年度末が近づくと、解雇、雇止め、退職勧奨が増える。労働問題を専門とする弁護士の佐々木亮さんは「不当な解雇や雇止めをさせないためには、法律を知っておくこと、会社が出す書面に安易にサインをしないことの2点が重要だ」という――。

■退職勧奨を受けたら真っ先に確認すべきこと
年度末が近づくと、解雇や雇止め、退職勧奨の相談が増えます。日本では、役所に合わせて4月1日から翌年3月31日を「年度」としている民間企業が多いこともあり、区切りでの雇用打ち切りの動きが出てくるためです。
中には、上司に「ちょっといいかな」と言われて別室に行ったら退職合意書にサインするよう促されたとか、急に面談に呼び出されて「明日から来なくていい」と言われた、などという乱暴な話もあります。本稿では、そんなときに労働者がどのように身を守り、どのように対応するといいかを書きたいと思います。
その前に、みなさんはご自身の労働契約に「期間の定め」があるかどうかをご存じでしょうか。本来、入社時に「労働契約書」や「労働条件通知書」が交付されていなければなりません(労働基準法15条1項)。交付されている場合は、それを確認すれば期間の有無がわかります。
もしも交付されていない場合(法違反状態ですが)は、期間について口頭などで特に合意されていない限りは無期の労働契約ということになります。
■労働契約終了の3つのパターン
次に労働契約終了のパターンを見てみましょう。労働契約は、当事者(使用者と労働者)の意思で終わらせる場合、次の3つのパターンしかありません。
①「自主退社」「辞職」

労働者が退職届を出し、一方的に労働契約を解消するパターンです。労働者には職業選択の自由、つまり会社を辞める自由があるため、使用者は拒むことはできません。

②「解雇」

使用者が、一方的に労働者との労働契約を解消するパターンです。労働者から辞める「自主退社」「辞職」とは異なり、法律によってさまざまな制限があります。それらの制限のうち、誰にでも適用されるのが「解雇権濫用法理(労働契約法16条)」というもの。労働者を解雇する場合は、「解雇理由が客観的で合理的なものであること」「解雇することが社会通念上相当であること」という2つを満たさないと無効になる、という制限です。使用者は安易に解雇すると、争いになったり、後に無効となるというリスクを抱えることになります。もしも無効になると、使用者は無効となるまでの賃金全額と、それ以降の賃金を払う義務が生じるため、経済的なダメージを受けることになります。
③「合意退職」

労働者と使用者が話し合いを行い、双方が合意して労働契約を終わらせるパターンです。多くの退職者は、こうして会社を退職していることが多いでしょう。
■「雇止め」も覆せるケースがある
この3つに加え、期間の定めのある労働契約の場合には「期間満了」というパターンがあります。これを「雇止め」と呼ぶことも。あらかじめ期間を定めた契約なので、期間が終わると契約が終了するのは当たり前ではないかと思われるかもしれません。しかし、この場合も単純ではなく、一定のケースでは法律上の制限があります。

たとえば、最初に期間3カ月と説明されて働き始めたものの、それから何年間も契約書を作るわけでもなく働き続けている場合、急に「既に期間満了しているので本日で終了です」と言われても納得できる人は少ないでしょう。他にも6カ月の契約を締結し、何度も繰り返し更新していて、何もなければ次回も更新されるだろうと思っていたところに「期間満了で終了です」と言われても納得できない人が多いと思います。
法律(労働契約法19条)では、「実質的に期間の定めがないといえる場合」、「期間の定めがある契約だけれども労働者が次も更新されるだろうと期待することに合理的な理由がある場合」のどちらかに該当すれば、解雇と同様に「契約更新しないことについて、客観的で合理的な理由と社会通念上相当であること」が求められ、この2つを満たさない雇止めはできないとされています。
もしも満たさない場合は、労働契約の更新があったものとみなされるのです。したがって、使用者は期間満了だからといって安易に雇止めをすると、解雇と同様に後に覆されるリスクを抱えることとなります。
■退職勧奨には合意しなくてもいい
さて、ここからが本題です。これまでに見てきた通り、解雇や雇止めを行う場合、会社側には一定のリスクがあります。そのため、なんとかリスクを回避しようと、解雇や雇止めをする前に「退職の合意」を得ようとすることがあります。前述した労働契約終了パターンの③にしようとするということです。
よくある相談に、「会社から退職勧奨を受けたら、合意しなければいけないのか?」というものがあります。結論から言うと、労働者には退職勧奨を受け入れる義務はありません。むしろ、労働者が断っているのに退職勧奨をし続けると「退職強要」という不法行為となることもあります。

