■「ゆかり」「うなぎパイ」を超えた…
販売は愛知県東三河のみ。日持ちは3日間。にもかかわらず、ピーク時には1日1万個以上を売り上げた人気土産がある。
「ブラックサンダーあん巻き」
豊橋市にある創業75年の和菓子店「お亀堂」と、日本で一番売れているチョコレートバー「ブラックサンダー」のコラボ商品だ。2017年11月の販売開始から1年半で100万個を販売。一時的なブームに終わらず、発売から8年経った今も売れ続けている。
ブラックサンダー誕生の地である豊橋。駅のお土産コーナーには、数多くのコラボ商品が並ぶ。その中でも、ブラックサンダーあん巻きはダントツの売り上げを誇る。
豊橋駅の月間お土産ランキング(JR東海リテイリング・プラス調べ)で、2024年7月に名古屋のNo.1土産「ゆかり」を抜いて2位に浮上すると、同年11月には浜松を代表する銘菓「うなぎパイ」を抑えて首位に。その後も2位の座を堅持し、累計約500万個を売り上げた。
だが、このロングセラーが誕生するまでには、お亀堂の森愼一郎会長(当時は社長)が「2度とコラボはやりたくない」と表現するほどの悪戦苦闘の日々があった。
■イナズマ級の美味しさ
イナズマが走った。大げさではなく、はじめて「ブラックサンダーあん巻き」を口にしたとき、衝撃を受けた。
ほんのり甘くてもっちりとした皮に包まれているのはあんこではなく、滑らかな口溶けの濃厚なチョコレートクリーム。時々、ザクッザクッとブラックサンダーが主張する。
あん巻きも、ブラックサンダーも、東海圏の人間には慣れ親しんだ味。だが、一口食べて、『こんな感じだろう』と高を括っていた舌が驚いた。単なる1+1ではない。想像をはるかに超える、今まで味わったことがない、唯一無二のあん巻きだった。
「味にはとにかくこだわりましたね。知名度の高いブラックサンダーとコラボをして、一時的に話題になったとしても、美味しくなければ長く愛される商品にはなりませんから。
ただ、その『美味しさ』の基準が、和菓子と洋菓子では全く違うんですね。
加えて、ブラックサンダーも、あん巻きも、双方の看板商品。有楽製菓さんはブラックサンダーのブランドにふさわしいクオリティを求めるし、私たちには『うちは和菓子屋だよ』という想いがある。互いに譲れないところがありました」
有楽製菓との調整役を務めた、お亀堂の森会長は当時を思い出して苦笑いを浮かべる。
■「あんこ離れ」で売り上げは下降線
お亀堂は、1950年に、森会長とブラックサンダーあん巻きの製造責任者である石川行人専務の曽祖父・石川和男氏が甘味茶屋として創業。以来、大福やおはぎなど和菓子一筋に製造販売してきた。しかし「あんこよりもクリーム」という消費者ニーズの変化や、お土産、冠婚葬祭の需要減少、コンビニスイーツの充実に伴い、売り上げは下降線。ブラックサンダーあん巻きを発売した2017年当時は、売り上げが最盛期の4分の3まで落ち込んでいた。
■和菓子店はどんどん廃業していた
「『ゆでがえる』状態というか。お湯の温度は確実に上がっているのに、『まだ、大丈夫』『まだ、大丈夫』とごまかして、気がついた時には危機的な状態に陥っていました」と4代目社長の森貴比古さんは振り返る。
貴比古社長は大学院で海藻の研究をし、卒業後は食品会社で3年間勤務。「豊橋が好きだから、いつか地元に戻りたい」と考えていた。
「このままでは、いずれ立ち行かなくなる」
貴比古社長は学生時代の研究で培ったデータ分析力を活かし、会社の数字を評価し、選択と集中に着手。不採算店舗を閉め、看板商品であるあん巻きを売ることに注力することにした。「あん巻き太郎」というキャラクターを作り、これまで手付かずだったSNSでの情報発信を強化。和菓子の品評会にも積極的に参加していく。
ところで、「あん巻き」とはどのようなお菓子なのか? 名前から想像できるかもしれないが、練った小麦粉を薄く焼いた、どらやきのような生地で、餡を巻いた和菓子。東海道五十三次の三十九番目の宿場町として知られる愛知県知立市の名物で、江戸時代から東海道を往来する旅人の人気を集めていたそうだ。愛知県内では定番のお茶請けで、駅構内やサービスエリアで販売されている。
■もちもち食感のあん巻きが誕生するまで
お亀堂があん巻きの販売を始めたのは2000年。ちょうどその頃、京都のもちもち食感の和菓子が脚光を浴びていた。
