鹿児島市のスーパー「ハルタ」は、1店舗しかないご当地スーパーでありながらInstagramのフォロワーが11万人を超える特殊なスーパーだ。一体どのような経営戦略を取っているのか。
スーパーマーケット評論家の三浦慶太さんが取材した――。
■ヨーカドー、ライフ超えのフォロワー数を誇る鹿児島ご当地スーパー
鹿児島市の中心市街地、天文館に「スーパーハルタ(FOOD OASIS HALTA)」というローカルスーパーがある。このたった1店舗しかないスーパーがなんと、約11万人のInstagramのフォロワーを抱えている(2026年3月現在)。
イトーヨーカドーが6万6000人、首都圏と近畿圏で別アカウントを持つライフで計6万2000人だから、ハルタのフォロワー数がいかに多いかがわかるだろう。これだけのフォロワー数を誇るスーパーを他に知らない。
ハルタのInstagramに主に登場するのは、6代目社長の春田晃秀さん。社員の大量リストラ、大量閉店、そしてコロナ禍で赤字に転落し売却寸前まで追い詰められたハルタをSNS戦略と品揃えの差別化でV字回復させた気骨あるスーパー経営者でもある。
昨今のスーパーマーケット業界では、ハルタに限らず、SNSを重要なプロモーション戦略と位置付けて取り組む企業が増えている。しかし、現実には品揃えを差別化することも、Instagramで広域から集客することもそう簡単な話ではない。ではハルタはどのようにしてSNSを使って業績回復を成し遂げたのか。成功の要因に迫った。
■経営不振で12店舗→1店舗に
春田さんは、ハルタの成長拡大期の真っ只中である1976年に、現会長の滋氏の長男として生まれた。
父は鹿児島青年会議所の理事長を務めるなど地元の名士で、「自分も父のような立派な経営者になりたい」と憧れた。
東京の大学に進学し、アメリカに留学もした。卒業後は大手卸会社に就職し、さらに北関東の大手スーパーマーケットに転職。ハルタの6代目として着々と経験を積んでいた。
しかし、そんな春田さんの希望に満ちた未来に暗雲が立ち込める。
巨大な駐車場を構える大型スーパーの台頭など車社会への対応が遅れ、ハルタが経営不振に陥ったのだ。父はリストラを断行し、12店舗あった店を現在の1店舗まで一気に縮小せざるを得なかった。
■先が見えず、死ぬことすら考えた
「リストラをするから、帰ってこい」
父からそう告げられて、26歳の時に春田さんは鹿児島に戻った。11店舗の閉鎖と従業員の大量解雇。配送センターも閉鎖し、保有していた土地もすべて売却した。
ハルタの経営難は思った以上のものだった。春田さんはリストラの矢面に立つことはなかったが、店の現場で働きながら、リストラを断行する父を見ていた。
子どもの頃に憧れた経営者としての父の姿は、そこにはなかった。残されたのは多額の借金と、かろうじて残った1店舗だけ。何の希望も見えず、春田さんは人生に絶望した。
「経営者になりたいと思って帰ってきたら、もう倒産目前なわけですよ。一気に目の前が真っ暗になりました。これだけのリストラをして、これだけの借金をして、これから自分の人生はどうなっていくんだっていう。夢も、希望も、未来もない。死のうと思いました。半年間、島を彷徨いましたよ」
目の前の現実から逃げ出したくて、家出をした。行き先は奄美大島。知人の家を借りてそこに滞在したが、内心は本気で死に場所を探すつもりだった。その一方で、生きることを完全に諦めていない自分もいた。

