■イランで何が起こっていたのか
2026年2月24日、NHKテヘラン支局長が拘束されたとするニュースが飛び込んできた。そのわずか3日後の2月27日、核交渉が進行中だったにもかかわらず、米国とイスラエルがイランに対する軍事攻撃を開始した。
イスラエル軍の攻撃で、用心深いはずのハーメネイ最高指導者をはじめイランの政権幹部約40名が簡単に殺害された。一体、今のイラン国内はどうなっているのか。そもそも、イランとはどういう国なのか。
イランとアメリカ・イスラエルの間で繰り広げられている戦闘についても気になるところだが、その詳細についてはひとまず他の記事に解説を譲りたい。本稿では、混乱するイラン国内の現状について解説していこうと思う。
まずは、今のイラン経済はかつてないほど困窮しているということを強調したい。度重なる米国からの経済制裁に加え、2025年9月28日には国連安保理制裁も一斉に復活し、イラン経済は過去最悪の状況に達していた。
イラン通貨は、2025年初頭は1ドル=102万イラン・リヤル前後で推移していた。国連安保理制裁が復活すると通貨は急落し、1ドル=約110万イラン・リヤルとなった。
■政府が市民3000人を“殺戮”
もともと耐え難い貧困に喘いでいたイラン国民は憤慨し、スマートフォンなど輸入商品を扱う首都テヘランのバザール商人は、商売にならないと抗議行動を開始。2025年末から全国規模で展開された抗議活動は、開始から9日で31州中27州に拡大した。
また、トランプ大統領が抗議活動参加者を煽り、軍事介入をちらつかせたことも抗議活動の拡大に拍車をかけた。各地で暴動は激化し、政府組織、商業施設、治安機関などが放火された。
イラン当局は抗議活動の鎮圧に対して、極めて強硬な手段をとった。イラン当局の発表によれば、抗議活動の鎮圧過程で約3000人が死亡したとされ、過去最大規模の犠牲者数となった。
イラン当局の鎮圧の様子は、SNSなどでも拡散された。米ニューヨーク・タイムズが映像の真正性を確認し発表したものの中には、女性や子供関係なく群衆に向かって実弾を発砲し、殺戮を行うことで抗議活動の終焉を試みる無惨な映像があげられている。イラン政府はスナイパーも動員していたという。
過去には治安部隊が救急車に乗って、警戒を解いた上で、抗議活動参加者の中に突然出撃し、暴力を振るって拘束する卑劣な手法を使ったことも問題となった。拘束された抗議者や政治犯に対しては、水道管やホース、木片などによる激しい殴打や電気ショックといった拷問的行為が行われたとの証言もある。
こうした徹底的な弾圧は、それだけイラン政府が国内外の圧力で行き詰まっている結果ともいえる。
■イラン国内に潜伏する「裏切り者」
イランは中東の国ではめずらしく国民による選挙を通じて大統領および国会議員を選出する制度をとっている。こうした選挙の投票率は、しばしば国民がイラン体制に対する関心や期待を表すバロメーターとみなされてきた。
実際、近年のイランの大統領選挙の投票率は、2013年は約72%、2017年は約73%と高い水準を維持してきたが、2021年には約48%に急落し、2024年(第1回投票)は約39%と低下した。この顕著な投票率の落ち込みは、長年にわたる経済状況の悪化や先行きの見えない社会への閉塞感からイラン国民の間に政権への期待が薄れ、見切りをつけ始めていたことを表している。
こうした状況を背景に、政権内部の結束や忠誠心にも揺らぎが生じている。2025年6月、イスラエルはイランが進める核開発を戦略的脅威とみなして、イラン本土への攻撃を開始した。この戦争には、後から米軍も加わり、イラン核施設や軍事施設などを12日間にわたって攻撃し、防空システムについては壊滅的な打撃を与えた。
ホセイン・サラミ革命防衛隊司令官やイラン軍参謀総長のモハンマド・バゲリ氏などイランの高官も次々に暗殺され、イスラエルが公開した映像資料によって、国内にイスラエルへ協力する内通者が存在する事実も白日の下にさらされた。
とりわけ、2022年にイランの機密情報流出への懸念が高まっていた中、イランの情報組織の立て直しを託されていたイスラム革命防衛隊(IRGC)の情報部門の責任者モハンマド・カゼミが暗殺されたことは、イスラエルの諜報がイラン政府中枢に浸透していることを強く印象付け、イラン体制側に深刻な危機感と疑心暗鬼を抱かせた。
■外国人の拘束が相次いでいる背景
対外機関による諜報活動への警戒を強めるイランでは、日常的に外国人に対する取り締まりが強化されている。AP通信によると、2022年に休暇を過ごす目的でイランを訪れていたフランス人の教員組合幹部とそのパートナーが拘束され、スパイ活動やイスラエルの諜報機関を支援した罪で長期の懲役刑の判決を受けている。
2025年1月には、世界一周のバイク旅行でイランに滞在中だった英国人夫婦がスパイ容疑で拘束され、10年の懲役刑を言い渡されたとロイター通信が報じている。
2025年6月のイスラエルによる攻撃以降、イラン当局の警戒心は頂点に達していた。イランの国営通信社「メフル通信」によると、イラン情報省は体制に批判的な海外ペルシャ語メディア「イランインターナショナル」との関係を理由に、98人の工作員を逮捕・召喚したと7月28日に発表した。
米ニューヨークに拠点を置くCPJ(ジャーナリスト保護委員会)によると、2025年末の大規模抗議活動でジャーナリスト12人の逮捕を確認し、そのうち7人が引き続き収監中という。
基本的にイランは外国人拘束者については公表しないか、国籍や氏名を伏せて発表することが多い。その理由は、非公表とすることで、相手国の行動を制限し、当局が主導権を握ることで外交カードとして最大限に活用したい狙いがある。
