※本稿は、國枝すみれ『アメリカ 崩壊の地をゆく』(毎日新聞出版)の一部を再編集したものです。
■メキシコ系住民にとっても異質だった「新移民」
トランプは移民の大量流入を「犯罪者の国境侵略」と言い換え、選挙に利用した。有権者を脅えさせ、怒らせることが、一番簡単な勝利法だからだ。
一方で、バイデンの移民政策が失敗だったのも事実だ。2022、23年度だけで年に200万人を超える移民が南の国境から不法に入国したとして拘束された。
1日に数千人の移民が流れ込み、道路や公園でホームレス生活しているのを目撃して、心がざわつかない住民はいない。国境地帯に住む住民の多くはメキシコ人かその子孫で、米国ではマイノリティーだ。
しかし、新移民の多くは、メキシコ人ではなかった。さらに、数年前に主流だったグアテマラ、エルサルバドル、ホンジュラスなどメキシコ近隣国の出身ですらない。カリブ諸国のハイチやアフリカ諸国などからの移民はメキシコ人が話すスペイン語を話さない者もいる。黒人やイスラム教徒もいる。
■不法入国した移民がすぐに出頭するワケ
コロラド州オーロラ市にいるシンディ・ロメロの言葉を思い出す。「移民制度は壊れている。いくら金を注ぎ込んでもきりがない。亡命申請者の多くは認定されない。認定されることを夢見て渡米した移民も、彼らを支えるために税金を払うアメリカ人も、両方が苦しんでいる」
本国に戻ったら迫害され、生命の危険がある、などの厳しい要件をクリアしないと亡命は認められない。アメリカで稼ぎたい、より良い生活を送りたい、といった経済的理由では、「亡命者」にはなれない。
バイデン政権時、多くの移民が不法越境してから自ら出頭し、亡命申請した。すぐにメキシコに送還される場合もあるが、アメリカに親族などがいて、犯歴がなく、危険性が低いと判断されれば、保釈される。「国境を不法に越えてきた移民の8割は亡命申請する。それが一番、アメリカに残るチャンスがある、と分かっているからね。本当に亡命に該当するのは3割といったところか」。
亡命申請制度は申請者の急増に認定を行う裁判所の人員が追いつかない。移民裁判所のやり残し事案数は23年度時点で約250万件に積み上がり、待機年数はどんどん延びている。それがさらに“経済難民”をひきつける。
では、この状況に、どう対応すべきなのか?
■「合法移民を増やす」のは歓迎
国境のアメリカ人が、共和党支持者、民主党支持者を問わず、全員が口にしたのが移民法の改正、とくに農業労働者のための労働ビザの導入だ。農業労働者の約3分の1は滞在資格がないとされている。
テキサス州イーグルパスの保安官トムはブラセロ(季節労働者)制度を復活させるべきだ、と言う。1942~64年、400万人を超えるメキシコ人がアメリカの農地で働いた。
イーグルパスの川岸の公園はブラセロ・センターだった。メキシコ人労働者はそこでワクチンを打ち、健康診断を受け、ID登録する。農家は政府と契約している。就職先が決まると、バスで各地に散らばっていく。
ちなみに、ブラセロ制度が廃止されたのは、違法に移民を雇い、安くこき使う雇用者がいたからだ。廃止後、政府は全米の高校生を募集して農作業をさせたが、この試みはすぐ頓挫した。高校生は食事や宿舎に不満を言い、農作業もメキシコ人のように十分にできなかった。
消防署長のマニュエルは、医療やホテル産業で働く人にもビザを出すべきだ、と言う。それに加え、難民認定やビザ審査関連の判事や職員を増やせ、とも主張する。
マニュエルは、アメリカ人女性がメキシコ人男性と結婚したのに、5年間も婚姻ビザをもらえなかった例がある、と言う。積み残しが溜まりすぎているからだ。パスポートが得られる都市も限られている。
現場の声を聞けば、予算をつけるべき分野、やるべきことは見えてくるのだ。予算をつけるところは、ICE(移民・税関捜査局)と軍ではないはずだ。
■「アメリカを偉大な国に」は幻想に終わった
政治ショーは続く。
トランプは、国境地帯に軍隊を送り、強制送還作戦を本格化させる、と宣言し、ICEが全米各地で滞在資格がない移民の拘束を始めた。
さらに、トランプは2025年2月4日からメキシコとカナダからの輸入品に対して25%の関税をかけると宣言した(その後条件は二転三転している)。
