毎年春になると、花粉症による目のかゆみ、鼻水、くしゃみなどに悩まされる人が多い。耳鼻科専門医の音良林太郎さんは「それらの症状を感じたら、我慢しないで適切な治療を開始してほしい。
できるだけ早く始めたほうが効果的だ」という――。
■花粉症の治療は「早め」が肝心
今や日本人の2人に1人がスギ花粉症だといわれています。花粉飛散量の増加により、以前よりも子どもや若年層の発症者が増加する一方、高齢で発症するケースもあるので若くないから大丈夫というわけでもありません。私自身も花粉症で、毎年、鼻水や目のかゆみに悩まされていて、まったく他人事ではありません。
さて、花粉症のケアでもっとも大切なのは、早めに治療を開始することです。花粉に繰り返し暴露されると鼻粘膜は少しずつアレルゲンをより敏感に感じるようになり、少量の花粉でも激しく反応するようになります。こうした鼻粘膜の変化こそが、シーズンを重ねるごとに症状が悪化していく根本原因なのです。
一方、花粉症の症状が出る前に、または出てから早めに治療を開始すると、鼻粘膜のヒスタミン受容体の発現が抑えられ、症状が軽くなります。これが「初期療法」と呼ばれるもの(※1)。これまで毎年、最初は我慢してしまったり、ふと気がついたら症状のピークを迎えていたりした人は、今すぐ市販薬を購入するか、耳鼻科を受診するかしましょう。それだけでずいぶんラクになるはずです。

※1 Mizuguchi H, Kitamura Y, Kondo Y, Kuroda W, Yoshida H, Miyamoto Y, et al. Preseasonal prophylactic treatment with antihistamines suppresses nasal symptoms and expression of histamine H₁ receptor mRNA in the nasal mucosa of patients with pollinosis. Methods Find Exp Clin Pharmacol. 2010;32(10):745-8.
■まずは「点鼻ステロイド薬」を
さて、花粉症の治療といえば、飲み薬という印象があるかもしれません。

でも、花粉症で最も影響を受けるのは鼻の「下鼻甲介(かびこうかい)」という部分で、もっとも頻度の高い症状は鼻水・くしゃみです。これは吸気が鼻から入ること、下鼻甲介が鼻で最も大きくて表面積の大きい構造であること、アレルギーによるヒスタミンの作用が鼻で盛んに行われることが原因です。
ですから、私が第一におすすめするのは、点鼻ステロイド薬です。ステロイドと聞くと不安を覚える人もいると思いますが、点鼻薬は鼻の粘膜に直接作用し、全身への影響はほとんどありません。
点鼻ステロイド薬は、飲み薬である「経口抗ヒスタミン薬」よりも、鼻水・鼻づまり・くしゃみ・鼻のかゆみのすべての症状で優れた効果を示し、生活の質(QOL)の改善にも効果的です(※2)。しかも、鼻腔内のアレルギー反応を抑えることで、神経反射を介して生じる涙目や目のかゆみにも有効。点鼻薬は正しい方向・量で毎日続けることで効果が出てきます。指示通りにしっかり使用し、シーズン中は継続することを意識してください。
それでも鼻づまりがほとんど改善しない人は、別の問題が潜んでいる可能性があります。例えば、鼻の仕切りの骨が曲がっている「鼻中隔弯曲症(びちゅうかくわんきょくしょう)」、鼻粘膜が慢性的に厚く腫れている「肥厚性鼻炎(ひこうせいびえん)」がある場合は薬で炎症を抑えようとしても、物理的な狭窄は解消されません。こうしたケースでは手術が必要です。耳鼻咽喉科で相談してみてください。

