■イラク戦争と同じ理由でイランを攻撃
2月28日に始まったイスラエルとアメリカによるイランへの攻撃。アメリカのトランプ大統領(以降、敬称略)は、3月2日、「IRGC(イランの精鋭部隊、イスラム革命防衛隊)の施設と防空システムを含む数百の標的を攻撃した」と述べ、軍事作戦は「すべての目標が達成されるまで続く」と強調した。
今回の攻撃は、2025年6月、イランの核施設を攻撃した「12日戦争」とは規模が違う。イラン31州のうち24州に及んでいる。
トランプは大規模な軍事攻撃に踏み切った理由について、イランによる「差し迫った脅威」を挙げたが、これは、2003年、当時のブッシュ大統領が、サダム・フセイン大統領率いるイラクを「大量破壊兵器を隠し持っている」との理由で攻撃したのと同じだ。
国連憲章では、例外的に、武力攻撃を受けた場合の自衛権行使を認めているものの、「差し迫った脅威」が本当に存在したのか、トランプは明示できていない。
■エプスタイン事件で窮地に立つトランプ
ただ、トランプの狙いははっきりしている。ワシントンDCのメディアおよびシンクタンク関係者とやりとりした内容をまとめると以下のようになる。
・核開発計画の完全な放棄=新たな合意を模索する交渉では前に進まない
・イランの体制転換=ハメネイ師を殺害しない限り、協調できる体制はできない
・イラン支持勢力の一掃=イランが健在だと、ハマスやヒズボラなどの戦力を削げない
・イラン海軍の壊滅=海軍を叩かなければ、ペルシャ湾の安定化は難しい
・大陸間弾道ミサイル開発の阻止=アメリカ本土攻撃のリスクを無くしたい
イランでは、今年1月、アメリカの経済制裁などによる通貨安やインフレを受け、民衆が怒りのデモを行い、数千人とも言われる死者を出したばかりだ。
今回の攻撃で殺害された最高指導者、ハメネイ師を中心とする指導部への不満は根強く、トランプからすれば、体制にほころびが生じている今こそ、「一気に潰せるチャンス」と判断したに相違ない。
加えて、アメリカ国内では、過度な移民排除、エプスタイン事件、高関税による物価高などによって、トランプへの支持率は下がる一方だ。
■高市首相はアメリカの「暴挙」を批判せず
こうした中、高市早苗首相は3月2日の衆議院予算委員会で、「イランによる核兵器開発は決して許されない」と強調しつつ、アメリカなどによるイラン攻撃の是非には言及せず、「交渉を含む外交的解決を強く求める」と述べるにとどめた。
間違っても、トランプに「国際法違反なのでは?」などとは言えない日本の宰相らしい答弁だが、高市首相が最優先課題として掲げる「強い経済」の復活には、早くも暗雲が立ち込めていると言っていい。
アメリカとイスラエルによるイラン攻撃と、湾岸諸国にあるアメリカ軍基地へのイランの報復攻撃は、さっそく3月2日の東証平均株価を一時1500円以上下落させ、世界の原油価格の指標として重要なアメリカ産WTI原油の先物価格も、同日、一時、1バレル=75ドル台と、前週末から約12%も上昇した。
■ようやくガソリン価格が下がってきたのに…
トランプは、3月2日、今回の軍事作戦について、「4週間から5週間を見込んでいたが、それよりはるかに長く続けられる」と長期化も示唆した。
対するイラン側も、IRGCの司令官が、「ホルムズ海峡を通過しようとする船は炎上させる」と報復のフェーズを1段階上げている。
この先、イラン国内で反米感情が高まり、報復が続き、軍事衝突が長期化すれば、ホルムズ海峡での原油輸送に支障が生じ、世界の原油需給と原油価格への影響は避けられなくなる。
日本の場合、2025年12月末でガソリン税の暫定税率が廃止され、レギュラーガソリン1リットル当たり25円程度、段階的に値下がりしたものの、再び上昇に転じる可能性が高い。
■「1リットル200円超え」という予測も
野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミスト、木内登英氏は、
「最も悲観的な想定では、国内のガソリン価格は約3割上昇して、全国レギュラー平均で1リットル200円を超える。ガソリン暫定税率廃止によるガソリン価格押し下げ効果は消失する」
また、第一生命経済研究所の首席エコノミスト、永濱利廣氏も、
「為替不変で今後の原油先物価格が、イラン情勢の緊迫があった2012年平均並みで推移すれば、27年の家計負担を年間で3.6万円も増加させる」
それぞれ、経済分析レポートでこのように試算している。
