人生後半に必要な人間関係は何か。精神科医の和田秀樹さんは「ある経営者の男性が、長年の親友を亡くしたことをきっかけにうつ状態に陥り、その後も長いうつ症状に苦しむことになった。
何ごとも一点集中になってしまうと、何かあったときに崩れやすくなる」という――。
※本稿は、和田秀樹『60歳で離れる人、60歳からつきあう人』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■心が折れないための複数のつながり
自分にとって大事な友人、つまり「親友」とは、気が合い、一緒にいると心が安らぎ、何でも打ち明けられる人です。心の支えや安心を感じられる人、自分を受け入れてくれる人と言ってもいいでしょう。
こうした人が少数でもいれば、辛いときに相談できたり、自分の弱さをさらけ出せたりします。それだけで心の負担は大きく軽減されるのです。
しかし、こうした友人関係に頼りすぎるのも、少し危ういところがあります。
とくにひとりの人に「依存」してしまうのは危険なことがあるのです。
たとえばこんな例がありました。
ある経営者の男性が、長年の親友を亡くしたことをきっかけにうつ状態に陥り、その後も長いうつ症状に苦しむことになりました。「お前とは一生の親友だ」と言い合っていたほど気の合う間柄だったそうですが、その友人が亡くなってしまった途端、心の拠りどころがなくなってしまったのです。
もちろん、それほど信頼できて一生つきあえるような相手がいるというのは、本当に幸せなことです。
ただ、死というものは誰にとっても避けられない現実であり、年をとればとるほど、その別れは身近なものになっていきます。
大切な人との時間にも必ず終わりが訪れます。だからこそ、他にも「最近、調子どう?」と気軽に連絡できる人が2人でも3人でもいれば、何かあったときの心の安定感が違ってきます。
気を使わずに話せる相手が少数でもいいから、何人かいる。それだけで、いざというときの気持ちの逃げ場になると思うのです。
これは家族や仕事に対しても同じです。
何ごとも一点集中になってしまうと、何かあったとき崩れやすくなります。でも複数の支えがあれば、ひとつが失われても他の支えが自分を助けてくれるのです。
そうやって依存先を分散させておくことが心の健康を保つ上でも大事です。
■「去るもの追わず」の姿勢
そして60代以降の人間関係においてもうひとつ大切なことが、「去るもの追わず」の姿勢です。
人生のステージが変われば、かつて親しかった友人とも自然と距離が生まれることがあります。興味や生活のリズムが変わる、住まいが離れる、価値観にズレが生じるといった変化は、どれも避けられないものです。

そうした変化に対して無理やり関係を維持しようとすると、かえってエネルギーを消耗してしまいます。そうした変化を自然に受け入れ、「今の自分」に合った関係性を築いていくほうが、心にも余裕が生まれます。
私自身もかつて長くワイン会を主催していましたが、今は事情があり中断しています。ただし、「またやりたい」という声があれば喜んで開催しますし、声をかけてくれる人とは今でもつきあっています。
過去の関係にこだわるのではなく、今の状況に応じて自然体でつきあっていく――そんなスタンスが私にはしっくりきます。
思い出やかつてのつながりに固執せず、今、無理なくリラックスしてつきあえる相手を大切にする。
これこそが60代以降の人間関係で意識しておきたいポイントであり、人生の後半を豊かに生きるための支えになってくれるのです。
■利害関係でつきあってもいい
それから、よく「心から信頼できる親友がいない」とか「損得勘定なしでつきあえる人が少ない」という声を聞くことがありますが、それは当たり前のことです。
そういう深いつきあいができる人はごくわずかで、むしろそういう相手が1人でもいるのなら、それはとても恵まれていることだと思います。
あとは自分にとって「メリットがあるかどうか」でつきあっている人も多いはずです。それはけっして悪いことではありませんし、人間同士の関係に「利害関係」が入り込むのは自然なことです。
ここでいう「メリット」とは、物質的なお金の貸し借りなどということではなく、「頼みごとがしやすい」とか「相談に乗ってもらいやすい」「一緒に旅行に行って楽しい」など内面的な充足感をもたらすものです。

誰だって、一緒にいて不愉快になる人間や、自分にとって都合の悪い人間とはつきあいたくないものです。居心地の良さや安心感、楽しさ、そして頼りになるかどうかなど、何かしらの「利得」や「プラス」があるから、つきあっているわけです。
たとえば、医者や弁護士の友人がいれば有益な情報を教えてもらえたり、いざというときに相談に乗ってもらえたりすることもあるかもしれません。
■「お互いさま」という感覚で支え合える関係を
そんなふうに、自分の生活にプラスになる関係性を意識的に築いておくのは、別に後ろめたいことではありません。「都合のいい人」や「便利な人」を周りに増やしておくのは悪いことではないし、これからの人生を考えたら賢い生き方だと思います。
もちろん、一方的に見返りを求めたり、打算だけで動いたりするのは考えものですが、「自分にもできることがあったら助けるよ」「お互いさま」という感覚で支え合える関係であれば、むしろ長続きします。
ですから、「この人といると自分にとってプラスだ」と思える関係があるなら、遠慮せずにそのつながりを大事にすればいいのです。
とくに人生の後半では、つきあっていてもメリットを感じない人とは無理をしてつきあう必要はありません。年をとればとるほど、そういった内面的な利益を求めて人づきあいをしてもいいし、自分の心が満たされることを優先していいのです。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)

精神科医

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。
東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。幸齢党党首。立命館大学生命科学部特任教授、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。

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(精神科医 和田 秀樹)
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