環境保全団体WWFジャパンによると、国内には約100の動物カフェがあるという。フクロウやカワウソ、ナマケモノなどと間近で触れ合える“癒やしの空間”として人気を集めている。
だがその裏で、狭いケージに長期間閉じ込められ、糞やエサで汚れた環境で過ごす動物もいる。ジャーナリストの森映子さんが、現場で見た実態を明かす――。
■癒されているのは人間だけ…
繁華街にある雑居ビルの狭い一室。入室すると、8畳ほどの空間の両側にずらっと生息地が違う約20羽のフクロウが等間隔で止まり木に固定されていた。
消毒薬のにおいがかすかに漂い、鳥の声入りの環境音楽が流れている。中央に置かれた金網のケージには、ナマケモノがいた。奥のケージにはスナネコが木箱の中で丸まっている。ナマケモノは熱帯の湿気の多い森林などにすみ、主に樹上で生活する。スナネコも北アフリカや中東の砂漠地帯に生息する野生の猫である。これは、実際に私が東京都内の某動物カフェで見た光景だ。
ハリネズミやウサギ、カワウソ、サルなどのほ乳類、ヘビ、イグアナなどのは虫類、フクロウ、インコなど鳥類といった野生動物を含めた多様な生き物が展示されている動物カフェ。その数は、国内に約100店舗余り、動物は400種以上に上る(WWFジャパン調べ)。

「かわいい」「癒やされる」と多くの客でにぎわう一方、「生態や習性への考慮が不十分な飼育環境で動物福祉(精神的・肉体的に十分健康で幸福であること)が守られていない」「不特定多数の触れ合いによる感染や細菌拡散の可能性がある」などと、専門家らから懸念する声が上がっている。
■巣箱に草を無理やり押し込む
こうした状況を改善するため、環境省は飼育環境や健康管理、展示時間などほ乳類に関する具体的な飼育基準を今年中にも策定する予定だ。ただし、具体的な基準で規制できるのは、ウサギ、ハムスター、モルモットをはじめとした十数種類に限られ、その他多くの動物種が置き去りにされる心配がある。
私はこれまで、さまざまな動物カフェを見学してきた。どこも触れ合いを売りにしており、特に小動物との過度な接触が目に付いた。土日祝日は客が多く、動物は絶え間なく触られていた。
例えば、モルモットは皆一つしかない巣箱に隠れるが、そこに客が草を押し込み食べさせている。大勢の子どもが逃げようとするヒヨコをつかまえている。小動物のエリアに1人しかいない店員が「触り終わったら、次の列の方にお譲り下さ~い」と叫び続けていた。痩せている個体もいた。
■これ狭すぎない?
ハリネズミカフェでは、小さな園芸用ポットのような容器の中に2匹が頭を突っ込んで眠っていた。狭過ぎてもう1匹は体半分が出ているが、客は引っ張り出してえさをあげている。
「かわいい」と目を細めていたが、ハリネズミは夜行性だ。日中は穴の中で過ごし、夜になると活発に活動し、よじ登ったり、穴を掘ったり、泳いだりする。神経質で小さな物音や気配を感じるだけで警戒する。
コウモリは羽を広げることしかできない程度の狭いケージの上方にぶら下がっていた。他の客も「これ狭過ぎない?」という会話をかわしていたほどだ。コウモリはパタパタと羽を広げたり空になったえさ皿を爪で持ち上げたりする動作を繰り返していた。この様子に私はショックを受けた。
野生動物学が専門の研究者は「狭い環境や退屈などストレス下で同じ動作を続ける常同行動と思われる」と指摘する。
■1メートル四方のケージで暮らすナマケモノ
カワウソ、カピバラなど水辺のほ乳類も本来の生態が無視され、室内で触れ合いの対象になっていた。
ある店では、「人慣れしていない」(店員談)カワウソは、深さ10センチ程度水を入れたプラスチック製の水槽の中で飼われ、他の「人慣れしている」(同)個体は触れ合い専用にされていた。カワウソは河川や海岸付近で生きるイタチ科の動物で、足には水かきが付いている。しかし、人間の赤ちゃん用のような浴槽では十分に泳ぐこともできない。

