※本稿は、今村翔吾『書店を守れ!』(祥伝社新書)の一部を再編集したものです。
■若手社員たちの涙腺が崩壊したひと言
本書は、祥伝社の編集者の発案でスタートしました。彼が企画書の段階で用意した仮タイトルは『書店を守れ!』。しかし私は時々、自問してしまうのです。「書店は、出版業界は、本当に守られなければいけないのか?」と。
本書の第三章で、取次(特に大手取次)はしばしば書店業界の“悪者”として扱われると述べました。この点について、私にはひとつ、忘れられない記憶があります。
ある時、大手取次の若手社員の前で、講演というのか、軽く話をする機会があったのです。私は第一声で、「事(こと)あるごとに非難されて大変やろう」と言いました。「就職先として第1希望だったのかわからないけど、少なくともこの業界を志望したわけやから、君らもちょっとは本のことが好きなんだと思う。それやのに、書店員からこんなに文句ばっかり言われて、つらいやろう」。
そう言ったら、みんな泣き始めてしまったんですよ。
■書店は、本当に守られなければいけないのか
その時、私は思ったのです。こんなつらい思いをさせてまで、書店は守られるべきなのか、と。書店や出版社は、誰かを犠牲にしてまで残さなければいけないほど尊いのか。
書店業界の問題について語る時、私は「悪者探し」をしたくありません。だって、みんな、程度の差こそあれ、大半は本が好きでこの世界に飛び込んできたはずでしょう? それなのになぜ、たがいに傷つけ合わなければいけないのか。幼稚園の先生のようで恐縮ですが、「みんな、優しい心を取り戻そうよ」と私は言いたい。
■最低賃金以下の報酬で働く翻訳家
今は作家も食べていくのが大変な時代です。作家は、日本では印税の形で報酬を受け取るのが一般的です。そして印税は、おおむね「本の定価×発行部数×印税率」という計算式で算出され、印税率は多くの場合「10%」に設定されています(業界外の方には不思議に思えるかもしれませんが、新人だろうが、大御所だろうが、基本的に印税率は一律です)。
そのため、定価をどれだけいじったところで、発行部数が落ちてくると、収入は厳しくなります。
ただ、翻訳家の方から聞いたのですが、翻訳家は作家に輪(わ)をかけてしんどいらしい。それなりに名の通った中堅の出版社から翻訳書を出しても、報酬が30万~40万円ということがざらにあるようです。2~3カ月の時間を費やした成果物に対して、それだけの対価しか支払われない。
私はこの話を聞いた時、「だったら、出版社はもう翻訳物なんて出すのをやめたらいいのに」と思いました。もちろん、暴論であることは承知していますし、海外文学の愛読者からは総スカンを食らうような考えでしょう。
でも、海外文学を愛する人たちにこそ、私は聞いてみたい。その本の訳者が、最低賃金にも遠く及ばない報酬(それこそ、アルバイトの書店員よりももっと安い報酬)で仕事をしていることを知って、それでもなお、あなたはその本に感動できますか? 誰かの生活を追い詰めてまで、海外文学というのは訳され、読まれなければいけないものなのですか?
■時代遅れの業界だからみんな苦しんでいる
どれだけ自助努力に励んだところで状況が好転せず、しんどい人、つらい人が構造的に生み出されてしまうのなら、それはもう、「業」としての耐用年数が過ぎたということではないのか。
これは、「町の書店」にもそのまま当てはまる議論です。山内貴範先生の『ルポ書店危機』によれば、秋田県のある家族経営の書店は、家族3人で朝から夜10時まで働いて、1年の粗利益が約500万円だそうです。そこから経費を引くと、200万円台しか残らない。はたして、これがまともな「業」と呼べるでしょうか。
だから、私は安易に「書店を守れ」とは言いたくない。
この本を手に取ってくださった方のなかには、業界の現状なり、書店の行く末なりに関心のある人が多いと思います。もしかしたら、「町の書店」が次々と姿を消しつつあることに、胸を痛めている読者もいるかもしれない。そういう人たちと一緒に、私はあらためて考えてみたいのです。書店は、本当に守られなければいけないのか?
■リアル書店が消えて困るのは関係者だけ?
私たちが「書店を守ろう」と言う時、それは要するに、「(ネット書店だけになっては困るから)リアル書店を守ろう」ということだと思います。けれど、リアル書店がなくなって困るのは実際のところ、どんな人たちなのでしょう?