「どこで死のうかと思いながらも、たくさん本を持っていきました。生きるとは何ぞや、幸せとは何ぞや、そういう本をどっさり持っていきました。ひたすら自分との対話、自分の人生との対話をしました」
■「どうせ死ぬなら」死を思いとどまらせた一冊の本
島を彷徨いながら、哲学的な本をたくさん読んだ。その中の一冊、元極道の親分が書いたノンフィクションに前を向くためのヒントがあった。極道の親分は、子分の面倒をとことん見る。我が子のように可愛がり、一緒に飯を食い、一緒に夢を語る。面倒見がいいから人がついてくる。
それに比べて、当時の春田さんは一緒に働く従業員たちの面倒を見てきたかというと、全くやってこなかった。むしろ上から目線で、「お前はなぜこんな仕事もできないんだ」と見下すような態度で部下に接していた自分に気付いた。「どうせ失敗して死ぬんだったら、これをやってみよう」と考え、店に戻ることにした。
■鹿児島出身・稲盛和夫の経営哲学を叩きこんだ
リストラ後のハルタで働きながら、春田さんは経営者としての学びを深めていった。鹿児島大学に鹿児島出身の稲盛和夫の名を冠した「稲盛アカデミー」が創設されることを知り、申し込んだ。

「稲盛さんの考え方は『利他』です。自分に向いていなくて、外に向いている。すべて世のため、人のためなんです。自分は後回しで、常に世のため人のため。それが巡り巡って自分に返ってくるというスタンス。そこに強く惹かれました」
稲盛アカデミーでは、稲盛氏の人生について学んだ。さらに、京セラフィロソフィ、会計学、アメーバ経営など、吸収できるものはすべて吸収し、ハルタの経営に活かした。稲盛氏が主宰する経営者勉強会「盛和塾」にも入会し、直接教えを請うことができた。
■妹の死と子どものアレルギーから「食の安全」を考えるように
経営者としての学びを深めていく一方で、春田さんがハルタの商売の在り方を大きく変えることになった悲しい出来事が起きる。妹が「膠原病(こうげんびょう)」という免疫障害の病気で亡くなったのだ。34歳の若さだった。
春田さん自身も以前は重度のアトピー性皮膚炎で、子どもにもアレルギーがある。
妹さんの死をきっかけに、春田さんは食べ物がそうした病気や体質に及ぼす影響を考えるようになった。
また同じ頃に、化学肥料や農薬を使用せずに米を育てる「合鴨農法」の田植え体験会に子どもを連れて参加した。これに春田さんは大きな衝撃を受けた。
「農薬、化学肥料によって、田んぼの虫が全部死んでいく。でも稲だけは生きていく。農薬を使った水が川に流れ込み、海に流れ込んで、それによってさらに他の生き物にも悪い影響を与える。そうではなくて、他の生き物と共存しながら私たちも生きていく――そうした農業、食の在り方を学びました。
私自身のアトピーや子どものアレルギー、妹の死も、こうしたことが原因なのかもしれない。それに気づいて、食べ物について改めて勉強を始め、少しずつ『食の安心安全』や『健康』に配慮した品揃えに変えていきました」
それまでのハルタは、チラシ特売やポイントカードなどで集客するいわゆるごく普通の“安売りスーパー”だった。春田社長はそこからの脱却を図った。
合鴨農法で栽培した「合鴨米」を皮切りに、有機農産物、国産原料・食品添加物無添加にこだわるブランド「自然の味そのまんま」(こだわりの味協同組合)など、健康に配慮した高付加価値商品の取り扱いを増やしていった。
