中古マンションを買う際に、気をつけるべきことは何か。中高年層の取材を長年続けているジャーナリストの若月澪子さんは「たとえば、築40~50年が経過した『築古マンション』を購入する際には必ず検討すべき、価格以外の数字がある」という――。

■爆アガリするマンション価格
「住みたい街ランキング」の常連、吉祥寺駅から徒歩5分。管理良好、リノベ済み。誰が見ても「当たり物件」。しかし、そのマンションの“あの値”が「0.2」だったら……。
「知った瞬間、ここには住めないと思いました」
こう語るのは数年前まで「築古マンション」に住んでいたAさん(40代)。それでも今、築古マンションを選ばざるをえない人が増えている――。
日銀の金融政策修正を背景に、住宅ローン金利は上昇している。これから家を買う人にとっては頭の痛い問題だ。そのうえ東京都内のマンション価格は、驚異の値上がりを続けている。
2026年2月現在、東京23区の新築マンションの平均価格は1.3億円。10年ほど前まで、こうした「億ション」は高所得者をターゲットにしたものだった。ところが今や「億」が「平均価格」だというから驚く。

新築に見切りをつけた人は中古へと流れ、今や東京23区内の中古マンション平均価格までもが1億円を超えた。一体、どこに住めばいいというのか。
次に手が届く価格となると、中古物件の中でもさらなる中古、「築古(ちくふる)」と呼ばれる物件が視野に入る。
■お得に見えた「築古マンション」の盲点
たとえば、物件検索のホームページで「23区内」「65平米」「5000万円台」のマンションを検索すると、世田谷区や新宿区の物件が出てくる。「4000万円台」に下げると、杉並区や江東区に。さらに下げて「3000万円台」は足立区、江戸川区、荒川区ならば見つかる。
しかしこれらの「築年数」をまじまじと眺めると、建てられたのは昭和40~60年代。いずれも築40~50年が経過した「築古マンション」なのだ。まさに“昭和の置土産”である。
「築40年以上」、そんな古いマンションを買って大丈夫なのか。配管はボロボロ、住民は高齢者、お化け屋敷かスラム化してるのでは。果たして築古マンションは「お買い得物件」なのだろうか。

「築古マンションを買う時は、慎重に決めたほうがいいですよ。ある数字を必ずチェックしてください」
数年前まで吉祥寺の築古マンションに住んでいたAさんは語る。
「私が購入した築古マンションは、築45年以上、いわゆる『ヴィンテージマンション』と呼ばれる物件でした。しかし、エントランスやエレベーターなどの共有部分は掃除や管理が行き届き、室内も新品同様にリノベーションされていました」
Aさんがこのマンションを購入したのは2014年。広さは88平米、間取りは3LDKで5800万円だった。「立地や間取りを見て、これは買いだと思っていたのですが……」
Aさんが神妙な顔で話す「ある数字」とは、何を指すのだろう。
■「旧耐震」物件に潜むハードル
築古マンション購入時に確認すべき数字といえば、何と言っても「1981年」である。
1981年6月以降に建てられた物件は「新耐震基準(新耐震)」が適応されているからだ。新耐震の物件は、震度6強~7程度の大規模地震でも倒壊しないように設計されている。
しかしAさんのマンションは、それ以前のいわゆる「旧耐震」物件だった。それでもAさんはマンション購入を決断する。それはもう一つの「数字」をチェックしたからだった。

