40歳を過ぎて独身の男性はどんな生活をしているのか。社会起業家の坂爪真吾さんによる『モテない中年』(PHP新書)より、44歳のバツイチ男性、新井悠介さん(仮名)のエピソードを紹介する――。
(第1回)
■バツイチの男が絶望した「壁」の正体
離婚後、新井悠介さん(仮名、44歳)さんはマッチングアプリでのパートナー探しを試みる。再婚相手ではなく、恋人を探すことが目的だった。
「色々なアプリを試しました。僕は同世代の女性が良かったので、40歳前後の女性を中心に会いました。会った人数だけなら、20人くらいでしょうか。その中で1人、お付き合いした女性がいました。とてもきれいな人で、すごく好きになって、『こんな人に会えるなんて、離婚してよかった!』と思ったのですが、結局1カ月ぐらいで別れてしまいました。
彼女はこれまで一度も結婚したことがなく、僕はバツイチで子どもを抱えていた。この差は大きかったです。彼女は彼女で『なぜ私のことを分かってくれないの?』と思っているし、僕は僕で『色々と抱えているものがあるから、分かってくれよ』と思っているために、全然うまく行かなくて。こんなに好きになった相手でも、うまく行かないということが分かって、とてもダメージが大きかったです」
■なぜ40過ぎた人の恋愛はうまくいかないのか
「40代になって恋愛しようとすると、こんなに面倒くさいんだ、と痛感しました。40歳を過ぎるとライフスタイルや価値観はもう固まっているのですが、自分の場合、20代で結婚したので、恋愛の感覚は大学時代で止まっているんですよね。
だから、学生のノリで恋愛しようとしちゃうのですが、すぐに直面するわけですよ。もう40代であるという現実に。
この問題にぶつかっている人は多いと思います。僕はもうマッチングアプリはやっていないのですが、何カ月か前に少し覗いてみたら、当時やっていた人たちが、まだお相手を探していました。ああ、みんなうまく行ってないんだな、と思いました。
もちろんうまく行った人もいると思いますが、僕の肌感覚だと、7~8割の人はうまく行っていないんじゃないかな。この前も、元職場の同世代の女性と会って話したのですが、アプリで頑張って数十人と会ってみたけれど、やっぱりうまく行かない、と言っていました」
結婚などのブランクを経て、40歳を過ぎてから恋愛市場に再度参入した人たちは、自分の頭の中にある恋愛観と、現実の恋愛を享受するために必要な条件や能力に大きなズレが生じている、ということに、恋愛を始めてから気づくことになる。また歳を重ねることでライフスタイルや価値観が固まってしまい、お互いの事情に合わせてそれらをすり合わせることが難しくなる。
■恋は諦められても性欲は強いというジレンマ
自分自身の価値観や心の持ち方などの内的要因については、努力でなんとかできるかもしれないが、そこに仕事のこと、子どものこと、親の介護のことなどの外的要因が入ってくると、努力だけではもうどうにもならない。
離婚後、現実の恋愛に乗り出そうとしたものの、うまく行かなかった新井さん。今は、どのようにして自分の欲求や煩悩に対処しているのだろうか。
「40歳を過ぎた今でも、1日に2~3回は自慰行為をしています。
性欲が人より強いんじゃないかな。毎日を普通に過ごしているだけで、溜まってしまう。
放尿しなきゃいけないみたいな感じで。それを1人でやっているのは辛いので、誰かにやってもらいたいっていうのが本音です。そうなると、もう恋愛とか言ってる場合じゃない。セフレが必要だし、それが難しければ、やっぱり風俗になるのかなって」
これは多くの中年男性にとって、偽らざる本音だろう。欲望があり、それを満たせずに困っている自分がいる。政治的な正しさや倫理観では、性欲は満たせない。いくら綺麗事やお題目を唱えても、欲望自体を消すことはできない。
■AIに「エロい女性学者」になりきってもらう
