トランプ一族の利益になるという。
TTOはトランプ氏の公式ブランド商品を販売する「トランプストア」を運営し、「MAGA」や「Trump」などメッセージ入りの帽子(55ドル)、Tシャツ(38ドル)、トレーナー(82ドル)、ネックレス(25ドル)、パーカー(92ドル)の他、聖書、絵本、ウォッチ、ギター、香水など幅広い商品を取り揃えている。
ニューヨーカー誌の記者で、トランプ氏とその一族の財政状態に関する詳細な調査報道を行っているデイビッド・カークパトリック氏は、選挙グッズの販売についてこう語る。
「トランプ一家はとても革新的でした。彼らは「トランプ」ブランドの商品を販売することで、まるでトランプ陣営やMAGA運動を支持しているかのように見せかけていますが、実際にはそのお金は彼らの懐に入るのです」(NPR、2026年1月14日)。
■トランプ氏が見つけた“法の抜け穴”
次に選挙資金の私的流用についてだが、通常、候補者の陣営が集めた選挙資金を弁護費用に充てることはできないが、トランプ氏はその抜け穴を見つけた。
米国には特定の政治目標を共有する人々から資金を集め、候補者への献金や選挙広告を通して政治に影響を与える「政治活動委員会」(PAC)と呼ばれる組織があるが、それに関する規制は緩い。そこでトランプ氏は選挙資金をPACへ移管して、自身に対する訴訟の弁護費用に充てることを考え出したという。
実際に選挙資金を弁護費用に充てた訴訟には、2016年の大統領選挙期間中に元ポルノ女優への口止め料支払いを不正に隠蔽した容疑、2020年大統領選の結果を覆そうとした「国家を欺くための共謀」の容疑、2021年1月の退任後、ホワイトハウスから大量の機密文書を不適切に持ち出し、隠ぺいした容疑の案件などが含まれている。
カークパトリック氏によると、トランプ氏が選挙資金の抜け穴によって獲得した弁護費用は1億ドル(約155億円)相当に上り、先述した「偽の選挙グッズ」の販売利益と合わせると、トランプ氏の推定利益は1億2770万ドル(約198億円)に上るという(同NPR)。
■大手メディアを訴えて巨額の和解金を得る
トランプ大統領は自分を批判するABCニュース、CBSニュース、Meta、Xなどを次々と訴え、巨額の和解金を得ている。
例えば、2024年12月、ABCニュースはトランプ氏から訴えられた訴訟の和解金として1500万ドルを支払うことで合意した。これは同局の看板キャスター、ジョージ・ステファノポロス氏がトランプ氏の「性的虐待」訴訟を誤って「強姦」と言ったことで、トランプ氏から「名誉毀損」で訴えられたものだ。
しかし、このケースはトランプ氏が勝訴するには、ステファノポロス氏が「悪意を持って“強姦”と発言した」ことを証明しなければならず、トランプ氏側が勝訴する可能性は低いとみられていた。ところがABCニュースは、トランプ氏が2024年11月の大統領選で勝利したことを受けて、和解に踏み切った。
また、2025年7月には、2024年大統領選で民主党候補だったカマラ・ハリス氏のインタビューの編集をめぐり、「ハリス陣営に好意的に編集され、報道された」としてトランプ氏から「選挙妨害だ」と訴えられていたCBSニュースも、同氏に1600万ドルを支払うことで和解した。
■和解金は約140億円に上る
両ケースともにトランプ氏側が「勝訴する可能性は低い」とみられていたのに、両社はなぜ和解したのか。考えられる理由は、現職大統領が持つメディア業界の規制や合併承認などに関する強大な権力である。
カリフォルニア大学アーバイン校法科大学院の教授で、憲法修正第1条を専門とする弁護士でもあるスーザン・シーガル氏はこう指摘する。
「これらの訴訟におけるトランプ大統領の主張は馬鹿げています。過去50年間において、トランプ氏はメディア企業を相手取った12件の訴訟で敗訴または取り下げており、最近のケースでも同じような結末を迎えるのは確実と思われていました。トランプ氏が大統領でなかったら、両社は和解しなかったでしょう」(ニューヨーカー誌、2025年8月11日号)。
加えてトランプ氏は、MetaやX(旧ツイッター)など大手テクノロジー企業に対しても訴訟を起こした。理由は、両社が2021年1月6日の議会議事堂襲撃事件で暴力を扇動したとして、トランプ氏のアカウントを停止したのは「憲法修正第1条の言論の自由に違反する」というものだった。
これらの訴訟も「根拠は薄い」とみられていたが、Metaは2025年1月、トランプ氏側に2200万ドルを支払うことで和解し、翌2月にXも1000万ドルで和解した。
前出のニューヨーク・タイムズ紙によると、トランプ大統領の2期目の就任後に大手メディア・テクノロジー企業がトランプ氏に支払った訴訟和解金は9050万ドル(約140億円)に上るという。
■トランプ一族の最大の収入源は暗号資産事業
トランプ大統領の長男ドナルド・ジュニア氏と次男エリック氏が経営している企業TTOで、最大の利益をあげているのは暗号資産事業である。
暗号資産とは、中央銀行や政府に依存せず、インターネットを通じて個人間で直接取引する仮想通貨のことだが、実はTTOがこの事業を始めたのは、トランプ大統領が2期目に就任する数カ月前のことだ。
