■歴史的に台湾は誰のものでもなかった
【兼原】尖閣問題は台湾問題とも連動しています。中国は、尖閣は台湾の一部という立場ですから。歴史家に聞くと、台湾は「はじめは歴史的には誰のものでもなかった」と言いますよね。
実際、与那国島以南の台湾、ルソン、ミンダナオ、カリマンタン(ボルネオ)、スラウェシ(セレベス)、ジャワ、バリ、スマトラと続く一連の島々は、貿易中継地があるだけで人口も希薄であり、海洋民族のマレー人がパラパラと住んでいただけ。
バスコ・ダ・ガマやマゼランといった欧州人が帆船でアジアに来て、これらの島々を征服するのは15世紀の末からです。日本の戦国時代末期ですね。
【垂】もともと台湾には先住民がいました。16世紀にポルトガル人が来航し、台湾島を見て「フォルモサ(美しい島)」と呼びました。その後、17世紀前半にオランダ人が台南付近に上陸し、ゼーランディア城を築いて拠点としました。
ただし、オランダの支配が台湾全土に及んでいたわけではなく、主に南西部の沿岸地域に限定されていました。そのオランダ勢力を、「反清復明」を掲げていた鄭成功が駆逐し(1662年)、鄭氏政権が約20年間続きましたが、その支配の中心も台南周辺に限られていました。
■見向きもされなかった「マラリアの地」
【垂】鄭成功の父・鄭芝龍の時代は倭寇の後期にあたり、東アジアの沿海地域では、交易・密貿易と海賊行為を兼ね、時に軍人として活躍するような人々がいました。倭寇といっても、当初は日本人が中心でしたが、後期にはむしろ中国人が主体となっていました。
台湾の台南、大陸では福建省、広東省、琉球、長崎といった地域の間を行き来して活動していたため、当時は今日のような国境意識はほとんど存在しなかったといえますね。
現代的な整理で言えば、オランダが台湾を植民地化し、それを「明の遺臣」として清と対抗していた鄭成功が奪取したという構図です。これは、のちに蒋介石が大陸から台湾に退いたケースの前例のようにも見えます。
ただし、鄭成功はまもなく死去し、その子・鄭経が鄭氏政権を継承しましたが、これも20年ほどで1683年に清によって滅ぼされました。結局、台湾は清の支配下におかれましたが、当時は「瘴癘(しょうれい)の地」と見なされ、実際にはほとんど放置された状態が続いたのです。
■清朝が何もしないから日本が統治した
【兼原】だから日清戦争後の下関条約で、遼東半島にあれほどこだわって三国干渉まで演出した李鴻章が、台湾はいとも簡単に日本に割譲したわけですね。
台湾を取ることを提案したのは井上毅です。井上は台湾の戦略的重要性に目をつけた初めての人間です。当時は、清仏戦争でフランスがインドシナを取った後で、かつ米西戦争に勝ったアメリカが台湾の真下にあるフィリピンに出て来る直前です。
井上は欧州歴訪も経験しているし、牡丹社事件の後、大久保利通について北京での交渉にも行っている。
ところが、日本と違ってもともと清朝の人間は台湾に何の関心もなかった。
【垂】そうなのですよ。関心がないからさほど投資もしなかった。あまり強調すると「植民地支配の美化」と批判されかねませんが、日本による台湾統治(1895~1945年)は一定の成果をあげ、台湾社会の近代化を促しました。例えば、植民地財政は比較的早期に安定し、地方交付税のような補助も2~3年で不要になったと言われています。
■安倍晋三よりも有名な「日本人の英雄」
【垂】台湾で今でも最も有名な日本人といえば八田與一です。東京帝国大学工学部を卒業後、若くして台湾に渡り、烏山頭ダムを建設して灌漑事業を進め、嘉南平原を大穀倉地帯へと変貌させました。この事業により水質が改善され、当時蔓延していた病気の抑制にも繋がりました。
今日、台湾で名が挙がる日本人といえば、最近では安倍晋三元首相も挙げられますが、元祖は八田與一でしょう。それほど八田の業績と人物像は強い印象を残しているのです。しかも、各分野で「ミニ八田與一」と呼べるような専門家が日本から派遣され、インフラ整備や農業、教育などさまざまな分野で尽力しました。
彼らにとっても、自ら学んだ知識を台湾という「白紙の場」で試し、実現できることは大きなやりがいであったと思います。
八田與一自身は戦争中にフィリピン沖で亡くなり、終戦直後に妻は烏山頭ダムに身を投じたという悲劇的な物語もあって、台湾の人々の記憶に深く刻まれ、今日に至るまで広く知られています。
■台湾人が誇る「サムライ」との激戦
【兼原】後藤新平も台湾の発展に貢献していますよね。
