※本稿は、Ryucrew『世界の空を飛んでわかった 人生に効く旅学』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■マスク着用を「お前には言われたくない」
コロナ禍の頃、機内でお客様にマスク着用をお願いしたときのことです。その男性は私に“You don’t tell me.(お前に言われたくない)”と言い、マスク着用を拒否しました。おそらくその人には「アジア=コロナウイルスの発生源」といった見方があったのでしょう。その後、他のクルーが促すと、“Oh, Ok!”と笑顔で応じ、マスクをつけ始めました。
この“You don’t tell me.”、実に巧妙なんですよね。「アジア人に言われたくない」と言うと差別発言になりますが、“you(あなた)”と言うことで、個人の問題にすり替えられる。でも私には「これって差別ちゃうん?」という悲しい気持ちが、じわじわと心に広がっていきました。
もちろん何を「差別」と捉えるかは、完全に受け手の感じ方によるところも多いと思います。私が「日本人なのに肌が黒いね」と言われても、「たしかにすぐ日焼けするしなあ」と思い、すぐさま「差別された!」とは感じないですが、同じ発言でも差別と受け取る方もいるでしょう。どちらが正しいという問題ではなく、個人の主観が大きく関わると思います。
■同僚クルーが「つり目ジェスチャ―」
以前、あるクルーと、私が学生時代に文化人類学を専攻していたという話になりました。すると彼女は、目尻を両手で引き上げるジェスチャー(*)をして「文化人類学的には、アジア人がこういう目をしているのも何か理由があるの?」と言ったのです。
*目尻を両手で引き上げるジェスチャー:英国の航空大手ブリティッシュ・エアウェイズは、このポーズをSNSに投稿したCAのふたりを解雇したという報道もある。
あまりにあからさまな人種差別にあ然としたものの、当時は試用期間だったため「今、トラブルを起こしたらあかん」と思い結局泣き寝入りしました。今ならその場で怒っていると思います(でもその人はその後、別の理由で解雇されましたけどね)。
そしてしばらくは「白人って皆、そうやってアジア人を差別しているのかも」と疑心暗鬼になっていました。けれどもちろん、そんなことはないんですよね。私のパートナーも白人ですし、彼の家族も白人ですが、差別的な言動をすることはありません。私が偏った考えに陥らずにいられたのは、間違いなく彼らがいてくれたからです。
■機内誌に書かれた差別的落書きをわざと見せつけられる
明らかな差別だけでなく、小さな差別、マイクロアグレッションと呼ばれるものもあります。たとえばパイロットがブリーフィングでみんなの目を見て話すのに、私だけ無視。機内誌に「この国は白人の国だ!」と殴り書きされているのを見つけたクルーが「こんなんあった」と、わざわざ私に見せてきたときは、「それ、どういう意味なん?」と心にモヤモヤが広がっていきました。
一つひとつは些細な出来事ですが、小さな傷つきが蓄積していきます。毎日毎日、ちょっとした違和感や疎外感を感じ続けると、心が削られていくんです。
コロナ禍では、こうした小さな差別がさらに加速したように感じました。バンクーバーでは一時期、SNSなどでのデマを発端にトイレットペーパーが品薄になる事態が起こりました。一部の人には「アジア系=ウイルスの源」「アジア系=買い占め・転売」というステレオタイプが強まっていたのか、トイレットペーパーが売られているお店を偶然見つけ、私が買おうとしたら、レジの女性にひどく嫌な顔をされました。その人から見たら日本人かどうかは関係なく一括りにアジア人ですし、「転売ヤー」と思われたのだと思います。
本当にこの時期は心がしんどかったです。「別にいいもん。こっちはいつでも日本に帰れるから」と何度も心に言い聞かせていました。母親や伯母は日本にいるし、自分には帰る場所がある――これが当時の心の支えでした。
■「お箸使えるんですね」が相手を傷つけているかも……
海外で暮らすマイノリティ(少数派)として、こういう経験は避けられない部分もあります。でも、差別的な人はごく一部。
そして、自分では差別と思っていなくても、それが差別的な発言や行動に当たることもあります。日本人が外国人に「日本語お上手ですね」「お箸使えるんですね、すごい」と褒めたつもりで言っても、言われた側、特に日本での生活が長い人にとっては、「自分はまだ日本社会の一員として受け入れられていない部外者なんや……」と感じさせ、傷つける可能性があります。
個人的には、カナダに暮らして十数年経った今、こういった小さな傷つきに対してはかなり図太くなりました。「差別するようなしょーもない人にエネルギーを使いたくない」と思います。でも同時に自分も無意識に差別する側にも、される側にもなる可能性もあるのだなと改めて感じています。
■CAが陥った「英語コンプレックス」
