人から「話しやすい」と思われるには、どうすればいいか。長崎大学准教授の矢野香さんは「相手の話の内容に合わせて表情を変えることが、『あなたの話を真剣に受け止めていますよ』という何よりのメッセージになる」という――。

※本稿は、矢野香『偉ぶらないけど舐められないリーダーの話し方』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。
■表情の豊かさを司るのは「眉の動き」
リーダーとしてのオーラで重要なのが「表情」です。
リーダーは、自分が話す時間よりも、メンバーの報告や相談を聞く時間のほうが圧倒的に長いもの。だからこそ、あなたの表情は、相手の言葉を真摯に受け止めるための「器」としての役割を果たします。
例えば、深刻な相談には、一緒に眉をひそめて悩み、良い報告には、心からの笑顔で喜ぶ。相手を「表情で受け止める」「顔で聞く」という姿勢が、チームに心理的安全性をもたらします。
表情の中でも、特に重要なパーツが「眉」です。なぜなら、表情の豊かさを司り、相手に与える印象を大きく左右するからです。
中でも心理学で「アイブロウ・フラッシュ」と呼ばれる一瞬の眉の動きが、フィードバックでは大切になります。驚きや喜びに反応して、眉が一瞬だけ「ピクッ」と動く、ごく自然な無意識の反応です。「あなたに(あなたの話に)興味があります」というポジティブなサインを送ることができます。
例えば、メンバーから「今、よろしいでしょうか?」と声をかけられたとき、無表情や眉を持ち上げたまま「え? 何?」と応対したらどうでしょう。
相手は何となく威圧感を感じるはずです。少なくとも、リーダーの表情から「歓迎されている」とは感じないでしょう。
一方で、同じ「え? 何?」という言葉でも、眉が一瞬ピクッと動くだけであれば、ごく自然でオープンな歓迎のサインとして相手に伝わります。
■現代人は眉間の筋肉が凝り固まっている
ただし、アイブロウ・フラッシュを使いこなすのは簡単ではありません。なぜなら、多くの現代人は、長年のデスクワークや無表情の積み重ねによって、眉間の筋肉が凝り固まっているからです。
「相手の目を見て話そう」「口角を上げて笑顔でいよう」と意識すれば、誰でもある程度は演技することができます。しかし、「眉」は別です。普段は眉の動きが固まってしまっている状態で、無理に眉を動かそうとするとどうなるでしょうか。眉を吊り上げるだけのわざとらしい「驚き顔」になったり、眉間にシワを寄せるだけの「不機嫌顔」や「困り顔」になったりするだけです。
アイブロウ・フラッシュは、意識的に眉を上げる「アイブロウ・アップ(眉上げ)」とは違うということに留意してください。
■お手本は「無邪気に喜び、驚く子ども」
では、自然な眉の動きとはどんなものでしょう。
その答えは、子どもたちの表情にあります。
子どもたちの眉は驚くほどよく動きます。そして柔らかい。もし、あなたの周りにお子さんがいなければ、電車の中や公園などで、少しだけ子どもたちの表情を観察してみてください。喜びや驚きが、何の計算もなく、そのまま表情に現れているはずです。
例えば、大人が何か贈り物をもらうと、「わぁ、ありがとうございます!」と、眉を持ち上げたまま満面の笑みをつくりがちです。
しかし、子どもは違います。「○○ちゃん、プレゼントがあるよ」と声をかけてみてください。振り向いた瞬間、「ハッ」と息を飲むのと同時に、眉が一瞬だけピクッと動くはずです。これこそが計算のない自然な眉の反応、アイブロウ・フラッシュです。
凝り固まった眉の動きを復活させて、本来の機能を取り戻すにはどうすればいいのか。ぜひ、眉のストレッチを試してみてください。肩こりをほぐすように、眉の周りを優しくマッサージしてあげるのです。

