※本稿は、加藤俊徳『いじめ脳 脳科学が解き明かす「メカニズム」と「対処法」』(SB新書)の一部を再編集したものです。
■いじめをしない人も性根は悪い
世の中に「完全なる悪人」もいなければ、「完全なる善人」もいない。これは長年にわたる脳研究を通じて、私が実感していることです。今までの人生経験から同様に感じている人も多いのではないでしょうか。
言い換えれば、人は誰しも「歪み」を内包しているということです。どれほどの人格者であっても、ときには誰かに対して意地悪な感情を抱いたり、残酷な衝動にかられたりするのが人間の性(さが)です。「人は誰しも性根が悪い」、そう言っても過言ではないと思います。
しかし、ここからが大きな分かれ目です。
自らの歪みを自覚しているかどうか。客観的に自己を捉えて、衝動に負けずに理性的に思考し、行動できるかどうか。
それができる人は、基本的には人を傷つけるようなことはしないでしょう。明確な意図、目的をもって誰かを攻撃しない。
人を攻撃しない人は歪んでいないのではなく、歪みを自覚しているからこそ、それを自制することができるのです。
■なぜ、いじめを悪いと思えないのか
反対に、自らの歪みを自覚していない人ほど、他者に対する言動まで歪んでしまう。
自分で気づいてすらいない歪みが表に現れるのは不思議なことですが、おそらく、これは「どこか歪んでいる」という事実を「強いて見ないようにしている」からでしょう。
つまり、きっと頭のどこかではわかっているのです。でも、自分が歪んでいるなんて思いたくないから見ないようにしている。すると抑圧の反動、いわばマグマの爆発のように、歪んだ言動が苛烈に表出してしまうというわけです。
彼らは、脳が「そうせざるを得ない状態」にあるために、身近な他者に対する理不尽な態度や暴言、ときには暴力を伴うような蛮行が日常化する傾向があります。
これが「いじめ脳」です。
いじめ脳の人たちもまた、実は、明確な意図、目的をもって身近な他者を攻撃しているわけではありません。
今も述べたように、脳の状態が「そうさせている」というのが適切な言い方です(だから仕方がない、責められるべきではないと言っているわけではなく、適切な理解と対処のためのアプローチ法があることは、のちほど明らかにしていきます)。
そのため、いじめ脳の人たちは、自分自身が悪いことをしている自覚が希薄です。
たまたま目の前に相手がいたから、「なんか気に食わない」という衝動に任せて、ひどいことを言ったりする。不意打ちをされた被害者は一方的に傷つけられて、当の加害者は気が済んでしまって、どこふく風です。
■「相手の方が悪い」というすり替え
あるいは瞬間的な怒りに任せて攻撃した後、一時的に罪悪感のようなものを抱くこともありますが、すぐに「自分が怒ったのは向こうが悪いからだ。だから思い知らせてやったんだ」という自己認知にすり替わってしまいます。
加害・被害という明らかに歪んだ関係性をつくっているにもかかわらず、それを自分なりの対人コミュニケーションの一環のように捉えているところもあるでしょう。
だから、「それはパワハラです」「モラハラです」などと、人から明確に「あなたの言動は歪んでいる。被害者がいる」と伝えられなくては、自らの異常な対人行動が日常化していることを自覚できません。
いや、現実には、伝えられても認めない人が多いのでしょう。
「話せばわかる」という常識が通用しないので、世間一般に公表されて人々の批判を浴びたり、懲戒免職などの罰則を与えられたりと、一定の強制力が働かない限りは、自らを省みることがありません。
そこまでされても頑なに「自分は悪くない」という認識が変わらない人もまた、多い。
自分の中では、ただ自分なりに親しく接していただけ、指導していただけ、誤りを正してあげようとしていただけで、悪いことはしていないはず。にもかかわらず、いきなり責められ、排除された。
このように「自覚させること」からして難しいのが、いじめ脳の困ったところなのです。
■いじめる人は「頭が悪い」のか
誰だってネガティブな感情が湧き上がることはあります。
たとえば「怒り」の感情から破壊的な衝動が生まれるのを感じたことがない人は、いないでしょう。それでも多くの人は、日々去来するさまざまな感情とうまく付き合いつつ、おおむね平穏な生活を守っています。
いじめ脳は、それが非常に苦手な脳と言えます。ネガティブな感情が湧き上がってきたときに、それをどう処理するか。カッと来て人を攻撃する。まわりのモノを破壊する。これは怒りをコントロールできていないということです。
先ほども述べたとおり、誰でもこうした衝動にかられることはあるものです。もし「怒りを感じる→攻撃・破壊」がパターン化しているとしたら、いじめ脳になっている可能性があります。
そもそも、「怒りを感じる→攻撃・破壊」になる場合と、ならない場合とでは何が違うのでしょう。
脳科学的に、このパターンに陥らない「脳の機序(メカニズム)」は2つほど考えられます。
■怒りが攻撃になる脳の仕組み
1つは、自分が怒りを感じる原因から、いったん離れること。
もう少し具体的に言うと、「怒り」を感じる→その原因に対して「なぜ自分は怒りを感じたんだろう?」と考える→「でも、今、それを形にする(怒る)べきなのか?」と考える→とりあえず、その原因には触らないようにする、という順序です。
つまり怒りの感情を「消そうとする」のではなく、あくまでも、「怒りの原因から離れる」ということです。
こうして怒りの原因(ソース)と距離を取っている間にも、いろいろなことが起こります。
たとえば私の場合だと、「予約の患者さんが来た→診療する」「本の担当編集者さんからメールが届いた→検討して返信する」「明日、国際学会に出発する→準備する」など。それぞれの事象の対応に集中するたび「怒り」のソースに接触する優先順位は下がっていきます。