「トランプに投票したことを後悔している。トランプはアメリカを偉大にするどころか、ダメにしている」
2月2日、イーグルパスの検問所から出てすぐの商店街でオモチャ屋を経営するラウラ・ラモス(37)はため息をついた。まだ大統領就任から半月も経っていない。
商店街の店の看板はスペイン語が多い。かかっている音楽もメキシコの楽曲だ。国境にかかる橋の近くにある雑貨店では、顧客の9割はメキシコ人だ。
すぐに客が激減した。週の売り上げは、3000~5000ドルあったのが、400ドルに。土曜日は1日で1500ドル売り上げたのに、たった250ドルになった。
店の家賃が月2000ドル。500ドルの光熱費がかかる。自宅の家賃は1300ドル。トランプ就任以降、すでに数千ドルの損失が出た。
■不法移民を止めた代償
高校の授業を終えた長男マウリシオ(17)が店に顔を出した。従業員をレイオフしたため、マウリシオと長女(16)が放課後、店番を手伝っているのだ。ラウラの店にはぬいぐるみやアニメグッズが並ぶ。商品の4、5割は中国からの輸入品だ。仕入れ値が上がれば、輸入できず、売る物もなくなる。
ラウラは18年にこの店を開き、2軒目を別のショッピングモールに開いたばかりだった。「働いて、働いて、働いてきた。
「不法移民は20~30人で裏庭に隠れていたり、川で濡れた服や靴のまま通りを走ったりする。どんな人か分からないから、怖かった。だから、不法移民を止めることに賛成だった」強制送還されるのは犯罪歴のある不法移民だけと信じていたが、犯歴がない移民まで送還されており、裏切られた気持ちだという。
「私の父は正しかった」ラウラの家族の中で、メキシコ生まれでジャーナリストの父親(64)だけは反トランプだった。16年大統領選にトランプが立候補したときから嫌っていた。「差別主義者で、嘘つきだ」と警告していた。「父には、ほら見たことか、と言われた。トランプは本性を出した。ああ、何度後悔しても、後悔しきれない」
■「バイデンもトランプもダメ」
デルリオのミリタリーショップの主人、リック・マルティネス(45)はメキシコ系3世のトランプ支持者だ。「トランプは腰から撃つ(shoot from hip)型なんだ。カウボーイ用語で、構えて撃つ暇がないほどの緊急事態ってことさ。これだけの緊急事態だから、トランプみたいな奴がいいんだ。トランプは人を傷つけたり不快にさせたりするが、バイデンのように問題を起こしてしまうよりはいい」
そんなトランプ推しのリックですら、トランプの不法移民大量強制送還を「やり過ぎ」と批判した。「ビジネスはあがったりだ。トランプはこの国を殺そうとしている」就任式後の日曜日、市場がガラガラになった。ホテルの清掃員やレストランの調理師、ウェイトレスも、出勤してこない者がいた。拘束されることを怖がって家にこもっているのだ。
トランプはジーニー(ディズニー作品「アラジン」に登場する魔法のランプをこすると出てきて、願いを叶えてくれる魔人)だ、とリック。
「国境は電力も水も足りないから、移民が来すぎるとリソースが足りなくなる。民主党は問題に耳を塞いでいる。だから、俺たち国民はしかたなく、ジーニーに祈った。移民の流入を止めてくれ、って。そしたら、移民は止まったけど、そのほかのことも全部止めちゃったんだ」
「我々はこの国がだめになるのを見ている。いくら共和党が民主党に勝利しても、国として勝たなきゃ意味ないだろ?」
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國枝 すみれ(くにえだ・すみれ)
毎日新聞記者
1967年、東京生まれ。湘南で育つ。慶應義塾大学、ミシガン大学大学院で学ぶ。1991年、毎日新聞社に入社。英字新聞毎日デイリーニューズ編集部、ロサンゼルス、メキシコ、ニューヨークで特派員。2005年、長崎への原爆投下後に現地入りした米国人記者が書いたルポを60年ぶりに発見して報道し、ボーン・上田記念国際記者賞を受賞。
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(毎日新聞記者 國枝 すみれ)

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