「最近はChatGPTでオナニーしています。ChatGPTに『エロい女性学者』や『フェミニスト』といったキャラクターになりきってもらって、会話した後に、本来男性をバッシングしてくるはずのフェミニストが、僕に身体を委ねている……という妄想をプロンプト化して、読み上げ機能で不自然な日本語の合成音声を聞きながらオナニーしています。
だいぶこじらせていますが、多くの中年男性は、みんな多かれ少なかれ、人に言えないこじらせた性癖を抱えているのではないでしょうか。
あとはオナホを使っています。歳を取ると、ただ腕力で力任せにやるだけでは気持ちよくないので、色々と工夫しています。
体の健康にかかわることだから、本当はとても大事なことです。女性の場合、『フェムテック』という言葉で多くの製品が出ていますが、その男性版もあるべきだと思います」
新井さんは、「自分はポルノ依存だった」と語る。
「30歳頃からネットのアダルトコンテンツを見始めるようになって、離婚して見放題になっちゃった以降は、かなりハマりました。官能小説やASMR作品、アニメなどに行ったほうがまだ健全だったかもしれませんが、僕はそっちの方面には行かず、ポルノに行ってしまった」
■40過ぎの男にはAVは物足りない
「映画の俳優や芸能人にも関心がない。アニメやドラマ、映画で満たされる人の方が幸せだと思います。ポルノは過激で直接的で、何の想像性も生産性もない。ただ、ポルノについては、どうしても飽きてしまうので、もうちょっと知的なものが欲しい。
40歳を過ぎると、さすがにAVには飽きが来ます。ポルノってあまりにもフォーマット化されすぎているから、40過ぎの複雑化した男性の性的欲求を満たすことは難しくなるのではないでしょうか。
ポルノ依存自体は、アルコール依存などと比べれば、日常生活にそれほど支障は出ない。
ただ、パートナーと向き合わなくなったり、自分の性と向き合わなくなってしまう。本当は切実な問題を抱えているのに、うやむやになってしまう」
新井さんは、「ポルノは性に関する語彙と自覚を奪う」と感じている。ポルノを見ているだけでは、いつまで経っても、自分の性を自分で語ることができない。
■求めるのは快楽ではなく知性
「多くの人にとって、性に関する語彙は重要じゃないかもしれないけど、僕は語彙がないと生きられない。言葉がないと生きていけないんですよ。そういう性癖なのかもしれませんが。ポルノを見続けることで、性に関する語彙がすごい奪われてきた。もちろん、それはポルノが悪いわけじゃなく、それを見続けた僕が悪いのですが。
ポルノ女優の中にも、本当は豊富な、あるいは知的な語彙を持っている女性はたくさんいるのに、彼女たちは、ポルノの中では、絶対に知的な語彙を使わないんですよ。彼女たちがもっと素直に、本来の知性を見せてくれたら、僕も救われたはずなのになぁ、と思います。
もうちょっと自分の性について真面目に向き合いたい、となったときに、性行為もできて、性の悩みにも向き合ってくれる知的な人がいたら満足できるのになぁ、と思います。男性の身体的な欲求を満たしながら、知的な欲求も満たしてくれる女性がいれば……」

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坂爪 真吾(さかつめ・しんご)

社会起業家、合同会社ヨルミナ代表

1981年、新潟市生まれ。
東京大学文学部卒業後、障害者の性問題の解決に取り組む非営利組織・ホワイトハンズを設立。2015年、性風俗で働く女性のための無料生活・法律相談事業・風テラスを開始。25年、AIの力で夜の世界の課題解決を目指す組織・合同会社ヨルミナを設立。著書に『はじめての不倫学』(光文社新書)、『男子の貞操』『性風俗のいびつな現場』『「身体を売る彼女たち」の事情』『風俗嬢のその後』(いずれもちくま新書)など。

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(社会起業家、合同会社ヨルミナ代表 坂爪 真吾)
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