中国共産党で異例の粛清が相次いでいる。習近平氏は1月、盟友だった中国軍ナンバー2を摘発し、昨年の党内処分者は年間98万人に達した。
■数十年来の盟友が粛清された
習近平氏に、もはや政策の誤りを正す賢明な側近はいない。
中国軍のナンバー2である張又侠(チョウ・ユウキョウ)将軍は、習近平国家主席の数十年来の腹心だった。1979年のベトナム国境での中越戦争時代から、両家は深い絆で結ばれてきた。その張氏がいま、汚職容疑で調査を受けている。
中国国防部は1月24日、中国人民解放軍を統括する中央軍事委員会の副主席である75歳の張氏が、「規律・法律違反」の疑いで調査対象になったと発表した。米NBCニュースが引用した軍機関紙の解放軍報は社説で、張氏が軍事委員会主席でもある習近平氏の責任体制を、「深刻に踏みにじり、損なった」と断罪し、中国の戦闘準備体制に「甚大な害」を与えたと糾弾した。軍公式サイトからは、張氏の略歴ページがすでに削除されている。
こうした解任劇がいま、中国で相次いでいる。習近平は2012年の就任以来、反腐敗運動を旗印に軍幹部を次々と排除してきた。
■習近平体制13年で処分者は5倍増
軍部だけではなく、今や中国共産党全体がかつてない規模の粛清の渦に呑まれている。
習近平政権の13年間で、党の規律違反を理由とした年間処分者は、実に5倍以上に膨れ上がった。アメリカの中国政治研究誌、チャイナ・リーダーシップ・モニターによると、2013年には18万2000人だった処分者数が、2018年には62万1000人に膨れ上がった。習近平氏の政敵およびその周辺人物を一掃した成果だ。
そして昨年、過去最多を更新した。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると98万3000人で、前年比10.6%増に当たる。
習近平国家主席は、13年前から、「反腐敗運動」を推進してきた。それでも処分者数が落ち着く気配はない。仮に「粛清」の名目が正しいとするならば、2013年の約18万人と昨年の約98万人を比較すると、「腐敗」はむしろ約5倍増えたという皮肉な結果だ。
■自ら信じた将軍の5人に1人を処分
自らが選んだ将軍たちを次々と排除する習近平氏の行為は、前任者たちであれば行わなかった異例の措置だ。
ブルームバーグの分析によると、第3期(2022年~)に習近平氏が昇進させた79人の将軍のうち、すでに14人が行方不明または調査対象となっている。5人に1人という高い割合だ。対照的に、江沢民元国家主席も胡錦濤元国家主席も、自ら昇格させた将軍は一人たりとも処分していない。
中央軍事委員会は空洞化した。2022年に習近平氏が任命した中央軍事委員会の委員7人のうち、今も残るのは4人。毛沢東時代以降で最少となった。
習近平氏は側近すら容赦しない。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、中国軍上層部であり中国共産党の最高意思決定機関である政治局の委員でもあった何衛東(カ・エイトウ)氏は昨年10月、汚職容疑で党から除名された。同年、2人の元国防相も除名されている。同じく政治局員で元地方指導者の馬興瑞(バ・コウズイ)氏は、ここ数カ月、重要会議から姿を消している。通常24~25人で構成される政治局のうち、公の場に姿を現しているのは22人に留まる。
本来は粛清を監督する立場の中央規律検査委員会さえ、無傷ではいられない。
■執拗に“汚職”規定を書き換える
その統制の道具となっているのが、「中国共産党紀律処分条例」だ。この条例は1997年に江沢民時代に暫定版が承認され、2003年に胡錦濤の下で正式版に格上げされた経緯がある。
習近平政権は、この条例を2015年、2018年、2023年と3度も書き換えた。江沢民も胡錦濤も1度しか改定しなかった条例を、習近平は執拗に書き換え続ける。
中身を見れば意図は明白だ。政治的規律違反への処罰条項は、2003年の胡錦濤版と比較して2023年の習近平版ではほぼ2倍に増補された。一方、経済活動規則違反に対する処罰条項は、2003年版から2015年改定で半減し、その後も2003年版を大きく下回る水準にとどまっている。汚職を撲滅したいなら、なぜ汚職規定を削るのか。
2023年の改定では、禁書となった出版物や文書、画像、音声記録をインターネット上で私的に閲覧・視聴するだけで処罰対象となる規定が加わった。反腐敗運動の看板を掲げながら、もはや国民の思想統制のツールともなっている。
■粛清するほど処分者が増える矛盾
