■「地方の女性流出」説の真偽
地方においては深刻な人口減少問題があります。
総務省の発表によれば、2025年の都道府県別の転入超過数で転入超過(プラス)なのは東京、神奈川、埼玉など7都府県のみで、残りの40エリアはすべて転出超過(マイナス)となっています。
特に、人口移動の大部分を占めるのは20代で、これは、進学や就職きっかけで都会に若者が移り住むことによります(実質18歳で転出したとしても在学中の住民票は地元のままの場合もあるので)。
地方の20代の転出超過数だけでみると、男<女が多く、これが「地方の女性流出」といわれる根拠となっています。そのため「地方からの女性の流出を防げ」や「女性の流出に危機感なくして地元人口の未来なし」などと言われたりしますが、果たしてそれは問題の本質をとらえているでしょうか。
そもそも、この転出超過数だけを見て判断するのは正しくありません。
確かに、転出超過数が男<女であるのはその通りですが、そういわれると各地方から流出する若者は男性より女性のほうが多いとイメージしてしまうでしょう。かつて、地方から出てくるのは男性でした。それが令和では逆転したのかと思う人もいるかもしれません。
■男性は出ていくが、戻ってもくる
1975年にヒットした太田裕美さんの「木綿のハンカチーフ」という曲があります。「生まれ故郷に恋人を残して都会に出ていく僕」を歌ったもので、若い男性が就職で上京する当時の経済成長期の世相を反映したものです。
しかし、実は逆転など起きていません。昭和も平成も令和も、地方から転出する20代の若者は男性のほうが多い。実数においても人口比転出率にしても男>女です。
では、なぜ地方の転出超過が男<女になるかというと、男性は転出も多いが、その分転入も多いからです。図表1は、各エリア別に男女それぞれの転出率と転入率を比較したものです。すべてのエリアで、男性のほうが女性より転出も転入も多くなっています。
つまり、これは、地方における問題は、女性の流出ではなく、「転出した女性が男性に比べて戻ってこない問題」とも言えるわけです。単に、転出超過だけを見たのではその本質を見逃してしまいます。
■問うべきは「なぜ戻らないのか」
だとすれば、問うべきは「なぜ女性は地方から出て行ってしまうのか」ではなく「なぜ女性は戻ってこないのか」になるわけです。
とはいえ、ここも勘違いしてはいけないのは、単に、男性より少ないだけで、転出した女性が地元に戻らないわけではないことです。
そこで、いったん生まれ故郷を出ていった若者がどれくらいUターンしているかについても見ておく必要があります。
社人研の2023年人口移動調査において、男女年齢別にそのデータがあります。都道府県をまたぐ移動はほぼ20代までで完結するので、30~34歳のデータを見てみます。元データには不詳が含まれているので不詳を除く割合で再計算したものです。
男性
・一度も転出したことがない:38.9%
・転出したがUターンで戻ってきた:26.5%
・転出してそのまま戻っていない:34.6%
女性
・一度も転出したことがない:40.6%
・転出したがUターンで戻ってきた:23.8%
・転出してそのまま戻っていない:35.5%
■「出たら戻ってこない」1位は長崎
男性に比べて女性はUターン率が多少低いものの、その分転出率も低いので、「一度も非転出」と「Uターン」をあわせて「結果地元にいる」割合は、男性65.3%、女性64.5%とほぼ同等です。「出ていったら戻らない」非Uターン率は1%ほど女性のほうが高いですが、それもさほど違いがあるわけではありません。
ちなみに、非ターン率は35歳以上では増えもせず減りもせず推移していますので、大まかにいえば、「大体3分の1は生まれ故郷から出ていったきり戻ってこない」がデフォルトなのだと考えたほうがいいでしょう。
もちろん、これは全国値なので、都道府県別にみれば、非Uターン率が高低の差はあります。非Uターン率が高い順に並べると図表2の通りです。
非Uターン率が40%を超えるのは、上から、長崎、佐賀、鹿児島、秋田、福島、島根、岩手の7県です。一方で、20%を下回るのが、愛知と沖縄です。
40%を超える7県にすれば、「出て行ってしまったら戻ってこないのだから流出防止は必要ではないか」と思うのもわからなくはないですが、そんな戦国時代や江戸時代の逃散禁止令みたいなことは現実的ではないでしょう。
■若者が出ていく「本当の理由」
マイナビ「2024年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査」によれば、若者が地元ではなく都会へ行きたい・地元に戻らない最大の理由は男女とも「魅力的な仕事と高い給料」です。
地方の産業・雇用環境を整えることは重要ではあります。が、その実現は言うほどたやすくはありません。仮にそれが実現できたとしても「出ていきたい若者」の気持ちは変わりません。なぜなら、仕事や給料だけではなく「都会に出ていきたい・そこで何かチャレンジしたい」という気持ちの部分が大きいからです。