※2 Juel-Berg N, Darling P, Bolvig J, Foss-Skiftesvik MH, Halken S, Winther L, et al. Intranasal corticosteroids compared with oral antihistamines in allergic rhinitis: a systematic review and meta-analysis. Am J Rhinol Allergy. 2017;31(1):19-28.
■抗ヒスタミン薬は「第二世代」
一方、花粉症の飲み薬である抗ヒスタミン薬は鼻や皮膚のかゆみにもっとも有効ですが、その選び方には注意が必要です。
よくある勘違いに「効き目の強い薬を飲むと眠くなる」というものがあります。抗ヒスタミン薬は体質によって効き方が大きく異なります。ある人によく効く薬が自分には効かなかったり、他の人では眠気が出ない薬でも自分は眠くなる、ということがめずらしくないのです。だから、眠くなる薬を選ぶ必要はありません。
特に避けてほしいのが、市販の総合感冒薬や鼻炎薬に含まれる第一世代抗ヒスタミン薬(クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミン等)です。これらは眠くなるだけでなく、眠気を自覚していない状態でも注意力や反応速度が客観的に落ちることが実証されています(※3)。市販の「○○鼻炎カプセル」といった製品の多くにこの成分が入っていますので、購入前に成分表示をよく確認してください。
花粉症の治療には、第二世代抗ヒスタミン薬(フェキソフェナジン、ロラタジン、セチリジン、エピナスチン等)をおすすめします。これらの多くはドラッグストアでも購入できますし、耳鼻科を受診すれば適切に処方されます。眠気などの気になる副作用があれば、同じ第二世代でも別の薬に変えることで改善することがあります。自分に合う薬が見つかるよう、医師に遠慮なく相談してください。


※3 Shamil K, Prakruti P, Gandhi Anuradha M, Shah Bela J, Desai Chetna K. Old versus new antihistamines: effects on cognition and psychomotor functions. J Fam Med Prim Care. 2022;11(10):5909-5917.
■目には「抗アレルギー点眼薬」
そして目の症状には、鼻症状とは別の対策が必要になります。飲み薬は鼻や皮膚の症状には効果を発揮しますが、目のかゆみ・充血への直接的な効果は限定的です。目の症状には、直接作用する抗アレルギー点眼薬を使いましょう。
まずは内服と類似の抗ヒスタミン薬の含まれた点眼薬がおすすめです。1日2~4回、規定量を継続的に点眼しましょう。かゆみがひどい場合はステロイド点眼薬が処方されることもありますが、継続的に使うと眼圧が高くなって視神経を圧迫して目が見えづらくなる「ステロイド緑内障」になる恐れがあり、最悪の場合は失明するリスクもあります。ですから、眼科の医師に診察を受けたうえでの使用がおすすめです。
もうひとつの選択肢として、「アレジオン眼軟膏(0.5%エピナスチン塩酸塩眼瞼クリーム)」があります。従来の目薬と違い、まぶたに塗るタイプで、目を開けずに就寝前に1回塗るだけです。特に目薬をうまく差せない小さなお子さん、コンタクトレンズ使用中の方、点眼が難しいご高齢の方に向いています。
■注射薬を使うなら何を選ぶべきか
こうした既存の治療を十分に試しても効果が得られない重症例には、注射薬である「オマリズマブ(抗IgE抗体製剤)」を使うという選択肢があります。アレルギーの引き金となるIgEに直接的に働きかけ、重症スギ花粉症患者の鼻症状・目の症状が有意に改善することが国内の臨床試験でも確認されています(※4)。

値段が高いのが難点ですが、他の治療が効かない重症例では試す価値があります。
一方、以前「1シーズン効くアレルギーの注射」として使われていたケナコルト(トリアムシノロン)筋肉注射はやめましょう。2025年11月、同種のステロイド筋肉注射2製品のアレルギー性鼻炎への保険適応が削除されました。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会もこれを受け、ケナコルトAなどについても「推奨されない治療」と明示しています(※5)。この薬の最大の問題は、注射後に副作用が出ても元に戻せないこと。実際、肩に注射した結果、筋肉が萎縮してしまったという話も耳にしています。

※4 Okubo K, Ogino S, Nagakura T, Ishikawa T. Omalizumab is effective and safe in the treatment of Japanese cedar pollen-induced seasonal allergic rhinitis. Allergol Int. 2006;55(4):379-86.

※5 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 保険医療委員会「アレルギー性鼻炎に対するステロイド筋肉注射について
■薬と組み合わせる5つの生活習慣
また、耳鼻科での薬による治療と並行して、日常生活でも対策をすれば、花粉症の症状をかなり和らげることができます。以下のことに気をつけてみてください。
①マスクを適切に使い、花粉を家に入れない

花粉を体に取り入れないことが、花粉症対策の第一歩です。花粉飛散期に、外でマスクをしている人は多いと思います。マスクを継続着用した花粉症患者では、重症~中等症の鼻症状が92%から56%に減少し、眼症状も改善したというデータがあります(※6)。帰宅時に玄関先で衣服を払ってから室内に入るひと手間も忘れずに。