退職勧奨は、あくまでも使用者から労働者に対して、「労働契約を終わりにしませんか?」という申し入れに過ぎませんから、労働者が「嫌です」と答えたら、それで話は終了です。自分の意思に反して辞めることを選ぶ必要は全くありません。
もちろん、退職勧奨を受けた会社に残りたくないという気持ちが芽生えることもあるでしょう。その場合は、退職に当たっての条件(金銭の支払や在籍期間)を交渉することもあり得ると思います。
ただし、その場合でもすぐに同意したり、書面にサインしたりすることは悪手中の悪手ですので、絶対にしないようにしましょう。退職するかどうかについても、条件についても「一度持ち帰って検討します」と応じればよく、それに対して難色を示す使用者がいたら、その態度が語るに落ちるというものでしょう。
■解雇で退職届を書かせる悪質な手口
いま述べたのは、会社がまだ「正攻法」で仕掛けてくる場合ですが、中には不当な解雇や雇止めをしながら、退職届を書かせようとすることもあります。これは非常に悪質なやり方なので注意が必要です。
先ほど述べた通り、解雇や雇止めは、使用者にとってリスクがあります。そこで、悪知恵のある使用者は、口では解雇と言いながら、退職届にサインさせようとする場合があるのです。解雇というショッキングな内容を知らされて気持ちが弱った労働者が、差し出された書面についサインしてしまうということが実際にあります。
これの恐いところは、労働者が後で解雇は無効だと争った際に、自ら退職を選択したかのような書面を証拠として提出されてしまうところです。
裁判は証拠で判断されるため、労働者の主張と相反する内容の証拠が出てきては、非常に不利になります。ですから、解雇や雇止めの直後になんらかの書面を出されても、絶対にその場でサインしないようにしましょう。解雇と自主退職は全く違うことを覚えておけば、正確に対応できます。
また、会社に解雇や雇止めを通告された場合は、その証拠を残すことが第一です。解雇であれば、解雇通知書や解雇理由証明書の発行を求めることができます(雇止めの場合でも一定の場合は同じです)。また、解雇を言い渡されている会話を録音することも有効です。なお、この場合の録音は、会話相手の同意を得る必要はなく、秘密裏に行っても、裁判では立派な証拠となります。
■無期転換権の行使という切り返し
なお、有期労働契約で契約していた期間が通算で5年を超える場合、無期転換権の行使という強い切り返しが可能です。無期転換権とは、現在の契約は有期契約であるけれど、次から無期にするという権利で、使用者はこれを拒否することはできません(労働契約法18条1項)。権利を行使すると、今の有期契約が終了した日の翌日から無期の労働契約が成立することになります。
たとえば、期間の定めが2年の場合、2回目の更新で通算6年となりますので、更新してその期間に入った瞬間から無期転換権を行使できます(実際に5年を超えて働く必要はなく、通算契約期間が5年を超えればいいのです)。
もしも使用者から次の契約は更新しないと言われたとしても、自分の契約が通算5年を超えているならば、「無期転換権を行使する」と通知すれば、使用者のした雇止めの意味が失われることになります。

会社(使用者)から解雇や雇止めの通知、退職勧奨などをされると、労働者は動揺したり不安になったりするものです。でも、正確な知識を知っておけば、会社の出した書面にすぐにサインしないことでひとまず身を守ることができます。
その後は一人で思い悩むより、専門家に相談することをおすすめします。解雇などのトラブルについては、労働組合や労働者側で労働事件を扱っている弁護士などに相談するといいでしょう。

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佐々木 亮(ささき・りょう)

弁護士

1975年生まれ、埼玉県出身。弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長。ブラック企業被害対策弁護団顧問。著書に『武器としての労働法』(KADOKAWA)がある。

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(弁護士 佐々木 亮)
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