※本稿は、今村翔吾『書店を守れ!』(祥伝社新書)の一部を再編集したものです。
■1冊1000円を売った利益は220円
まず大前提として、書店は商品に対する利幅がきわめて小さい、典型的な「薄利多売」の業態であるということが挙げられます。みなさん、本を1冊売ったら、書店にどれだけの利益(粗利)が入るかご存じですか?
もちろん、書店ごと、取引先ごとにケースバイケースですが、ここ30年くらいはずっと、「22%」が基本です。つまり、1000円の本を売って、書店に入ってくるのが220円。
SNSを眺めていると、個人経営の書店のオーナーさんが、「現金で買っていただけるとありがたいです……」などと投稿しているのを見かけますが、それも無理はありません。キャッシュレス決済で2~4%の手数料(原則として店舗負担)を取られたら、粗利は20%を切ってしまうわけですから。
書店経営の主たるランニングコストは、家賃、人件費、光熱費など。ちなみに、書店員さんにはパートやアルバイトが少なくありません。書店の求人情報を見ていただければわかりますが、時給はたいてい最低賃金ぴったりに設定されています。書店の利益構造からして、それ以上は払いたくても払えないのです。
■賃上げ分を補うために必要な売上数
そうしたなか、2025年には最低賃金が全国平均で66円引き上げられるというニュースが流れました。
具体的な数字を示しながら説明します。仮に、2人のアルバイトが1日8時間働いているとしましょう。そうすると、最低賃金が66円上昇した場合、66×8×2=1056で、1日あたりの人件費は1056円増えることになります。前述の通り、1000円の本を1冊売った時の粗利は220円ですから、賃金の上昇分を売上でカバーしようとすると、1日あたり、1000円の本を5冊多く売る必要があります。さらに、その書店が1カ月に25日営業していると考えたら、1月あたり125冊の売上増を達成するということ。
これがどれほど大変な数字か、小売業の経験がある方ならおわかりいただけるでしょう。たとえば「経営が苦しい」と言っているパン屋さんに、「じゃあ、あと125個パンを多く売る努力をしなよ」と言えますか?
■値上げしたくてもできない“特殊事情”
利幅が小さいことに苦しんでいるのであれば、小売店が取るべき対策は2つです。たくさん売るか、1点あたりの値段を上げるか。
ところが、出版業界では「商品の値上げ」という手段が封じられています。日本では、書店が勝手に売価を上げたり下げたりできないんです。書店と販売会社(取次。本書の第三章で詳述)は、メーカーである出版社が決めた販売価格=定価で販売しなければならない。
これが「再販売価格維持制度」、いわゆる「再販制度」で、出版物は独占禁止法の適用除外となっているのです(これも第三章であらためてご説明します)。商品の売値を自己裁量で決められないわけです。この業界ならではの“特殊事情”ですね。
それでも、本がたくさん売れていれば問題ありませんが、業界全体として年々、売上が減少していることは各種メディアが報じている通りです。特に、雑誌の凋落が著しい。
■「頼みの綱」コミックも紙から電子へ
ここでは、アマゾンなどネット書店ではなく、商店街に店舗を構える個人経営の「町の書店」をはじめとするリアル書店に関する話なので、紙の雑誌に限定しますが、最盛期(1997年)の売上1兆5644億円から、2024年には4119億円まで減っています(全国出版協会出版科学研究所『出版指標 年報 2025年版』)。割合にして、実に74%の減少です。
「町の書店」のもうひとつの売れ筋がコミックですが、こちらはかなり電子版に流れてしまっている。これは、読者からすると、自宅のスペースの問題も大きいでしょう。少年コミックの人気作品は数十巻にもなりますから、数タイトルで書棚1竿(さお)が埋まってしまいかねない。
小説家の立場から言わせてもらえば、コミックは電子で買ってもらって、本棚のスペースは小説のために空けておいてもらえると助かりますが……、書店経営者としてはそうも言っていられません。
コミックを含む紙の書籍の売上は、雑誌と比較すればまだ堅調ではありますが、それでも、最盛期(1996年の1兆931億円)の約半分まで落ち込んでいます(前掲書)。ちなみに、「売上価格」ではなく「売上冊数」で比較しても、雑誌は最盛期と比較して80%弱、書籍は40%強の落ち込みです。
■「町の書店」を潰している犯人はだれ?
ここまで市場がシュリンクしているなら、書店の数が減るのは当然の話です。では、実際にどれだけ減っているのでしょうか。
「坪あり店舗(売場面積を公表している書店)」数については、2003年に1万3661店だったのが、年を追うごとに減少し、2025年12月時点で7458店になっています(日本出版インフラセンター「書店マスタ管理センター 登録軒数表」)。割合にすると、実に40%以上の減少です。
問題は、この数字がいつ下げ止まるのか、です。私は、当分の間、減少傾向が続くと睨んでいます。
ところで、私が常々心がけているのは、「他責思考」に陥らないこと。業界の関係者のなかには、出版市場のシュリンクや書店の減少に関して、「犯人探し」に余念のない人がいます。曰く「若者の読書離れが原因だ」「スマホが読書時間を奪っている」「電子書籍が悪い」「アマゾンが悪い」などなど。
■時代の流れを読めなかった出版人が悪い
どれも一理ありますが、たとえば「アマゾンが悪い」と言うなら、アマゾンより先に同じようなシステムを作っておけばよかった。あるいは、アマゾン対策をきちんとすべきだった。そういうチャンスは何度もあったはずです。ところが、日本の業界人はそれをしてこなかった、あるいは、やろうとしても失敗してきた。だから、こう言っては酷ですが、悪いのは当の出版人なんです。
「いや違う。時代の流れがわれわれに不利に働いた」と言うのであれば、その「流れ」を読み切れなかったのはどなたですか、と問い返したい。
たとえば、江戸幕府はなぜ滅んだか。
だから、もし50年後、出版業界が今よりさらに悪化していたら、私を含めて、今を生きる出版人のせいだと言われるでしょう。それは、私たちの責任として引き受けるべきです。そのような連帯感を持ってやっていこうと、私は業界人に向けて言いたいのです。
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今村 翔吾(いまむら・しょうご)
小説家、書店経営者
1984年、京都府生まれ。関西大学文学部卒業。ダンスインストラクター、作曲家、埋蔵文化財調査員を経て、2017年に火消の活躍を描いた「羽州ぼろ鳶組」シリーズ第1作『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』でデビュー。2016年に第23回九州さが大衆文学賞大賞・笹沢左保賞、2018年に『童神』で第10回角川春樹小説賞、『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』で第7 回歴史時代作家クラブ賞・文庫書き下ろし新人賞、2020年に『八本目の槍』で第41回吉川英治文学新人賞、『じんかん』で第11回山田風太郎賞、2022年に『塞王の楯』で第166回直木三十五賞を受賞。2025年に『イクサガミ』がNetflix にてドラマ化、2026年に『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』がTVアニメ化された。「きのしたブックセンター」(大阪府箕面市)、「佐賀之書店」(佐賀市)、シェア型書店「ほんまる」(東京都千代田区)の3書店の経営者でもある。
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(小説家、書店経営者 今村 翔吾)

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