②コンタクトレンズをやめて眼鏡にする

コンタクトレンズ使用者では目の症状が悪化しやすいことが知られています。特にソフトコンタクトレンズの表面には花粉が付着・蓄積しやすく、その花粉が涙で湿ることでアレルゲンが溶け出し、結膜に直接触れ続ける状態になってしまうのです。花粉のシーズンはコンタクトレンズをなるべく避け、眼鏡着用を心がけてください。花粉の侵入を防ぐレンズカバー付きの「花粉対策眼鏡」も選択肢のひとつです。
③鼻うがいを習慣にする

鼻うがいは地味ですが有効です。最近はドラッグストアでキットが売っていますので、これを買うのがおすすめ。日本なら水道水でほぼ問題ありませんが、長年使っていない水道、海外の水道の場合は煮沸して冷ましたお湯をつかいましょう。複数の臨床試験を統合した解析で、鼻うがいによるアレルギー性鼻炎の症状改善が確認されています。安価で副作用も少なく、他の治療の補助として取り入れやすいです。
④しっかり睡眠時間をとる

花粉症と睡眠障害は、双方を悪化させる悪循環の関係にあります。アレルギー性鼻炎患者の約4分の3は睡眠障害を合併していて、症状が重いほど睡眠の質が落ちることが明らかになっています。そして睡眠不足はアレルギー反応をさらに悪化させます。
就寝前の服薬、花粉を室内に持ち込まない工夫、空気清浄機の活用がおすすめ。睡眠環境への投資は、翌日の症状に直接返ってきます。
⑤運動は「屋内」で続ける

花粉シーズンだからといって運動をやめてしまうのはもったいない。継続的な有酸素運動にはアレルギー性鼻炎を緩和する免疫調節効果があり、鼻腔内の炎症細胞が有意に減少します。その効果は約2カ月持続することも報告されています。ただし、花粉の飛散期に屋外で走れば暴露が増えます。ウォーキングマシンやエアロビクスなど、屋内での有酸素運動を取り入れてください。

※6 Mengi E, Kara CO, Alptürk U, Topuz B. The effect of face mask usage on the allergic rhinitis symptoms in patients with pollen allergy during the COVID-19 pandemic. Am J Otolaryngol. 2022;43(1):103206.
■根本的治療なら「舌下免疫療法」
最後に「花粉症の薬をずっと飲み続けたくない」「花粉症のつらい症状を根本的にどうにかしたい」と思う人には、「舌下免疫療法(ぜっかめんえきりょうほう)」をおすすめします。
これは毎日、スギ花粉エキスを少量ずつ舌の下に投与し、3~5年かけて免疫を再教育するという根本的な治療法です。3年間の治療で、花粉症の症状を約46%抑制できることが示されていて、治療をやめた後も効果が続くという特徴があります(※7)。
全員が必ず薬をやめられるわけではありませんが、症状が軽くなる、薬が少量で済むといった効果は期待できます。治療を開始できるのは、花粉の飛散が終わる6月以降が目安です。効果が出るのは半年~1年後くらいなので、次のシーズンからになりますが、ラクになったという人は少なくありません。5歳以上なら治療を行うことができますので、興味がある方は耳鼻科・小児科で相談してみてくださいね。

※7 Sakurai D, Ishii H, Shimamura A, Watanabe D, Yonaga T, Matsuoka T. Sublingual immunotherapy for Japanese cedar pollinosis: current clinical and research status. Pathogens. 2022;11(11):1313.

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音良 林太郎(おとら・りんたろう)

医師、医療ライター

2006年、慶應義塾大学医学部卒。臨床研修修了後、2008年より同大学耳鼻咽喉科学教室へ所属。日本耳鼻咽喉科学会専門医・指導医、耳科学会認定医。耳科、聴覚を専門とし、臨床勤務医として従事する。2018~2020年、米国ノースウェスタン大学耳鼻咽喉科頭頸部外科でポストドクトラルフェローとして先天性難聴の蛋白機能解析に関する基礎研究に従事。2021年より国立病院機構栃木医療センター耳鼻咽喉科に医長として勤務。本名、小島敬史。現在はX(旧Twitter)で医学・健康情報の啓蒙活動をしながら、医療ライターとして医療記事執筆を行っている。2026年春、東京都立川市で開業予定。

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(医師、医療ライター 音良 林太郎)

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