レアアースの中国依存が問題視される中、影響は他の資源にも広がりつつある。中国は世界の銅の製錬量の約6割を握り、採掘でも市場支配力を強めている。
海外メディアは、一部の精錬所が操業停止に追い込まれていると報じている――。
■製錬所が“手数料を払う側”に転落した異常事態
製錬手数料を申し受けるべき製錬所が、逆に鉱山会社にカネを払って原料の加工処理を引き受けている――。銅の製錬業界で、常識では考えられない逆転現象が起きている。米ブルームバーグが報じた。
製錬所は本来、鉱石を粗く砕いて銅分を濃縮した「銅精鉱」を鉱山会社から受け取り、金属に加工する対価として処理・製錬費(TC/RC)と呼ばれる手数料を受け取る。ところが昨年、長期契約によらないスポット取引ではこの手数料が1トンあたり<マイナス>60ドル(マイナス約9300円)まで急落した。
背景にあるのが中国だ。同国の製錬能力が急拡大し、世界の採掘量の伸びを大きく上回っている。限られた銅精鉱をめぐる争奪戦が勃発し、価格構造を破壊しつつある。
現状で影響は都度契約のスポット料金に留まるが、年次契約料金の基準となる「ベンチマーク」の相場への影響も懸念される。金属調査会社CRUグループのクレイグ・ラング氏はブルームバーグの取材に対し、「ベンチマークシステムの崩壊」を予測している。
英金融大手パンミュア・リベラムのアナリスト、トム・プライス氏は、中国が世界の銅精鉱供給の大部分を囲い込み、処理・製錬費の構造を破壊することで、事実上海外の製錬所を市場から締め出していると警鐘を鳴らす。

中国国内の業者も厳しい生存競争に苦しんでおり、限られたパイを奪い合う「内巻(インボリューション)」が起きているとの指摘もある。だが、逆風はむしろ中国国外の業者に強く吹いており、今年の処理・製錬費の交渉は「産業の残酷なサバイバルゲーム」の様相を呈しているとプライス氏は語る。
■中国が世界の銅製錬の6割を支配
異常事態のそもそもの原因が、中国の圧倒的な市場支配力だ。
コンサルティング会社ベンチマーク・ミネラル・インテリジェンスの試算によると、鉱石から加工される精製銅の生産に占める中国のシェアは2025年に57%に達する。ロイターは、他国の生産がほぼ横ばいにとどまるなか、中国だけが前年比7.5~12%の増産を続ける見通しだと報じた。
中国の影響力は製錬にとどまらない。フォーチュン誌が引用した調査会社S&Pグローバルの分析によると、世界の銅採掘の約3分の2はわずか6カ国に集中している。
製錬についても能力ベースで約40%を中国が単独で握り、生産量では60%近くに達する。S&Pグローバルは、こうした寡占構造のもとでは、「政策変更や貿易障壁、地政学的な混乱が起きた場合に、供給と価格を直撃しやすい」と警告する。
実際、中国は2010年の尖閣諸島問題で日本向けレアアースの輸出を制限し、2025年にも対米報復としてレアアース関連の輸出規制を発動している。銅も同じように、政治問題のカードになる危険がある。
■日本、フィリピン…世界の製錬所が苦境に
中国勢が原料の銅精鉱を大量に囲い込んだ結果、海外の製錬所は深刻な原料不足に陥っている。

海外では、操業停止が相次いでいる。スイスの資源大手グレンコアは2025年2月、市場環境の悪化を理由にフィリピンの銅製錬所の操業を事実上停止した。
中国企業が運営する海外の製錬所も、原料不足を免れない。ロイターによると、中国のシノマイン・リソース・グループは同年7月、銅精鉱の不足を理由にナミビア南西部のツメブ工場の操業を一時停止すると発表した。
こうした事態に、製錬業者と各国政府は反発を強めている。ブルームバーグによると、日本・韓国・スペインの産業省は昨年10月、共同声明で現在の処理・製錬費は「懲罰的」であると表現した。中国の国内業者は中国政府による補助金政策などで生存競争を有利に生き抜いているとし、「公正な市場原理を反映していない可能性のある政策・慣行」を批判する内容だ。
日本でも三菱マテリアルが、業界環境が「著しく悪化」していると表明。日本の非鉄金属メーカー・JXアドバンストメタルズは数万トン規模の減産に踏み切った。
一部では、各国政府による救済の動きも出ている。オーストラリア政府は資源大手グレンコアに支援措置を講じ、同国マウントアイサの製錬所が今後3年間稼働できるよう救済に動いた。
■副産物が製錬所の生命線になった
同じ原料不足に直面しながらも、中国の製錬所が生産を拡大し続けられるのはなぜか。

