■「都内のホテル高すぎ」に東横インが出した答え
ホテル宿泊価格の上昇が止まらない。
東京商工リサーチによると、ホテル運営の上場13社のうち、2025年3月期の平均客室単価は1万6679円(前年同期比12.6%増)となり、コロナ禍で最安値だった2021年の7755円の2倍以上に跳ね上がった。
価格上昇の背景には、人件費や資材費の高騰のほか、好調なインバウンド需要がある。2025年度の訪日外国人数は11月末時点で3900万人を超え、過去最多となった前年度を上回った。多くのホテルでは、需要に合わせて価格を変動させるダイナミックプライシング(変動価格制)を採用しており、特に外国人観光客の多い地域では“価格が上がりっぱなし”という状況も目立つ。
これに悲鳴を上げるのが、ビジネスパーソンたちだ。社内規定で出張旅費の上限が決められている企業も多く、とある大手企業の男性は「東京出張なのに都心の宿が高すぎて泊まれず、やむなく千葉の柏に宿泊した」と嘆く。手ごろな価格のホテルに人気が集中し、直前に予定が決まることもあるビジネス客にとっては予約が取りにくい状況も続いている。
この流れに真っ向から抗うホテルがある。客室数で国内最大のホテルチェーン「東横イン」だ。
■変動価格制を導入しないワケ
競合他社が変動価格制で利益を拡大する中、なぜあえて「原則ワンプライス」にこだわるのか。黒田麻衣子社長はその理由を、同社が「おなじみさん」と呼ぶ常連ビジネス客を重んじるが故だと話す。
「東横インを40年間支えてくれたのは、いつも利用してくださる『おなじみさん』たちです。その方々が、『いつもの宿なのに、今日はなぜこんなに高いんだ』と価格を見て不安になったり、信頼を損ねることのないようにしたい。そこにこだわっています」(黒田社長、以下同)。
もちろん、原価の高騰に応じてベースの料金自体は値上げしている。しかし、価格を需給に応じて変化させることはしない。「儲けたお金を原資に閑散期に安くする」というダイナミックプライシングの競合他社に対し、東横インは「価格を下げられない代わりに、極端に上げることもない」という方針だ。(早割プランやキャンペーンなどはあり)
そのスタンスがよくわかるエピソードがある。
「10月、11月は観光シーズンでインバウンドも多く、競合他社は価格を上げたままというところもあったようです。お客さまからは『さすが東横インだね、戻してくれたんだ』という声をいただきました」
■インバウンドに頼り切ることはない
一方、「原則ワンプライス」には、弱点もある。多客期は競合よりも安いが、閑散期でも価格を下げられない。実際、例年都内旅行客が少なくなる1月下旬現在、多くのホテルでは料金を下げており、東横インが相対的に高値となっている曜日もある。
しかし、黒田社長は「いつも違う価格ではビジネス客から“定宿”にしてもらえない。どこまで続けられるかは挑戦でもあります」とワンプライスの維持に意欲を見せる。
常連ビジネス客を優先する姿勢は、予約面でも顕著だ。観光庁「宿泊旅行統計調査」によると、2024年度のビジネスホテルの宿泊客における訪日外国人の割合は30~40%だが、東横インでは12~13%と明らかに低い。これも、常連ビジネス客への配慮からだ。
「コロナ禍前までは『積極的にはインバウンドを取らない』という方針でした。海外の団体客で埋めてしまうと、いつものビジネスマンが泊まれなくなってしまうからです。ただ、コロナ禍以降、出張回数も減少していますし、少子高齢化もあり国内需要には限りもある。現在は『インバウンドこそ伸びしろである』という認識であり、受け入れていきたいと考えていますが、インバウンドに頼り切るということはしません」
■売り上げは過去最高を記録
外国人観光客に依存しない戦略には、リスクヘッジの意味合いもある。2025年11月、高市早苗首相の台湾有事をめぐる発言に反発した中国政府が日本への渡航自粛を呼びかけ、団体旅行のキャンセルが相次いだ。東横インでも中国人団体客を受け入れていた空港付近の店舗ではキャンセルが出たものの、全社的には限定的な影響にとどまっているという。
黒田社長は「外国人観光客にとって日本はリピートしてもらえる国だと思っています。東横インもリピーターになってもらいたい。日本全国を周遊する方もいると聞くので、全国に店舗があるというネットワークを生かして、東横INNから東横INNへと宿泊してもらえれば」と意気込む。
これだけ逆張り的な経営だが、東横インの経営状況は好調だ。コロナ禍で大幅な落ち込みとなったが、2023年(3月期売上)は807億円、2024年(同)は1228億円、2025年(同)は過去最高の1439億円となっている。
短期的な利益増が見込めるインバウンドより、常連ビジネス客との縁を大切にする。
■クロちゃんが困惑した「同じ部屋」の意味
ところで、東横インに複数回宿泊したことがある人ならわかるだろう。東横インは、北海道から沖縄まで、部屋のレイアウト、家具、照明に至るまで、ほぼ同じ仕様だ。
かつて「水曜日のダウンタウン」(TBS系)で、お笑いトリオ「安田大サーカス」のクロちゃんが泥酔して寝ている間に茨城の東横インから赤羽の東横インに運び、翌朝気づくかどうか検証した企画もあったほど。ちなみにこの企画では、クロちゃんはホテルを出るまで移動したことにまったく気づかなかった。この「金太郎飴」のような客室づくりにも、コスト競争力を生み出す秘密がある。
