高市早苗首相の公式サイトに掲載されていた約1000本のブログ記事が全て削除され、物議を醸している。削除前にブログの検証記事を書いたライターの中野タツヤさんは「ブログには『消費減税』以外にも矛盾する内容が散見される。
全削除するのではなく、なぜ考えが変わったのかを丁寧に説明する必要があるのではないか」という――。
■高市首相の公式ブログ「全削除」が大炎上
高市早苗首相が公式ブログの全記事を削除して逃亡した――。
その驚くべきニュースがネット上で話題となったのは、2月17日の夜だった。
拙稿〈「消費減税は私の悲願」は真っ赤なウソ…公式ブログ記事1000本を検証して判明「増税政治家・高市早苗」の正体〉は2月17日の朝6時に公開した。
その後、X上で公式ブログ削除が話題になったのは17日18時~19時であることを鑑みるに、17日の正午~18時の間にブログ削除が実施されたと推測できる。
ブログの削除がプレジデントオンラインの記事公開後に実施されていることを考えると、反響に驚いた高市首相サイドが慌てて消した、と見ることもできる。少なくとも、ネット上ではそう見ている人が多いのは間違いない。
これについて高市早苗事務所に質問状を送ると、「HPについては、衆議院議員選挙運動期間中は選挙向けの内容にしていましたが、これを通常のものに戻すに当たり、総理になってからコラムを書く時間もなく、更新できていなかったこともあり、HPそのものをシンプルにするための見直しを行ったものです」との回答があった。
ただ、削除を実施した時間や、ブログの管理体制など、詳細な点については回答がなかったため、「筆者の記事の反響を見てブログを削除した」という疑惑は解消していない。
この「ブログ全削除」という対応が、余計に火をつけてしまった。翌18日には「ブログ全削除」というワードがX上でトレンド入り。各メディアも続々と記事にし始め、朝日新聞までが「ブログ全削除」を報じる事態となった。

■削除してもアーカイブで見れるのに…
そして2月24日の衆院代表質問では、中道改革連合の小川淳也議員から「ブログ(コラム)全削除」の理由を問われ、高市首相は「首相になってからコラムを書く時間もなく、ずっと更新できていなかったこともあり、コラム欄は削除した」と説明した。
そもそも、「ブログ全削除」に意味はあるのか。
ネット上にはアーカイブが残っている。筆者の手元でも「高市ブログ」全記事のタイトル・URLを保存しており、過去の投稿を検証することは可能だ。
また、Xをはじめとするネット上には、「全削除して逃亡したことで余計疑わしくなった」という投稿があふれており、筆者も同意見だ。
仮に、高市首相の消費税に関する過去の投稿が、現在の首相の考えと異なり誤解を与えるというなら、なぜ考えが変わったのかを説明すればよかったはずだ。
最悪削除するにしても、当該記事だけ削除すれば十分だったように思う。全削除したことで、他にも何か隠蔽したいことがあったような印象を与えてしまった点は、広報対応としては失敗だったのではないか。
とは言うものの、仮に衆院選の時点で「消費減税は悲願」は「ウソ」だったとしても、高市首相がこれから消費減税に本気で取り組むなら、結果的に「ホント」にもなり得る。
では、首相はこれから消費減税に本当に取り組んでくれるのだろうか。
■消費減税に「本気で」取り組むのか
2月20日に行われた施政方針演説において、高市首相はトランプ大統領の就任演説(2025年1月20日の「掘って掘って掘りまくれ(Drill, baby, drill)」発言)を臆面もなく丸パクリし「成長のスイッチを押して、押して、押してまいります」と繰り返した。
この施政方針演説において消費減税について触れているのは以下の個所だ。