人間は本来、感情と連動して眉が動くようにできています。社会生活の中で眠らせてしまった自然な機能を、ストレッチで目覚めさせましょう。
ここでは、2つの簡単なステップをご紹介します。
■1セット30秒でできる眉ストレッチ
ステップ(1)マッサージで、眉のコリをほぐす
眉間のあたりを指の腹で優しく円を描くようにマッサージ。筋肉の緊張をほぐしてあげましょう。
シワが気になる、という方には「指アイロン」がおすすめです。眉間に置いた指を、そのまま左右のこめかみに向かって、外側に優しく滑らせるように動かします。
朝の歯磨きや髭剃り、メイク前など、タイミングを決めて毎日の習慣にしてみてください。
ステップ(2)ストレッチで、眉を動かす感覚を取り戻す
マッサージで柔らかくしただけでは、まだ眉は自由には動きません。そこで、次のような流れで眉を上下に動かしていきましょう。
①10秒かけてゆっくりと眉を上げ、同時に目線もぐっと天井に向けていきます。

②眉が上がりきったところで、10秒間キープ。


③10秒かけて目をゆっくり閉じながら、眉を元の位置に戻していきます。
これを数回繰り返しましょう。
■伝えたい気持ちに合った表情を示す
「傾聴」というと、「相手の話を笑顔で否定せずに聞くこと」だと信じている方もいます。それは大きな誤解です。眉を持ち上げたまま表情をつくるのが不自然であるように、相手の話を聞くときは、基本的に表情は変わることが自然であり大切です。
例えば、相手が深刻なミスについて報告しているのに、あなたが終始笑顔で「うん、うん」と頷いていたらどうでしょう。「このリーダーは、本当に私の話を真剣に聞いているのだろうか?」と、相手は不信感を抱くはずです。
あるいは、店内が寒いと訴える客に、完璧な笑顔のまま「失礼いたしました。少々お待ちください」と応対する店員に対して、あなたは誠実さを感じるでしょうか。「本当に私の話は伝わったのかな……」と少し不安に感じるかもしれません。
人間の表情は本来、心理学で「微表情」と呼ぶ、0.2秒ほどの一瞬のものも含め、目まぐるしく変化します。ですから、常に笑顔でいることは不自然。
演技にしか見えません。
■相手の表情に引きずられてはいけない
逆に、相手の話の内容に合わせて驚き、喜び、ときに眉をひそめる。その表情の変化こそが、「あなたの話を真剣に受け止めていますよ」という何よりのメッセージになります。
Z世代を含む現代の若者の中には、本心とは関係なく社会的な処世術として「愛想笑い」が標準になっている人が少なくありません。さらに、人間の脳は、相手の表情を鏡のように無意識に真似してしまう「ミラーリング」という性質を持っています。
つまり、ニコニコしている若手メンバーの話を聞いているうちに、リーダーであるあなた自身も、つい同じように笑顔になってしまう。その結果、本当は「NO」と言うべき場面でも、「まあ、いいか」と、安易に受け入れてしまうことになりかねません。「あのリーダーは甘い、ちょろい」と舐められてしまう原因の1つのパターンです。
相手の表情に引きずられるのではなく、相手の話の内容に合わせて伝えるべきメッセージにふさわしい表情をしていく。それこそが、相手を「表情で受け止める」「顔で聞く」、ひいては「全身で聞く」という姿勢。リーダーとしての「器の大きさ」を示すことになるのです。

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矢野 香(やの・かおり)

国立大学法人長崎大学准教授/スピーチコンサルタント

NHKで主にニュース報道番組を17年担当した後、現職。
専門は心理学・コミュニケーション論。政治家、経営者やビジネスパーソンに信頼を勝ち取るコミュニケーションを伝授。著書に『世界のトップリーダーが話す1分前までに行っていること』(PHP研究所)、『最強リーダーの「話す力」』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。

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(国立大学法人長崎大学准教授/スピーチコンサルタント 矢野 香)
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