ある都内の高校は大学進学志望者が2割程度で、成績上位層がめざす大学は偏差値45~50前後。そんな高校から難関の中央大学法学部に合格した事例がある。
追手門学院大学客員教授で学習塾業界誌『ルートマップマガジン』編集長の西田浩史さんは「一見、勉強とは関係ないマニアックな趣味に没頭し、“好き”をとことん追求することで難関校に合格することもある」という――。
※本稿は、西田浩史『総合型選抜は何を評価するのか いますぐ知っておきたい新しい大学入試のリアル』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■成績は最下位でものめり込んだらとことん追究
「一般選抜だったら、絶対に受からなかった。総合型選抜だから合格できた」
とうれしそうに語るのは、三島健二さんの息子、絢斗(けんと)くんです。
絢斗くんは、大学の推薦入試(現・総合型選抜)で、中央大学法学部法律学科に見事合格しました。同学部同学科は、早稲田大学、慶應義塾大学の法学部と並ぶ「法学部御三家」と言われる名門です。
この絢斗くんのお話をするのには大きな理由があります。それは、絢斗くんの出身高校が、東京都立高校の偏差値40台、大学進学から就職者まで幅広い進路状況の高校、いわゆる「進路多様校」と言われる高校であることです。
絢斗くんが通っていた高校の大学進学志望者は2割程度。その1割の志望者上位層がめざしていた大学は偏差値45~50前後。いわゆる大東亜拓桜帝国(大東文化大学、東海大学、亜細亜大学、拓殖大学、桜美林大学、帝京大学、国士舘大学)などの中堅総合私立大学です。
ですから、この高校から中央大学への合格者が出たのは実に30年ぶりの快挙でした。

絢斗くんは特別な能力の持ち主だったのでしょうか?
実は中学までの成績は最下位。おせじにも成績がよかったとは言えませんでした。
しかし、興味のあることを調べるのは得意でした。のめり込んだらとことん追究するタイプだったのです。性格は明るく、話好きでコミュニケーション能力だけは高い方だったと絢斗くんは自らを分析しています。
そんな絢斗くんの特性を最大限活かすことができ、大学受験の状況を激変させたのが、総合型選抜との出会いだったのです。
■法律学の魅力を発見した瞬間
きっかけは、中学生のときにお父さんの本棚から引っ張り出して読んだ『リーガル・ハイ』という小説にのめり込んだことでした。しかも高校入試の受験勉強そっちのけで。
読んだことがある方はおわかりかもしれませんが、主人公の弁護士は、話が堪能で、頭の回転が速く、かつユーモア溢れる性格です。
あらゆる人に対して、エッジの効いた意見を即座に発する。絢斗くんは、文章を読むのはどちらかというと苦手でしたが、そんなことまったくお構いなし。中学生の絢斗少年はそんな主人公に心酔しました。
そして、彼のようになりたい! と強く憧れたのです。
絢斗くんはドラマをユーチューブで改めて観て、主人公になりきり、話し方をマネることにこだわっていました。しかし「マネのクオリティー」に物足りなさを感じていました。その理由は明らかでした。この段階で絢斗くんがなりたかったのは主人公であり、弁護士ではなかったのです。法律の知識はゼロ。これではマネしようにも限界があります。
そこで登場人物の雰囲気に近づけようと、書籍やネットやSNSから、法律関連のニュースなどを一人で調べまくる日々が始まったのです。
やがて見よう見まねで、「一人裁判ごっこ」を始めました。ここで絢斗くんは法律学の面白さに出会うのです。
暇さえあれば、いつでもどこでも「一人裁判ごっこ」をしました。だんだん独りごとが多くなっていきます。
この様子を見た親や先生から「大丈夫か?」と心配されました。
しかしこの「一人裁判ごっこ」をくり返すうちに、絢斗くんは初歩的な法律の知識を身につけていったのです。
「この裁判では、大阪大学の教授と中央大学の教授の分析は真逆なことを言っている」

