年を重ねても脳を劣化させない秘訣は何か。脳内科医の加藤俊徳さんは「『極端に左脳化した脳』になると脳は劣化する。
同じように、スポーツがよくできる人は、勉強はしなくてもいいという見方もアウトだ」という――。
※本稿は、加藤俊徳『脳は右から若返る』(大和書房)の一部を再編集したものです。
■100年生きるための「脳の学校」が必要
これまでは人生50年、長くても60年という時代が長かったため、それ以降のことは考える必要などありませんでした(男女ともに平均寿命が70歳を超えたのは、1970年代に入ってからです)。
現在、日本は「人生80年」の時代です。そのなかには寝たきりや認知症の方々が含まれていますが、私は脳がしっかりしていれば100年は生きられると考えています。
私たちは、幼稚園、小学校、中学校、高校、大学と実に長い期間にわたって教育を受け、大人になってからもさまざまな人生経験を積んでいますが、人生を100年生き抜くためにはどうすればいいのかについては、実は誰も教わっていません。
ですから、現在のような長寿社会では、人生をイキイキと楽しく100年生きるために、何をすればいいかを知る必要があります。
なぜそう考えるのかというと、私は胎児から100歳すぎまでの人間の脳、つまり人間の一生分の脳の変遷をMRIで見たからです。
20年以上前、私は脳科学監修を行ったNHKスペシャル『老化に挑む』という番組で、初めて100歳の人の脳を見る機会がありました。
■脳のピークは「20代から30歳代前半」は大間違い
一般的に、それまで脳は年齢と共に劣化して、20代から30歳代前半くらいがピークだと思われてきました。しかし、35歳以降も脳が成長し、伸びていく人がいることがわかったのです。
ほとんどの動物は生命のピークをすぎるとほどなく死んでいきますが、人間は違います。
人生のピークといわれる30代、40代をすぎても生きている。
ピークをすぎて脳も劣化していくのであれば、「余生」がなぜそんなに長いのか。80歳まで生きるというのであれば、逆に考えれば80歳まで脳は成長し続けるということにはならないか。
突き詰めて考え、疑問に思った私が研究してみると、ピークといわれる30代から脳が右肩上がりで成長している人がたくさんいることがわかりました。多くの人たちが「脳は劣化していく」と思っていますが、成長し続ける脳も確かに存在するのです。
人間の脳はさまざまな脳番地にわかれていますが、その各脳番地が年齢と共に劣化していくわけではありません。使っていないところが劣化していくだけで、使っているところは成長し続けるのです。
■認知症を予防するいい方法
日本で認知症を患う人は2040年に584万人を超えるだろう、と厚生労働省が推計しました。これは65歳以上の高齢者の7人に1人が認知症になる計算です。
しかし私は、前述したようにAI化やスマホなどで脳の劣化が加速するため、もっと多くなるのではないかと危惧しています。
認知症を予防するためのいい方法があります。それは、「元気に100歳以上生きる」ことをめざすことです。

認知能力は3歳頃からグッと高まっていきます。そして20歳くらいで能力が完成し、いい大学に入ることでピークに到達した人が偉い、と勘違いしている人がほとんどでした。
そのあとは徐々に脳は老化していき、そのまま40歳から50歳になって脳の機能は放物線を描くように下降し、認知症になるのが70歳から80歳だろう、とみんなが思っていました。
ところが脳画像を分析すると、40歳から50歳の領域で、「脳の働きが上に伸びる曲線を描く人」と「下降する曲線を描く人」がいて、大きな個人差があることがわかったのです。
■100歳でも認知症を発症しない方法
記憶の回路を使わなくなっていくと、記憶力は年齢と共に下降線を描きます。認知症のラインを割らないようにするためには、上に伸びるようにすればいいわけです。そうすれば、100歳でも認知症は発症しません。
そのためには、高い認知力と運動能力を長く維持して、できる限りMCI(軽度認知障害)ラインから遠ざかった脳コンディショニングを継続することが、認知症の予防策の一番大事な点です。
ですから、小さいときに神童である必要はありません。「20歳すぎればただの人」ではありませんが、「昔神童、今認知症」が現実です。20歳以降の脳の成長のさせ方、50歳以降の伸び方のほうが大切なのです。
50歳から伸びる脳にするには、どのような設計図を描いたらいいのでしょうか。
そのカギを握るのが、小学校教育です。教育歴が長いほうが、認知力は上がり、認知症も約5%予防できるといわれています。
欧米などで、教育を受けた100歳の人と、受けていない人の100歳時点での脳の働きを比べてみると、後者の認知症の発症率のほうが高かったそうです。
■「極端に左脳化した脳」を避ける
左脳化しすぎている人が増えているとはいえ、言語能力を習得してさまざまな教育を受けた人は認知能力が高く、脳の機能が落ちにくいといわれています。
ですから、先進国、特に日本のように教育を受けている人がもともと多い国では、教育を受けた人が認知症にならないようにするにはどうしたらいいかが課題、というわけです。そのためには、「極端に左脳化した脳」にならないことです。
使われない脳番地が多ければ多いほど脳は劣化しますから、運動不足の人が多い現代人は、運動能力に注目する必要もあるでしょう。
昔は勉強ができていれば運動はしなくてもいい、という風潮がありました。逆にスポーツがよくできる人は、勉強はしなくてもいいという見方もあります。
私から見れば、それはどちらもアウトです。いずれも偏った脳の使い方になりますし、適度な運動をしないと脳が長もちしないということが明らかになっています。
■やっていないことをやり続けよう
脳コンディショニングは40代や50代、70代、80代と、いつやっても脳の機能は上がります。
認知症のステージが進行していようがいまいが、脳コンディショニングは効き目があることがわかってきました。
ただし、認知症の約65%を占めるアルツハイマー型認知症から元に戻ってリセットされたという事実はまだ確認されていません。機能自体は少し改善しても、認知症であることには変わりがないのが現状です。だからこそ、認知症の足音が迫るはるか前から、予防のための脳の強化が必要なのです。
脳の成長力のピークは、通常いわれているように20代から30代ではなく、私は常に右肩上がりになっていくと考えています。つまり、現在が脳の一番のピーク、ということです。
それが延々と続いて100歳まで生きれば、100歳が脳のピークで亡くなるということです。そういう生き方は可能なのです。
50代から自分らしい生き方を発見し、使っていない脳番地を使っていけばいいのです。生きることは時間を消費することでもあります。せっかくなら、やっていないことをやり続けて、脳をどんどん成長させ続けましょう。
※「脳番地」(登録第5056139 /第5264859)は脳の学校(登録4979714)の登録商標です。


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加藤 俊徳(かとう・としのり)

脳内科医、加藤プラチナクリニック院長

新潟県生まれ。医学博士。株式会社「脳の学校」代表。昭和医科大学客員教授。脳科学・MRI脳画像診断の専門家。脳番地トレーニング、助詞強調おんどく法の提唱者。14歳のときに「脳を鍛える方法」を知るために医学部への進学を決意。1991年、現在、世界700カ所以上の施設で使われる脳活動計測「fNIRS(エフニルス)」法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。加藤式MRI脳画像診断法を用いて、脳の成長段階、強み弱みを診断し、これまでに1万人以上を治療。著書には、『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)、『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社)、『悩みのループから解放される!「執着しない脳」のつくり方』(大和書房)などがある。

※「脳番地」(登録第5056139 /第5264859)は脳の学校(登録4979714)の登録商標です。

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(脳内科医、加藤プラチナクリニック院長 加藤 俊徳)
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