社員の定着率が低い企業はどこに問題があるのか。ラーニングエッジ代表の清水康一朗さんは「新卒社員・中途社員への教育・フォローが不足している企業が多い。
社員が辞めていく理由を正確に把握しないと、職場の真の課題に気づけず、同じ失敗を繰り返すだけだ」という――。
■採用しても採用しても、人が辞めていく
「今年は採用を強化したのに、半年も経たずに何人も辞めてしまった」

「常に求人を出しているが、人が定着しない」
こうした悩みを抱える企業は年々増えています。人手不足が叫ばれる中、採用に力を入れているにもかかわらず、離職が止まらないから毎月人を採用しないと会社が回らない。
その結果、採用費に予算の大半を取られてしまう――。
このような採用に関する相談を、私たちはクライアントから数多く受けています。
詳しく話を聞いてみると、そうした企業にはいくつかの共通点があることが分かりました。今回は、その実態と共通点を、実際にお問い合わせいただいた4社のクライアントの具体事例をもとにお伝えします。
■「面倒見のいい職場」と自認していたが…
事例①「独自ルール」が多すぎて馴染めない会社
ある中小の電気メーカーでは、新卒採用に毎年力を入れていました。
しかし、入社1年以内の離職率は50%以上。原因を探ると、社内には明文化されていない独自ルールが数多く存在していました。
・上司より先に帰ってはいけない

・会議では若手は発言しないのが暗黙の了解

・仕事の進め方は先輩のやり方を真似るのが正解

・社内飲み会への強制参加

・業務時間外での連絡にも即レス必須
これらはベテラン社員にとっては「当たり前」のことでしたが、新卒者や転職者にとっては強い違和感の連続でした。質問すれば「そんなことも分からないのか」と言われ、自分なりに工夫すると「余計なことをするな」と注意される。

その結果、「自分はこの会社に合っていない」と感じ、早期退職を選ぶケースが続出したのです。
企業側は「厳しいが面倒見の良い職場」と認識していましたが、外から来た人には閉鎖的で息苦しい環境に映っていました。
■「即戦力なんだから説明不要」は勘違い
事例② 教育・サポートがなく「放置」される新人
IT系ベンチャー企業で起きた事例です。即戦力を求めて転職者を積極採用していましたが、入社3カ月以内で辞める人が後を絶ちませんでした。
理由はシンプルで、「即戦力=説明不要」という誤った認識が定着し、肝心な教育やフォローの体制がなかったのです。入社初日に簡単な説明を受けただけで、翌日から実務に投入され「前職ではどうやっていたの?」と言われながらも、会社独自のルールや背景は共有されませんでした。
忙しい職場だったため、質問すると「後にして」「今は無理」と言われることも多く、次第に相談すること自体を諦めてしまいます。ミスをすれば叱責され、「即戦力で採用したのに」とプレッシャーをかけられる。最終的に「この環境では力を発揮できない」と判断し、短期間での退職に至りました。
この会社では、「できる人が生き残る」という考えが強く、新人が辞めることを問題視していませんでした。採用コストは膨らみ、組織としてのノウハウも蓄積されず、組織としての成長も停滞していったのです。
■対立や影口は「社会人なら普通」?
事例③ 人間関係の悪さに気づいていない職場
大手コンサル会社では、表向きは「風通しの良い職場」を掲げていました。
しかし実際には、部署間の対立や陰口が横行し、失敗の責任を押し付け合う文化が根付いていました。
新卒で入社した田中さん(仮名)は、最初は明るく意欲的でしたが、次第に表情が暗くなっていきます。上司に相談しても「気にしすぎ」「社会人なら普通」と取り合ってもらえず、仕事で成果を出しても、「それが当たり前だから」と評価されない状況が続きました。
その結果、虚しさと孤立感を深め、1年を待たずに退職してしました。
長く勤めている社員ほど環境に慣れてしまい、「どこもこんなものだ」と問題意識を持っていませんでした。しかし、新しく入った人ほど職場の歪さに敏感に気づき、次第に仕事への意欲を失ってしまうのです。
■「長時間残業が当たり前」は時代遅れ
事例④ 自覚のない「ブラック化」が進む会社
長時間労働が常態化している企業では、「若いうちは苦労すべき」「残業は成長の証」といった価値観が根強く残っていることがあります。ある不動産の営業会社では、月70~80時間の残業が当たり前でしたが、管理職はそれを問題視していませんでした。
ところが、新卒者や若手社員は次々に退職。「思っていた働き方と違う」「心身がもたない」という声が多く上がっていたにもかかわらず、経営層は「最近の若者は根性がない」と片づけてしまっていました。
さらに、残業代についても事前に説明されていた金額より大幅に少なく、労働時間に見合っていなかったことが判明し、退職に至ったケースもあります。
この“認識のズレ”こそが、定着率悪化の大きな要因です。

■無自覚な「ブラック職場」は失敗し続ける
これらの事例に共通するのは、「辞める側に原因を求めている」という点です。
しかし実際には、人が定着しない会社ほど、自社の環境を疑っていないケースがほとんどです。
特に注意すべきなのは、「辞めた理由」を正確に把握できていない企業が非常に多いことです。退職時の面談では本音が語られにくく、「家庭の事情」「キャリアアップのため」といった無難な理由で処理されがちです。その結果、企業は真の課題に気づけないまま、同じ失敗を繰り返してしまいます。
独自ルールは本当に必要なのか。新人が安心して質問できる体制は整っているか。
人間関係の問題を放置していないか。働き方は時代に合っているのか。
これらを客観的に見直すことが、定着率改善の第一歩となります。
また、定着率の高い企業に共通しているのは、特別な制度や高待遇だけではありません。新人の声に耳を傾ける姿勢、失敗を責めるのではなく学びに変える文化、そして「ここで働き続けるイメージ」を持たせる丁寧なコミュニケーションです。

これらは大きなコストをかけなくても、今日から見直すことができます。
弊社でも四半期に一度、社員全員の目標設定の確認や、日々の社員の業務の流れや近況などを把握するフィードバックセッションも行っております。
採用はゴールではなくスタートです。
新卒社員・中途社員が入社した後の教育・フォローが不足している企業は、決して少なくありません。人が辞め続ける会社は、信頼もノウハウも蓄積できません。逆に、働きやすい環境を整えた企業には、人は自然と集まり、長く活躍してくれるのです。
「人が辞める会社」から「人が育ち、残る会社」へ――。
その転換点は、経営層や管理職が現実と向き合うところから始まるのです。

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清水 康一朗(しみず・こういちろう)

ラーニングエッジ代表

ラーニングエッジ株式会社の代表取締役社長。Forbesオフィシャルコラムニスト。「絆徳の経営スクール」代表。会員1.6万人のコミュニティ「社長の教養」を主宰。
セミナーズの創始者。鮎川義介氏などの日本的経営の研究のみならず、アンソニーロビンズ日本事務局長、ブライアントレーシージャパン株式会社の代表取締役会長、ジェイエイブラハムジャパン株式会社の代表取締役会長、ドラッカー学会推進員などを歴任。日本人の経済教育、歴史教育、道徳教育をライフワークとして力を注いでいる。

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(ラーニングエッジ代表 清水 康一朗)
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