実はカナダに移住したばかりの頃、髪の毛を短くしていました。北米のアジア系男性は短髪にしている人が多く、私も彼らのスタイルを真似てみたのです。当時は「とりあえず見た目から『カナダっぽく』しなきゃ!」と強く思っていました。
職場では、日本ではしないようなオーバーリアクションをして「カナダ人らしく」振る舞おうとしていました。けれど心の中では「これは、ほんまの自分じゃないな」と違和感を覚えていたのも事実です。
こういった現象を「過剰適応」と呼ぶようです。特に少数派(マイノリティ)が新しい環境に必死で馴染もうとすると、自分を押し殺してしまう――そんな状態のことです。
「カナダ人らしくしなくては」と思っていた頃には、英語へのコンプレックスも抱いていました。新人時代にはブリーフィングの最中、私がごく簡単な言い回しの英語で発言したにもかかわらず、あるベテランクルーに「何を言ってるか、わからへん」という意地悪なリアクションをされたことがあります。他のクルーは全員理解しているにもかかわらずです。
■ショックを受ける質問「どこ出身?」
それからというもの、機内アナウンスするときも「お客さんから『あの人の英語、何?』とか言われるんちゃうか」「同僚から英語をダメ出しされたらどないしよ……」と、常に不安が頭をよぎるようになりました。
“Where are you from?(出身はどこ?)”と聞かれるのもすごくショックでした。「自分の英語がおかしいから聞かれてるんや」と過敏に反応していたからです。また、相手の言っていることがわからなかったら、すぐに“Sorry”と下手(したて)に出てしまうことも。そうなるとさらに気持ちが焦ってしまい、ビクビクした態度になって、ますます悪循環に陥ってしまうのです。
■英語のアクセントを気にしない非英語圏の同僚たち
しかし、そんな英語コンプレックスも徐々に薄れていきました。クルーの中には、英語が母語ではない人が私以外にも大勢います。
またこんなこともありました。ブラジル人のCAがカナダ人の同僚にアクセントをからかわれたとき、「私へのリスペクトに欠けている。二度と話しかけないで!」と怒り、相手を黙らせたのです。彼女の毅然とした態度に「かっこいい!」と思うと同時に、英語コンプレックスを抱いていた自分がなんだかバカバカしくなってしまいました。やがて「だってこっちは日本人やし、別に英語にアクセントがあってもそれでええわ」と思えるようになったのです。
■「適応」と「自分らしさ」とのバランスが大事
それからというもの、“Where are you from?”と聞かれても、堂々と「日本です!」と言えるようになりました。相手の言っていることがわからなかったら「もう一回言ってください」と、お願いすればいいだけのこと。
また、その場で英語について何か言われたとしても、言った本人はあくまでその場の思いつきだけで、あまり深い意味を込めてないことも多いと気づくようになりました。英語が上達したというよりも、ある種の図々しさを身に付けたのかもしれませんが、それ以降、英語が怖くなくなりました。
ちなみに「英語が上達したのは、パートナーがカナダ人だから?」とよく聞かれますが、実はそうでもありません。パートナーの前だと、緊張感がなくなるのでかえって英語(特に文法)はむちゃくちゃです(笑)。そういう意味では、英語が上達したのは、職場という緊張感があったからこそだと思います。
「郷に入っては郷に従え」ではないですが、新しい土地で暮らす場合、その国や地域の言語を学ぶなど、「受け入れてもらおう」という姿勢は大切だと思います。
最初から「俺は俺やで!」「そっちの国の文化? そんなん知らんわ」という姿勢のままでは相互理解につながりません。けれど「受け入れてもらおう」という思いがあまりに強すぎると、どこか自分の中で違和感が生まれたり、自分らしさが失われてしまったりします。
この「適応」と「自分らしさ」とのバランスが大事なのだなと、改めて感じています。
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Ryucrew(りゅーくるー)
外資系エアラインCA
1992年生まれ、大阪育ち。カナダのバンクーバーを拠点とする外資系エアラインの現役CA(キャビンアテンダント)。YouTubeチャンネル「関西弁CA / Ryucrew」は登録24万人超(2024年3月時点)。コテコテの関西弁と人間味のあるユーモアで、客室乗務員の仕事やカナダでの生活、旅のTipsを配信。日本テレビ系「マツコ会議」ほか、数々のメディアに出演。
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(外資系エアラインCA Ryucrew)

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