ひょっとしたら、その書店のオーナーや書店員が困るだけ、という可能性はありませんか。だって、アマゾンなら注文したらおおむね翌日に商品が配送されるし、『広辞苑』のような重たいものでも玄関先(入口または宅配ボックスも)まで届けてくれるし、検索ボックスに本のタイトルや著者名を入れただけで目当ての本が出てくる……。消費者からすれば、プラスしかありません。
では、リアル書店がネット書店に勝(まさ)っていることはなんでしょう? 私たち業界関係者がよく持ち出すのが、「出会い」という要素です。欲しい本にダイレクトに飛んでいくネット書店と違い、リアル書店では店内をぶらつき、棚を眺めることで、それまで存在すら知らなかった本との偶然の出会いが生まれる(ことがある)。
■ネット上でも本と出会える時代になった
確かにその通りなのですが、2000年代半ばにリアル書店がネット書店に押され始めてからというもの、私たちはまさに「二十年一日」のごとく、同じことを言い続けています。「リアル書店には、ネット書店にはない、予期せぬ出会いという魅力がある」と。
しかし、この「出会い」という要素さえ、もはやリアル書店の専売特許ではなくなるのではないかという気がしています。
まだ実験段階ではありますが、2023年の「ニコニコ超会議」では、KADOKAWAと紀伊國屋書店が協力して、紀伊國屋書店新宿本店を仮想空間に再現した「メタバース書店」なるものを出展していました。そこでは、書店員が遠隔地からアバター(仮想空間上の分身)を使用して接客し、お客さんにぴったりの本をすすめてくれたとか。
これは著作権の問題をはじめ、クリアしなければいけない課題が多いでしょうから、そう簡単に普及するとも思えませんが、5年後、10年後にどうなっているかはわかりません。
客である私たち自身もアバターを使って、仮想空間上の書店を歩き回れるようになれば、これまでリアル書店の強みとしてさんざんアピールしてきた「出会い」の要素すら、ネットで代替可能になるかもしれない。
■「書店振興」旗振り役の的外れ感
「出会い」のことはひとまず脇に措(お)くとして、他にリアル書店の存在意義はあるのか?
「書店振興プロジェクト」の旗振りをしている経産省は、書店を「サードプレイス(家庭とも職場とも違う第3の居場所)」や「地域コミュニティの核」にしようと言っているようですが、書店を経営している身からすると、「いったい書店に何を期待しているのですか」と聞きたくなります。
要は、地域住民が集まって、話して、何かを一緒にするような場所をイメージしているのだろうと推測しますが、そのようなスペースを設けるには最低でも5~6坪は必要です。
書店は1坪あれば約60万円の在庫を書棚に並べられますから、5~6坪ならおよそ300万円。それだけの在庫をあきらめて、地域コミュニティのためのスペースを作り、文庫本を1冊買った人に3~4時間居座られたら、商売は上がったりです。
■根幹にあるのは「みんなで幸せになりたい」
この国にリアル書店を残したいなら、私たち(書店人、出版人、そして書店を愛する読者のみなさん)はもっと理論武装が必要です。私は一度、業界関係者で集まって、「リアル書店の良いところをいくつ言えるか」というゲームをしてみたい。ただし、「出会い」はNGワードです。
本稿ではひどく悲観的な見通しを並べました。読者のなかには戸惑いを覚えた方もいらっしゃるかもしれません。
青臭いと言われることは百も承知で述べれば、私の行動の大元(おおもと)にあるのは、「みんなで幸せになりたい」という考えです。逆に言えば、「本のことで不幸せになる人を見たくない」。
だから「本の甲子園」では、書店、図書館、作家のみんなにメリットがあるように事業のアウトラインを設計したし、現在準備中のECサイトでは、ネットで利益を出しながらリアル書店も支えるビジネスモデルを目指しています。
■書店が完全に消滅することはないだろうが…
今は、書店も、取次も、中小の出版社も、作家も翻訳家も、みんな苦しい時代です。心の余裕がなくなって、批判の応酬が起きたり、はてはたがいに傷つけ合ったりしている。そういう状況を、ひとつでも減らしたい。それが私の切なる願いです。
けれど、努力や創意工夫をどれだけ積み重ねたところで、「この業界はもう商売として成り立たん」ということになったら、滅びるのもしかたがないと思っています。
もちろん、リアル書店や紙の本が完全に消滅するというのは、さすがに非現実的だと思います。
■50年後の日本人に選択肢を残すために戦う
いっぽうで、私のなかには、「いつか滅びるにしても、俺たちの代で終わらせるのは忍びない」という思いも強くあります。歪(いびつ)な部分、不完全な部分が多々あるとはいえ、戦後から今日まで進化してきた出版や書店の文化には、優れたところもたくさんある。
それを、現在のような混乱期の勢いに乗じて、「書店なんて、出版文化なんて、いらんのや」と、数十年かけて築き上げてきた仕組みを放り出してしまったら、同じものはもう二度と作れないでしょう。
そうなった時、50年後、100年後を生きる人たちが、「なんであの時に潰してしまったんだ。あれはあれで良いことだってあったのに」と、先人の選択を恨む未来が来ないとも言い切れない。
50年後を生きる人たち、今日生まれた子供たちが、「いるか、いらないか」をじっくり考えて決められるように、選択肢を残すこと。経営者・事業者としての今村翔吾は、そのために戦っています。
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今村 翔吾(いまむら・しょうご)
小説家、書店経営者
1984年、京都府生まれ。関西大学文学部卒業。ダンスインストラクター、作曲家、埋蔵文化財調査員を経て、2017年に火消の活躍を描いた「羽州ぼろ鳶組」シリーズ第1作『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』でデビュー。2016年に第23回九州さが大衆文学賞大賞・笹沢左保賞、2018年に『童神』で第10回角川春樹小説賞、『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』で第7 回歴史時代作家クラブ賞・文庫書き下ろし新人賞、2020年に『八本目の槍』で第41回吉川英治文学新人賞、『じんかん』で第11回山田風太郎賞、2022年に『塞王の楯』で第166回直木三十五賞を受賞。2025年に『イクサガミ』がNetflix にてドラマ化、2026年に『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』がTVアニメ化された。「きのしたブックセンター」(大阪府箕面市)、「佐賀之書店」(佐賀市)、シェア型書店「ほんまる」(東京都千代田区)の3書店の経営者でもある。近影撮影=小松士郎
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(小説家、書店経営者 今村 翔吾)

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