肩こりや腰痛になりにくい体を作るにはどうしたらいいか。整体師の奥中伸さんは「胸骨を意識するといい。
胸骨をナナメ上に3ミリほど突き出すだけで、骨格のバランスが整い、肩こりや腰痛が起きにくくなる。私が開発した『胸骨体操』というエクササイズをやることで、より効果を実感できる」という――。(第1回)
※本稿は、奥中伸『読むと「一瞬」で体が変わるすごい本』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■「胸骨」が健康のスイッチ
体の「ある部位」を意識するだけで、「一瞬」で生命力が蘇(よみがえ)り、健康になっていく。ある日、知り合いの編集者さんから、「一瞬で健康になれる、簡単ですごい方法ってないんですか?」と聞かれました。
「そんなもんありませんよ」と答えかけましたが、いや、ありました。すべての読者の方々が、簡単に、より少ない労力で、この本を読むだけで迷うことなく実践でき、まさに一瞬で健康になれる方法が。
それは、胸骨(きょうこつ)を意識する。たったこれだけです。胸骨とは、胸の中央にある太い骨のこと。肋骨(ろっこつ)とつながっていて、心臓や肺などの大切な循環器を守っている骨です。普段の生活では、胸骨の存在を気にしている人はほとんどいないでしょう。

胸骨は、肩や腰などと違って、何かしらの痛みや不調が発生することがありません。ある意味、影の薄い骨だといえます。でも、実はこの影の薄い胸骨こそ、私たちを健康体に導くためのスイッチだったのです。そもそも「胸骨を意識する」とはどういうことなのでしょう。
言葉の通り、自分の胸の中央にある骨の存在を感じてみることです。何も考えず、ただ、その存在を感じるのです。胸骨は、このように上を向いた形をしています。そのため、胸骨をほんの少し意識するだけで、上向きに働く矢印の力が生まれます。
■「ナナメ上に3mm」を意識するだけでいい
胸骨の矢印は、骨格的にはナナメ上70度くらいを指しています。胸骨を意識することがいまいちピンとこない人は、胸骨を「ナナメ上の方向」に、3ミリくらい出してみましょう。3ミリですから、目で見てもほとんど分からない程度です。大きく動かすのではなく、ほんの少しだけ動かしてください。