そうこうしているうちに夕方になり、夜を迎え、「早く寝なくちゃ」となる。先に起こった怒りの感情は「怒る」という行動として表出するチャンスがないまま、いつの間にか収まっている――というのが、たいていのパターンです。
夜も眠れないほどの強い怒りを感じることもあるかもしれません。ただ実際には、いったん怒りの原因から離れ、次々と起こる別の事象にかまけているうちに消えてしまう怒りも意外と多いものなのです。
■いきなり熟年離婚を切り出す妻
もう1つは「時間」を置くことです。怒りの感情を消すのではなく、その原因から離れるわけでもなく、懸案事項として認知しながらも長い目でもっと時間を置くだけ。
「しかるべき表出のタイミングと形」を計らう、といったらいいでしょうか。
一例を挙げると、「熟年離婚を切り出す妻」です。
夫に対して日々、怒りを感じているけれども、そのつど表出させるのではなく、溜め込んでいく。そして「今だ」というタイミングにまとめて、しかも、きわめて冷静にロジカルに「あなたのどんなところに、これ以上、我慢ならないのか」を話して聞かせ、「だから離婚してください」と持って行くわけです。
さて、今お話しした2つの脳の機序、「いったん怒りの原因から離れること」「時間を置くこと」に共通しているのは、「脳番地シフト」が起こっていることです。
人間の脳は、「思考」「理解」「感情」など主に司っている機能ごとに、8つの脳番地に分かれています。これは私が開発した脳画像診断法による分け方です。それぞれの脳番地の役割を、ここでざっと紹介しておきましょう。
■8つの脳番地の「シフト」
①思考系脳番地……何かを考えることに関わる脳番地
②感情系脳番地……喜怒哀楽などの感情に関わる脳番地
③伝達系脳番地……コミュニケーションによる意思疎通に関わる脳番地
④理解系脳番地……与えられた情報の処理に関わる脳番地
⑤運動系脳番地……身体を動かすこと全般に関わる脳番地
⑥聴覚系脳番地……耳で聞いたことを脳に集積させることに関わる脳番地
⑦視覚系脳番地……目で見たことを脳に集積させることに関わる脳番地
⑧記憶系脳番地……情報を蓄積させ、その情報を使いこなすことに関わる脳番地
先ほど述べた「脳番地シフト」とは、ある外的な刺激により感情系脳番地で起こった怒りの感情が、別の脳番地の「仕事」に変換されているということです。
感情系脳番地で起こった「怒り」を思考系や理解系の脳番地の仕事に変換されると、「なぜ自分は怒りを感じたんだろう?」「でも、今、それを形にする(怒る)べきなのか?」といった理解、思考が生まれます。
他方、時間を置いて、しかるべきタイミングにまとめ、冷静にロジカルに伝えるというのは、感情系脳番地で起こった「怒り」が、伝達系脳番地の仕事に変換されたということです。
人間の脳はよくできていて、感情を衝動的にアウトプットするのではなく、しかるべき脳番地に変換することで、感情をコントロールすることができるのです。
■別の感情にシフトできないと…
このように、ある感情について理解、思考、あるいは伝達することを常としている脳が、突発的に人を攻撃するというのは考えづらいでしょう。怒りなどネガティブな感情を別の脳番地に変換できる脳は、「いじめ脳」にはなりにくいと言えます。
では、こうしたコントロールができない人の脳はどうなっているのでしょうか。
決して知能が低いわけではありません。感情を脳番地に変換する以前に、あるものが枯渇している。そのせいで理不尽にも他者を攻撃するしか選択肢がないのです。
何が枯渇しているかというと、己の目的に向かって行動を起こす「動機づけ」、脳科学的に言うと「ドーパミン」です。
留意していただきたいのは、これは生まれながらの脳の「出来のよし悪し」、いわゆる「頭がいい」とか「頭が悪い」とかの話ではないという点です。
「頭が悪いから、いじめる」のではなくて、さまざまな事情により、脳が動機づけ、ドーパミンが不足しているという1つの「状態」にあると、いじめ脳になってしまうという話なのです。
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加藤 俊徳(かとう・としのり)
脳内科医、加藤プラチナクリニック院長
新潟県生まれ。医学博士。株式会社「脳の学校」代表。昭和大学客員教授。発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。脳番地トレーニングの提唱者。小児から超高齢者まで1万人以上を診断・治療。14歳のときに「脳を鍛える方法」を知るために医学部への進学を決意。1991年、現在、世界700カ所以上の施設で使われる脳活動計測「fNIRS(エフニルス)」法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。帰国後、帰国後、慶應義塾大学、東京大学などで脳研究に従事し、「脳の学校」(https://www.nonogakko.com/)を創業。
現在、「加藤プラチナクリニック」を開設し、独自開発した加藤式MRI脳画像診断法を用いて、脳の成長段階、得意な脳番地不得意な脳番地を診断し、薬だけに頼らない脳トレ処方を行う。著書には、『アタマがみるみるシャープになる!! 脳の強化書』(あさ出版)、『50歳を超えても脳が若返る生き方』(講談社)など多数。
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(脳内科医、加藤プラチナクリニック院長 加藤 俊徳)

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