すぐに商品開発に着手。小麦粉に、餅粉、米粉、いろいろなものを混ぜて、「作っては違う、作っては違う」とグラム単位で配合を変えながら焼いてみることを繰り返した。
小麦粉に餅粉を多く加えると、もちもち感は増すが、冷めると固くなり、膨らみが弱くなる。「まずは、小麦粉に対して“もちもち感を出す何か”をどれだけ加えると、固くならずにもちもち感を最大化できるのか。その限界値を知るところからはじめました」
黄金比率がわかると、石川専務は次に「何」でもちもち感を出すかを探った。「全国各地からさまざまな素材を取り寄せて、延々と試していきました」。
■年間100万個を売り上げる看板商品
何十種類と素材を試した末に辿り着いたのが、青森県産の「もち小麦粉」だった。もち粉や米粉を入れなくてももちもち感を出せる不思議な小麦粉。しかしこの小麦粉は青森県外では販売していなかった。「希少な小麦粉で、何度もお願いして、ようやく数量限定で分けてもらえることになりました。今でも毎月決まった量を直接青森から仕入れています」。
このもち小麦粉に、愛知県産小麦のきぬあかりや卵などを加えて、独自のもちもち食感を実現したあん巻きは、2015年にあいちのお菓子総選挙にて理事長賞受賞。伝統的な製法で風味を大切に炊き上げた極上あんと、これまでのあん巻きの常識を覆すもちもちの皮を実現したお亀堂の高い技術が評価された。翌年3月から豊橋駅のキヨスク(現PLUSTA Gift等)でも販売を開始し、年間100万個を売り上げるお亀堂の看板商品になった。
■とんでもない苦労が待っていた…
ブラックサンダーとのコラボも、あん巻きの販売強化の過程で生まれた。2017年夏、森会長がマクドナルドとブラックサンダーがコラボしているのを見て、「うちのあん巻きでもコラボができたら」と直感。すぐさま、有楽製菓の河合伴治会長(当時は社長)に直談判した。
森会長と河合会長は豊橋市の経営者の集まりなどで「古くから知った仲」だった。「豊橋のためになるのであれば、やりましょう」と、とんとん拍子に話が進んだ。
皮は既に完成したものがある。餡にブラックサンダーを使えばいいだろうと気軽に考えていたが、そこからは「とんでもない苦労」が待ち受けていた。
ブラックサンダーをそのまま皮に包んでみたが、ブラックサンダーのザクザク感と皮のもちもち食感の相性がどうも良くない。ならばと、ブラックサンダーを砕いて、あんこに混ぜ込んでみた。
つぶあん、こしあん、黄身あん、白あん。それぞれにブラックサンダーを加えては食べ、納得するものができると有楽製菓へ持っていく。だが、どれも有楽製菓を納得させるには至らなかった。
■「あんこベースでは無理」和菓子職人苦渋の決断
森会長は、試食会のたびに、挙がった意見を一字一句漏らさぬように記録した。取材時に、有楽製菓からのフィードバックが書き留められたレポート用紙を見せてもらったが、「あんこの味が強い」「皮が強くて、ブラックサンダーの印象が弱い」「存在感はあるが、製造が難しそう」など、率直な意見が十数ページにもわたって細かい文字で書き込まれており、当時の苦労がしのばれた。
「またダメだったか」。製造チームは石川専務を中心に「ああしてみよう」「こうしてみたらうまくいくのでは」と試作を重ねた。悠長に開発している時間はない。お土産需要が高まる年末年始までになんとか間に合わせたい。「一日中、何かいい方法がないかずっと考えていた」。会社の命運がかかったプロジェクト、やめるという選択肢はない。石川専務は、お亀堂の職人の力を結集して、この難題に挑んだ。
「ブラックサンダーにあんこを塗って巻いてみたり、ブラックサンダーの割合を可能な限り多くしたり。試行錯誤を重ねた結果、『あんこベースでは無理だ』という結論に至りました。もうこれ以上ないというくらい試し尽くしたので、吹っ切れて、最終的にはチョコレートだけでいこうと決断しました」
毎日あんこを炊き上げてきた、和菓子一筋30年の和菓子職人としての無念さが滲む。ただ同時に、「これまで一度も扱ったことのないチョコレート」という未知なる素材への探究心も湧いてきたという。
■未知の材料、チョコレートを一から研究する
「うちは饅頭屋だから、チョコレートの特性が全く分かっていなかったんですよ」