なぜ、13年にわたる「反腐敗運動」を経てなお、処分者は増え続けるのか。
答えは単純だ。腐敗撲滅運動とはうわべのみで、実態としては習近平氏の意思通りに政治を動かすための統制策に他ならないからだ。恐怖により支配体制を維持する枠組みだ。
チャイナ・リーダーシップ・モニターによれば、党内では、「越反越腐(反汚職運動をやればやるほど“汚職”が悪化する)」という自嘲的なジョークが囁かれているという。13年間を費やした上、政治の透明性は向上せず、制度改革も進まなかった。進んだのは市民社会への弾圧に、言論の封殺、そして司法の政治への従属だけである。
同誌は、終わりなき粛清の原動力となっているのは、習近平氏という強権的指導者が抱える「治まることのない不安感と猜疑心」だと分析する。粛清された者とその支持者には、いつか復讐を果たしたい動機がある。
■地方官僚は粛清を恐れ機能不全に
過度な粛清は、皮肉な結果を生んでいる。萎縮した官僚たちは責任を負うことを避け、身動きが取れなくなっているのだ。
ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、中国共産党自身がこの事態を認めている。度重なる粛清で多くの官僚が決断力を失い、約1億人の党員の間に無気力感が蔓延しているという。地方の活力なくして経済再生はないと言われるこの時期に、国力への影響は必至だ。
中国共産党の機関紙である人民日報は、「一部の地域は盲目的に流行を追っている」と批判した。半導体、EV、リチウム電池など、党中央が旗を振る分野を、地方は実情を顧みず推進する。処分を恐れるあまり、自ら考えない。中央を真似ておけば、少なくとも咎められはしない。「物事は容易に歪められ、良い教えも捻じ曲げられる」と、党機関紙がそう嘆くほどだ。
■鉄壁の習近平体制に走った亀裂
さて、ここで興味深い兆候がある。習近平の絶対的な権力に、亀裂が入り始めているのかもしれない。
外交専門誌ディプロマットが注目するのは、昨年7月の異変だ。習近平氏は、BRICS首脳会議を欠席した。10年以上欠かしたことのない会議である。
同時期、北京では第二次日中戦争の記念式典が開かれ、党幹部が顔を揃えた。だが習近平はここにも姿を見せなかった。単独で別の記念碑を訪れ、献花しただけである。最高指導者が党の主要行事を避ける、異例の状況となった。同誌は、式典を行う党幹部との「対比は鮮明」であり、「習近平は自らを中国共産党の中心部へと押し上げたあの華やかさから、外されているように見えた」と語る。
軍からは不協和音が漏れ始めた。粛清の嵐が吹き荒れる人民解放軍で、粛清された張又侠氏に近い学者たちが集い、解放軍報に論考を寄せている。彼らの主張の核心となるのが、「集団指導体制」「民主集中制」の回復だ。
習近平氏は2024年12月、中国共産党の理論誌『求是』で中央集権的統制の必要性を改めて強調したばかりである。学者たちの論考は、この路線への静かな反論にほかならないと、ディプロマット誌はみる。
制度面でも動きがある。中国共産党は昨年6月30日、党や政府の特定課題を処理する非常設の調整機関である「指導小組」など、非公式組織の決定に中央委員会の事前承認を義務づける新規則を導入した。習近平氏が正規の党機構を迂回し、権力集中の道具としてきた組織だ。新規則は、黙認されてきたその手法に初めてメスを入れた。
■台湾侵攻に誰も「待った」をかけられない
軍指導部の混乱は、中国の国内問題に留まらず、台湾海峡の安全保障にも直結する。
ロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)中国研究所のスティーブ・ツァン所長はNBCニュースに対し、警鐘を鳴らした。
ツァン氏は張又侠氏について、1979年の中越戦争で実戦を経験した最古参の高級指揮官だと指摘。この将軍が排除されれば、習近平氏が台湾への軍事行動を検討する際、慎重論を進言できる者がいなくなるという。
「人民解放軍は今、台湾を解放する準備ができているか」と習氏が問うても、異を唱える者はもういない。ツァン所長はそう分析し、「世界はより安全でなくなった」と警告した。
一方で、人民解放軍の装備の信頼性に問題が出ているとの見方もある。米国防大学中国軍事研究センターのジョエル・ウートナウ上級研究員はブルームバーグの取材に応じ、調達をめぐる汚職が相次ぐ中、上級将校たちには装備の欠陥を隠す動機が生じていると指摘した。
欠陥は実戦まで表面化しないかもしれない。ならば粛清されるリスクを冒してまで上層部に報告する動機が働かない。ウートナウ氏は、「習近平自身も人民解放軍の装備品質に完全な自信を持てていない可能性がある」と分析している。