税・社会保険料負担や物価高に苦しむ中所得・低所得の方々の負担を減らすため、給付付き税額控除の制度設計を含めた社会保障と税の一体改革について、超党派で構成される「国民会議」において検討を進め、結論を得ます。
また、同制度導入までの間の負担軽減策として、現在、軽減税率が適用されている飲食料品については、特例公債に頼ることなく、2年間に限り、消費税をゼロ税率とすることにつき、スケジュールや財源の在り方など、その実現に向けた諸課題に関する検討を加速します。野党の皆様のご協力が得られれば、夏前には中間とりまとめを行い、税制改正関連法案の早期提出を目指します。

確かに消費減税に触れてはいるが、様々な条件がつけられていることもわかる。
財源の調整がつかない、税収が減り財政が悪化した、など、「特例公債の発行に頼らざるを得ない場合」や「野党の協力が得られない場合」は、消費減税を見送るとも読めるわけだ。
■国民会議への参加に「2つの条件」
また、消費減税よりも「給付付き税額控除」のほうが前に来ていることも気になる。「消費減税は悲願」と言っていたはずが、優先順位がかなり低く見えるのだが、大幅にトーンダウンしてはいないだろうか。
消費減税を議論する「国民会議」は自民党の小林鷹之政務調査会長のリーダーシップのもと進められている模様だ。その小林氏は、消費減税について、否定してはいないが、必ずしも減税ありきというわけでもない。
2025年9月16日付の東京新聞記事では「議論はすべきだ。内需喚起の選択肢の一つとして俎上(そじょう)に載せることはあり得る」。
2025年10月14日付の時事通信記事では、「アンタッチャブルとは思っていない。
経済の先行きは不透明になる可能性がある。内需喚起も必要になってくる」。
2026年2月15日付の日経新聞記事では、「消費税減税と給付付き税額控除の制度設計について『国民会議の場で同時並行で進めていきたい』」と述べ、どちらかと言えば「給付付き税額控除」を進めたいようにも感じる。
また「国民会議」への参加資格として野党に対し、「消費税廃止を主張しない」「給付付き税額控除を認める」という2つの条件を突き付けていると報じられた
これにより、消費税そのものに反対する日本共産党や参政党は、はなから参加を拒まれた形だ。
■高市首相本人も参加できない?
だが「給付付き税額控除を認める」が参加条件となると、実は高市首相本人も国民会議に参加できなくなるという事実を、恐らく小林政調会長はご存じないのだろう。
2012年6月17日付の高市ブログ「税と社会保障の『3党合意』を急いだ党執行部」にはこうある。
第2に、自民党は「複数税率」(例えば、食料品や医薬品や新聞等を低税率にする)を主張してきましたが、合意案では、民主党が主張する「給付付き税額控除」(低所得者対策)も検討事項として併記されることになっていました。
これでは、例えば、課税所得270万円までの方は住民税も所得税も消費税も負担せずに福祉を享受することとなり、住民税も所得税も消費税も全て負担する所得層の方々がそのコストを被ることになってしまいます。
特に給付型は、新たなバラマキ政策です。
あまりにも「もらう人と稼ぐ人の2分化」を推進する政策が増えると、「弱者のフリ」をして負担を逃れる人が増える可能性もあり、勤勉に働いて真面目に税や社会保険料の負担をしている多くの方々のモチベーションを損ねることになりかねません。