■テヘラン支局長が収容された刑務所の実態
NHKテヘラン支局長が拘束されたとする事案では、「ラジオ・フリー・ヨーロッパ」のペルシャ語版「ラジオ・ファルダー」が第一報を伝えた。
ラジオ・フリー・ヨーロッパは、米国議会の出資で運営される民間の非営利法人という形の国際報道機関で、イラン政府は外国の影響工作組織として敵視している。NHKのテヘラン支局長は、2026年1月20日に拘束され、2月23日にエヴィン刑務所に連行されたという。拘束の具体的な理由は明らかになっていない。
エヴィン刑務所は、反体制派やジャーナリスト、研究者、二重国籍者などが政治犯の嫌疑をかけられ、多数収容されてきたことで知られるイランの拘置・収容施設である。現体制以前のパフラヴィー朝時代に建設され、1979年のイラン革命後も政治犯の収容施設として使用されてきた。
国連などの報告によると、収容先では数週間もしくは数カ月間におよんで窓のない単独房で24時間照明をつけたまま拘禁され、夜間を含む長時間の尋問、殴打などの身体的暴力などを受けていることが報告されている。
ただ、イラン国籍と外国籍とでは拘束者の扱いが異なる。外国籍の場合は解放されることも見越して、目立つような暴力行為が抑制され、一定の配慮が行われるようだ。革命防衛隊や情報省などの治安機関が関与する区画に置かれ、外交カードとして利用されるケースが多い。
■拘束されたジャーナリストはどうなるのか
エヴィン刑務所には、これまでにも複数の外国人や二重国籍者が収容されてきた。象徴的な事例のひとつが、ワシントン・ポスト紙の元テヘラン支局長、ジェイソン・レザイアンだ。米タイム紙によると、2014年に拘束され、エヴィン刑務所に収容。その後、2016年に米イラン間の囚人交換の一環として解放された。
近年も同様のケースが続いている。AP通信によると、スウェーデンの外交官でありEU(欧州連合)の職員でもあるヨハン・フロデールスは2022年に拘束された。
2022年4月、休暇でイランを訪れ、テヘランのスウェーデン大使館勤務の友人を訪問。同月、首都テヘランのイマーム・ホメイニー国際空港から出国しようとした際に逮捕され、エヴィン刑務所へ移送されたと伝えられる。
イタリアでも日刊紙イル・フォッリオの記者チェチリア・サーラ氏が、ジャーナリストビザでテヘラン滞在中の2024年12月19日に現地で拘束された。その後、イラン文化省はサーラ氏がイランの法律に違反したことを理由に拘束中であることを認めた
サーラ氏はエヴィン刑務所で独房拘禁を含む収容生活を送り、2025年1月に解放された。イタリア当局が米国の要請で、イラン人エンジニアのモハマド・アベディニ・ナジャファバディをミラノ・マルペンサ空港で拘束してからわずか3日後の出来事だったため、報復行為とみなされている。
過去には欧州諸国や米国に拘束されているイラン人との交換、あるいは経済的措置や制裁緩和をめぐる交渉の中で解放が実現したケースもある。イランでは外国人の拘束は司法問題としながらも外交取引のカードとして利用されている。そのため、罪状もはっきりしないまま拘束され、後からそれらしい理由をつけられることもしばしばだ。欧米諸国の政府も、拘束者の安全確保や機密情報への配慮を理由に、詳細を公表しないケースが多い。
■日本とイランの蜜月に終止符か
日本とイランは1953年の日章丸事件を契機に欧米諸国とは一線を画す形で、伝統的に良好な関係を築いてきた。今回テヘラン支局長が拘束されたとされるNHKでも、これまで欧米メディアと比べてイラン体制やイラン革命の実情を比較的バランスよく伝えてきた。
1986年には、NHK連続テレビ小説「おしん」がイランで放送された。宗教的規制が厳しい同国において、外国番組としては初期に放送が認められた例の一つである。
外務省が発表する令和6年度海外対日世論調査でも、イランを含む中東7カ国は、対日関係について、78%が「友好的な関係にある」と答え、国民レベルでは日本に対するイメージは良好と言える。
しかし、当然ながらイラン政府の認識は必ずしもそれと一致しない。日本はイランと一定の良好な関係を維持しつつも、米国と強固な同盟関係にある。特に大規模な抗議活動が発生し、イラン当局が神経をとがらせていた時期には、あらゆる疑念を徹底的に排除して外交カードを獲得し、報道を萎縮させようという動きに出ることは否定できない。
イランが直面する厳しい国際環境と深刻な孤立の現実を浮き彫りにしていると言えるだろう。
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野村 明史(のむら・あきふみ)
拓殖大学海外事情研究所准教授
王立サウード国王大学教育学部イスラーム学科卒業(サウジアラビア王国)。拓殖大学大学院国際協力学研究科安全保障専攻博士後期課程修了。拓殖大学海外事情研究所助手、助教を経て、2023年より現職。その間、日本ムスリム協会理事、日本サウジアラビア協会アラビア語講師などを務める。中東情勢の現状分析とイスラーム政治思想の研究を主に行っている。外務省主催の会議などに参加してイスラーム過激派対策やイスラーム教育にも取り組んでいる。
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(拓殖大学海外事情研究所准教授 野村 明史)

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