■習近平政権は70年代中国の失脚劇に似ている
中国共産党の歴史に、似た光景がある。1970年代末、毛沢東氏の後継者・華国鋒(ホア・グオフォン)氏は、権力を握ったわずか数年後、鄧小平(トウ・ショウヘイ)氏によって静かに政界を追われた。
ディプロマットは、習近平政権と華国鋒時代の類似性を指摘する。華国鋒氏もまた、急速な中央集権化を進めた指導者だった。鄧小平氏はこれに正面から対決せず、要職に自らの側近を配し、権力集中への批判ムードを党内に醸成した。1978年の第11期中央委員会第3回全体会議(三中全会)で華国鋒路線が否定されてから2年、華国鋒氏は政策決定の場から姿を消した。
昨年6月に改定された中国共産党規定は、前述のように指導小組や委員会に対し、中央委員会への報告を義務づけている。習近平氏が築いた非公式な意思決定機構への制約であり、かつて鄧小平氏が敷いた包囲網を想起させる動きだ。
習近平氏は、一層厳しい支配体制で応戦するとの見方がある。パトリシア・ソーントン氏は、チャイナ・リーダーシップ・モニターに対し、習近平氏が「人民を死に至らしめるような統治」を行うリスクがあると警告している。
専門家たちは体制の行方について複数のシナリオを想定する。だがいずれも、過度な統制が体制を内側から蝕んでいるという診断では一致している。
華国鋒氏は自ら築いた鉄壁の要塞の内側で孤立し、静かに政治の表舞台を去った。習近平氏の周囲にも、不気味な静けさが迫っている。
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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)
13年続く「反腐敗運動」はなぜ止まらないのか。終わらない粛清の裏で、党と軍の統治構造にどんな変化が起きているのか。海外メディアの分析から読み解く――。
■数十年来の盟友が粛清された
習近平氏に、もはや政策の誤りを正す賢明な側近はいない。
中国軍のナンバー2である張又侠(チョウ・ユウキョウ)将軍は、習近平国家主席の数十年来の腹心だった。1979年のベトナム国境での中越戦争時代から、両家は深い絆で結ばれてきた。その張氏がいま、汚職容疑で調査を受けている。
中国国防部は1月24日、中国人民解放軍を統括する中央軍事委員会の副主席である75歳の張氏が、「規律・法律違反」の疑いで調査対象になったと発表した。米NBCニュースが引用した軍機関紙の解放軍報は社説で、張氏が軍事委員会主席でもある習近平氏の責任体制を、「深刻に踏みにじり、損なった」と断罪し、中国の戦闘準備体制に「甚大な害」を与えたと糾弾した。軍公式サイトからは、張氏の略歴ページがすでに削除されている。
こうした解任劇がいま、中国で相次いでいる。習近平は2012年の就任以来、反腐敗運動を旗印に軍幹部を次々と排除してきた。
自ら抜擢した腹心すら容赦なく切り捨てる。ロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)中国研究所のスティーブ・ツァン所長は、独裁体制が内部から崩壊しつつある兆候だと分析している。
■習近平体制13年で処分者は5倍増
軍部だけではなく、今や中国共産党全体がかつてない規模の粛清の渦に呑まれている。
習近平政権の13年間で、党の規律違反を理由とした年間処分者は、実に5倍以上に膨れ上がった。アメリカの中国政治研究誌、チャイナ・リーダーシップ・モニターによると、2013年には18万2000人だった処分者数が、2018年には62万1000人に膨れ上がった。習近平氏の政敵およびその周辺人物を一掃した成果だ。
そして昨年、過去最多を更新した。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると98万3000人で、前年比10.6%増に当たる。
習近平国家主席は、13年前から、「反腐敗運動」を推進してきた。それでも処分者数が落ち着く気配はない。仮に「粛清」の名目が正しいとするならば、2013年の約18万人と昨年の約98万人を比較すると、「腐敗」はむしろ約5倍増えたという皮肉な結果だ。
■自ら信じた将軍の5人に1人を処分
自らが選んだ将軍たちを次々と排除する習近平氏の行為は、前任者たちであれば行わなかった異例の措置だ。
