高市早苗首相はどんな人物なのか。国際政治学者の三浦瑠麗さんは「置かれた場所で頑張って宿題をやり遂げるというタイプの努力家だ。
それゆえの弱点を感じる」という――。(第2回)
※本稿は、『日本初の女性宰相 高市早苗研究』(宝島社新書)の一部を再編集したものです。
■高市首相の「磨き抜かれた武器」と「弱点」
【編集部】高市政権の政策の話を聞いてきましたが、高市さんの総理としての資質は、男性の総理と比べて、女性としての優位性を感じる部分はあるのでしょうか?
【三浦瑠麗氏(以下、三浦)】あんまり変わりません。強いて言えば、彼女のメディアでのキャリアもありますが、女性であるがゆえに言語表現が磨かれているというところでしょうか。男性のピラミッド社会のパワーポリティクスで勝ち残ってきたわけではないから、コミュニケーションの点で相当説得力がないと上にはいけないのです。
したがって、しゃべる力の高い女性のほうが上に行くので、結果的に女性リーダーには高市さんのように弁が立つ人が多くなります。それは国民に確実に好感されているし、交渉にもプラスになるでしょう。
ただし、彼女はどちらかというと、女性というよりはその個人的性格として、置かれた場所で頑張って宿題をやり遂げるというタイプの努力家なので、活発な意見交換やブリーフィングで要点をつかむリーダータイプではありません。だから、効率は悪いと思います。
■「午前3時に打ち合わせ」は非効率
【編集部】ブリーフィングのほうが効率はいいのですか?
【三浦】もちろんです。例えば、1万ページのレポートを読むよりも、AIが要点をまとめた文書を読んだほうが早いですし、AIの要点に対して、さらにどんな質問を投げかければ適切な答えが得られるかをわかっている人が、AI時代にツールを使いこなし、よりパフォーマンスを高められるわけですよね。それと同じです。

一国の総理にとってはありとあらゆるものが自分の業務の範疇です。その全てのものに対してエキスパートになるというのは、原理上不可能です。だから、要点をまとめたブリーフィングに頼らなきゃいけないんですが、分厚い答弁書を一から自分で読んで、夜中の3時にブザーを押して、質問があるときだけ呼ぶっていうのは効率が悪いですよね。
高市さんは、ブリーフィングには官僚の意図が入るので、官僚にコントロールされるのを過度に警戒しているのかもしれません。しかし、ブリーフィングを使いこなすことが総理の条件です。
■前首相・石破との意外な共通点
【三浦】安倍さんはその点はすごかったんですよ。何か一言、言われたときに、経験に照らし合わせてパパッと応用展開する能力というのは、ずば抜けていたと思いますね。だから、どちらかというと高市さんのスタイルは、石破さんにすごく似ていると思います。外食の回数が少ないのも含めて、自分で一から本を読んでわかった考えでないとどうしても腑に落ちないという点で。
しかし、そのプロセスをありとあらゆる問題について実施できるほど首相というのは時間がありません。知の巨人ではないわけですから。ジェネラリストは、言葉のキャッチボールをしながら、驚くほど素早く物事を把握するんですよね。
安倍総理はそういった意味でジェネラリストでした。
【編集部】そうすると今後、総理として物事を成し遂げていく人物としては、高市さんは少し資質に欠けるところがあるのでしょうか。
【三浦】いや、安倍さんがすごすぎたので、安倍さんではないよっていうことです。岸田さんは岸田さんで、菅さんは菅さんで、別の強みを持っていたので、それで各々、何とかしていたわけです。
■安倍・岸田にあって高市首相にないもの
【三浦】高市さんの強みは、少なくとも15分から30分くらいの立ち話や写真撮影の場で、記者がバシャバシャ写真を撮っているあの間でのトークや立ち居振る舞いですね、彼女が一番輝くのは。踏み込んだキャッチボールをする外交の場は、レベルが高いものです。各国首脳はいずれもエリートで世界史的な把握に優れ、英語はもちろん堪能。
そういった人たちと臨機応変に、分厚い資料を手繰らずにしゃべらなければいけないというのは、普通の日本人にはできません。石破さんが外交での立ち話に加わらないというのがよく批判されていましたが、それは高市さんだって10分程度の社交時間を除けば同じことでしょう。
安倍さんは総理の期間が長かったし、人間関係も積み重ねていますから、軽口から本質的なやり取りまで含めて話すものがあるわけです。岸田さんも外務大臣経験に助けられたでしょう。
高市さんの場合は総務大臣しかやっていない状況で、いきなり外交デビューですから、それは全然違います。
つらいと思います。ニュースで目にするのは記者が入っている短い間のものばかりですから、はた目から見るとうまくいっているように見えますけれど。
■「大阪のおばちゃん」外交は世界を救えるか
【三浦】スモールトークはうまいと思います。メローニさんとハグしたり、韓国の大統領に駆け寄ったり。しかし、話している内容はあいさつ程度です。今後、例えば、ウクライナ戦争が終結に向かうときに、どういう条件で、何を守り、何を譲っていくのかという、前例が適用できない深刻な話題において、個人外交ができるかといえば、疑問です。
ただし、経験をうまく積んでいければ、正直、大阪のおばちゃん的な感覚でしゃべる、ああいうコミュニケーションスタイルはむしろプラスになります。「これおかしいやん」みたいな。「そんなん言っても通りませんやん」みたいな話法です。
知識を経験とともにぶつけられるようになれれば、それも英語でできれば、それはすごい強いですよね。女性だから余計に。でも、まだその準備ができてない段階で総理になってしまったので、きついと思います。
その意味では、高市さんはすごく頑張っていらっしゃると思います。

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三浦 瑠麗(みうら・るり)

国際政治学者

1980年10月神奈川県茅ヶ崎市生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科総合法政専攻博士課程修了、博士(法学)。東京大学政策ビジョン研究センター講師を経て、2019年より株式会社山猫総合研究所代表。専門は、戦争と平和に関する国際政治理論。政治評論やエッセイなども手がける。フジサンケイグループ正論新風賞(2017年)など受賞多数。主著に『シビリアンの戦争』(岩波書店)、『21世紀の戦争と平和』『孤独の意味も、女であることの味わいも』(いずれも新潮社)など多数。2014年より東京と長野県軽井沢町との二拠点生活を10年以上続けている。

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(国際政治学者 三浦 瑠麗)
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