■コロナで客が消え、安売り復活が裏目に
2013年頃から始めた品揃えの見直しは少しずつ顧客にも浸透し、業績も徐々に上向いていった。
2019年6月、43歳で6代目社長に就任した。
しかし、社長就任から1年も経たずに今度はコロナ禍が店を襲い、店から客が消えた。
コロナ禍では、巣ごもり需要を取り込んだスーパーが業績を伸ばした一方で、ハルタでは大幅な客数減に見舞われ、売上は激減した。圧倒的な環境変化になす術もなく、店は赤字に転落。春田さんは責任を取る形で経営の第一線から身を引くことになった。
春田さんから経営を引き継いだ人物は、高価格帯の商品を売場から撤去し、特売やポイントカードなど以前のような安売りを行って客足を戻そうとした。しかし、結果は買い上げ単価が下がり、利益率は低下。経費も増加して赤字幅はさらに拡大した。売上は下がり続け、ひどい月は約600万円の赤字を出した。
「もはやこれまで」と再建は断念され、銀行との間で会社売却についての協議が始まった。銀行に呼び出された春田さんは絶体絶命の状況の中で、会社の存亡をかけた提案をした。
「1年待ってください。1年間、私に思い切りやらせてもらって、それで駄目なら売却してください」
■高付加価値の商品を店頭でマイクを握って猛アピール
この提案を銀行が承諾し、2023年7月、春田さんは現場に戻った。売場から撤去されていた有機野菜などの仕入れを再開し、品揃えを以前と同じ高付加価値の商品が中心の構成に戻した。
その上で自らハンドマイクを持って店頭に立ち、「以前のハルタに戻りました!」と道行く人に呼びかけ、売り込みを仕掛けた。
「水曜日と土曜日を国産原料・無添加にこだわった『自然の味そのまんま』ブランドの全品2割引の日にしました。加えて、月曜日と金曜日はハルタの売り出しです。なので、週に4回、店頭に立ってずっと呼び込みをしていました。加えて試食も出すようにしました。なくなったらバックヤードで追加を準備して、また店頭で呼びかける。それを2年間続けました」
効果はてきめんだった。
例えば、国産トマト100%のケチャップは537円(税込み)。一般的なケチャップの約2倍の価格である。国産の大豆と小麦粉を使用し、杉樽で仕込んだしょうゆは2200円(税込み)。通常品の約3倍だ。こうした商品が次々に売れていった。
一度経営を離れてから8割ほどに減っていた売り上げを戻すことに成功し、さらに月ごとに売り上げを徐々に伸ばしていくことができた。崖っぷちの1年間の最終結果は売上前年比108%。何とか黒字転換を果たし、会社売却の危機を免れた。
■インスタの発信方法を変えたらフォロワー70倍
“崖っぷちの1年”を何とか無事に乗り越えた春田さん。そこから次なる進化を見せたのが冒頭に紹介したInstagramの運用である。2024年秋ごろまでにわずか1500人だったフォロワーを、たった1年半で11万人にまで急成長させた。直近1年間で約70倍という驚異的な数字だ。
フォロワー数が伸びた要因は、発信するコンテンツを単なる店や商品の宣伝から、「食の安心安全」という社会的関心の高いテーマに切り替えたことだ。単なる「意識高い系」の発信で終わらず、妹の死や、自身や家族のアレルギーの経験に基づいた話しぶりは不器用ながら人を惹きつける力があった。
例えば、みりんについての動画では次のような解説を行う。
最近のみりん