【垂】児玉源太郎が台湾総督となり、実務上のトップである民政長官に後藤新平を起用して、この二人が台湾の基礎を築いたわけですね。その結果、台湾社会は次第に豊かになっていきました。もっとも、霧社事件(1930年)など悲惨な事件も確かにありましたが。
【兼原】台湾原住民(高砂族)による日本統治への反乱ですね。霧社事件を描いた『セデック・バレ』という大作映画がありますが、見てみてびっくりしたのは高砂族の人たちが差別されていたことです。彼ら向けの病院には「人畜病院」って書いてある。
ところが、この映画、「高砂族の人たちが日本を相手によく戦った」というメッセージの映画なんですよ。反乱軍は全員死にますが、リーダーは捕まらず最後に自殺する。一番最後のシーンでは、台湾総督府の日本軍人が「こいつらはサムライだ」と叫ぶ。
台湾人の新しいアイデンティティの現れだと思いました。台湾人が、自分たちは独力で日本と戦った立派な民族なんだということを自らの歴史に刻もうとしている。
監督の魏徳聖(ウェイ・ダーション)は、台湾球児が甲子園で活躍した『KANO1931 海の向こうの甲子園』を製作した、親日的な監督です。日清戦争の後、台湾にいた清朝の役人も軍人もすぐに逃げ出した。誰も戦っていない。しかし、台湾人は戦った。
日清戦争における日本軍の損失は、実は日清戦争それ自体の損失と、その後の台湾併合の際の損失とが同じ規模です。それが今、台湾人の誇りになっている。
■阪大と名大よりも前に創立された台湾の旧帝大
【垂】面白いですね。それから少し時代が下がった頃のことですが、日本人は少数民族から非常に高く評価されているという事実もあります。
一般的に「高砂族」って称されていましたが、実際には台湾の原住民にはさまざまな少数民族が存在し、互いに言葉が通じないことも多かった。そのため、日本語が実質的に共通語になった時代もありました。
さらに、先の戦争では多くの原住民が高砂義勇隊として徴用されたり志願したりしましたが、日本人としての誇りを持って戦ったことが語り継がれています。台湾映画『KANO1931』は、嘉義農林学校野球部が台湾代表として甲子園で準優勝した実話を映画化したものですが、この野球部は日本人、台湾人、原住民の混合チームでした。
【兼原】台湾人で靖国に参拝される方もおられますよね。大日本帝国は、植民地の人でも、ちゃんと軍隊に入れば差別しませんでした。植民地人だけの部隊を作って危険な仕事を押し付けていた欧州の国々とは違います。
また、植民地の人が高位の将軍となり日本人の兵卒を指揮することもありました。欧州諸国で白人の軍隊を有色人種が指揮するなんてありえなかった。韓国出身の洪思翊は中将まで上り詰めました。李登輝総統も帝国陸軍少尉ですよね。
日本の植民地統治は、基本的に内地の延長ですから、インフラだけではなく教育にも熱心でした。台北帝国大学は1928年に、東大、京大、東北大、九州大、北大に続いて創立されました。1931年の大阪大学、1939年の名古屋大学創立よりも早い。
【垂】李登輝元総統の日本人名は岩里政男で、実兄はフィリピンで戦死しており、靖国神社に祀られています。李登輝は生前これを「誇りに思う」と述べ、訪日時に靖国神社を参拝したこともあります。
----------
兼原 信克(かねはら・のぶかつ)
笹川平和財団常務理事
1959年山口県生まれ。東京大学法学部卒業後、1981年に外務省に入省。フランス国立行政学院(ENA)で研修の後、ブリュッセル、ニューヨーク、ワシントン、ソウルなどで在外勤務。2012年、外務省国際法局長から内閣官房副長官補(外政担当)に転じる。2014年から新設の国家安全保障局次長も兼務。2019年に退官。著書に『歴史の教訓』『日本人のための安全保障入門』など多数。
----------
----------
垂 秀夫(たるみ・ひでお)
前駐中国日本国特命全権大使、立命館大学教授
1961年大阪府生まれ。京都大学法学部卒業後、1985年に外務省入省。中国語研修組(チャイナスクール)として、一貫して対中外交に関わる。南京大学に留学の後、北京、香港、台北などで在外勤務。2006年、日中の「戦略的互恵関係」の構想を発案。2020年、駐中国日本国特命全権大使に就任。2023年12月退官。著書に『日中外交秘録 垂秀夫駐中国大使の闘い』。
----------
(笹川平和財団常務理事 兼原 信克、前駐中国日本国特命全権大使、立命館大学教授 垂 秀夫)

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
