自己紹介は奥が深い。どうすれば相手の印象に残る人物になれるのか。
コミュニケーション講師の深谷百合子さんは「経歴を話すだけではなく、相手の関心事に合わせて自分の想いを付け加えておくと効果的だ」という――。
※本稿は、深谷百合子『「この型」を使って○○をわかりやすく説明してください。』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■自己紹介の「型」
自己紹介にはさまざまな型があります。型を持てば迷うことはなくなりますが、相手や場面に応じて内容を変化させれば、より印象的な自己紹介になります。
ここでは、自己紹介の代表的な型をいくつか紹介します。それぞれの型を使って、あなたの自己紹介に使える「材料」を揃え、場面に応じて組み合わせてみてください。
それでは、あなた自身の自己紹介の「型」をつくっていきましょう。
Q.1 初対面の相手に、「自分のこと」をわかりやすく説明してください
まずは、仕事で出会った初対面の相手に自己紹介するつもりで実際に考えてみましょう。
どのような自己紹介になりましたか。
「名前と今の仕事」だけを話して終わってしまう自己紹介のほか、次のように過去からの経歴を時系列に紹介するパターンもよく見受けられます。
伝わりにくい自己紹介の例
私は2010年に新卒で○○株式会社に入社し、最初は総務、その後営業を10年経験しました。
営業時代には、中国に4年、正確には4年3カ月駐在しました。途中コロナ禍で大変な思いもしましたが、何とか任期を終えて帰国し、昨年から人事部で採用や研修に携わっています。

■相手の知りたい情報の順に並べる
転職活動のように、相手があなたの経歴を知りたい場合であれば、このような自己紹介でもいいかもしれません。しかし、商談や交流会など、多くの場合、相手が知りたいのは「今のあなたが何をしていて、どんな経験を持っている人なのか。今後どのような関係を築けそうか」ということです。
ですから、この例でいえば、まず「人事部で採用や研修に携わっている」ことを伝える必要があります。相手の知りたい情報の順に並べた「現在→過去→未来」の型を使うと、伝わりやすく、相手の印象に残る自己紹介になります。
「現在→過去→未来」の型を使った伝わりやすい自己紹介の例
【現在】私は○○株式会社の人事部で採用や研修に携わっています。

【過去】入社後、総務を経て、営業を10年経験しました。そのうちの約4年、中国に駐在したこともあります。営業の現場では「部門間の壁」に何度か直面することがありました。

【未来】経験を活かして、今後は部門の壁を越えて連携できる人材を育てていきたいと考えています。


■口頭なら30秒~1分、文章なら200文字~400文字
このように「現在→過去→未来」の流れで整理すると、「あなたが今何をしていて、どんな経験をし、今後どうしたいのか」が簡潔に伝わります。
また、「今後どのような関係を築けそうか」という相手の関心事に合わせて、自分の想いを付け加えておくと効果的です。なぜなら、「今後どうしたいのか」という想いが相手に伝わると、思わぬご縁をいただくことがあるからです。あなたの自己紹介を聞いた相手が、「そういえばあの人がこんなことを言っていたな」と思い出して、人を紹介してくれたり、機会を提供してくれたりすることがあるのです。
たとえば、「部門の壁を越えて連携できる人材を育てたい」という自己紹介を聞き、「同じような想いを持って活動している人がいますよ」と教えてくれる人や、「うまくいっている事例」を紹介してくれる人が現れます。
自己紹介は口頭で行う場合は30秒から1分、文章で書く場合は200文字から400文字程度、長くても600文字までが一般的です。したがって、あれもこれもと多くのことを詰め込むことはできません。相手が知りたい内容に絞り、「あとでもっと詳しくお話を聞かせてほしい」と言われるくらいがちょうどいいのです。
■「過去の出来事」だけでは不十分
Q.2 「自分の転機」をわかりやすく説明してください
Q.1で紹介した「現在→過去→未来」の型は、自己紹介の土台となる基本の型です。これだけでも簡潔に伝わる自己紹介になります。ただ、次の例のように過去の出来事だけだと、あっさりしているので、相手に対して強い印象を残せません。
過去の出来事だけを説明した例
入社後、総務を経て、営業を10年経験しました。
そのうちの約4年、中国に駐在したこともあります。営業の現場では「部門間の壁」に何度か直面することがありました。

Q.1の事例でいえば、「営業の現場では『部門間の壁』に何度か直面することがありました」という経験が、「今後は部門の壁を越えて連携できる人材を育てていきたい」という想いにつながっていきます。しかし、その想いが湧き出た理由がイメージしづらいため、印象に残らないのです。
そんなときに使えるのが「ストーリー」の型です。私はこれまでチームのメンバーとの面談、個人や企業への取材やインタビューを通して、「誰もが皆、語れるストーリーを持っている」と感じています。とくに、「転機となった出来事」は、今のあなたの背景をより深く伝えることができます。
■「ビフォー→転機→アフター」で説明
「ストーリー」の構成は次のとおりです。
1 ビフォー:困っていた状況や悩んでいた自分

2 転機:転機となった出来事や出会い、そこから得た気づき

3 アフター:改善した状況やできるようになった自分
この構成に沿って「過去の経験」を説明すると、次のようになります。
「ストーリー」の型を使って「過去の経験」を説明した例
【ビフォー】営業の現場では「部門間の壁」に何度か直面することがありました。お客様からの要望を持ち帰っても、技術部門からは「それはできない」と一蹴されてしまう。大量の注文を受けても、製造部門からは「残業で対応しなければならなくなった」と渋い顔をされてしまう。
そのような板挟みの状態に悩みました。
【転機】あるとき、技術部門とお客様との間に入って何度もやりとりをした案件で、お客様からいただいた感謝の言葉を技術部門に伝えたことがありました。技術部門の同僚からも「間に入ってくれて助かったよ。こちらこそありがとう」と言われたことがきっかけで、自分の役割は「橋渡し」なのだと気づきました。
【アフター】それ以来、双方の立場を理解し、人と人をつなぐ仕事にやりがいを感じられるようになりました。

■「武勇伝」になってはいけない
このようにストーリーで語られると、情景が目に浮かびませんか。あなたの想いを裏づける出来事が詳細に語られることで、今のあなたがなぜその仕事や活動をしているのかがより伝わるようになります。そして、ストーリーには感情を動かす力があります。あなたの想いに共感した人から、応援を受けられるようになるのです。
「ストーリー」を語るとき、一点だけ気をつけたいことがあります。それは「武勇伝」になってしまわないようにすることです。
「営業時代には、技術や製造の人たちとよくぶつかったものです。
大喧嘩したこともありましたが、今となってはいい思い出です」のように「ビフォー」だけを笑い話のようにして語ったり、「転機」から得た気づきや学びが抜けたりしていると、ただの「武勇伝」になってしまうので、気をつけましょう。

----------

深谷 百合子(ふかや・ゆりこ)

合同会社グーウェン代表

大阪大学卒業後、ソニーグループ、シャープで技術者・管理職として工場の環境保全業務を行う。専門用語を噛み砕いて説明できることが評価され、工場の見学者に環境対策の説明や、テレビや新聞からの取材に対応する業務を任されるようになる。その後、中国国有企業に転職。100名を超える中国人部下の育成を任される。2020年独立。コミュニケーションをテーマに、各種メディアで活動中。

----------

(合同会社グーウェン代表 深谷 百合子)
編集部おすすめ