ナマケモノもよく見掛けた。本来は、長い爪を枝に引っ掛けすいすい動く。が、店では縦横幅1メートル余りほどのケージの中で、かぎ爪を金網に絡ませて左右に行ったり来たりするしかない。店員は「元々野生にいたみたいで、店に来て5年たつ」と話した。
スナネコは10分間500円でなでられるシステムで、いきなり現れた人間に「シャー、シャー」と威嚇していた。スナネコはなつかない。イエネコと違い、昼間は巣穴で休み夜は狩りに出掛け、げっ歯類やトカゲ、ヘビなどを食べる野生種であり、牙は鋭く、気性は荒い。
■取材を申し込むも「誤解を招く」
ジャコウネコ科のビントロングも人気だ。生息地はインド北東部、東南アジアの森林で、樹上で生活するが、狭いケージに閉じ込められていた。触れ合いの時だけ出され、しきりに客の背中に覆い被さろうとしていた。
丸い目、焦げ茶色のキンカジューは中南米の熱帯雨林に生息するアライグマ科。ほとんどの時間を樹上で過ごす。
ある店では、生後2カ月程度の赤ちゃんが小さなケージに入れられていた。退屈なのか、母親が恋しいのか、自分と同じ大きさのぬいぐるみに抱き付き、かみ続けていた。
衛生面でも気になる点は多かった。水用の皿は糞やえさなどで汚れ、床は一部分だけ糞が取り除かれているだけで、そこにほんの少しの敷料がまぶしてあった。ゴキブリなど虫がわいていた店もあった。
幾つかの動物カフェに取材を申し込んだが、「さまざまな愛護的思想がある中で誤解を招く」「いろんな方向で捉えられる可能性がある」などとして、すべて断られた。
■動物福祉ゼロの環境で飼育される絶滅の危機のある動物たち
このような状況を「公衆衛生と動物福祉の点で問題がある」と指摘するのは、田中亜紀・日本獣医生命科学大特任教授(野生動物学)だ。
「劣悪な飼育環境で動物福祉はゼロ、過度な触れ合いは動物と人の双方にとって感染症に罹患する危険性がある。日本は野生動物の生態、習性を配慮した飼育の規制、基準がなく、無法状態と言える」
WWFジャパンと北海道大獣医学研究院が昨年6~7月、東京周辺の計25店の動物カフェを対象に実施した調査でも、野生動物の保全や感染症などに対するリスクが浮き彫りになった。
調査の結果、ほ乳類、鳥類、は虫類、両生類のいずれか一類のみを扱っていたのは9店、複数がいたのは6割に当たる16店。個体数は計1702頭で、うち781頭は販売もされ、459頭がコツメカワウソ、シロフクロウなど絶滅危惧種に該当した。
脱毛・脱羽、皮膚炎、爪の伸び過ぎがあったのが13店、体毛や羽毛にふん便などの汚れがあった店が1割あった。

動物の体表をなでて採取した検体を解析した結果、計137種類の細菌を検出。
・O157に代表される腸管出血性大腸菌(4店)、下痢、発熱、嘔吐などを起こすサルモネラ菌(2店)といった病原性細菌

・ESBL産生菌(2店)やMRCNS(7店)といった薬が効きにくくなる薬剤耐性菌
なども確認された。
WWFジャパンは「絶滅危惧種やワシントン条約で国際取引が規制されている動物が展示されていた。動物カフェが利用者の飼育意欲を刺激し、結果的に違法取引など野生個体群への悪影響を及ぼす恐れがある。店舗では衛生管理の不備も確認され、不特定多数の人が動物に触れたり、店舗に滞在したりすることで接触感染や細菌の拡散といった潜在的な温床になり得る」と警鐘を鳴らす。
■犬、猫以外は基準なし
日本動物福祉協会調査員で獣医師の町屋奈(ない)さんは、国が行うべき改善策として「理想的には、飼育を許可する特定の動物種を指定し、それ以外は原則として飼育禁止にするホワイトリスト方式の導入が望ましい。ただし、現実的な方法としては、ブラックリストを作成して、第一段として愛玩目的での霊長類の飼育禁止、次に飼養許可を有しない業者による飼育の禁止、という段階的な規制強化」を提案する。
では今の法規制はどうなっているのか。動物愛護管理法には犬と猫に関する具体的な飼養管理基準しかなく、それ以外については「自然な姿勢で立ち上がる、横たわる、羽ばたくなど日常的な動作を容易に行うための十分な広さ及び空間」などと具体性に欠け、行政指導がしにくい点が問題視されている。
そのため、環境省は2022年から犬猫以外のほ乳類について飼育基準の検討を始め、昨年11月に石原宏高環境相が審議会に基準案を諮問。パブリックコメントの募集を経て、今夏に省令が改正される予定だ。
■不十分すぎる基準案
基準案によると、温度・湿度計の設置、健康管理、展示・休息時間、動物との接触方法などについてはある程度詳述されている。

