「ありがとう」と子どもに言わせることは正しい教育なのか。文教大学教育学部の成田奈緒子教授と公認心理師の上岡勇二さんの共著『その「習慣」が子どもの才能をダメにする』から、「ありがとう」「ごめんさい」を強制的に言わせてはいけない理由を紹介する――。
(第1回)
※本稿は、成田奈緒子、上岡勇二『その「習慣」が子どもの才能をダメにする』(SB新書)の一部を再編集したものです。
■子どもが「ありがとう」となかなか言えない
×「(人からものをもらったわが子に対して)ほら、ありがとうって言いなさい」
○「(子どもの代わりに)ありがとうございます」
【エピソード】

母親の仕事の打ち合わせについてきたソウタ。応接室で打ち合わせの相手がジュースを出してくれました。ソウタがもじもじしていると「ほら、こういうとき何て言うの?」と母親が腕をつつきました。

「ありがとうは? 何かをしてもらったら『ありがとう』でしょ?」「……ありがとう」「そんな小さな声じゃ聞こえないでしょ?」その後もソウタは「ありがとう」をなかなか言えるようにならず、何かもらうときには逃げ出すようになってしまいました。

「こんなとき、何て言うの?」

「ありがとうって言いなさい」

「ごめんなさいって言いなさい」
そんなふうに、幼い子どもに言っている親御さんをよく見かけます。「ありがとう」「ごめんなさい」は良い人間関係を作るうえで大切な言葉ですから、「早く言わせたい」という気持ちはよくわかります。周りからも「良い子」と言われますし、親の「かわいい」基準も満たすので、安心できますよね。
■その教えは親のエゴかもしれない
でも、「言いなさい」と迫って強制的に言わせることが、子どもにとって良いことなのかというと疑問です。子どもが本当はどう思っているのかを見逃してしまいますし、子どもも「自分の気持ちをわかってくれていない」と不満に感じるでしょう。
脳育ての観点から言えば、良いインプットをすることのほうが大事です。親が見本を見せるのです。
子どもの代わりに「ありがとうございます~!」と言うだけ。子どもはそれを見て、どういうシチュエーションでどんなトーンで言えばいいのかを学びます。前頭葉が働き始めるようになれば、自発的に「ありがとう」も「ごめんなさい」も言えるようになります。
大人が良かれと思ってしたことが、子どもにとっては嬉しくない場合だってあります。成田家の娘は小さい頃、周りの人からジュースをいただいたときに嬉しそうな顔をしませんでした。その表情や様子を見て、「あ、ジュースが好きじゃないんだな」と気づいたのです。
■最良の教育は「自身が見本を見せること」
私は「ありがとうございます~!」と代わりにお礼を言い、「これ、お母さんがもらっちゃってもいい? ちょうど喉がかわいていたから」なんて言って、引き取っていました。
そういうことを繰り返していると、娘もジュースをもらったときに「ありがとう」が言えるようになります。いただいたものが何であれ、受けた厚意に対してはお礼を言うものなのだなと自然に学んだからです。「ありがとうって言いなさい」と強制していたら、「でも、ジュースは欲しくないのに!」と不満を溜めていたかもしれません。
保育園や幼稚園、小学校では、「こういうシチュエーションではこう言いなさい」と指導されることがあります。
「わざとでなくても、お友だちを悲しい気持ちにさせたときは、『ごめんね』って言うんだよ」

「『ごめんね』って言ってもらえたら、『いいよ』で答えようね」
たとえばおもちゃを取り合って相手の子を泣かせてしまったようなとき、「ごめんね」「いいよ」で仲直りをさせようというわけです。
もちろん先生方も子どもたちの気持ちを聞く努力もされているとは思います。
■子どもが悪いことした時の親のNG発言
でも、集団生活をスムーズに進めていくためにはある程度のところで終わらせなければなりません。本当はそれぞれにもっと言い分があるかもしれませんが、「その場を丸く収める」というのも一つの社会スキルと言うこともできます。
小学校の授業を見学すると、誰かが発表した際に「いいでーす」「同じでーす」とみんなで言う場面に遭遇します。いやいや、同じではないだろうと思ったりするのですが、社会には「しきたり」があるものです。だからこそ、家庭ではもっと個別の事情に目を配ることが大切です。社会生活をスムーズにさせる言葉を使えるように見本を見せつつも、本当はどう思っているのか観察しましょう。
不満に思っていそうなら、話を聞いてあげてください。家庭では「そういうときはこう言いなさい」と強制しないほうがいいのです。
子どもが学校等でやってはいけないことをしたとき、管理責任のある親が代わりに謝ることもあると思います。学校から呼び出されて注意をされたら、親としては「謝る」一択です。そして、子どもには事実として報告をすればいいでしょう。
「こうやって注意を受けたから、あなたの代わりにこういう謝罪をしてきたよ」と伝えれば十分です。
■なぜ謝る必要があるのかきちんと説明する
厳しく叱ったり「どうしてそんなことしたの!」と問い詰めたりしても良いことはありません。学校でも家庭でも同じように叱られ、責められたら、子どもは親に相談できなくなります。「自分はダメな人間なのだ」という思い込みが強化されることにもなりかねません。
子どもの代わりに謝るときは、何に対して謝っているのかも言語化して子どもに聞かせてあげましょう。
たとえばレストランで隣の席の人が水を飲もうとしているときに、子どもが横を通ってぶつかり、水がこぼれてしまったのなら、「ごめんなさい! うちの子がぶつかったので、水がこぼれちゃいましたね」というように言います。子どもの代わりに「ごめんなさい」「すみません」と言うだけだと、子どもはなぜ謝っているのかわからないことがあります。
それでは良いインプットになりません。かといって、わざとやったことではないのに「あなたがぶつかったから迷惑をかけたでしょ!」と叱っても、子どもを萎縮させてしまいます。
子どもの脳に良いインプットをするには、「○○してしまってごめんなさい」と、ロジックとともに謝罪の言葉を聞かせることです。子どもは「こういうときは気をつけなければならないのだな」と学びながら、謝罪の言葉も言えるようになっていきます。

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成田 奈緒子(なりた・なおこ)

文教大学教育学部教授、子育て支援事業「子育て科学アクシス」代表

小児科医・医学博士・公認心理士。
1987年神戸大学卒業後、米国ワシントン大学医学部や筑波大学基礎医学系で分子生物学・発生学・解剖学・脳科学の研究を行う。臨床医、研究者としての活動も続けながら、医療、心理、教育、福祉を融合した新しい子育て理論を展開している。著書に『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)、『高学歴親という病』(講談社)、『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(共著、講談社)、『子どもの脳を発達させるペアレンティング・トレーニング』(共著、合同出版)、『子どもの隠れた力を引き出す最高の受験戦略 中学受験から医学部まで突破した科学的な脳育法』(朝日新書)など多数。

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上岡 勇二(かみおか・ゆうじ)

公認心理師・臨床心理士・子育て科学アクシススタッフ

公認心理師・臨床心理士・子育て科学アクシススタッフ。1999年、茨城大学大学院教育学研究科を修了した後、適応指導教室・児童相談所・病弱特別支援学校院内学級に勤務し、子ども達の社会性をはぐくむ実践的な支援に力を注ぐ。また、茨城県発達障害者支援センターにおいて成人の発達障害当事者や保護者を含めた家族支援に携わる。2014年より現職。

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(文教大学教育学部教授、子育て支援事業「子育て科学アクシス」代表 成田 奈緒子、公認心理師・臨床心理士・子育て科学アクシススタッフ 上岡 勇二)
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