「同じ作りだからこそ、メンテナンスや改装が早く、安くできます。グループ会社に内装工事部門や電気設備部門があり、約7万9000室を同じ規格で作っているため、部材の調達コストも抑えられます。躯体ができあがれば、内装は3カ月程度で完成させられるので、店舗を開業する際にもメリットがあります」
店舗ごとに規格が異なれば、修繕のたびに特注の部材が必要になり、工期も伸びる。同じ規格を採用し、グループ会社内で完結することで、建築費が高騰し人手不足が深刻化する中でも、安価でスピーディーな修繕が可能に。これがリーズナブルな宿泊価格を維持できる原資となっている。
■ちょっとかわった出店戦略
また、この「変わらなさ」は「いつもの宿」という顧客の安心感にもつながるという。
「お客様からは『朝起きた時、どこの県にいるかわからなくなる』なんて笑われますが、裏を返せば『第二の我が家』なんです。出張でいつもと違う場所で仕事をしてきたビジネス客のお客様に、ホテルの中ではいつもと同じ環境で安心して過ごしていただき、英気を養ってもらいたいのです」。
余談だが、筆者の夫は終電の中で寝過ごしてしまい、終着駅の東横インに度々お世話になっている。都心から離れ、かつ観光地でもない住宅街のど真ん中にあるような駅前にも東横インはあり、夫曰く「青い看板にほっとさせられる」のだとか。そんな“酔っ払いサラリーマン”のニーズも受け止めるのが、周辺都市を狙ういわばドーナツ戦略だ。
「都心の一等地はどうしても高いので、安価な料金を提供できません。私たちが得意なのは、その周辺です。現在も、京都の宇治や長岡京に新店舗を建設中ですが、今後は博多駅周辺なども探したいと思っています」
ビジネスホテル業界では、外資系も含め競合ホテルの出店が相次ぎ、競争は激化している。東横インではニッチを狙う戦略で、現在約7万9000室の客室数を2033年度に10万室に増やし「客室数ナンバーワン維持」を目指す。
■併設のレストランがない深いワケ
順調に客室数を増やせているのには、ある意外な要素もある。東横インには、他のホテルには必ずある併設のレストランがない。「夕食は地元のお店でどうぞ」と案内することで、地域と共存共栄の関係を築くことにもつながっているのだ。
東横インでは、地主にホテルを建ててもらい、それを一棟借りして運営する方式を取っている。グループ内で開発や設計・建築まで手掛けるため工費は抑えられるものの、多額の費用を負担するオーナーとの信頼関係は非常に重要だ。
「東京の会社が地方に出ていくと、どうしても『東京の資本が来た』と警戒されてしまうこともあります。ただ、『うちのお客さんは地域のお店で召し上がっていただくんですよ』と言えることで、オーナーさまに『一緒に地域を盛り上げたい』という思いをお伝えできたことはすごく良かったと思っています」
今年1月、東横インは創立40周年を迎えた。「無料朝食の提供」「空の小型冷蔵庫の設置」など、今やビジネスホテルでは当たり前となっているサービスを生み出してきた。しかし、40年がたち、多くのビジネスホテルが参入し競争は激化。競合ホテルが「眠りに特化」「大浴場が充実」といった付加価値を売りにするなか、いかに東横インとして強みを打ち出していくのか。模索が続いている。
「一番スタンダードな私たちが、一番差別化できていないという課題は感じています。価格だけで選ばれるようならいずれダメになりますから。『アクセスナンバーワン』と言っているのですが、駅前の立地でのアクセスのしやすさや、予約のしやすさという点は強みとして伸ばしていきたいです」
■朝食のおにぎりのこだわり
東横インの朝食と言えば「おにぎり」のイメージがある。最近ではビュッフェ形式が定番となっているが、一部店舗ではあえて「おにぎりと具沢山の味噌汁だけ」に特化した「具・おにぎりスタイル」等を展開している。
スタッフの手作りというおにぎりは、はみ出るほどの食べ応えのある具が特徴で、外国人観光客やタイパを重視するビジネス客から人気がある一方、「ビュッフェじゃなくてがっかりした」といった声も。
他のビジネスホテルでは、食材費の高騰や食品ロスへの配慮から、朝食無料サービスを中止する動きもあるなか、難しいかじ取りを迫られるが「最初に朝食無料サービスを始めたという自負もある」と黒田社長。
変わりゆく顧客のニーズに対応しつつ、“安心感”“第二の家”といった変わらぬ価値をどう提供していくのか。老舗ホテルの挑戦に注目していきたい。
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市岡 ひかり(いちおか ひかり)
フリーライター
時事通信社記者、宣伝会議「広報会議」編集部(編集兼ライター)、朝日新聞出版AERA編集部を経てフリーに。
AERA、CHANTOWEB、文春オンライン、東洋経済オンラインなどで執筆。2児の母。
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(フリーライター 市岡 ひかり)

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