外国人を受け入れ続けた先に何があるのか。ドイツ在住作家の川口マーン惠美さんは「医療財政が崩壊寸前だ。
もともと高額な保険料が今年さらに上がった。もちろん、少子高齢化の影響もある。しかし無視できないのは、2015年以降、大量に受け入れられた難民の存在だ」という――。
■保険料値上げが続いている
最近、ドイツの医療保険について、「慢性的破産状態」、「壁に向かって突進」などといった報道が相次ぐ。現在、国民はこれまでにないほどの高額の保険料を支払っているにもかかわらず、それがさらに上がっていく。
保険料は昨年(2025年)も引き上げられたが、以前、それを決めた時、ラウターバッハ保健相(社民党)は、「2年続きの値上げはないだろう」と言った。しかし、あに計らんや、今年も医療保険会社の半数は値上げを断行。特に、個人が任意に追加している保険の料金が、2年続きで大幅に上がった。
ドイツは皆保険の国で、国民は収入があってもなくても、必ず医療保険に加入する義務がある。生活保護受給者や低所得者の場合、保険料は補助、あるいは免除で保険に組み込まれ、最低の医療は保証される。昔、私がドイツで留学生だった頃、大学の学費はタダだったが、法定の最低限の医療保険だけは支払った。
ところが、連邦会計監査院によれば、医療保険の収支決算は、24年が66億ユーロのマイナス。
内部留保金も底をつきかけているという。
それどころか、コンサルティングのデロイト社の予測では、赤字額は30年には900億ユーロ、50年には3000億ユーロという信じ難い数字が出ている。
戦後長らく安定的に機能してきた医療保険制度が、なぜ、今になってこのような壊滅的状態に陥ったのか?
■健康なのに保険料を納めない人たち
破綻の原因を一口で言うなら、異常な速さで進む少子高齢化や、保険料を納めていない外国人の急増など、状況が刻々と変わったにもかかわらず、それに対して責任ある対応をする政治家が存在しなかったことだろう。
ちなみに200億ユーロあった留保金は、第4次メルケル政権のシュパーン保健相(キリスト教民主同盟)が、「医療保険は銀行ではない」と言って急激に切り崩しに掛かった結果、現在46億ユーロにまで減っている。
たとえ、当時、コロナ対策で医療費がかさんだとはいえ、保険会社サイドとしては、無理な出費を押し付けられ、留保金をここまで減らすことを強いられたわけで、当然、政府のやり方には不満を持っている。
医療保険会社の支出額は年々増えており、昨年は3410億ユーロで、前年より220億ユーロも増した。
中でも大きな割合を占めているのが大病院のコストで、24年にはこれだけで1020億ユーロが費やされた。
その他、医薬品に550億ユーロ、各クリニックへの支払いが500億ユーロ。
もちろん、高齢化の影響もあれば、医学の発達で治療の可能性がどんどん広がり、それが医療費を押し上げているということもあるだろうが、しかし、この調子では、ちょっとやそっと保険料を上げても追いつかない。
そもそも医療保険のメカニズムとは、健康で働いている人が一定のお金を積み上げ、病気の人を助け、また、自分が病気になった時に助けてもらうというものだ。なお、一家の働き手が保険料を納めていれば、その扶養家族がこのメカニズムに組み込まれるのも、当然のことだった。
ところが今、保険金を全く納めずに保険医療を受けている人たちが激増している。

■人口の8%が「市民金」受給者
21年12月に社民党政権が成立したが、当時、彼らが自信満々で整備したのが市民金制度だ。
これは、収入のない人や、少ない人、あるいは単に働いていない人など、お金のない人なら誰でも貰えるいわゆるベーシックインカムで、23年1月から施行された。その市民金の受給者が、24年には550万人に膨れ、すでに人口の8%。そして、その約半分が外国人だ。
市民金受給者の医療保険料は国が肩代わりし、一人につき一定額を保険会社に支払っているが、問題はそれが圧倒的に足りず、医療費をカバーできていないこと。今や彼らの医療費の3分の2が保険会社の持ち出しとなっているといい、その額が年間100億ユーロ。これでは保険会社はやっていられない。
ただ、病院は病院で、多くの患者が来ても、保険診療をしている限り、忙しいばかりで利は薄い。しかも、高騰した人件費や光熱費で採算が合わなくなってしまったケースが増えており、24年には、24~28の病院が破産手続きに入ったという。要するに、あちらもこちらもヒビが入っている。
■「歯科治療は保険から外してはどうか」
ドイツでは、市民金の受給者だけでなく、誰でも贅沢さえ言わなければ医療は全て無料だ。手術も入院も無料だし、また、妊娠中の検診から出産も全て無料だし(出産は医療ではないが、医療保険でカバーされている)、子供(18歳まで)の検診も法定の予防接種も無料。

