クレームにはどう対処するのがよいのか。元JALのCAで研修コンサルタントの香山万由理さんは「クレームが来たら単なる謝罪に終始せず、怒りの背景にある感情や経緯を聞き出すことが、信頼回復につながる」という――。

※本稿は、香山万由理『気づかいの神さま』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■「申し訳ございません」で解決しない理由
クレームというと「厄介なもの」「避けたいもの」と考えられがちですが、ホスピタリティの観点で見れば、そこには大切な意味があります。なぜなら、クレームを言うお客様は「悲しい思いをしている弱者」だからです。
不安や不満が解消されずに心が傷つき、その延長線上で怒りとなって表れている――そう考えると、クレーム対応はまさに“弱者に寄り添う”というホスピタリティの本質そのものなのです。
人は、いきなり怒るわけではありません。「こんなことで怒るの?」と思うようなことでも、そこに至るまでには必ず積み重ねられた背景があります。だからこそ、ただ「申し訳ございません」と繰り返すだけでは、表面的な解決にしかなりません。
背景を丁寧に聞き出し、心の奥にある“悲しみ”を言葉にしてもらうことが、信頼回復の第一歩になります。
■乗客から「ちょっと、あなた!」表情は険しく
CA時代、クレーム対応で印象に残る出来事がありました。ドリンクサービスの際、ある女性のお客様から「ちょっと、あなた!」と、突然大きな声で呼びかけられたのです。
すぐさま手を止め、「お客様、いかがなさいましたでしょうか」と対応すると「あなたたち、一体どういう教育を受けてるのよ!」と、表情は険しく、荒々しい様子でした。
私はドリンクサービスを後輩に任せ、腰を落として、お客様のお話を伺いました。

「お客様、私どもに失礼があったようで大変申し訳ございません。詳しくお話をお聞かせ願えますでしょうか。」

「貨物にブランドのバッグを預けたら、汚れて戻ってきたのよ! どうしてくれるの!」
「大変申し訳ございません」と謝罪をし、改めて事の経緯を伺いました。
■丁重なお詫びをした後の「予感」
経緯はこうでした。お客様は、貨物に預けたバッグが、汚れた状態で戻ってきたことに気づき、すぐに地上スタッフにそのことを伝えに行きました。
するとそこにいたスタッフが、ニコニコ顔で謝罪をしてきたことに対して、カチンときたと言うのです。笑いながら謝罪されたら、軽んじられているとお客様が感じられたことは、もっともなことです。
私は、再度、丁重に頭を下げ、お詫びをいたしました。しかし、そのとき、お客様が不快に思われた理由は、これ以外にもあるかもしれない、という予感がしました。
そこで、「お客様、他にも何か失礼なことはなかったでしょうか」と尋ねてみました。すると、その言葉を待っていたかのように、お客様はこう切り出しました。
「そうよ、まだあるわよ! まず、第1ターミナルに行きたかったのに、間違えて第2ターミナルで降りちゃって。どうやって第1ターミナルに行けばいいか聞いたら、“そこのバス乗ってください”と雑に扱われて腹が立ったのよ!」
■最後にはすっきりした表情で笑顔になった
さらに続けて、「そもそも、私はこの飛行機に乗る予定じゃなかったのよ! 別の便に乗りたかったのに、予約センターに電話をしたら、お客様の航空券では、変更できません!と冷たく言われちゃって……」
これまでの経緯を言葉にしていくと次第に、お客様のご様子が落ち着いていくのを感じました。

「そのようなことがあったのですね。度重なる失礼を大変申し訳ございません」
「いいのよ、あなたが悪いんじゃないもの……。でもJALが好きだからこそ、いろいろ重なってガッカリしたのよ」と、最後にはすっきりした表情で、笑顔を見せてくださいました。
このとき、クレームにはそこに至るまでの根があると実感しました。
■怒りには、原因となるもう一つの感情がある
このお客様の場合、不快になる出来事がいくつも重なり、大切なバッグが汚されたことを機に、それが怒りとなって爆発したのです。
ですから、怒りの根っこには、自身をぞんざいに扱われたという悲しみがあったのです。
クレームを対応する際は、まずはその怒りの根にあるものをすべて吐き出させることです。そのためにも、相手の話をしっかり聴くこと。すべてを吐き出してもらうことが重要です。
怒りという感情には、必ずその原因となるもう一つの感情があります。そこにどんな感情が生まれたのかを知ることなしに和解することはできません。
■「理不尽なクレーマー」だと決めつけない
クレーム対応で重要なのは、最初から相手を「理不尽なクレーマー」と決めつけないことです。

本当に理不尽なケースもありますが、多くは本人の思いや事情にハッキリとした理由があります。
性善説(人間の本性は生まれながらにして善であるとする思想)で話を聞くことで、相手の心の壁が少しずつほぐれ、解決への糸口が見えてきます。
クレームは「お客様VSスタッフ」の対立構造になりやすいものですが、対立するのではなく、同じ方向を見ることが重要です。
「○○様にとって一番良い方向に向かうようお話を進めていきましょう」と伝え、同じゴールを見ることが大切なのです。
■クレームだった会話がスムーズになる秘訣
ゴールを同じ方向に設定すれば、相手も“戦うモード”から“協力モード”に切り替わります。
「解決のためにいくつか質問をさせていただけますか」と声をかければ、相手は“責められている”のではなく“協力を求められている”と感じ、対話がスムーズになっていきます。
クレーム対応の目的は、ただ謝って場を収めることではありません。背景を理解し、相手の尊厳を守りながら解決の道を一緒に探ることこそが、ホスピタリティの実践です。
怒りの奥にある「悲しみ」や「孤独」を受け止めることができたとき、お客様は敵から“信頼できる味方”へと変わっていきます。

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香山 万由理(かやま・まゆり)

人材育成コンサルタント

立教大学卒業。JAL(日本航空)に入社。国際線CA(キャビンアテンダント)として10年半乗務。
在籍中にCS(顧客満足)表彰を受け、皇室・VIPフライトに乗務。退職後「品性と人間力を備えた人材を育てる学校」として、研修コンサルティング法人「一般社団法人ファーストクラスアカデミー」を設立。官公庁、医療機関、企業などで、2万人以上に研修を行い、リピート率97.2%を誇る。「接遇力」と「業績」を同時に成長させ、会社の格を上げる組織作りをサポート。JCAA(日本キャビンアテンダント協会)理事を兼任し、航空会社出身者のセカンドキャリア構築支援に従事する。また、高野山真言宗の僧侶としての顔も持ち、研修では仏教哲学も伝えている。

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(人材育成コンサルタント 香山 万由理)
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