和菓子屋のお亀堂の製造現場には、ブラックサンダー以外のチョコレートがなかった。石川専務はあん巻きの皮を開発した時と同じように、片っ端から全国のメーカーのチョコレートを取り寄せ、研究を始めた。
目指したのは、「目隠しをして食べても、ブラックサンダーあん巻きだとわかるくらいの味と食感」。そのためには、ブラックサンダーの特徴である、ココアクッキーのほろ苦さとチョコレートの甘さ、そしてザクザク食感を表現する手段を考えなければならない。
一般的なチョコレートは、冷やすと固まってしまう。チョコレートを溶かして、砕いたブラックサンダーを混ぜ込んでも、固まってしまえば、ブラックサンダーをまるごと入れたのと変わらなくなる。ブラックサンダーのザクザク感をつぶ立たせるためには、ベースにあんこのような柔らかさをもつチョコレートが必要だった。
幸運にも、油脂メーカーから、常温でも固くならないチョコレートクリームが開発された。早速取り寄せ、砕いたブラックサンダーを混ぜ込んでみた。「これだ」。ようやく、光が差した。
細かいことだが、土産品であるブラックサンダーあん巻きは、夏場に長時間持ち歩くことも想定される。「暑くてもやわらかくなりすぎないように、夏と冬ではチョコレートの配合を変えています」。チョコレートならではの難しさも痛感した。
■どうやってブラックサンダーを砕くか
「残る問題は、どのようにブラックサンダーを砕くのかでした」(石川専務)
試作品の段階では、職人が包丁やめん棒で砕いていたが、それでは作業効率が悪く、量産には向かない。だが、ミキサーを使うと、つぶが揃ってしまい、ザクザク感が表現できない。
「何か方法はないか……」。作業場で思案していた時、鬼まんじゅうを作っている職人がふと目に留まった。鬼まんじゅうとは、東海地方の郷土菓子で、角切りのさつま芋が入った蒸しまんじゅう。ごつごつしたさつま芋が鬼の角や金棒に見えることが名前の由来と言われている。お亀堂の人気商品の一つだ。
さつまいもを1cm角くらいのダイス状に切る機械で、ブラックサンダーをカットしてみる。それをやわらかいチョコレートクリームに混ぜ込み、皮で包む。ブラックサンダーの「ザクザク」とあん巻きの「もちもち」の両方が際立つ、最適なバランスだった。ついに、目をつぶって食べてもわかる「食感」を実現する「生産工程」が確立した。
■こだわりの味と稲妻の焼き印
最後の最後まで議論を重ねたのは、「味」だった。「和菓子と洋菓子では甘さに対する考え方が違う。砂糖は入れるほど日持ちするので、昔は多く使っていました。今は健康志向もあり、和菓子ではできるだけ砂糖を控える傾向にあります。一方で洋菓子、特にチョコレートは甘さが肝。何十種類もの餡を試食して、考えをすり合わせ、最終的には有楽製菓の河合会長も僕も『これでいこう』と納得する味になりました」。森会長は静かに胸を張る。
仕上げとして皮に押す焼印にも手を抜かなかった。ブラックサンダーのロゴは、焼印のサイズが小さすぎて細かい部分が潰れてしまう。ブラックサンダーのキャッチコピー「黒い稲妻」から、黒く塗りつぶした稲妻にしようという案も出たが、焼き付ける面積が多いと焦げの苦味が出てしまう。最終的には稲妻の枠だけの焼印にすることに決まった。
■職人総動員で1日1万2000個を手作り
細部にまでこだわり抜いたブラックサンダーあん巻きは、2017年11月に発売開始。その美味しさがSNSなどで話題となり、発売から1年半で100万個の売り上げを達成した。
「こんなに売れるとは誰も予想していませんでした。月に1度行う社内の商品会議でも『厳しいんじゃないか』という声が上がっていたほどで、僕自身もここまでのヒットは想像していませんでした」と貴比古社長は驚きを隠せない。
開発を担当した石川専務は、「豊橋の有名洋菓子店のシェフが、ブラックサンダーあん巻きを食べて、『あ、これ、うまい』と口にしたのを見て、ようやく自信が持てました」と当時の心境を振り返る。
「ブームになってしまうと、長く売れなくなってしまうんじゃないかと心配したほどです。おかげさまで、今も売れ続けています」と森会長は喜びを隠せない。
販売直後は製造能力を遥かに上回る注文が殺到し、早朝から夜まで職人総動員で1日1万2000個を作り続けた。
