コレラやピロリ菌に罹りやすい血液型は何か。大阪大学名誉教授の深瀬浩一さんは「大規模な研究や調査で、コレラ患者にAB型は非常に少ないことがわかった一方で、患者数の多くを占めた血液型があった。
背景には、この血液型が細菌・ウイルスが好む受容体『H物質』を体じゅうに豊富に持つことがある」という――。
※本稿は、深瀬浩一『血液型でわかる 病気とケガのリスク』(宝島社)の一部を再編集したものです。
■O型の「天敵」ともいえる感染症
O型は新型コロナウイルスにも、マラリアにも強い血液型だと述べてきました。
しかし、じつはO型にも弱点があります。O型の「天敵」ともいえる感染症が存在するのです。それが、コレラです。
コレラは、コレラ菌に汚染された水や食べ物を口にすることで感染する病気です。腸に入り込んだコレラ菌は、激しい下痢や嘔吐を引き起こします。症状が重くなると、急速に脱水症状が進行し、場合によっては数時間以内に命を落とすこともあり
ます。感染者の便には大量のコレラ菌が含まれており、その排水が飲み水に混じると、あっという間に感染が広がります。とくに衛生環境が整っていない地域では、大流行につながりやすい病気です。
また、コレラ菌にはいくつかの型がありますが、ヒトに感染するのはおもに「O1型」または「O139型」とされています。

O型の人がコレラに弱いことは、比較的早い段階から指摘されてきました。1974年から4年間、バングラデシュの下痢症研究センターを中心に、スウェーデン、アメリカ、そしてWHO(世界保健機関)などが参加した国際共同調査では、コレラ患者にO型が多く、反対にAB型は非常に少ない傾向が見られました。
■高リスクのO型、低リスクのAB型
より大規模な研究でも、同様の傾向が確認されました。調査対象となったコレラ患者のうち、O型が全体の62%を占めていたのです。A型やB型はO型に比べて少なく、AB型がもっとも少ないという結果でした。
これまではわりと「リスクが高め」といわれることの多いAB型が、コレラではもっともリスクが低かったのです。
また、コレラ感染者の家族のなかでも、うつされて実際に発病した人はO型が多く、とくに重症化した人の68%がO型だったという報告もあります。感染しても無症状だった人のO型の割合が36%と低かったことと比べても、O型の重症化リスクが高いことがうかがえます。
さらに、コレラ菌が出す毒素を無力化するためのワクチンに関しても、O型の人はほかの血液型と比べて効果が出にくい傾向があるとされているのです。
なお、O型の人がコレラに感染しやすい理由としては、コレラ菌の表面にあるO抗原と、O型の人の赤血球にあるH物質に何らかの関係があると考えられていますが、まだはっきりとしたメカニズムは解明されていません。
■胃酸を中和しながら棲みつくピロリ菌
ここまでの説明で、「もしかすると、O型は胃腸の感染症に弱いのでは?」と、思われた方もいるかもしれませんね。
感染症としてご紹介する「ヘリコバクター・ピロリ」、いわゆる「ピロリ菌」も胃に関係しており、O型の人が感染しやすいことがわかっています。

ピロリ菌は、胃の粘膜に棲みつく細菌です。胃は強い酸である胃酸に満たされているため、かつては「細菌が生きていられる環境ではない」と考えられていました。
しかし、ピロリ菌は「ウレアーゼ」という酵素を出すことで、自分のまわりにアルカリ性のアンモニアを発生させ、胃酸を中和しながら生息しているのです。
ピロリ菌の感染経路ははっきりとわかっていませんが、飲み水や食べ物などを介して口から体内に入り、感染するのではないかと考えられています。
とくに免疫力がまだ発達していない幼児期に感染する可能性が高く、大人になってから新たに感染することは稀です。
ピロリ菌に感染したとしても、すぐに何らかの症状が出るわけではありません。しかし、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、慢性胃炎などの消化器疾患のある人の多くが、ピロリ菌に感染していることがわかっており、胃がんの発症にも深く関わっているとされているのです。
■ピロリ菌が好む受容体が体内に豊富
30件の観察研究を総合的に評価した「メタ・アナリシス」という解析では、A型のピロリ菌感染リスクを1とすると、B型とAB型は0.7程度であったにもかかわらず、O型は1.2と飛びぬけて高いものでした。
では、なぜO型の人がピロリ菌に感染しやすいのでしょうか。その鍵は、ピロリ菌の表面にある「アドヘシン」というタンパク質にあります。
アドヘシンは、人間の細胞に結合する性質をもっており、数種類に分けられます。そのなかでも「BabA(blood group antigen binding adhesin:血液型抗原結合接着因子)」というタイプは、O型の人に特有のH物質と非常に相性がよいことがわかっています。

H物質は、O型の人の赤血球だけでなく、体じゅうのさまざまな組織に存在しています。もちろん、胃の内壁にある胃粘膜細胞にも存在しており、そこにピロリ菌が結びつきやすくなるのです。
つまり、ピロリ菌が好む受容体がH物質であり、それがO型の人の体内ではとくに豊富であることが、感染しやすさの背景にあると考えられています。
そのため、O型の人はピロリ菌に感染しやすく、しかも一旦感染すると長く体内にとどまりやすいという傾向があります。そこから慢性的な胃炎や胃・十二指腸潰瘍へとつながりやすくなるとされているのです。
■日本人とピロリ菌の深い関係
なお、先述の解析でB型とAB型のピロリ菌感染リスクが低いのは、BabAがB抗原に結合しにくいためではないかとされています。
体液に血液型抗原を分泌しないタイプの「非分泌型」の人は、感染リスクが0.7程度と低めになっています。こちらは、BabAが好む血液型抗原が胃の中に分泌されないため、感染しにくくなっていると考えられています。
日本人は世界的に見ても、ピロリ菌の感染率が高いといわれています。とくに高齢の方ほど感染率が高く、60代以上では60%以上がピロリ菌に感染しているというデータもあります。
これは、水道水などのインフラがまだ整っていなかった時代に幼少期を過ごし、ピロリ菌を含んだ井戸水などを摂取していたことが関係しているとみられています。

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深瀬 浩一(ふかせ・こういち)

大阪大学名誉教授

1960年、岡山県生まれ。
大阪大学大学院博士後期課程修了・理学博士。大阪大学大学院理学研究科教授、理学研究科長、大阪大学理事・副学長、大阪大学総長参与を歴任。2025年、大阪大学名誉教授。専門は糖質化学、有機合成化学、生体分子化学。2025年4月より、大阪大学放射線科学基盤機構特任教授として、自然免疫活性化分子・ワクチン・新規免疫療法の開発ならびにがんの核医学治療研究を進める。

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(大阪大学名誉教授 深瀬 浩一)
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