だが、1匹当たりのケージの規模(縦、横、高さ)はウサギ、モルモット、ハムスターの3種類しか例示されていない。
その他11の動物(シマリス、チンチラ、デグー、フクロモモンガ、ヨツユビハリネズミ、フェレット、馬、豚、羊、ヤギ、牛)については、「行政職員向けの解説書で、各動物が必要とする広さと空間を可能な限り具体的に示す」としている。
なぜ、定量的な決まりを作らなかったのか。環境省動物愛護室の担当者は「国内の関連知見を調べても、健康に支障を来さない広さを確定するのが難しかった。海外の基準では、小動物でもかなり広い飼育スペースを求めている国もあり、それを日本に当てはめるのは難しい」と説明する。
「要するに日本の飼い方が狭過ぎるということ?」と聞くと、「『狭くても問題なく飼えている』という意見が有識者からもあった。野生動物にとって広い方がいいという意見は否定しないが、業に対する規制なので最低限のラインを考えた」という。
しかもこの11種類でさえ、展示個体のほんの一握りだ。前述のように触れ合い施設には、ほ乳類だけでも、前出のようなカワウソ、ナマケモノなど集客の目玉が数多くいるが、これらは解説書には出てこない。
規制対象がごく一部に絞られた結末について、有識者による飼育基準検討会の委員の一人は「ハムスター、モルモット、ウサギが最も飼育されている、という理由で3種になった。要するに『最大多数の最大幸福』という功利主義的発想だと思う」と答えた。
■不十分ではあるが…
基準解説書の素案からチェック点を一部抜粋する。
・生態と習性に応じた遊具、止まり木、砂場、水浴び場、休息ができる設備

・ケージなどの清掃、残さ、汚物などの適切な処理

・客との接触、客からの視線と照明・音響にさらされる状態を避け、触れ合い施設では1時間以上の休息時間――などが設けられているか
前出の町屋獣医師は基準案に以下の点を加えることを提案する。例えば
・店舗では、各動物種の生理、生態、習性などについて専門知識を持つ人材の配置と、2~3時間に1回は店内を巡回し、各個体の状態を把握して適切な管理ができる従業員数の確保。行政職員も知識を持ち、必要に応じて外部の専門家に相談する
・幼い動物は体温調節能力が未熟で免疫機能が弱く、ストレスや温度変化に極めて弱い。人との過剰な接触があると異常行動や疾病を引き起こすリスクが高まるため、原則として接触対象から外す
・環境エンリッチメント(種本来の行動を引き出すための工夫)への配慮が不可欠
・国際取引が禁止されているコツメカワウソなどが国内で繁殖・販売されている場合、関連する法律を明確に記載する

などだ。
以上のように、策定中の飼育基準には不十分な点が多い。とは言え、数値を含むものができたのは一歩前進だ。環境省は「11種は数値が定まっていないだけで行政指導の対象。それ以外はケースバイケースで自治体が判断する」としている。新基準によってどこまで適切に行政指導がされ、不適切な点が改善されるのか不安は尽きないが、推移をウォッチしていく必要がある。

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森 映子(もり・えいこ)

ジャーナリスト

1966年京都市生まれ。上智大学卒業後1991年通信社入社。専門分野はエシカル消費や動物福祉。特に実験動物や畜産動物、展示動物などを巡る課題、ヴィーガンという生き方など、動物と人間の関わりをテーマに綿密な取材を続けている。著書に『ヴィーガン探訪 肉も魚もハチミツも食べない生き方』(角川新書)『犬が殺される 動物実験の闇を探る』(同時代社)、共著に『マスコミ・セクハラ白書』(文藝春秋)など。テレビアニメ「ダーウィン事変」監修協力。

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(ジャーナリスト 森 映子)
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