「製造が追いつかないくらい売れてね。皮を焼く機械が壊れてしまったら全てが止まってしまうので、バックアップのために新しく1台買ったんです。でも結局は、2台をフルに使って、作り続けました」(森会長)
今でも多い時には1日3000個、平均で2000個ほど、熟練の職人たちが変わらず一つひとつ丁寧に手作りしている。
■業績V字回復でボーナス15%増
新たな豊橋名物となったブラックサンダーあん巻きは、これまであまり和菓子を食べなかった男性や若い世代にも顧客層を拡大。2025年末までに累計販売数500万個を突破した。
このヒットを起爆剤に、「ゆでがえる状態」だった老舗和菓子店は、業績をV字回復。2024年には過去最高収益を上げた。2023年以降は毎年、賃上げを行い、ボーナスも平均10~15%の増額を行っている。
帝国データバンクの統計によると、2025年1月から7月の菓子製造小売事業者の倒産は39件で、前年同期の約6割増。過去最多だった2019年の49件を更新するペースだという。逆風が吹き荒れる製菓業界で、お亀堂の快進撃は際立っている。
■地元企業に助けられた恩を、地元に還元
ブラックサンダーあん巻きは、なぜここまで愛される商品になったのだろうか。
森会長は「他の和菓子屋が真似できないところがヒットの要因なのではないか」と分析する。
「例えば、いちご大福は20年くらい前にどこかのお店が作ったんです。和菓子の世界では、大きなヒット商品が出ると、日本中の和菓子屋さんが真似し始める。私たちも常に全国のお菓子をリサーチしています。でもこのブラックサンダーあん巻きは、材料の関係で他では決して真似できない。それが大きな強みですね」
森会長は「2度とコラボはしたくない」と冗談まじりに話していたが、実はお亀堂はブラックサンダーとタッグを組んで以降、地元の企業や農家とコラボを積極的に行っている。
あん巻きで言えば、2024年に名古屋駅で行列の絶えないスイーツ「ぴよりん」とのコラボを実現した。これは単なる人気キャラクターとの共演ではない。誤嚥事故をきっかけに学校給食でのうずら卵の使用が中止になり、生産過多になった豊橋産のうずらを餡に使うことで、地元の農家のピンチを救いたいという思いがあった。実際に、販売開始から1年で豊橋産のうずら卵を25万個使用している。
■浜松と名古屋に挟まれオリジナル土産がなかった
豊橋でしか買えない「プレミアム感」も人気を押し上げているのではと、貴比古社長は付け加える。
有楽製菓は創業家が豊橋の出身という縁で、東三河エリアの活性化に力を入れている。マクドナルドなどのナショナル企業とのコラボを展開する一方で、「東三河の企業による地元での対面販売」する商品については、「東三河コラボ」として特別な契約をし、優遇をしている。そのため、ブラックサンダーあん巻きも東三河外での販売はできないが、その弱点が結果的に強みとなった。
「豊橋は浜松と名古屋の間になるので、これまで豊橋オリジナルのお土産がなかったんです。豊橋で長くお菓子屋を営んできたものとして、『豊橋に来たら、これ』という名物を作りたかった。その第一歩が叶いました。
これからも、豊橋でしか食べられないお菓子を作り、お菓子を通じて豊橋の知名度を上げて、豊橋にたくさんの人に来ていただく。そういう好循環を作って、地域を盛り上げていきたいと考えています」(貴比古社長)
「雷が多い年は豊作になる」という古くからの言い伝えがある。地元を愛する老舗が「2度とやりたくない」ほど情熱を注いだ小さな「イナズマ」は、今、豊橋のまちに光と実りをもたらし続けている。
----------
山田 智子(やまだ・ともこ)
スポーツライター&カメラマン
日本サッカー協会勤務を経て、2013年に独立。フリーのスポーツライター・カメラマンとして、東海地方を拠点にバスケットボール、サッカー、フィギュアスケートなどさまざまなスポーツの現場を飛び回る。『Number』『中日新聞』など各種媒体に寄稿するほか、愛知県のバスケットボールWEBマガジン「愛B café」を運営。競技の魅力だけでなく、アスリートの知見のビジネス活用やスポーツを通じた街づくりにも関心を持ち、現場目線での取材・執筆を行っている。
----------
(スポーツライター&カメラマン 山田 智子)

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