あるいは、胸骨からナナメ上の方向に、「小さな矢印」を向けるイメージを持つのも有効です。小さな矢印に、ほんの少しだけ胸骨が引っ張られる感じです。このように、ほんの少し胸骨を意識するだけで、あなたの心身は勝手に最適化されていきます。
明日やあさってに、そうなるのではありません。今この瞬間からです。
■「背筋を伸ばす」のは間違い
私の整体では、人体を「骨格でつくられた構造物」として見ていきます。人体の理にかなった「正しい構造物」になっていれば、誰もが健康を取り戻すことができます。では、「正しい構造物」とは一体どんなものでしょうか? 試しに、あなたの考える「正しい構造物」の姿勢になってみてください。
多くの方が、背筋をピンと伸ばした姿勢になったのではないでしょうか? 私たちは幼い頃から、「背筋を伸ばしなさい」「猫背はよくない」と教わります。そのため、「よい姿勢=背筋を伸ばした姿勢」だと勘違いし、わざとらしく背筋を伸ばしてしまいがちなのです。
この姿勢では、骨を使った構造体として体をバランスよく支えることができません。崩れている体のバランスを保つために、肩や腰などの筋肉が動員されます。
肩や腰の筋肉は、人体を支えることが本業ではありません。本業ではないことを無理やりやらされているため、コリや痛みの原因になるのです。
また、人体のバランスが崩れていると、内臓があるべき位置に収まらず、本来の機能を十分に果たせなくなります。呼吸が浅くなったり、胃腸の調子が悪かったりするのも、その一因は、骨格が「人体の理にかなった構造体」になっていないからなのです。
なぜ私たちの骨格は、こうも繊細な構造をしているのでしょうか? その理由は、人間が二足歩行を始めたからだといえます。別の言い方をすると「背骨を立ててしまったから」ともいえます。骨格の合理性からいえば、実はほかの四足歩行の動物のほうが理にかなっています。
■多くの人が「よい姿勢」の意味を分かっていない
私たち人間は、本来は横方向に使うほうが理にかなっている「1本の背骨」を、どういうわけか垂直に立てて、上半身を支えなければならなくなりました。背骨は背中側、つまり後ろ側を通っています。だから油断していると、上体を支えきれず、どんどん後ろに出ていって猫背になっていきます。
それを回避するために背筋をピンと伸ばすと、今度は肩や腰などにダメージが加わってしまいます。もはや八方ふさがりです。
いえいえ、そんなことはありません。もともと四足歩行用の骨格だとしても、人間の骨格は、正しい姿勢をとれば、絶妙なバランスで人体を安定させることができます。
しかし、多くの人はそのことを知りません。知らないから、骨格が不安定なままで、無駄に一生懸命に「よい姿勢」をつくろうとします。私たちが「人体の骨格の理にかなった姿勢」になるためには、「胸骨を意識する」、これだけです。
胸骨に「小さな矢印」を置くだけで、人体のバランスは一瞬にして整います。小さな矢印をナナメ上側に向けると、胸骨から骨盤の後ろに向かってナナメ下の力が生まれます。体を横から見たとき、ちょうど「筋交(すじか)い」になる力です。筋交いとは、建物の柱と柱の間にナナメに取り付けられる補強材のことです。
■スキマ時間でも体のメンテナンスはできる
さて、ここからは胸骨への意識を高めて、胸の矢印を育てるための実践レッスンを紹介します。まずは、文章とイラストを見ながら、ひと通りやってみてください。
これらは、さまざまな角度から「胸骨を意識する」「矢印を育てる」「骨格を整える」練習ですから、気に入ったものを中心に続けていってもらえればと思います。
仕事や家事のスキマ時間や、テレビや動画を見ながらなど、ちょっとした体のメンテナンス法として活用していただければ幸いです。
胸骨の矢印をスムーズに伸ばせない人は、胸骨の裏側の背骨(胸椎)がガチガチになっています。胸椎は動かしにくい部位なので、多くの人が普段は気にかけず、ほとんど使っていません。だからガチガチにかたまっている人が多いです。
そうなると、胸骨が動きにくくなり、腰だけが反りかえる「反り腰」になったり、背骨が立たず「猫背」になったり、首が「ストレートネック」になってしまいがち。
すなわち、胸骨の矢印をスムーズに伸ばすには、胸椎の柔軟性が必要なのです。胸椎の柔軟性を高める体操が、「胸骨体操」です。さっそく始めましょう。
■「ガチガチの体」を動かす“胸骨体操”
イラストを見てください。まず、床にひざ立ちになってください(正座やイスに座っていてもオーケーです)。
両ひざの間隔は肩幅程度で、両足のつま先同士をくっつけましょう。両足で三角形をつくるイメージです。
胸を上げて、まっすぐ前の壁を見ます。両腕を前から上げて、真上まで持っていきます。
次に手のひらを外に向け、胸の中心(両肩甲骨のちょうど真ん中くらい、胸椎5番といいます)に向けて、四方八方から圧力を加え、力を集めるイメージで、腕をゆっくり下ろしていきます。
肘はできるだけ体の後ろ側に下ろし、90度に折り曲げます。肩よりも少し低い位置まで肘を持っていきます。顔は軽く上げて、胸骨を支点にし、上体を胸椎で反り返らせてください。その際、腰から反らないように注意してください。
次に肘から先の力を抜いてダラッとさせ、手のひらを内側に向けて、腕を開きます。あとはご自分のタイミングで、一気に全身を崩し、脱力します。脱力したあとの姿勢は、腕をついても、猫背になっても、うなだれても、なんでもオーケーです。
普段使っていない胸椎が動くと、ザッと一瞬汗が出る感覚があります。気持ちよさの余韻を味わってください。
■とくにパソコン仕事の人にオススメ
胸骨体操のポイントは、手のひらを「外側」に向けるところです。
骨力学的に、骨と骨が引っかかる負荷を感じられるので、「骨を使う」ことを強く意識できます。試しに、手のひらを「内側」に向けてやってみると、骨の引っかかりがどこかに消えてしまいます。「人間は骨でできている」ことを教えてくれる体操なのです。
胸骨体操を行うと、背骨全体のしなやかさが出てきます。そのおかげで、スムーズに胸骨を上げたり、反対に、猫背になりやすくなります。また、胸椎の柔軟性が上がると、腕が胸椎から動き出します。ちょっとした物を取ろうとするときでも、腕がググッと伸びてラクチンです。上半身の筋力をムダに使わないですみます。
胸骨体操は、パソコン仕事を根詰めてやっているときなどに特におすすめです。巻き肩になり、ガチガチにかたまった上半身が、一気に解放される爽快感を味わえます。日常的に取り入れると、体の状態はみるみる変わっていくでしょう。

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奥中 伸(おくなか・しん)

整体師

奥中整体主宰。1975年生まれ。会社員を経て、2003年より奈良県で整体を開始。当初は、一般的な「コリをもみほぐす施術」を行うも、それが対症療法でしかないことに限界を感じ、より本質的な整体を探求する道へと入っていく。まず「人体は物質であり、構造である」という点に着目し、「体の正しい矢印」を知ってもらうことで、物理的・人体力学的に理にかなった体に導いていく教育的アプローチを実践。中でも、骨こそが力を伝える最重要パーツと捉え、日常動作から見直し、指導する整体に行き着く。フォロワーは4万人(2024年7月現在)。著書に『読むと「一瞬」で体が変わるすごい本』(KADOKAWA)がある。

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(整体師 奥中 伸)
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