「マンションの修繕積立金が、ほぼ100%回収されていたんです」
マンション購入時に見落としてはならないのが、修繕積立金の回収率である。築年数が古いマンションは滞納率が高くなりやすい。修繕ができなければ建物の寿命を縮めることになり、当然資産価値も下がる。
Aさんは不動産業者から積立金の回収率が「ほぼ100」だと聞いて、安心したのだという。
「当時の私は、修繕積立金が健全ならば“優良物件”だと思い込んでいました。メンテナンスできるなら大丈夫だと」
ところが築古マンション購入時に確認しなければならない「数字」は、これだけではなかったのだ。
■築古マンションを見極める「Is値」
その「数字」をAさんが意識したのは、このマンションに住み始めて2年経った頃だった。
「2016年に熊本地震が起こったんです。これを機に気がついてしまったことがあって」
Aさんはニュースで、熊本市内の倒壊したマンションを見て衝撃を受けた。
「自分のマンションは大丈夫なのか。安心するための材料はないかと、地震や建築系のサイトを見まくりました」
その結果Aさんがたどり着いたのが、「Is(アイエス)値」という初めて耳にする言葉だった。
「Is値」とは、建物の耐震性能を表す「構造耐震指標」だ。
耐震性能はIs値に比例するが、この数値が「0.3」未満の場合、「地震の震動及び衝撃に対して倒壊し、又は崩壊する危険性が高い」(*1)。
国土交通省住宅局に筆者が問い合わせたところ、「耐震指標(Is値)は、旧耐震建物の安全性を把握するための指標の1つとして評価されている」ものだが、「一般的な中古住宅の売買時に、耐震診断の実施やIs値の告知を一律に義務づける制度は設けられていない」との説明を受けた。
*1 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/content/001470933.pdf
■建築業者から告げられた一言
Aさんは、当時を振り返る。
「マンション購入時、水害のハザードマップは共有が義務化されてます。しかし耐震性能のIs値など、普通の人は知りません。それに購入時『Is値が0.1ですよ』と言われても、意味がわからなかったと思います」
築古マンションで本当に確認しなければならない「数字」とは、これだった。
Aさんは遅ればせながら、Is値を管理会社に問い合わせた。すると、このマンションのIs値は「0.2」しかないことが判明。青ざめたAさんは、マンションの耐震補強を住民で作るマンション管理組合に諮(はか)り、業者にも相談した。
「ところが建築業者から、このマンションは耐震補強ができない構造だと告げられたんです」
Is値が決定打となり、Aさんは数年後にこの物件を売却した。幸い購入時よりも高い7500万円で売ることができたというが、誰かが「ババを引いている」と考えると、後味は良くない。
「私が購入した築古マンションは、便利で、キレイで、普通に住む分には何の不満もありませんでした。
熊本地震がなければ、今でも住んでいたかもしれません」
■高齢化するニッポンのマンション事情
ただAさんは、築古マンションのマイナス面として、こんな点も挙げている。マンションの住民の7割ほどが65歳以上の高齢者で、とくに管理組合の理事会は70代の住民で構成されていたというのだ。
「実は高齢者の多いマンションは、お金のかかる大規模修繕に積極的ではないのです。私も管理組合の会合に何度か参加しましたが、会では少しでも修繕費を安く済ませようとする高齢者の意見が、場を圧倒していました。彼らはあと何年生きるかわからないので、そこまでお金をかけなくてもいいという考えなんでしょう」
高齢者が中心になると、複雑な問題は先送りされやすい。マンション管理組合の高齢化や機能不全は、全国的にも問題になっている。
マンションは単なる建物ではなく、「合意形成の共同体」でもある。まるで日本社会の縮図を見ているかのようだ。
築古マンションの購入者は増加傾向にあり、2023年に首都圏で築31年以上のマンションを購入した人の割合は64.3%にのぼるという調査がある(*2)。マンション価格の上昇で、今後ますます注目を集めるだろう。
*2 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000207.000049400.html
■築古マンション購入時の5つのポイント
最後にもう一度、築古マンションを検討する際にチェックすべきことを整理してみよう。
【保存版】築古マンション購入時にチェックすべき5項目

①新耐震基準(1981年6月)以降に「建築確認」を受けた建物か?

②(①でない場合)Is値は「0.3」以上か?

③(②でない場合)耐震補強が構造的に可能か?

④修繕積立金の回収率はほぼ100%か?

⑤住民の高齢化率は?(意思決定が機能しているか?)
ちなみに筆者が現在販売中の旧耐震マンションのIs値について、それぞれの不動産会社に問い合わせたところ、回答があったのは10物件中わずか3物件だった。
未回答のうち4物件は「耐震診断を実施していない」、残る3物件は「確認中(その後返答なし)」である。情報の非対称性は、いまも市場に存在している。
ただ配管の老朽化による水漏れ、住民の孤独死など、「築古マンション」のリスクは耐震性だけではない。Aさんの住んでいたマンションにもこうしたトラブルはあったという。配管などのインフラ設備については、専有部分の改修費用は所有者の自己負担になるため、これらのリスクも十分に加味したほうがいいだろう。
築古マンションの「地雷」は、古さではなかった。何も知らされないまま買わされる構造が最大の問題なのだ。私たちは「自分だけはババを引かない」と思いがちだが、“昭和の置土産”を「負の遺産」にしないためにも、数字のチェックはぬかりなくしておきたい。

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若月 澪子(わかつき・れいこ)

ジャーナリスト

1975年生まれ。ジャーナリスト。大学卒業後、NHK高知放送局・NHK首都圏放送センターで有期雇用のキャスター、ディレクターとしてローカル放送の番組制作に携わる。結婚退職後に自殺予防団体の電話相談ボランティアを経験。育児のかたわらウェブライターとして借金苦や終活に関する取材・執筆を行う。生涯非正規労働者。ギグワーカーとしていろんな仕事を体験中。著書に『副業おじさん』(朝日新聞出版)。

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(ジャーナリスト 若月 澪子)
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