つまり、高市首相はかつて「給付付き税額控除には反対」と明言し、その上「新たなバラマキ政策」だとこき下ろしていたわけだ。

2021年に自民党総裁選に出馬して以降の高市首相はまるで手のひらを返したように「給付付き税額控除」に賛成し始めるのだが、なぜ立場が変わったのかはどこにも書かれていない。国民の前できちんと説明すべきではないだろうか。
■野党時代の自民党も「何でも反対」
2011年当時は民主党政権であり、当時の自民党は「民主党のやることは何でも反対」という姿勢が強かったように思われる。よく「野党は何でも反対」と言われるが、野党時代の自民党もそうだったわけだ。
高市首相も自民党の方針に従っていただけなのかもしれないが、重要政策への立場がコロコロ変わっていると国民としては不安だ。結局、選挙を意識して国民に受ける説明をしているだけで、政権の本音は別にあるのではないか、という疑問が生じてくる。
それを裏付けるのが、次に引用する2011年11月29日付の高市ブログ「野田内閣への疑問②:TPPに関する考え方」だ。
外交交渉に関する権限は内閣にありますので、国会の意思を反映できるのは内閣が締結した条約の批准手続の段階になってしまいます。
しかし、自民党では、私も含めて圧倒的多数の衆議院議員が、TPP交渉参加について慎重な対応を求める請願書の衆議院提出紹介議員になりました。

このように、高市首相が「TPP交渉参加に反対」だったことがわかる。
一方、自民党が政権に返り咲いた後の2013年4月21日の高市ブログ「TPP交渉と農林水産戦略の構築。これからが本番だ!」にはこうある。

TPPに限らず、国際交渉の「入口」は、政府の専権事項です。
だからこそ、自民党は、「政権公約」の記載内容を遵守することを前提に、総理に判断をお任せすることに決めました。

たった1年ちょっとで高市氏の主張が逆回転し、「TPP交渉入りOK」に変わってしまっている。
■『安倍晋三回顧録』に記された驚きの事実
高市ブログにある「『政権公約』の記載内容を遵守することを前提に」とは何のことだろうか。
2012年衆院選の自民党政権公約を見てみると、次の一文がある。
「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り、TPP交渉参加に反対します。
TPPすなわち「環太平洋パートナーシップ協定」とは、言うまでもなく多国間の自由貿易協定であり、交渉参加国には高い水準の関税撤廃が求められていた。自民党の政権公約は要するに「“全ての関税を撤廃することになるのなら”TPPには反対」という意味だったと考えられる。
だが、これは「言葉のトリック」に過ぎなかったことがわかっている。
安倍晋三回顧録』(中央公論新社)にはこの経緯について次のような記述がある。
――第2次内閣の最初のテーマとして、TPPがありました。自民党は2012年の衆院選政権公約で「聖域なき関税撤廃を前提にする限り、TPP交渉参加に反対」と掲げていました。
「聖域なき関税撤廃」が前提でなければ、交渉に参加すると読める巧妙な表現でした。
(著者注:安倍) よく考えられているでしょう。これは野党時代、高村さんが中心となって考えた文言なのです。(P107)

どういうことだろうか。元外交官、元民主党で現無所属の緒方林太郎衆院議員の著書『国益ゲーム』(ぱる出版)に次の記述がある。
「聖域なき関税撤廃」を前提とすることなど誰も想定していなかった。こんな当たり前のことに騒ぐのは、恐らく世界で日本だけである。少し視点を変えると、現政権(著者注:第2次安倍政権)が期待感の操作をしようとしたのに国民が乗せられたとすら言える。つまり、最初は「聖域なき関税撤廃」が来るぞと脅しておいて、そうでない状況を確約させることで国内の反対論を抑えるという手法である(P57)
再び『安倍晋三回顧録』を引用する。
――13年2月下旬に訪米し、バラク・オバマ米大統領と会談します。安倍さんがTPPについてどういう態度を表明するかが焦点でした。
安倍 訪米を控えて、政権内で侃々諤々(かんかんがくがく)の議論があったのです。自民党内の半分はTPPに反対だし、農業協同組合(農協)も反対。だから、交渉参加の表明は7月の参院選後でいいのではないか、という人が多かった。でも、私は、曖昧な説明では政権が持たないし、むしろ、日本が早く交渉を表明した方が、交渉国の中で有利な立場に立てるのではないかと思いました。交渉参加を堂々と打ち出していけば、経済成長には必ずプラスになると消費者に思われる。参院選で農協に「TPPに賛成なら落選させてやる」と脅されるより、「補償が必要ならば予算で対応します」と訴えた方が得策ではないかと考えたのです。麻生さんはこの案に、おーっとのけぞっていました。菅さんも、早期の交渉参加表明に反対でしたが、最後は分かってくれました。(P107~108)