原材料を見てもらいたいです

もち米、外国産が多い

そしてなんでちゃんとした発酵を作るのにアルコールが必要⁉

このアルコール原材料 ほとんど遺伝子組み換えのトウモロコシ

そしてちゃんと発酵しないからぶどう糖果糖液糖が使われる

出典:スーパーハルタのInstagram(2024年12月19日)より
このリール動画の視聴回数は99万5000回(2026年3月時点)に上り、ハルタのInstagramで最初にバズったものだ。春田さんは「食」について真剣に語りながら、たまに見せる笑顔はチャーミングで人懐っこさも感じさせる。そんな春田さんの姿にいつしか多くのファンが付いた。
中には、賛否が分かれそうなデリケートなテーマに言及した動画もある。ここでは内容の是非そのものについては論じないが、アンチコメントを含め、そうした発信が多くの視聴者の関心を喚起したことは間違いない。
2025年の秋からは週に1度「ハルタショッピング」と題したライブ配信も開始した。春田さんがリアルタイムで調理・実食しながらおすすめの商品を紹介していく、インスタライブを活用したライブコマースだ。
フォロワーは来店しなくてもハルタの商品を知り、オンラインショップで購入することができる。その結果、生活圏外のフォロワーからも商品を購入してもらえるようになり、収益の拡大につながっている。
■インスタのフォロワー増加で収支が大回復
Instagramのフォロワー数の増加は、そのまま経営数値にも表れた。フォロワー数が1500人から10万人超に激増した2024年度から2025年度(予測)の1年間で、売上は7億円から8億1000万円(前年比116%)、全体の収益を表す経常利益は1167万円から2500万円(同214%)に増加した。
春田さんが現場を離れた2022年度は、売上6億7000万円、経常利益▲270万円という赤字決算だった。それが春田さんが現場復帰した翌2023年度は、売上こそ6億8000万円と前年から約1000万円の微増にとどまったものの、経常利益は767万円。売上の増加分がほぼそのまま利益増となり、黒字転換を果たした。安売りをやめて高付加価値商品を徹底して売り込んだ結果だ。
売上高経常利益率で見ると、2022年度は▲0.4%だったのに対し、2023年度は約1.1%、2024年度は約1.7%まで改善。さらに2025年度は、10カ月経過時点での予測ながら、経常利益2500万円、同利益率約3.1%を見込む。小規模なスーパーでは1%を割り込む企業が多い中で、3.1%はローカルスーパーとしては極めて高い収益水準といえるだろう。
■大手スーパーの進出をものともせず客単価増
客単価は、2022年の1229円からわずか3年で1461円へと大幅に伸ばした。
一方、客数は安売りによる集客をやめた影響もあり、2023年から24年にかけて減少している。24年夏には至近距離に大手スーパーが出店したことも重なった。ただし減少幅は小さく、新たな客層の来店増によって客数が維持されていると見ることもできる。
この客数と客単価の動きから読み取れるのは、客層が大きく入れ替わったということだ。安売り中心だった時代は、特売品を買いに来る顧客が主流だった。しかし、品揃えを高付加価値路線へ転換したことで、価格重視の顧客は減少し、代わって「おいしさ」や「食の安心安全」といった価値重視の顧客が増加した。
売れる商品構成も変わった。ナショナルブランドのインスタント麺や冷凍食品は売上が半減する一方で、「自然の味そのまんま」などの商品は売上が2倍以上に伸びた。
結果として、客数は微減でありながらも、客単価の上昇によって赤字体質から完全に脱却することに成功した。
■「食の安全安心」を守る戦士は今日もインスタで発信する
春田さんは、食品を取り扱うスーパーマーケットの責任として、「食の安心安全」を社会に根付かせたいと本気で考え、行動している。
「『失ってからでは二度と取り戻すことはできない、大切な人の健康と命。これを守り、末永い“おいしさ”と“笑顔”と“幸せ”を作っていく』。これがハルタの使命だと思っています」
その思いは、SNSでの情報発信にとどまらない。春田さんは、食や健康をテーマにしたリアルの活動にも積極的に関わっている。
現在は「一般社団法人食の未来・鹿児島」「鹿児島県のオーガニック給食をすすめる会」の理事を務めるほか、予防医学の医師たち、助産師、発達支援施設などとも連携し、正しい食の在り方を伝えるイベントを頻繁に開催している。これらはハルタの経営のためというより、世のため人のため、稲盛和夫氏に学んだ「利他」の実践といえるだろう。
Instagramで春田さんはさまざまな表情を見せる。あるときは「食の安心安全」を守るために戦う戦士のようであり、あるときは「食の豊かさ」を無邪気に喜ぶ子どものようだ。波瀾万丈の半生を経て、春田さんは今日も突き抜けた表情でスマホのカメラの前に立つ。

----------

三浦 慶太(みうら・けいた)

スーパーマーケット評論家

1980年、京都生まれ。「スーパーマーケット評論家」としてフジテレビ『ホンマでっか⁉TV』テレビ朝日『THE世代感』などに出演し、スーパーの魅力や楽しさを発信中。スーパーマーケットの教育支援を行うスーパーマーケットゼミナール代表。オーガニック食品卸・風水プロジェクト准執行役員。元『食品商業』編集長。中小企業診断士、社会保険労務士。共著に『スーパーマーケット新入社員の教科書』(アール・アイ・シー)。

----------

(スーパーマーケット評論家 三浦 慶太)
編集部おすすめ