仕事において、若い世代にどう接すればいいか。長崎大学准教授の矢野香さんは「ごく当たり前の業務上の指摘を“叱責”ととらえてしまうほど、今の若者たちは繊細だ。
それぐらい価値観が異なることを理解して、上の世代はチームづくりをしていかなければならない」という――。
※本稿は、矢野香『偉ぶらないけど舐められないリーダーの話し方』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。
■大学生455名に聞いた「リーダーになりたいか」
「今の若手は、何を考えているかわからない」
最近、クライアントである多くの企業のリーダーたちから、こうした切実な声を聞くことが増えました。
そこで、現代の若者のリーダーシップに対する本音を探るべく、私が勤務する大学で担当しているコミュニケーションの授業で、大学1年生を中心とする455名を対象に調査を実施することにしました。すると、非常に興味深く、そして少し複雑な彼らの価値観が浮かび上がってきたのです。
まず、「リーダーは必要だと思いますか?」という問いに対して。
調査前は、「リーダーなんて、もう必要ない」と考えている学生が多いのではないかと私は仮説を立てていました。しかし、当初の予想とは裏腹に、「(リーダーが必要だと)思う」「少し思う」という答えを合わせると、彼らの9割以上が「リーダーという存在は、組織に必要だ」と答えたのです。現代の若者はリーダーの存在を軽視しているわけではなく、必要性をきちんと理解しているようです。
ところが、「では、あなたはリーダーになりたいですか?」と問いかけた途端に、結果は一変します。
■「誰かがやるべきだが、自分ではない」
積極的に「なりたい」と答えた学生は、わずか11%。対照的に、「なりたいと思わない」「まったく思わない」と答えた学生は、合わせて53%と過半数に達したのです。
「できれば、なりたくない」と回答した学生も36%いました。
この数字は、まさに彼らの価値観を象徴しています。「誰かがリーダーをやるべきだ。でも、それは自分ではない」という静かな、しかしはっきりとした意志が見て取れます。
一見すると矛盾した答えの背景には、世代間の価値観の大きな変化があります。
今のリーダー層の多くが若者だった頃、仕事のモチベーションは「自己実現」でした。「仕事を通して夢を叶えたい」「自分の存在意義を見出したい」という思いが、大きな原動力でした。この世代を、勝手ながら「自己実現世代」と名づけましょう。
■自己実現世代から他者貢献世代へ
一方で、現代の若者たちのキーワードは、「他者貢献」。自分のためというよりは、「人のため、世のため、地球のため」といった大義に強く揺さぶられます。ボランティア活動や社会貢献活動を積極的に行う事実に、彼らの価値観が色濃く表れています。たとえそれが、就職活動のための「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」づくりという側面を持っていたとしても。

ですから、「他者貢献世代」という視点を持って若手を見ると、彼らのリーダーに対する複雑な気持ちが、少し理解できるかもしれません。
ベストセラーにもなった金沢大学教授・金間大介先生の著書『先生、どうか皆の前でほめないで下さい―いい子症候群の若者たち―』(東洋経済新報社)でも触れられているように、「自己実現」は、彼らにとっては少し気恥ずかしい行為に映るようです。
「私がリーダーになる!」と自ら手を挙げることは、「自己実現」を目指す行為であり、彼らにとっては気恥ずかしい行為である。そのため、自ら立候補することはありません。
しかし、「あなたがリーダーになってくれたら、みんなが助かる」と、他者から推薦されれば話は別。リーダーになることが、すなわち「他者貢献」になるので、「私でよければ」とリーダーの役割を静かに引き受けるのです。そして、心の中では、リーダーの役割を全うできる自信も、少なからず持っているはずです。
調査で「(リーダーに)なりたいと少し思う」と答えた層が36%いることは、非常に重要なポイントです。彼らこそ、「自分からは手を挙げないけれど、他者貢献のためにと頼まれれば引き受ける」という新しいリーダーの姿を、最も象徴している層なのです。
■「上司に怒られるのがつらい」と入社1カ月で退社
現代の若者がリーダーになりたがらない理由は、もう1つあります。
それは、「指摘」を「叱責」と受け取ってしまいやすい、という彼らの「繊細さ」です。指導する側が良かれと思って伝えたことであっても、彼らは「叱られた」と受け取って傷つき、モチベーションを下げてしまう。
そんな場面に頭を悩ませるリーダーは、決して少なくありません。
あるクライアント企業からご相談を受けた事例をご紹介しましょう。
4月に入社したばかりの新入社員が、5月の連休明けには退職を申し出たとのこと。会社が対応を協議していると、その翌日、なんと同期のもう一人も退職を申し出ました。「Aさんが辞めるのなら私も……」という連鎖退職です。退職理由は、「上司が怖い」「感情的に怒られるのがつらい」というものでした。
■ごく当たり前の指摘が“叱責”に変換される
当初、会社側は上司の指導法に問題があると考え、アンガーマネジメントの研修を検討していました。しかし、詳しく調査を進めると、新人側にも問題がある可能性が見えてきました。彼らが「叱られた」と訴えたのは、例えば次のような場面でした。
・机の端に置かれた書類を見て、「下に落ちて紛失すると困るから、もう少し中に置こうか」と注意した。

・「このやり方だとミスが起きやすいから、こうしてみて」と、仕事の進め方を説明した。
一見、ごく当たり前の業務上の「指摘」や「説明」です。
しかし、このやり取りが、新入社員の中では「叱られた」「命令された」という、非常にネガティブな体験に変換されたというのです。「今まで家庭でも学校でも怒られたことがないのに理不尽だ。職場では毎日注意されて嫌になった」と言って退職したとのこと。
彼らはこれまで、「良いね、良い感じだよ」と肯定される経験ばかりを重ねてきたのかもしれません。
この一件以来、ご相談を受けた企業の社長は、学生時代のスポーツ経験を尋ねていると言います。体育会系のクラブ活動などを経験している若者は、「先輩や監督からの厳しい指示や指摘に慣れているから」というのが理由です。指導を素直に受け止めながら、精神的にも打たれ強いようです。
■「根性がない」で切り捨ててしまわない
もちろん、これは極端な事例かもしれません。しかし、上の世代からは「根性がない」と見えてしまう彼らの「繊細さ」こそが、現代の若手の価値観や行動原理を理解する上で、極めて重要なキーワードとなるのです。
リーダーという立場は、メンバーの間違いを指摘すること。ときに厳しい評価を伝えるといった精神的な負荷が高い役割の連続です。見方によっては、その1つひとつの言動が相手を傷つけ、モチベーションを奪う凶器になり得ます。

今の若手はその難しさを敏感に察知しているのです。繊細な感受性を持つ彼らが、そうしたストレスの多い役割を積極的に引き受けたいと思えないのは、むしろ自然なことと言えるでしょう。
いわゆるZ世代も含めた現代の若手は、決して意欲がないわけではありません。リーダーシップに対する価値観そのものが、上の世代とは根本的に異なっているのです。まずはそうした事実をリーダーが受け止めることから、新しい時代のチームづくりは始まるのかもしれません。

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矢野 香(やの・かおり)

国立大学法人長崎大学准教授/スピーチコンサルタント

NHKで主にニュース報道番組を17年担当した後、現職。専門は心理学・コミュニケーション論。政治家、経営者やビジネスパーソンに信頼を勝ち取るコミュニケーションを伝授。著書に『世界のトップリーダーが話す1分前までに行っていること』(PHP研究所)、『最強リーダーの「話す力」』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。

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(国立大学法人長崎大学准教授/スピーチコンサルタント 矢野 香)
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