「地方からの女性流出」だけを問題視する論の中には、都会へ出ていった女性を対象とした調査結果だけで、地方の閉塞感や古臭い慣習、干渉しすぎな空気感などを殊更強調する向きがありますが、マイナス面が改善されれば出ていかないかというと、そうではないはずです。
前述した通り、出ていく割合は3分の1程度一定存在するので、「出ていきたい」という感情が先にあり、理由は後付けであるという冷静な見方が必要です。
「親元、地元から離れたい」という気持ちの中には「都会に出ていけば何か別の世界があるかもしれない」という期待が大きいわけです。つまり、若者が出ていくということは、そうした期待や希望や夢を抱いて出ていくのであって、それを妨げて一体何をしたいのでしょうか。
■「流出防止」はむしろ逆効果
転出が多い地方が目指すべきは、人口流出の防止ではなく、むしろ若者が積極的にチャレンジすること自体を応援する姿勢のほうです。
そもそも「流出防止」という思考自体が、「若者は自治体の資産なんだから、出ていかれては損失」という窮屈なゼロサム発想に基づいています。まるで、貯めた預金通帳の額が減ることが嫌で、何も使わない人のようです。
若者が自治体に限らず、国や未来の資産であることはその通りですが、「その資産を減らさないように使わない」のではなく「資産だからこそ活躍させる投資」視点への切り替えが必要でしょう。
地方における今までの問いは、「どうすれば出ていかせないか」「どうすればUターンさせられるか」に終始していたと思います。が、その問いに縛られると、かえって逆効果になりかねないことにもなります。
新しい問いとは、「地元に残るか出ていくか、戻るか戻らないか」を目的化せず、生まれ故郷である地元への誇りと愛着という関係性をどうすれば継続させられるか、という方向です。
■必要なのは「北風」ではなく「太陽」
出ていく若者側の視点に立てば、「絶対に出ていかせない。出ていくのは地元に対する裏切り行為だ」などという意地悪な自治体より、「がんばっていってらっしゃい。応援します」という自治体のほうが誇りに思えるでしょう。「うちの地元はいい所だよ」と広報の役割も果たしてくれるでしょう。
大都会の仕事でキャリアとネットワークを作った若者が、今度はそのスキルで地元に貢献しようと戻ってくる可能性だってあります。あわせて、都会で夢破れ、疲れた若者をあたたかく「おかえりなさい」と迎える制度設計があればなおよいでしょう。一度出た若者を裏切り者扱いしていたのではそんな未来は作れません。
残念ながら、地方の人口減少を止める魔法などありません。若者の転出だけではなく自然減もあるからです。
若者が町を出ることは裏切りでも悪でもない。別れではなく旅立ちです。戻るかどうかは本人の自由ですが、快く旅立ちを応援してくれたという思いや帰れる場所があるという安心は若者の人生のどこかで必ず意味を持つでしょう。
もちろん、こうした取り組みは自治体間や国と連携しながら進めていく必要がありますが、自治体間の人口の奪い合い視点から脱却し、どこの地方も若者の挑戦を応援するという循環構造を作り出すことが、結果として関係人口を増やすことになるはずです。
「北風と太陽」の寓話にもあるように、地方がやるべきは北風政策ではなく、若者の希望を照らす太陽政策のほうでしょう。
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荒川 和久(あらかわ・かずひさ)
コラムニスト・独身研究家
ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『「居場所がない」人たち 超ソロ社会における幸福のコミュニティ論』(小学館新書)、『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』(ぱる出版)、『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会』(PHP新書)、『結婚しない男たち』(ディスカヴァー携書)、『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(中野信子共著・ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。
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(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)

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