「同じ法律なのに専門家によって、解釈はそれぞれ違う。それが面白い」
法律学の魅力を発見した瞬間でした。
■興味のあることならどんどん筆が進む
さらに、法律学という学問の中でも、特定の分野に興味があることに気づきます。次第に熱中していた「一人裁判ごっこ」に物足りなさを感じ、自分なりの法律学の分析をノートにまとめ始めたのが、高校2年生の初めでした。
高校で毎日提出しなければならない日記に、法律学に関するテーマを一つ自分で設定して、分析した結果をしたためました。
「文章を書くこと、まとめることは苦手でしたが、なぜか興味のある法律のことに絡めると、どんどん筆が進みました」
当時の変化の驚きを絢斗くんは語っています。
並行して読破した法律関連の書籍、雑誌、参考書などもだんだんと増えていきました。
絢斗くんの日記の、あまりのマニアックさ、そして視点の面白さに驚いた高校の担任の先生が、中央大学の総合型選抜をすすめてくれたのです。ここで初めて「総合型選抜」という入試制度の存在を知ることになりました。
まずは志望理由や、自己アピールを書く必要があることを知ります。
数千文字という決して短くない文章を、今まで書き溜めたノートを基に、ひとまず自分が学びたいこと、そして指導を受けたい教授について、楽しく一気に書き上げることができました。
それをベースに何十回にもおよぶ担任の添削を経て完成させました。
そして、その内容を完ぺきに自分の言葉で言えるまで面接対策をしました。試験当日はかなり緊張しましたが、それを上回るワクワク感があったと言います。
結果は見事合格。
大好きな法律学を大学で学べるチャンスを、自らの手でつかんだのです。
■総合型選抜で鍛えた能力が大学でも役立つ
絢斗くんは、現在、中央大学法学部に在籍しつつ、ロースクール進学のために猛勉強中です。大学の成績は上位5%以内です。
「日比谷高校や西高校、国立高校といったトップ都立高校出身の友達より成績がよかった。人生で初めて、自分が認められたような気がして、大学生になって自信がついた」
と、絢斗くんはうれしそうに語っています。
総合型選抜で身についた能力(大人に話す、読む、書く、議論するなど)が大学で学ぶ上で役に立っていることが大きいでしょう。
大学では近年、大学1年の段階からゼミのような、ディスカッション(話すことや議論すること)を伴う少人数授業が増えています。

総合型選抜で入学した絢斗くんのような人は、このタイプの授業で本領を発揮します。面接対策で鍛えられてきたからです。
さらに海外の大学や大学院への進学の際も同様です。そもそも総合型選抜という入試制度は、アメリカの大学入試を参考にして設計されました。ですから、総合型選抜の準備は、海外大学への留学や大学院入試で有利になることも注目するポイントです。
法学を学ぶと、頻繁に海外の法律との比較も出てきます。そのため絢斗くんは、できれば奨学金をもらって、海外の大学・大学院に留学することも希望しています。
絢斗くんは英語が苦手でした。ですので、高校基礎レベルからやり直しをしています。勉強後半年で、英検5級から3級レベルになりました。現在は2級に達し、目標は、大学2年終わりまでに準1級を取ることと意気込んでいます。
絢斗くんは最近、弁護士になろうと決意しました。
「総合型選抜」で身についた話し方、議論する力も一つの武器にしたいとも考えています。
ロースクール入学後、そして将来、弁護士になってこの武器を活かせるよう、自営業をする父親の紹介で知り合った弁護士と、毎週1回、1時間のセッションをして訓練しています。1時間2万円と少々割高ですが、その「リターン」は余りあると言えるでしょう。

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西田 浩史(にしだ・ひろふみ)

追手門学院大学客員教授、学習塾業界誌『ルートマップマガジン』編集長

大学入試、とくに総合型選抜に関する研究と報道に長年取り組み、全国5000を超える学習塾、2万人超の教育関係者への独自取材を通して、日本の入試制度の変化と現場のリアルを数値化して記録してきた。大学関係者との人的ネットワークを活かし、一般には出回らない総合型選抜の内部資料・運用実態を分析。各大学の選抜基準や選考フロー、面接・事前課題の傾向までを網羅的に調査・可視化し、実践的なアドバイスを行っている。「総合型選抜の裏側まで知る唯一の教育ジャーナリスト」として、受験生・保護者・塾関係者から高い信頼を得る。2016年よりダイヤモンド社『週刊ダイヤモンド』記者、教育業界専門誌編集者を経て、2019年追手門学院大学アサーティブ研究センター客員研究員。現在は東洋経済オンラインにて「アカデミックシフト-社会人から大学教授になる方法」連載中。メディア寄稿は「デイリー新潮」「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」「サンデー毎日」「現代ビジネス」など多数。著書に『医学部&医者』『関関同立』『最強の高校』(ダイヤモンド社、共著、いずれも「週刊ダイヤモンド特集BOOKS」)がある。

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(追手門学院大学客員教授、学習塾業界誌『ルートマップマガジン』編集長 西田 浩史)
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