2024年9月、TTOは暗号資産の借入、貸付、取引を伴う「分散型金融」(金融機関を経由せずに取引する仕組みで、分散型台帳で取引を管理する)と呼ばれる分野に参入し、仮想通貨ベンチャー企業「ワールド・リバティ・ファイナンシャル」(WLF)を設立した。
トランプ兄弟は暗号資産ビジネスの実績があるわけではなく、WLFの売り(優位性)はトランプ大統領の支持を受けていることだった。ウェブサイトでトランプ大統領の写真を載せ、「暗号資産の主要提唱者」として紹介した。WLFの戦略は現職大統領の信用とお墨付きを最大限に利用して、人々が怪しい資産と捉えがちなものへの信頼を築くことだが、その取り組みは劇的な成果を上げた。
■「利益相反」の懸念も
ロイター通信が算出したデータ(2025年10月28日付)によれば、2026年上半期のTTOの収入は前年同期比の5100万ドルから17倍の8億6400万ドルに急増し、そのうちの90%以上の8億200万ドルが暗号資産事業によるものだという。
しかし、この成功はトランプ兄弟の手腕によるものというよりトランプ大統領の影響力に起因する面が大きく、大統領職と事業の利益が衝突する「利益相反」の懸念が浮上した。
ロイター通信が取材した政府の倫理専門家は、「トランプ一族の暗号資産事業の取り組みと米国の暗号資産政策の監督者としてのトランプ大統領の公的な役割との連携は、近代米国大統領の歴史において前例のない利益相反を構成する」と述べた。しかし、一方で、「これだけでは法律違反に当たらない」とも指摘した。
つまり、トランプ兄弟が顧客とのセールストークの中で、トランプ大統領との面会や大統領からの優遇措置を明確に約束しない限り、法律違反にはならないというのだ。
そんななか、新たにトランプ大統領の利益相反が問われる案件が浮上した。
■UAEの王族が一族企業に5億ドルを出資
2026年1月31日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙は、「アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビ王族がトランプ一族の仮想通貨企業WLFの株式の49%を5億ドル(約775億円)で購入。
同紙によれば、この取引は秘密裏に行われ、WLFとアブダビ王族が株式の売買契約を締結したのが、トランプ大統領が就任するわずか4日前だった。そして就任前日にUAEはトランプ一族に代金の一部の1億8700万ドルを送金したという。
この出資により、トランプ一族とUAEはビジネスパートナーになったが、問題は利益相反の懸念である。
WLFは、同紙の取材に「大統領はこの件に一切関与していない。“政権の半導体戦略に関連している”という主張は100%間違いだ」と述べた。また、大統領の法律顧問は、「大統領は憲法上の責任に問われる取引には一切関与していない。トランプ氏の資産は信託になっており、管理は子供たちが行っている」としている。
しかし、米国憲法には公職者が外国政府などから許可なく報酬や贈り物を受け取ることを禁じる「外国報酬条項」がある。
ワシントンDCの元倫理弁護士で法学教授のキャスリーン・クラーク氏は、「これは明らかに外国報酬条項違反のように見えるし、もっと言えば実質的な賄賂のように見える」と同紙に述べている。
議会では野党・民主党も「利益相反の恐れがある」と批判しており、今後の展開が注目される。
■「権力の収益化」を新たなレベルに引き上げた
所属政党を問わず、歴代の米国大統領の多くは公務から利益を得ているように見せかけることさえ避けてきた。
ニューヨーカー誌のカークパトリック記者は、「トランプ氏が大統領職を利用して金儲けをする機会を断った例を見つけるのは難しい」と述べているが、トランプ大統領は「権力はマネタイズ(収益化)できる」ことを徹底的に追求しているように見える。
これはトランプ大統領に始まったことではないが、トランプ氏はそれを新たなレベルに引き上げたことは間違いないだろう。
「権力の収益化」は「権力の腐敗」とも密接に関連しており、国家の指導者の腐敗は部下や組織を腐敗させ、民主主義の根幹を揺るがしかねない。米国ははたして権力を収益化するトランプ大統領から、民主的なシステムや社会を守ることができるのだろうか。
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矢部 武(やべ・たけし)
国際ジャーナリスト
1954年生まれ。埼玉県出身。70年代半ばに渡米し、アームストロング大学で修士号取得。帰国後、ロサンゼルス・タイムズ東京支局記者を経てフリーに。人種差別、銃社会、麻薬など米国深部に潜むテーマを抉り出す一方、政治・社会問題などを比較文化的に分析し、解決策を探る。著書に『アメリカ白人が少数派になる日』(かもがわ出版)、『大統領を裁く国 アメリカ』(集英社新書)、『アメリカ病』(新潮新書)、『人種差別の帝国』(光文社)、『大麻解禁の真実』(宝島社)、『医療マリファナの奇跡』(亜紀書房)、『日本より幸せなアメリカの下流老人』(朝日新書)、『世界大麻経済戦争』(集英社新書)などがある。
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(国際ジャーナリスト 矢部 武)

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