ブルームバーグの分析によると、第3期(2022年~)に習近平氏が昇進させた79人の将軍のうち、すでに14人が行方不明または調査対象となっている。5人に1人という高い割合だ。対照的に、江沢民元国家主席も胡錦濤元国家主席も、自ら昇格させた将軍は一人たりとも処分していない。
中央軍事委員会は空洞化した。2022年に習近平氏が任命した中央軍事委員会の委員7人のうち、今も残るのは4人。毛沢東時代以降で最少となった。
習近平氏は側近すら容赦しない。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、中国軍上層部であり中国共産党の最高意思決定機関である政治局の委員でもあった何衛東(カ・エイトウ)氏は昨年10月、汚職容疑で党から除名された。同年、2人の元国防相も除名されている。同じく政治局員で元地方指導者の馬興瑞(バ・コウズイ)氏は、ここ数カ月、重要会議から姿を消している。通常24~25人で構成される政治局のうち、公の場に姿を現しているのは22人に留まる。
本来は粛清を監督する立場の中央規律検査委員会さえ、無傷ではいられない。
今年1月の同委員会会合には、現任期に任命された133人の委員のうち120人しか出席しなかった。出席率は90%に留まり、1986年以来の低水準を記録した。欠席者の多くは軍の高級将校で、昨年末に人民代表から解任されたなどの事情がある。取り締まる側すら枕を高くして寝ることはできない。
■執拗に“汚職”規定を書き換える
その統制の道具となっているのが、「中国共産党紀律処分条例」だ。この条例は1997年に江沢民時代に暫定版が承認され、2003年に胡錦濤の下で正式版に格上げされた経緯がある。
習近平政権は、この条例を2015年、2018年、2023年と3度も書き換えた。江沢民も胡錦濤も1度しか改定しなかった条例を、習近平は執拗に書き換え続ける。
中身を見れば意図は明白だ。政治的規律違反への処罰条項は、2003年の胡錦濤版と比較して2023年の習近平版ではほぼ2倍に増補された。一方、経済活動規則違反に対する処罰条項は、2003年版から2015年改定で半減し、その後も2003年版を大きく下回る水準にとどまっている。汚職を撲滅したいなら、なぜ汚職規定を削るのか。
この矛盾こそが、汚職撲滅運動の正体を物語る。
2023年の改定では、禁書となった出版物や文書、画像、音声記録をインターネット上で私的に閲覧・視聴するだけで処罰対象となる規定が加わった。反腐敗運動の看板を掲げながら、もはや国民の思想統制のツールともなっている。
■粛清するほど処分者が増える矛盾
なぜ、13年にわたる「反腐敗運動」を経てなお、処分者は増え続けるのか。
答えは単純だ。腐敗撲滅運動とはうわべのみで、実態としては習近平氏の意思通りに政治を動かすための統制策に他ならないからだ。恐怖により支配体制を維持する枠組みだ。
チャイナ・リーダーシップ・モニターによれば、党内では、「越反越腐(反汚職運動をやればやるほど“汚職”が悪化する)」という自嘲的なジョークが囁かれているという。13年間を費やした上、政治の透明性は向上せず、制度改革も進まなかった。進んだのは市民社会への弾圧に、言論の封殺、そして司法の政治への従属だけである。
同誌は、終わりなき粛清の原動力となっているのは、習近平氏という強権的指導者が抱える「治まることのない不安感と猜疑心」だと分析する。粛清された者とその支持者には、いつか復讐を果たしたい動機がある。
だからこそ習近平氏は、決して手を緩めることができない。緩めた瞬間、刃は自分に向くからだ。
■地方官僚は粛清を恐れ機能不全に
過度な粛清は、皮肉な結果を生んでいる。萎縮した官僚たちは責任を負うことを避け、身動きが取れなくなっているのだ。
ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、中国共産党自身がこの事態を認めている。度重なる粛清で多くの官僚が決断力を失い、約1億人の党員の間に無気力感が蔓延しているという。地方の活力なくして経済再生はないと言われるこの時期に、国力への影響は必至だ。
中国共産党の機関紙である人民日報は、「一部の地域は盲目的に流行を追っている」と批判した。半導体、EV、リチウム電池など、党中央が旗を振る分野を、地方は実情を顧みず推進する。処分を恐れるあまり、自ら考えない。中央を真似ておけば、少なくとも咎められはしない。「物事は容易に歪められ、良い教えも捻じ曲げられる」と、党機関紙がそう嘆くほどだ。
■鉄壁の習近平体制に走った亀裂
さて、ここで興味深い兆候がある。習近平の絶対的な権力に、亀裂が入り始めているのかもしれない。