ブルームバーグによると、中国勢も低い処理・製錬費に苦しんではいる。ただ、建設業や電気配線に使われる精製銅の価格が高騰しており、比較的安価に仕入れた在庫との差額で当面の利益は確保できている。
もう一つの利益要因が、銅の製錬過程で生じる硫酸や希少元素といった副産物だ。どちらも相場が高騰している。これらを売却し、処理・製錬費以外の収製錬事業の運営資金を捻出している構図がある。マイナスの処理手数料となってなお処理を引き受けるのは、こうした副産物で利益を得られるためだ。
加えて中国業者は、原料の確保でも手を打っている。マッコーリー・グループのコモディティ・ストラテジスト、アリス・フォックス氏はロイターに対し、中国の製錬所は備蓄してきた銅精鉱の在庫を取り崩しつつ、政府の家電・自動車買い替え補助金制度で回収された製品から得られるスクラップ銅も活用していると分析。銅精鉱の輸入量を上回るペースで生産を伸ばしているという。
フォックス氏は昨年8月、「銅精鉱が不足し処理・製錬費は低いが、にもかかわらず、中国の製錬生産は年初来で目覚ましく堅調だった」と述べている。
■アメリカは銅を「重要金属」に指定
好調な中国産業と対照的に、次々と閉鎖に追い込まれる海外の製錬所。各国政府は、こうした状況を安全保障上の脅威として捉え始めている。

S&Pグローバルが今年1月に公表した報告書によると、EV(電気自動車)や送電網、再生可能エネルギー設備の急増により、銅需要は2040年までに現在比50%増の4200万トンに達する。
一方、新規鉱山の開発が追いつかず供給は約3200万トンにとどまり、世界で約1000万トンの不足が生じる見通しだ。フォーチュン誌が引用したこの報告書は、供給不足が「世界の産業、技術進歩、経済成長に対する体系的なリスク」であると警告している。
警戒感は広がっており、過去5年間で複数の国が銅を「重要金属」に指定し、国家備蓄や投資優遇の対象としてきた。2025年にはアメリカも指定に踏み切った。S&Pグローバル・エナジーのカルロス・パスクアル氏はフォーチュン誌に対し、銅はEVのモーターから送電網、通信インフラ、軍事システムまであらゆる分野を支える基盤であり、「将来的な供給の確保は戦略的重要事項となっている」と指摘する。
一方で、銅の増産は容易ではなく、世界的な資源の奪い合いが深刻化するおそれがある。同誌によると新規に鉱山を開拓しても、鉱床の発見から実際に銅を産出するまでに平均17年を要する。環境規制や地域住民との合意形成、インフラ整備など、乗り越えるべき壁が多いためだ。
■中国へのアルミ流出に危機感
中国による資源支配は、銅だけにとどまらない。アルミニウムでも同じ構図が広がっている。
世界最大のアルミリサイクル業者Novelis(ノベリス)のエミリオ・ブラーギ副社長が、フィナンシャル・タイムズの取材で実態を明かした。
中国のバイヤーが欧州のアルミニウムスクラップ(アルミくず)を買い占め、溶解・加工して欧州に逆輸出しているという。
加工という産業の付加価値部分が中国に流出した形となり、欧州のリサイクル業者は本来手がけることができた原料を失う。ブラーギ氏は「(すでに欧州は)一次生産を失った。今度はアルミスクラップを失うリスクに直面している」と警告し、EUがスクラップ輸出の抑制に動かなければ、欧州のリサイクル産業は「壊滅的な衰退」に陥ると指摘する。
なぜ中国企業は高値でスクラップを買い漁れるのか。背景にあるのが政府の補助金だ。ブラーギ氏は「補助金による過剰生産能力が不公正な競争を生み出しており、中国企業ははるかに高い価格でスクラップを買う余裕がある」とも言及している。
危機感はアメリカでも高まっている。ロイターによると、米アルミニウム協会は10月、使用済み飲料缶の北米域外への輸出の即時禁止措置を政府に要請した。理由は国家安全保障だ。アルミニウムは軽量で強度に優れ、戦闘機や戦車の機体、衛星の筐体から自動車のボディまで軍民両方で使われている。その国内生産基盤を守るねらいがある。

同協会によれば、アメリカのアルミニウム産業は年間約400万トンもの原材料不足に陥っている。にもかかわらず国内スクラップの相当量が中国へ輸出され、加工後、完成品としてアメリカに戻ってくる。自給自足を達成すべきであり、その実現には「数年という年月、数十億ドルの投資、膨大な量の手頃なエネルギーへのアクセス」が必要だと同協会は訴える。
■来年からアルミ不足の見通しも
現実的な問題として、こうした状況を短期間で覆すことが極めて難しい現状がある。
その一方で、アルミニウムは早ければ数年後にも供給不足に転じる見通しだ。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、米金融大手シティグループのアナリストは昨年10月、鉱石から新規に製錬される一次アルミニウムの余剰流通量が今年まで急速に縮小し、2027年以降は約140万トンが不足すると予測している。
不足分は一次消費量の約2%にあたる。金属市場ではわずか数%の需給ギャップでも価格が大きく動くため、この規模の不足は深刻だ。エネルギー調査会社ウッド・マッケンジーのシニアリサーチマネージャー、ウダイ・パテル氏は同紙に対し、不足は2028年から約5年続くとの見通しを示している。
銅もアルミニウムも、供給逼迫を解消する道筋は見えない。新規鉱山は開発に十数年を要する一方、リサイクルの拡大にも巨額の投資が必要だ。あらゆる産業の基盤を支える、銅とアルミニウム。中国による資源支配という構造的問題に対し、世界はいまだに打開策を見いだせていない。

----------

青葉 やまと(あおば・やまと)

フリーライター・翻訳者

1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

----------

(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)
編集部おすすめ