部下へのネガティブなフィードバックは難しい。パワハラと受け取られることなく改善点を伝えるにはどうすればいいのか。
コミュニケーション講師の深谷百合子さんは「事実としての“行動”や“影響”に着目し、どうすれば改善できるのかを一緒に考えるようにするといい」という――。
※本稿は、深谷百合子『「この型」を使って○○をわかりやすく説明してください。』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■一歩間違えると「パワハラ」になる
Q.1 遅刻した部下に注意してください
あなたの部下が寝坊で遅刻し、お客様との商談に間に合いませんでした。あなたはどのように注意しますか。まずは実際に考えてみましょう。
ここからは、ネガティブなフィードバックについての型を紹介します。部下の「問題のある行動」に直面したとき、つい感情的になってしまいますよね。とくに、迷惑をかけた範囲が広がるほど、上司であるあなた自身の負担も増え、「勘弁してほしい」という気持ちになるものです。でも、次のような叱り方は、部下を萎縮させてしまったり、あなたの言動が「パワハラ」と受け取られてしまったりする可能性があります。
行動が変わらない叱り方の例
寝坊で遅刻するなんて、社会人としての自覚が足りない。次は絶対遅刻しないように。


「社会人としての自覚が足りない」「だらしがない」「何をやらせてもダメだ」のような言葉は人格否定につながります。自分はハッパをかけたつもりでも、相手は萎縮してしまい、あなたの顔色をうかがうようになるかもしれません。
■注意の目的は「行動」を変えること
叱る、注意をするというような「ネガティブなフィードバック」をする目的は何でしょうか。それは、「その人自身」を変えることではなく、その人の「問題のある行動」を変え、相手の成長を促すことです。したがって、あくまでも「事実」としての「行動」や「影響」に着目し、どうすれば改善できるのかを一緒に考えるようにしましょう。
そのために使えるのが「同意→事実→仕組み」の型です。
「同意→事実→仕組み」の型を使って注意した例
【同意】あなたにとって少し耳の痛い話をするけれど、いいですか。今日の遅刻の件で、一緒に改善策を考えたいと思います。
【事実】あなたの遅刻によって、お客様をお待たせしてしまいました。その結果、商談の時間が足りず、本来今日決めるはずだったことを持ち越す形になりました。再度日程を調整する必要が生じ、お客様にもご負担をかけることになってしまいました。
【仕組み】今回の遅刻は、どこに原因があったと思いますか。
同じことを繰り返さないために、あなた自身で工夫できることはありますか。

相手にとって耳の痛い話をするときには、いきなり本題に入ると相手は構えてしまいます。まずは「これから耳の痛い話をする」ことを伝え、同意を得ることで、相手の「聞く態勢」を整えます。
■「聴く」「問いかける」を意識する
そのうえで、問題となった行動とその影響について、「事実」を伝えます。「こういう事実があった」ということを共有する感覚で伝えるのが、感情的にならないコツです。「あなたが○○した」のように「あなた」を主語にするよりも、「あなたの○○という行動がこんな影響をもたらした」のように伝えるほうが、部下の尊厳を傷つけずにすみます。
最後に、「なぜ」ではなく「どこ」に原因があったのかを一緒に振り返ります。この例でいえば、「寝坊」に至るまでの行動を振り返り、どこに原因があったのかを探っていくのです。この過程で、「本人のうっかり」で寝坊したのではなく、「ずっと残業続きだった」「家族の看病をしていた」などの「環境要因」が浮かび上がってくることもあります。
そうした背景をふまえたうえで、どんな工夫ができそうかを問いかけて、本人に対策を考えてもらいます。
「こうしたらいいのではないか」と上司からアドバイスするよりも、本人が「自分で考える」ことが大事です。
ネガティブなフィードバックをするときほど、「伝える」というよりも、「相手の話をしっかり聴く」ことと「問いかける」ことを意識しましょう。

■「報・連・相してください」ではダメ
Q.2 報告・連絡・相談をせずに仕事を進めてしまう部下に、「行動を変える必要性」を伝えてください
あなたの部下は、報告・連絡・相談をせずに仕事を進めてしまうことがあります。あなたは上司として、行動を改めてもらう必要があると感じています。部下にどのように伝えますか。まずは実際に考えてみましょう。
望ましいのは、相手が「変わらなければ」と自ら気づいて行動を改めてもらうことです。しかし、あなたが「こうするべき」「こうするのが常識」と考えていても、価値観の違う相手には響きません。そんなとき、次のように伝えても、相手の「納得感」が薄いため、行動の変化を期待することは難しいでしょう。
相手の行動に変化を起こしづらい例
「報・連・相」は仕事の基本です。勝手に仕事を進めてしまうと、ほかの人にも迷惑をかけてしまうから、ちゃんと「報・連・相」をしてください。

フィードバックするときだけでなく、相手に動いてもらいたいとき、相手に行動を変えてもらいたいときは、相手が「自分事」として受け取る必要があります。つまり、それをすることが自分にとってどのような「意味」があるのか、納得して初めて行動を起こしたり、変えたりするのです。
■「行動を変えたほうが得」なことを伝える
そのためには、「行動を変えないことで、どのような損失を被る可能性があるのか」、そして、「行動を変えることで、自分自身にどのようなメリットがあるのか」を伝える必要があります。
「会社やまわりの人たち」にとってどんな影響があるのかというよりも、「その人自身」にとっての影響を伝えるのです。
そのときに使えるのが「灰色の未来→バラ色の未来→行動」の型です。「未来の結果」を見せることで、自ら行動を変えようという意識が生まれます。
「灰色の未来→バラ色の未来→行動」の型を使って伝えた例
【灰色の未来】今のまま、報告や相談を疎かにする状態が続くと、あなたがせっかく頑張っても、最後に手戻りが発生して、時間も労力も無駄になってしまうかもしれません。

悪い報告もあなたが握ったままでは、あなたの責任が問われることになってしまいます。
【バラ色の未来】でも、早めに報告や相談をしてくれれば、大きな軌道修正をしなくてすむので、納期ギリギリで仕事のやり直しが発生することもなくなり、あなた自身も仕事が楽になります。悪い報告も早く手放せば、気が楽になるし、責任はあなたから上司である私に移ります。報告することは、あなた自身を守ることにもなりますよ。
【行動】まずは、何から始めましょうか。

本人にとってどんな未来が待っているのかを、マイナス面とプラス面両面から具体的にイメージできるように伝えましょう。「行動を変えたほうが得だ」と感じれば、自分から変わろうとする意欲が生まれます。

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深谷 百合子(ふかや・ゆりこ)

合同会社グーウェン代表

大阪大学卒業後、ソニーグループ、シャープで技術者・管理職として工場の環境保全業務を行う。
専門用語を噛み砕いて説明できることが評価され、工場の見学者に環境対策の説明や、テレビや新聞からの取材に対応する業務を任されるようになる。その後、中国国有企業に転職。100名を超える中国人部下の育成を任される。2020年独立。コミュニケーションをテーマに、各種メディアで活動中。

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(合同会社グーウェン代表 深谷 百合子)
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