外交専門誌ディプロマットが注目するのは、昨年7月の異変だ。習近平氏は、BRICS首脳会議を欠席した。10年以上欠かしたことのない会議である。
同時期、北京では第二次日中戦争の記念式典が開かれ、党幹部が顔を揃えた。だが習近平はここにも姿を見せなかった。単独で別の記念碑を訪れ、献花しただけである。最高指導者が党の主要行事を避ける、異例の状況となった。同誌は、式典を行う党幹部との「対比は鮮明」であり、「習近平は自らを中国共産党の中心部へと押し上げたあの華やかさから、外されているように見えた」と語る。
軍からは不協和音が漏れ始めた。粛清の嵐が吹き荒れる人民解放軍で、粛清された張又侠氏に近い学者たちが集い、解放軍報に論考を寄せている。彼らの主張の核心となるのが、「集団指導体制」「民主集中制」の回復だ。
習近平氏は2024年12月、中国共産党の理論誌『求是』で中央集権的統制の必要性を改めて強調したばかりである。学者たちの論考は、この路線への静かな反論にほかならないと、ディプロマット誌はみる。
制度面でも動きがある。中国共産党は昨年6月30日、党や政府の特定課題を処理する非常設の調整機関である「指導小組」など、非公式組織の決定に中央委員会の事前承認を義務づける新規則を導入した。習近平氏が正規の党機構を迂回し、権力集中の道具としてきた組織だ。新規則は、黙認されてきたその手法に初めてメスを入れた。
■台湾侵攻に誰も「待った」をかけられない
軍指導部の混乱は、中国の国内問題に留まらず、台湾海峡の安全保障にも直結する。
ロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)中国研究所のスティーブ・ツァン所長はNBCニュースに対し、警鐘を鳴らした。
ツァン氏は張又侠氏について、1979年の中越戦争で実戦を経験した最古参の高級指揮官だと指摘。この将軍が排除されれば、習近平氏が台湾への軍事行動を検討する際、慎重論を進言できる者がいなくなるという。
「人民解放軍は今、台湾を解放する準備ができているか」と習氏が問うても、異を唱える者はもういない。ツァン所長はそう分析し、「世界はより安全でなくなった」と警告した。
一方で、人民解放軍の装備の信頼性に問題が出ているとの見方もある。米国防大学中国軍事研究センターのジョエル・ウートナウ上級研究員はブルームバーグの取材に応じ、調達をめぐる汚職が相次ぐ中、上級将校たちには装備の欠陥を隠す動機が生じていると指摘した。
欠陥は実戦まで表面化しないかもしれない。ならば粛清されるリスクを冒してまで上層部に報告する動機が働かない。ウートナウ氏は、「習近平自身も人民解放軍の装備品質に完全な自信を持てていない可能性がある」と分析している。
■習近平政権は70年代中国の失脚劇に似ている
中国共産党の歴史に、似た光景がある。1970年代末、毛沢東氏の後継者・華国鋒(ホア・グオフォン)氏は、権力を握ったわずか数年後、鄧小平(トウ・ショウヘイ)氏によって静かに政界を追われた。
ディプロマットは、習近平政権と華国鋒時代の類似性を指摘する。華国鋒氏もまた、急速な中央集権化を進めた指導者だった。鄧小平氏はこれに正面から対決せず、要職に自らの側近を配し、権力集中への批判ムードを党内に醸成した。1978年の第11期中央委員会第3回全体会議(三中全会)で華国鋒路線が否定されてから2年、華国鋒氏は政策決定の場から姿を消した。
昨年6月に改定された中国共産党規定は、前述のように指導小組や委員会に対し、中央委員会への報告を義務づけている。習近平氏が築いた非公式な意思決定機構への制約であり、かつて鄧小平氏が敷いた包囲網を想起させる動きだ。
習近平氏は、一層厳しい支配体制で応戦するとの見方がある。パトリシア・ソーントン氏は、チャイナ・リーダーシップ・モニターに対し、習近平氏が「人民を死に至らしめるような統治」を行うリスクがあると警告している。
専門家たちは体制の行方について複数のシナリオを想定する。だがいずれも、過度な統制が体制を内側から蝕んでいるという診断では一致している。
華国鋒氏は自ら築いた鉄壁の要塞の内側で孤立し、静かに政治の表舞台を去った。習近平氏の周囲にも、不気味な静けさが迫っている。
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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)
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