政府によれば、石油の備蓄は254日分あるとしているが、火力発電などに使われるLNG(液化天然ガス)は3週間分の備蓄しかない。LNGの先物価格も急騰していて、電気・ガス代に影響が出るようなことになれば、輸送コストや製造コストが増え、幅広い品目で価格転嫁が避けられなくなる。
現在、来年度予算案の審議と並行して、政府内では、飲食料品にかかる消費税を2年間ゼロにする議論が「国民会議」(といっても、自民・維新・みらいの3党会議にすぎないが)を舞台に始まっているが、今後の中東情勢によっては、「なるべく早くゼロにする」、あるいは、「先に給付金を」といった声が高まる可能性もある。
当然、もともと高市首相が慎重な利上げは、景気を下振れさせるリスクがあるため先送りされることになるだろう。
■注目度を増した高市・トランプ会談
そこで注目されるのが、3月19日に予定される日米首脳会談だ。
首相就任後、初のアメリカ訪問となる高市首相は、トランプに、東アジアの安全保障への継続的な関与を働き掛け、約86兆円に上る対米投融資も約束どおり推し進める方針を示して、トランプが3月31日に中国を訪問し、習近平国家主席(以降、敬称略)と会談する前に、国内外に向けて「揺るぎない日米同盟」をアピールしたい考えだ。
ところが今回は、アメリカの軍事作戦への支持と協力も要求されかねない。トランプからすれば、今回の軍事作戦もアメリカ国民の半数近くが「反対」と答える中、高市首相だけが表立ってダメ出しをしない友人で、頼み事をしやすい相手だ。
そこで高市首相がトランプの姿勢に理解を示せば、長年、築いてきたイランとの関係を損ない、ペルシャ湾にいる日本のタンカーも標的にされかねない。
■「国際法違反」の先例にほくそ笑む習近平
高市首相は3月、カナダのカーニー首相を皮切りに、次のサミット開催国で、事もあろうに習近平を招待する案も示しているフランスのマクロン大統領とも会談する予定だ。
一連の首脳会談で、対中国だけでなく、中東地域の安定に向け、各国と認識のすり合わせができるかどうか、そして、外交にとってホルムズ海峡の封鎖を解除させられるかどうか、試練の外交月間となるのは間違いない。
対する習近平は、トランプが「国際法違反」とも言える行動をとればとるほど、ほくそ笑んでいるはずだ。
中国の景気は相変わらず低調だが、自分の意に沿わない中央軍事委員会の幹部や閣僚は全て粛清し、台湾統一への地ならしを進めている。
来たる2027年は、自身の中国共産党総書記として4選がかかる年で、人民解放軍(中国軍)創設100年の節目の年でもある。
そのような「Xイヤー」を前に、アメリカが確たる根拠もないままイランを攻撃したことは、中国からすれば、「差し迫った脅威があったので台湾を攻めた」という言い逃れを可能にしてしまったことになる。
■「迷走台風」「巨大ハリケーン」への対処法
高市首相も、日本国民も、気象で言えば「迷走台風」のように動きがコロコロ変わるトランプとあと3年近く付き合わなければならない。筆者はふと、こんな言葉を思い出した。
「変えることのできないものを受けいれる冷静さを、変えることのできるものを変える勇気を、そして両者の違いを見分ける知恵を、私たちにお与えください」
とは、「20世紀で最も影響があるアメリカの神学者」と呼ばれたラインホルド・ニーバーの言葉である。
トランプという「迷走台風」、それが引き起こしたイラン攻撃と石油やLNGの価格高騰の危機、さらに言えば、その厄介な「迷走台風」が、日本の近くに位置する中国の「巨大ハリケーン」と日本の頭越しに取引(ディール)しかねないリスク……。
これらの不都合な真実の中には、日本だけでは「変えられないもの」と、努力すれば「変えられるもの」が混在する。
高市首相が、どんな冷静さと勇気を持って、まだまだ未知数の外交手腕を発揮するのか、筆者はそこに注目したい。
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清水 克彦(しみず・かつひこ)
政治・教育ジャーナリスト/びわこ成蹊スポーツ大学教授
愛媛県今治市生まれ。京都大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。文化放送入社後、政治・外信記者。ベルリン特派員や米国留学を経てキャスター、報道ワイド番組チーフプロデューサー、大妻女子大学非常勤講師などを歴任。
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(政治・教育ジャーナリスト/びわこ成蹊スポーツ大学教授 清水 克彦)

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