■「巧妙な表現」ではなく「単なるウソ」
このように安倍元首相の言葉からはTPP交渉参加に前のめりな姿勢が目立つ。
要するに「聖域なき関税撤廃が前提なら反対」と言いながら、「反対論を抑え込んででもTPPには参加する」と考えていたことがはっきり読み取れるのである。その上で、選挙に勝った後に「公約破り」と言われないような「巧妙な表現」を考えた、と言っているわけだ。
ただ、自民党の選挙公約を見て「自民党に投票すればTPPに反対してくれる」と思った有権者も多かったことだろう。そういう方にとっては「巧妙な表現」どころか「単なるウソ」でしかない。
こうした「前科」があるがゆえ、「消費減税は悲願」も、「積極財政推進」も、懐疑的に見ざるを得ないところがある。
ちなみに「聖域なき関税撤廃がなければTPP反対」という表現と、「責任ある積極財政」という表現は、どことなく似通っている気もしてくる。
■今後も「手のひら返し」は起こり得る
「聖域なき関税撤廃を前提とするならTPP反対」が、「事実上のTPP賛成」を意味していたように、「責任ある積極財政」も、「事実上の緊縮財政」を意味しているのではないのか。
前回の記事においてコメントをいただいた法政大学の小黒一正教授も、高市政権は事実上緊縮財政だという旨の指摘をしていた。
このように、少なくとも高市氏のブログを読む限り、今後も「手のひら返し」が起こり得ると思ったほうが良さそうだ。
一国の首相の発言ともなると、PRのスペシャリストも関わり、「巧妙な表現」が模索される。さらに総選挙ともなると高度な広報戦略に基づく情報戦が繰り広げられることになる。一見何気なく見える発言でも、実は大勢のスタッフが台本を練り上げて作っている可能性があるわけだ。
「消費減税は悲願」も「責任ある積極財政」も、どちらも話半分に聞いておかないと、コロッと騙されてしまう危険性があると言えるだろう。
■なぜ高市首相は説明しないのか
アメリカ第32代大統領のフランクリン・ルーズベルトは1929年の大暴落に端を発した世界大恐慌時に「ニューディール政策」を実行し、経済を立て直したことで知られている。ニューディール政策とは不況時に政府支出を拡大し経済を支える政策であり、いわゆる積極財政派が度々言及している。
そのルーズベルト大統領は国民とのコミュニケーションを重視し、「炉辺談話」というラジオ演説を毎週行っていた。政策について自らの言葉で丁寧に訴えることで、国民に理解を求めたわけだ。
一方、本邦の首相は選挙前に「消費減税は悲願」とぶちあげながら、ブログを検証された途端に全削除して逃亡した疑いが持たれている。ルーズベルト大統領の姿勢とあまりにも違ってはいないだろうか。
高市首相の続投により経済再建を期待する向きも多いだろうが、「これから日本版ニューディールが始まる」といった雰囲気を感じないのは、こうした高市首相および周辺スタッフの姿勢がもたらしているのかもしれない。
一介のライターに過ぎない筆者の記事に大きな反響が寄せられたのは、高市首相の「消費減税は悲願」発言を、どこか疑いの目で見ていた方がたくさんいたことを示すものだろう。
「ブログ全削除」の顛末は、高市首相が、衆院選圧勝という結果ほどには国民から信用されていない実態を浮き彫りにしたのではないだろうか。

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中野 タツヤ(なかの・たつや)

ライター、作家

出版社で書籍・Web編集者として活躍したのち独立。ヒグマ関連記事を多数手掛けた経験をもとに、日本および世界のクマ事件や、社会・行政側の対応について取材している。tatsu_naka1226@ymail.ne.jp

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(ライター、作家 中野 タツヤ)
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