疎外される中高年男性とそうでない人の違いは何か。社会起業家の坂爪真吾さんは「問題はコミュニケーション能力ではなく、コントロールが難しい性的欲求のマネジメントにある」という――。
(第3回)
※本稿は、坂爪真吾『モテない中年』(PHP新書)の一部を再編集したものです。
■自由と引き換えに金と努力が求められる時代
「社会の中で、コミュニティが失われた」と語られるようになって久しいが、推し活文化の一般化に伴い、「課金することで所属できるコミュニティ」は以前より圧倒的に増えている。コミュニティそのものが減ったわけではなく、家族や親族関係、地域とのつながりなどの「課金しなくてもよいコミュニティ」が相対的に減少・弱体化している、というのが現状だろう。
今の社会では、結婚をはじめ、かつて大半の人が無意識のうちに達成できていたライフイベントの多くが、それらを支えていた前提が変化・崩壊した結果、各個人が意識的かつ能動的に取り組まないと達成できないものになっている。就活から婚活、パパ活から終活まで、多くのライフイベントが「活」になりつつある。
こうした中で、かつてはプライベートの問題として考えられてきた家族・恋愛・育児・介護などの問題が、パブリック(行政)やエコノミー(市場経済)の力を借りないとうまく解決できなくなっている。
■もはや課金ゲームとなった「推し活」
プライベートな領域で起こっている問題が、秘匿・隠蔽されずにきちんと公の場で語れるようになること、問題を解決できる選択肢が増えること自体は、疑いようもなく良いことではある。児童虐待が社会問題として認識されたことで、子どもの権利と安全を守るための制度が整備された。
介護の社会化という理念を掲げてつくられた介護保険という制度によって、家族の介護負担は大きく減った。一方、個人の問題が社会の問題になった途端、行政の制度にアクセスできるかどうか、市場の中で有料のサービスを利用できるだけの収入があるかどうかによって、問題解決に大きな格差が生じることになる。
教育の領域では、露骨な「課金ゲーム」の様相を呈している首都圏の中学受験が良い例だろう。大学生の就活にしても、地方から首都圏の企業を狙うためには、交通費や宿泊費などのコストがかかるため、「就活のためにバイトをする」ことが必要になる場合もある。

つまり、あらゆる社会的な振る舞いは、「活」になると、個人の能力や経済力による結果の格差が生じ、参加者は他者との比較、劣等感、焦りに苛まれることになる。40代以降の恋愛や結婚の領域においては、「活」の世界で結果を出せる人は、ほんの一握りである。
■「非課金コミュニティ」が孤立を防ぐ
「活」の世界で結果を出そうとする前に、「活」の世界に最初から参入しないようにすることが、孤立を回避するための第一歩になるはずだ。
40代以降の恋愛や結婚において「活」の世界に巻き込まれることを回避するためには、「課金することで所属できるコミュニティ」ではなく、「課金しなくてもよいコミュニティ」を見つけ出し、そこに持続的に参加し続けるための手段としてお金を使う必要がある。
言うまでもなく、他者と関係性を築くために、お金は重要なツールになる。しかし間違った使い方をしてしまうと、どれだけお金を使っても、孤独感や生きづらさは解消されない。かえってそれらを強めてしまうこともある。

課金によって孤独を解決しようとすることは、悪手である。水商売や風俗のサービスを利用して孤独感が根本的に癒されるケースは、決して多くない。
「どうせ金を払ったから、チヤホヤしてくれているんだろう」という気持ちを抱いてしまうからだ。人間関係に関する課金は、特定の相手との関係性をメンテナンスするために行うものであって、関係性そのものを購入するために行うべきではない。
■「性的欲求のマネジメント」という高い壁
「金で買えない関係性を作るために、お金を使う」ことが望ましいだろう。
まず相手と関係性を築き、その後に関係性をメンテナンスするためにお金を使う、という順番が大切である。最初に関係性をお金で買ってしまうと、多くの場合、それ以上関係性を深めることが困難になる。「出会った初日にホテルに行く」タイプのパパ活が長続きしないことと同じ理由である。
特定の相手との関係性そのものに課金するのではなく、関係性が自然に発生するようなコミュニティに多元的に参加するために課金をするべきだろう。
中高年男性が新しいコミュニティに参加するうえで求められることは、自身の性的欲求や「モテたい」という欲求をマネジメントすることである。「思春期の中学生男子でもあるまいし、そんなことは当然できているよ」と思われるかもしれない。しかし、中高年男性がコミュニティから疎外される理由の多くは、性や恋愛にまつわるトラブルである。
■なぜ下心はコミュニティを破壊させるのか
性的欲求には、他者とのコミュニケーションに向けて人を突き動かす原動力になる一方で、他者との関係性を破壊する力も有している。性的欲求を隠そうとしない人、下心満載でコミュニティに入ってくる人、セクハラじみた言動をする人は、警戒・敬遠されて当然である。
性的欲求は、あくまで新しいコミュニティに参加するため、他人との関係性を築くための「事前」の原動力として活用すべきであり、コミュニティに参加した後、他人との関係性をある程度築いた「事後」は抑制すべきだろう。ロケットを宇宙に打ち上げるためには多くの燃料が必要になるが、いったん大気圏の外に出て軌道に乗ってしまえば、燃料は不要になる。
取材したある中年男性は、特殊な風俗店を利用することによって「若い頃にやりたくても実現できなかった性的願望」を成仏させようと試みた。
その試みは不完全燃焼で終わったが、GA(※)の教えに従って、性的欲求をやり過ごす術を身につけることはできた。
※GA……Gamblers Anonymousの略で、ギャンブル依存を抱える人々のための自助グループ
■「性欲は成仏しない」という前提でいること
年齢にかかわらず、自らの性的欲求を完全にコントロールすることは難しいし、完全に成仏させることも難しい。「自分の意思では完全にコントロールしきれないもの」と捉えたうえで、関係性や場面に合わせてその発露を柔軟に管理していくことが求められるだろう。
メディアの報道では、連日のようにセクハラや不倫などのコンプラ違反で失脚する政治家や有名人の様子が取り上げられている。どんな人であっても、社会的地位や責任の重さにかかわらず、環境や置かれた立場、その時の精神状態によっては、簡単に一線を越えた言動をしてしまう。そして一発退場になってしまい、それまで積み重ねたキャリアや社会的信用を失ってしまう。
人間は環境とインセンティブの奴隷である、と思った方がいい。
「自分だけは大丈夫」だと過信することは、端的にリスクである。「性的欲求を完全にコントロールできる男性はいない」「どんな人であっても、セクハラの加害者になってしまう可能性がある」ということを念頭に置いたうえで、性的欲求をコントロールできなくなるような環境に最初から近づかない、セクハラが誘発されるような環境を作らない・作らせない、といった防衛策が必要になるだろう。

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坂爪 真吾(さかつめ・しんご)

社会起業家、合同会社ヨルミナ代表

1981年、新潟市生まれ。東京大学文学部卒業後、障害者の性問題の解決に取り組む非営利組織・ホワイトハンズを設立。2015年、性風俗で働く女性のための無料生活・法律相談事業・風テラスを開始。
25年、AIの力で夜の世界の課題解決を目指す組織・合同会社ヨルミナを設立。著書に『はじめての不倫学』(光文社新書)、『男子の貞操』『性風俗のいびつな現場』『「身体を売る彼女たち」の事情』『風俗嬢のその後』(いずれもちくま新書)など。

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(社会起業家、合同会社ヨルミナ代表 坂爪 真吾)
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