2015年に大量の難民が入り、ドイツの出産率が上がったことは、それはそれで結構だ。ただ、実際問題として、保険料を払ったこともなく、今も払っていない大勢の人たちが、この10年以上、病院に詰めかけていたわけで、その経済的弊害が今、覆い隠せなくなっている。
そして、これが保険料を押し上げ、最終的には国民の負担となる。
最近、歯科の治療は全て保険診療から外してはどうかという案が一部の政治家から出て、すぐに消えたが、これはおそらく警告の一つだろう。
虫歯になるかどうかは、子供の時からの衛生が物を言う。歯磨きを怠っていた人たちが歯医者に押し寄せれば、これまでの制度に無理がかかることは、誰にでもわかる。
ただ、ドイツ政府は人手不足や多文化共生を理由に、今も移民政策を推進しており、「外国人は医療保険の重荷になっているのではなく、医療保険の加盟者を増やしてくれる」と主張する。
ただ、問題は加盟者の数ではなく、どれだけの加盟者が保険料を支払っているかということだ。
■これが「難民ようこそ政策」の10年後の姿
ミュンヘンの元Ifo経済研究所所長で、著名な経済学者でもあるハンス=ヴェルナー・ジン氏は、「ドイツは、税金も社会保障費も払っていない人をあまりにもたくさん養いすぎている」と指摘していた。
また、青山学院大学の福井義高教授は次のように語っている。
「誰にでも一定の生活水準を保障しようという福祉国家と大量移民は両立しません」〔『優しい日本人が気づかない残酷な世界の本音』(ワニブックス)〕。
移民の導入には、メリットとデメリットがある。
2015年、ドイツ政府は、大量に入れた難民が労働移民になると期待したが、10年後の今、図らずもデメリットに押しつぶされそうになっている。
移民が増えれば、安い労働力を得られる大企業にとってはメリットだ。しかし、働いていない移民が増えすぎると、その補助は全て税金で負担するわけで、国民全体としてはほとんどメリットはなくなる。
治安が悪化し、社会福祉制度が犠牲になり、また、ドイツ語を解さない生徒が多すぎて崩壊する学校も出てくる。教育は国家の要だ。
だからこそ、昨年のドイツの総選挙の大きな争点の一つは移民政策だった。
日本の政治家は、なぜこれらの事象を見ようとしないのか?
■問題の根本は“移民”ではない
ただ、私が強調したいのは、だからと言って移民が悪いのではないということ。
より良い生活を求めて異国を目指すのは、当然の欲求だ。悪いのは、きちんとした枠組みを作らずに、ダラダラと曖昧な移民政策を続けるドイツ政府だ。
それを日本に置き換えるなら、今後、大量の移民のせいで、日本の文化や、伝統や、治安が次第に侵食されていくならば、悪いのは政治だけでなく、それを放っておく私たち自身だと思う。
1クラスに2~3人、日本語の苦手な子供がいてもどうにかなるが、10人もいたら、もう取り返しはつかない。
だからこそ高市内閣は、どんなに産業界からの要望が強かろうとも、移民の大量導入には慎重に対処してほしい。

人手不足の解消も、日本にはそれを可能にする技術力、何よりイノベーションの力があるはずだ。だから、もう決まっていることだからと言わず、もう一度立ち止まって、他の可能性を模索してほしい。そして何より、国民が全力で声を上げるべきだ。
これは、日本の文化と伝統、そして、子供たちの未来を守る戦いなのだから。

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川口 マーン 惠美(かわぐち・マーン・えみ)

作家

日本大学芸術学部音楽学科卒業。1985年、ドイツのシュトゥットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科修了。ライプツィヒ在住。1990年、『フセイン独裁下のイラクで暮らして』(草思社)を上梓、その鋭い批判精神が高く評価される。2013年『住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち』、2014年『住んでみたヨーロッパ9勝1敗で日本の勝ち』(ともに講談社+α新書)がベストセラーに。『ドイツの脱原発がよくわかる本』(草思社)が、2016年、第36回エネルギーフォーラム賞の普及啓発賞、2018年、『復興の日本人論』(グッドブックス)が同賞特別賞を受賞。その他、『そして、ドイツは理想を見失った』(角川新書)、『移民・難民』(グッドブックス)、『世界「新」経済戦争 なぜ自動車の覇権争いを知れば未来がわかるのか』(KADOKAWA)、『メルケル 仮面の裏側』(PHP新書)など著書多数。新著に『無邪気な日本人よ、白昼夢から目覚めよ』 (ワック)、『左傾化するSDGs先進国ドイツで今、何が起こっているか』(ビジネス社)がある。


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(作家 川口 マーン 惠美)
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